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Loginはこちら【42】原発を再稼働させないのは反対派ではない
相田です。
日立の原発建設中断の発表と同時期に、経団連の中西会長の原発再稼働を訴える発言が、ニュースに出ていた。日立の現会長でもある中西氏は、今回の英国原発の建設を強引に進めた張本人として、評論家から叩かれている。それ以外にも、大学生の就活ルールを撤廃しろとか、経団連会長の部屋で初めてパソコンを使った、とかの、ユニークなネタを色々と提供する人物である。しかし、これくらい間抜けっぽく見える人物がトップにいる方が、海外の経済ヤクザ集団も油断して、日本への厳しい攻撃が和らぐのでは、とも思える。
(引用始め)
「原子力を人類のために」経団連会長、原発再稼働を訴え
朝日新聞デジタル、2019年1月16日13時32
経団連の中西宏明会長(日立製作所会長)は15日、原発の再稼働が進まない状況について、「私はどんどん進めるべきだと思っている。原子力というエネルギーを人類のために使うべきだ」との見解を示した。そのうえで「原子力に関する議論が不足している」と述べ、政界や学界などを巻き込んだ討論会の開催を訴えた。
同日の定例会見で記者の質問に答えた。中西会長は「安全性の議論を尽くした原発も多いが、自治体が同意しないので動かせない。次のステップにどうやって進めるのか。電力会社だけの責任では済まされない」と語った。
エネルギーのあり方について中西会長は「長期的にみた場合、再生可能エネルギーでまかなえるとは思っていない。現在、電力源の8割を化石燃料に頼っていることも問題だ」と訴えた。新増設についても「私の世代はいいが、次の世代では原発がなくなってしまう。そのとき日本の電力事情がどうなるのか。大変危ない橋を渡っている」と述べた。
(引用終わり)
さて、日立は原発を作る会社なので、中西氏が原発再稼働を訴えるのは、立場としてはおかしな話では無い。しかし、中西氏の上の発言には、ひとつだけ大きな事実の誤認があると、私には思える。中西氏はコンピュータ事業の担当だったらしいので、重電部門の状況にはあまり詳しくないようだ。
(引用始め)
中西会長は「安全性の議論を尽くした原発も多いが、自治体が同意しないので動かせない。次のステップにどうやって進めるのか。電力会社だけの責任では済まされない」と語った。
(引用終わり)
現在停止している日本の原発が動かせないのは、地元の自治体が反対しているから、というのが中西氏の主張である。原発反対派の琴線に触れる微妙な発言だ。しかし本当は違う、と私は最近思うようになった。
私は福島原発事故の後で、日本で原子力技術が導入される歴史について、多くの資料を読みながら紐解いている。その結果の一部をまとめて、一昨年に出した東芝本の後半に入れた。その過程で、まだ納得出来ない事も多いのだが、頭の中に浮かんだ仮説が一つある。
今の日本で、原発が再稼働できない大きな理由は、原発の地元の自治体や、一般市民による反対運動では無い。原発再稼働に反対するのは、実は日本政府である。具体的には、経済産業省の役人達が、原発の再稼働に密かに強く反対してるのだ、と、私は考えている。
私の考えは、一般のニュースや評論家達の主張と真逆である。他の方の主張では、安倍総理を影で支える経済産業省の役人達は、原発再稼働と外国への原発の輸出を、国策として推進している。それが上手くゆかずに、東芝は破綻し、東京電力の幹部達は裁判にかけられ、日立の英国での原発建設は中断の憂き目にあった。この一連のストーリーが、繰り返し述べられる。
しかし、その話は事実ではない。フェイクである。
経済産業省の役人達は、本当は、原発の再稼働を出来るだけやりたくないのだ。何故なら、それが彼らに、大きな利益をもたらすからだ。
そもそも、経済産業省とは、日本の経済活動が活発になり、国民全体が豊かになる事を目指すための組織であろう。しかし、彼らは実際には、そのための努力を全く怠っている。
今の日本では、原発が動いた方が、電力が安定供給され、電力会社の抱える負債は低下する。結果、電気料金は値下がりし、市民の生活は楽になるのは明白だ。工場が使う電気代も下がるので、いい事尽くめである。でも、現状では国民に原発の安全性について、納得してもらえない、というのが、通説だ。
でも、納得させたいならば、単純に、国民に対して繰り返し説明をすれば良いではないか。説明すべき主なものは、次の三点だろう。
①原発を安全に動かせるか
②福島事故で放出された放射線の生活への影響(要するに、年間100mSv以下の低線量放射線の被曝により、癌になり得るのか)
③放射性廃棄物(核のゴミ)の保管と処理の方法
この三点は全て、専門的には大きな問題は無いと、説明出来る筈だ。色々と批判もあろうが、大学の専門家達に声を掛けて、繰り返し説明する場を作るべきでは無いだろうか。既にリタイアされているが、湯川秀樹の後期の弟子である、元物理学会会長の坂東昌子氏のように、原子力業界に好意的な学者も数多くいる。専門家として理詰めに考えると、原発反対派の主張には、おかしな事が沢山ある。専門家の誰もが、武田邦彦のような、売名が目的のインチキ学者ばかりではない。彼ら(彼女ら)の、真当な専門家達の意見を集める努力を、経済産業省はすべきであろう。役人達が原発の再稼働を本当に望むのであれば。
しかし、役人達は、国民を説得しようとする努力を何もしない。私は、これは、何らかの目的を持った、意図的な役人達のサボタージュだと思っている。
話が長くなるので、結論を書く。
経済産業省の役人達の目的は、電力会社が持っている、発電、送電事業の主導権を奪うことにある。原発の殆どが再稼働できない今の状況では、電力会社には大きな赤字が積み上がって行く。この動きを役人達は、意図的に加速させている。
最終的には役人達は、「電力自由化」の美しい掛け声の下で、発電、送電共に、今の電力会社とは別の、数十の新しい民間企業に細かく分散させるつもりだろう。アメリカやイギリスのように。そうすると、当然ながら、今よりも停電が頻繁するようになる。そのため、多数の企業間を規制、調整するための、新しいルールが必要となる。天下りの為の、新たな調整組織も多数作られるだろう。役人達が口出しする機会が、当然ながら、今よりも増す事になる。
現在の国内九電力会社を潰してその利権を奪う、そのためのレバレッジとして、原発の再稼働を意図的に遅らせている、と私は考えている。福島事故の責任の全てを電力会社に被せて、その隙に全てを奪うつもりなのだ。流石は東大卒のエリート達が考える作戦だ。あまりにもスマート、かつ、悪どすぎるやり口である。
本当は、今の国内の九電力会社と経済産業省(旧通産省)は、物凄く仲が悪いのだ。電力会社は、政府に可能な限り口出ししないで欲しいと、強く望んでいる。だから原発導入時に電力会社は、政府が主導する国産原発技術の開発を断って、アメリカからの軽水炉の導入を進めたのだ、という事に、ようやく私は気づいた処である。
経済産業省と電力会社の仲が悪いと明言した資料は、殆どない。しかし私はこの事を、森一久(もりかずひさ)という人物の、インタビューの発言から気づいた。森一久は、京都大学の湯川秀樹の弟子であり、卒業後に出版社に勤めたのちに、原子力産業会議(原産)という組織の重鎮として活動した。原産とは原子力開発をPRするために、正力松太郎初代原子力委員長が作った、体制側のプロパガンダ組織である。森は体制側の人物であるが、湯川仕込みの、真っ当な理科系の技術センスを持っていたため、原子力開発の経緯について、批判的な意見を数多く残している。
森の残したコメントの中で、戦後の電力会社には「国管アレルギー」の雰囲気が強く残っていた、という内容が、繰り返し出てくる。「国管アレルギー」とは、電力会社が政府に色々と口出しされたくない、介入されたくない、という拒否反応である。このような雰囲気が、戦後の電力会社と政府の間に強く存在し、原子力事業にも影響した、と森は語っている。
日本の電力産業の歴史については、数多くの文献がある。明治以降に外国の技術を受け入れて、百社を超える売電会社が国内に作られた。しかし、日中戦争が勃発し翼賛体制が強まる中で、電力会社は政府により日本発送電という一社に、強引に集約されてしまう。戦後になり、松永安左エ門(まつながやすざえもん)の活躍などで、地域ごとの9つに分割された体制が作られて今に至る。戦後の電力会社には、国により強引に体制を引き回された記憶が、強烈に残っており、国の事業への介入を可能な限り拒絶したい、と内心で思い続けているのだという。これが「国管アレルギー」の概要だ。
私は「国管アレルギー」という言葉を見た時、その意味がよくわからなかった。しかし、森の話を繰り返し読むことで気づいたのが、要するに、電力会社は政府を非常に嫌っており、お互いの仲が悪い、という事だった。森によると、「国管アレルギー」とは当時の「雰囲気」であり、関係者達はお互いを嫌いだ、などという発言など、当然ながら全くしていない。しかし、そのような「雰囲気」は確かにあったのであり、私は記録として残すべきと思う、と語っている。
森一久の残した記録の中で、「国管アレルギー」は最も重要な内容だと私は考える。この考えに従うと、今の原子力の状況が、良く理解出来る。経済産業省の役人達には、電力会社から発電事業の主導権を奪う事が、半世紀以上の時間を経て引き継がれた組織の悲願なのだ。原発が再稼働できない今の状況は、組織の悲願を達成するための絶好のチャンスである。そのため、電力会社の力が衰えるのを、彼らは、ただ傍観しているのだ。
原発が停止したことで、日本は化石燃料を海外から、年間3兆円くらい買わざるを得ないという。年間3兆円のムダ金がただ飛んで行くのを、経済産業省の連中は傍観している。3兆円の損失よりも、自分達の組織の悲願が成就する事が、経済産業省には優先らしい。
経済産業省とは、一体何のための役所であるのか?胸に手を当てて考えてみれば良い。
相田英男 拝
追伸
森一久のインタビューは、私の尊敬するフェレイラ氏という技術者の方のブログで取り上げられ、初めて知った。興味ある方は御参照されたい。
ferreira.exblog.jp
【41】実は勝ったのは日本だ
相田英男です。
日立が英国で計画を進めていた、原発の建設を取りやめて、三千億円の損失を計上すると、経営陣が会見で語ったという。私が以前に出した本の中で、日立は原発を必ず作るだろうと断言したが、私の予想は外れた。
しかし今回の原発建設の中止の、本当の意味は、日本の原子力村の敗北や打撃では無いと、私は考える。
今回の、英国での原発中止の発表は、日立の、いや、日本の全部の重電機メーカーの − ただし東芝だけ除く − 勝利宣言である。
一体、何に対しての勝利なのか?
それは決まっているではないか。アメリカへの、ゼネラルエレクトリック(GE)に対しての、高らかな勝利宣言である。かつての太平洋戦争では日本は大負けしたが、重電機技術の競争では、遂にアメリカを打ち破った、という事だ。
ただし、圧倒的な派手な勝利ではなかった。ベトナム戦争で、B52爆撃機から大量の爆弾を落とされながらも、ベトコンが竹槍でアメリカ軍を敗走させたような、壮絶な、長いゲリラ戦だった。犠牲も多かった。東芝はボロボロになって一流メーカーから転落した。その前に、GEの設計基準に従ったまま、安全対策を疎かにした福島第一原発は、震災でメルトダウンした。それでも、最後の、この土壇場になって、GEの方があっけなく自壊してしまった。そして、今回の勝利宣言に至ったのだ。
表では失望した表情で記者会見するものの、裏では、日立と三菱の上層部役員達は、それぞれか、はたまた一緒にか、祝杯を交わしながら歓声を、遠慮がちではあろうが、あげている筈だ。東芝の幹部達とそのOBだけは、苦虫を噛み潰しているだろう。「ああ、俺たちは、やっぱりGEに、騙されて終わったんだ」と。
一連のニュースでは全くコメントされないが、今回の英国での原発建設事業は、日立とGEとの合弁会社で進められている。英語表記では “GE−Hitachi Nuclear Energy”と、呼ばれており、GEの方が日立よりも先に来る。海外のネームバリューは、日立よりもGEの方が、当然ながら上だ。だから今回の建設中止は、GEの国際プロジェクトの破綻の一つでもある。
このプロジェクトが持ち上がった時には、イメルトCEOの時代で、まだまだGEの力は強かった。リーマン危機で損失も出したが、GEはまだ金を相当に持っていた。それで、米国側はベクテルが、日本側は日揮がプラント建設を請け負うことで、計画が進んでいた。しかし、昨年になりGEが3兆円もの巨額の赤字を計上し、GEの株価は一気に下落した。GEの金が期待できなくなったベクテルは、真っ先にプロジェクトから足抜けした。
以前の日立ならば、GEに遠慮して、中止の決断を自ら言い出せなかっただろう。しかし、情勢は大きく変わったのだ。日立はGEの目を気にすることなく、経済的合理性のみを考慮して、建設中止を決めた。日本の重電メーカーが、遂にアメリカの束縛を気にせずに、自由に事業の決断が出来る時代になったのだ。
今となっては原発の建設よりも、GEの崩壊の方が日本のメーカーには重要事項だ。これからは、GEの影響の無い新たなスキームでの事業展開を、早急に構築しなかればならない。具体的には、中国メーカーとの対応方法が重要だ。日本が原発の輸出をやめても、中国とロシアはドンドン原発を外国に売る。日本の左翼は「原発を輸出するな」と怒るのだが、何と、共産主義を掲げる2大超大国が、日本の代わりに原発を作り続ける、皮肉な状況になる。日本では原発全部をパッケージで作る事は出来なくとも、大型の蒸気タービンや、高精度の部品や、日本製鋼所の圧力容器等は、これからも必要とされるだろう。
BWR型軽水炉など、東芝も日立も、本当は作りたくなかったのだ。アメリカ様から脅されて、渋々作り始めた原発だった。戦後の平和憲法と同じような、アメリカからの「押し付け原発」だ。これを機に日本は、BWR の建設からきっぱり足を洗って、GEのしがらみを断ち切れる。なんともありがたいことである。
日本がGEに勝てたのは、発電用ガスタービンの開発競争で、三菱重工が一歩も引かなかった事が大きい。三菱にガスタービンの開発をやらせたのは、東北電力だった。東北電力はガスタービンの技術を、GEに全て握られるのは危険だと考えて、三菱を応援した。それで、三菱が最初に開発した高性能ガスタービン(G型)を、東北電力は新潟の発電所に、世界で初めて導入した。東京電力は別にGEのガスタービンだけでいいじゃん、というスタンスだった。東京電力が富津の火力発電所で、GEのH型ガスタービンを動かしたのは、新潟の後だった。
東北電力のアシストで勢いを得た三菱重工は、GEのH型ガスタービンを超える性能の、J型ガスタービンの実用化に成功した。焦ったGEは、同等性能のHA(アドバンスドH型)ガスタービンを、三菱に遅れて製品化する。しかし、その頼りとするHA型ガスタービンが、ブレードのトラブルにより、世界中のプラントで次々と運転停止に追い込まれているのは、周知の事実だ。HA型ガスタービンには欠陥がある。慢心したGEが技術開発を怠ったツケが巡ってきたのだ。日本のメーカーと電力会社の連携が、GEを打ち倒したといえる。
しかし、勝ったからとはいえ、あからさまに喜びを見せないところが肝心だ。調子に乗ると、アメリカがすぐに叩きに来る。当面は死んだふり作戦でやり過ごすのだ。「いやあ、うちも三千億円も赤字で大変なんです」とか、「MRJが、なかなか売れませんでねえ」とか、記者会見の度に、しかめ面しながら謝り続ければよい。いずれGEはもっと崩れる。東芝も、GEがこれから切り離す事業を、安値買いできる機会をじっくりと見極めることだ。
流れは完全に変わったのだ。
相田英男 拝
【40】三角関数が解けても、優越感とか誰も持たないよ
相田です。
年明けから、どうでもいい的な話が続くかもしれませんが、橋下徹が「三角関数はいらない」と主張しているのについて、気になって読んでみました。彼の主張の最初の方だけ引用します。
(引用始め)
僕は大学生の頃は天皇制に反対だった。少し本を読みだした大学生にありがちな、青臭い頭でっかちな理屈を基にしてね。いわゆる大学という狭い世界に閉じこもったり、本を読んで知識を持っていることが立派だと勘違いしたりした者が、世の中を語るとおかしな方向に行ってしまう典型例。
そういうインテリ連中の多くは、国民のことを「大衆」などとバカにし、国民の感覚で政治を行うことを「ポピュリズム」と批判するけど、教育レベルがある程度高い国においては、自分たちは賢いと信じているインテリたちの感覚よりも、国民大多数の感覚の方が賢明なことが多い。
お正月にAbemaTV「NEWS BAR 橋下」のスペシャルで教育が話題になったときに、「三角関数なんて大人になってから使ったことがない。国民全員が絶対に学ぶべき義務教育と、さらに深く勉強する教育は分けて、後者は選択制にすればいい」旨、僕は発言し、その発言概要がネットで出回った。
そしたら僕を批判する連中が、世の中で三角関数は使われている! 建築、建設の現場で三角関数は使われている! 俺は料理をするときにも三角関数を使っている! 人生の選択の幅を広げるためにも三角関数は必要だ! 三角関数くらい人間の教養として必要不可欠だ! なんて喚き始めた。
中には、難しい数学の世界や物理の世界の話を持ち出して来て、「俺は三角関数を知っているからこういう話の面白さを理解することができるんだ、凄いだろ?」とその道のプロの学者でもない一般人が悦に入っているものも多くあった。
この人たちの話を聞くと、あー、三角関数を知っていることで優越感を持ちたいんだな、と感じたね。
三角関数が世の中で使われていることくらい、知ってるよ。僕が番組で発言したのは、「三角関数は世の中で生きて行くために絶対に必要不可欠な知識じゃない。国民全員が深く知っておくべき知識ではない。興味がわかないなら、無理やりやる必要はない。授業内容を理解できないまま席に着くことは拷問以外の何ものでもないし、三角関数ができないくらいで劣等感を抱く必要もない」ということ。
今回、「三角関数は、国民全員が絶対に勉強しなければならない!」「これくらいのことを知らなければ恥ずかしい!」と叫ぶ人たちの姿をみて、僕は「あー、こういう人たちは世の中のことをほんと知らないんだな」とつくづく感じたね。
三角関数なんか深く知らなくても人間的に立派な人、仕事を成功させている人、人生を謳歌している人たちはたくさんいる。むしろ、ここで三角関数は絶対に必要だ! と喚き散らしている人たちよりも、仕事面でも、収入面でも、生活面でも人生充実していることの方が多いんじゃないか? 僕は自分の人生の中で、そういう人たちをたくさん見てきた。だから「人生において三角関数は絶対に必要不可欠な知識ではない」と断言できるんだ。
ところが、一部狭い空間だけで人生を過ごしてしまうと、そういう人生の充実者に出くわすことが少ないのか、三角関数が絶対的なものになってしまうんだろうね。そういう知識を持っているか否かで優劣が決まってしまう世界しか知らなければ、なおさらだ。
(引用終わり)
一見して、私には、何を言いたいのかよくわからなかった。何度か読み返して、印象に残ったのは、次の箇所だ。
(引用始め)
今回、「三角関数は、国民全員が絶対に勉強しなければならない!」「これくらいのことを知らなければ恥ずかしい!」と叫ぶ人たちの姿をみて、僕は「あー、こういう人たちは世の中のことをほんと知らないんだな」とつくづく感じたね。
(引用終わり)
こんな人達が本当に、世の中に大勢いるのだろうか?私は技術屋だが、「三角関数を知らない人はバカだ」などと思った事は、これまで一度もない。私は数学が元々得意では無かったが、その私でも、高校の三角関数は理解出来た。三角関数が理解出来なくて劣等感を抱いているなら、その人は、先生の教え方が単に良く無かっただけだと思う。その周りにいる人々が、数学の理解に協力的で無かっただけだ。劣等感を持つ必然性など全く無い。
私の実感として、理科系を生業とする方々で、三角関数レベルの数学を日本人の誰もが理解するべきだ、などと思うのは、誰もいないのではないか?普段からそう思っているので、橋下が上のように喚いても、「何じゃソリャ」という違和感しか、私には持てない。
橋下の議論は、現実に存在しない論争相手を仮定して、無意味な理屈を展開する事で、自分を正当化しようとしているだけだと思う。武谷三男という有名な物理学者がかつていた。武谷は、ルイセンコというソビエトのインチキ生物学者の主張を正当化しようとして、昔、他の学者と論争になった。その詳細を書いた伊藤康彦氏の著作によると、相手を論破する際に武谷は、相手が言ってもいない論点を持ち出して、それを否定する事で、相手を貶めるという反則技を、度々使っているという。
今回の橋下の三角関数否定論も、存在しない相手の、架空の主張をデッチ上げて、それを論破する事で、自分の存在感を煽っているだけでは無いのか?
三角関数は高校で習う内容なので、義務教育の課程では出てこない。しかし、高校数学の内容から三角関数を削ると、一体、数学の時間では何を教えれば良いのだろうか?高校では、数学そのものを選択科目にするしかないと思う。数学が苦手な高校生は、習わなくて良くなるだろう。そうすると、英語の苦手な高校生は英語をやらずに、社会の暗記が嫌な高校生は社会をやらなくなるだろう。
しかし、高校の科目を全部選択制にするなら、そもそも、何のために高校に行く必要があるのか?高校に通わずとも、専門の塾とか語学学校などに通って、個別に単元を学べば、それで済むのでは無いのか?橋下の主張は、高校教育の否定にしか私には思えない。私の誤解なのだろうか?
要するに、中学の義務教育を終わったら、あとは自分で必要に応じて好きに学べば良い、という事だ。しかし、それならそれで、中卒の学歴者であっても、生活に不自由なく仕事に就いて、家族を末永く養って行けるような、社会の仕組みを今の日本で作るべきだ、と私には思える。
そんなことまで、橋下はちゃんと考えてくれているのか?元政治家として責任を持てるというのか?。
高校で教わる内容にわからないところがあっても、そんなにも無駄なのか?誰もがそれで、たまらなくストレスを感じるのだろうか?世の中にある様々な学問の、入口だけでも覗いて見ることで、現実世界と精神世界の広がりと関係性を、何となく感じるだけで良い。それだけでも後の人生に十分役に立つのではないのだろうか。内容が理解出来なくとも。職業に結びつかない知識は、全て無駄だから切り捨てろ、とは、私には思えない。
一見合理的な主張に思えるが、橋下の主張は、誰もが与えられている均等な学びの機会を剥奪するものでしかない。他の方も書かれていたが、橋下は、社会に存在する貧富の格差を固定する危険主義者である。原発推進を主張する私が見ても、そう感じる。
相田英男 拝
【39】下町ロケット(第2部)
相田英男です。
年始に最終話が放送されたこのドラマには、私も観入ってしまいました。架空の話なので、細かいところに無理も多い内容ですが、私は素直にいい話と思いました。
一方で、ネットには次のような意見もあります。一部を引用します。
(引用始め)
佃製作所はやっぱりブラック企業」と感じてしまう、3つの理由
1/8(火) 8:15配信
ITmedia ビジネスオンライン
先週、ドラマ「下町ロケット」(TBSテレビ)の新春特別編が放映され14.0%という高視聴率を叩き出した。
(中略)
このドラマは、ロケット技術者から町工場の社長となった主人公・佃航平と、彼が率いる「佃製作所」の社員たちが高い技術力を武器に、さまざまな困難に立ち向かって夢をつかむというストーリー。「ものづくり」に情熱を注ぐ技術者たちが織りなす感動ドラマに、お正月から胸が熱くなったという方も多かったのではないか。
(中略)
ただ、これから日本の労働現場であらためなくてはいけない「悪しき労働文化」が、このドラマで肯定的に描かれているどころか、現実にはあり得ないほど美化されてしまっているのは紛れもない事実だ。
高校野球、大学スポーツ、アマチュアスポーツ団体などで体罰・パワハラ上等というゴリゴリの体育会カルチャーが根付くこの国で、常軌を逸した体罰や“しごき”を美化するスポ根アニメ・ドラマが公共電波でじゃんじゃん流されていたことを踏まえれば、「下町ロケット」が労働現場に与える影響を見くびってはいけない、と申し上げたいのである。
(中略)
「働く」ということは、「夢をかなえるため」「自分が成長するため」と経営者から叩き込まれた社員は、自らすすんで時間外労働やサービス残業に身を投じ、低賃金や低待遇であっても不平不満を口にしない。採用ページなどで「夢」「自己実現」「成長」といううたい文句を掲げるブラック企業が多いのはそのためだ。
(中略)
タイトルにもなっているロケットや、今回の無人トラクターなどは実はすべて社長である佃航平の「夢」だったが、彼の熱意にほだされるうち、気が付けば全社員がその「夢」を追いかけている。ブラック企業における「やりがい搾取」の典型的なパターンだ。
だから、社員たちは自らすすんで残業をする。佃航平に「もう帰れ」と言われても自主的に遅くまで働いている。それどころか、業務外の労働まで喜んでやってしまう。
ドラマをご覧になった方はよく分かると思うが、佃製作所の社員たちは、佃社長の思い付きで、他社の訴訟のために調査や、農作業など時間外労働にも駆り出されている。あれに賃金が支払われているか否かは不明だが、もし払われていないのなら完全に「やりがい搾取」である。
(中略)
もし佃製作所のような従業員200人規模の社長が、自分の「夢」を社員に押し付けて、それを理由に、長時間労働や、業務と関係のない仕事をやらせていたら――。間違いなく社員たちから不満が噴出し、「洗脳系ブラック企業」として大炎上してしまうだろう。
いくら家族的な雰囲気の中小企業といえど、宗教団体ではないのだ。
(引用終わり)
相田です。放送された話の流れを単に追っていくと、上の通りです。が、技術屋としての私の感想は少し違います。
前回のシリーズでありましたが、主役の佃社長という人は、天下の帝国重工に先んじて、高性能のバルブシステムを自ら考案して、特許を取ってしまいます。一流大企業が数十人のプロジェクトで開発した技術を、粗末な環境の中でも、たったの数人で先に開発し終わる設定です。少なくとも10年くらいは、他社よりも進んだ発想を持っていると予想します。会社の社長の前に、技術者として超一流の腕とアイデアを持つ人物です。
佃社長くらいの能力があれば、彼が書く図面や技術レポートを読むことで、「凄い」と感動して、近くで技術を学びたいという若者が、自然に集まって来るでしょう。優れた技術には、他の技術者を感動させる力があります。私が若い時に、自分よりも何段階もレベルの高い能力を持つ技術者を見かけた時には、素直に感動した記憶があります。話の内容や、彼の書いた論文の記述が、非常に趣き深く、美しいのです。
その人の存在を知った時には、「自分も努力したら、ああなれるかもしれない」と、寝る間を惜しんで実験したり、テキストを読んだりした記憶があります。ほんの数年間でしたが、技術者としてのレベルアップのきっかけになりました。
一流の能力を持ってはいるけど、報われない。そんな技術者の周りに、腕に自信のある若手が自然に集まって出来たのが、佃製作所だと思います。
佃社長は熱く理想を語って若手を洗脳するのではなく、本当は、黙って技術を見せるだけで導いているのだと、私には思えます。ただし、それだとドラマにならないので、テレビではわかりやすく、熱く語っているのです。
佃社長の本当の姿は、アイン・ランドの「水源」の主役の、ハワード・ロークのような人だと、私は思います。不遇ではあるけれど、一流の技術力を持っていて、語らずとも見る人が見れば実力が分かる。私がテレビを見る時には、頭の中で勝手にキャラ変してたので、あまり違和感はなかったです。
周りの若手も、優れた技術を学ぶために側にいるだけで、いつまでもブラックに甘んずる訳ではなく、いずれは独立するつもりでしょう。でも、技術屋でない人は、あれは浪花節で洗脳されてると、そのまま受け止めてしまうでしょうね。
ただ私は、自殺してしまった電通の女の子のように、自らが望まずに激務に晒される事を良しとは思いません。相手の実力が自分を遥かに上回る事が、冷静に考えて判断できた時に、謙虚に学ぶ姿勢を持つことが大切だと思います。
相田英男 拝
【38】新年早々いい加減にしろよ、どいつも
相田英男です。
新年になりました。昨年起きたゼネラル・エレクトリックの崩壊は、自分にとってあまりに衝撃的でした。9月以降は頭の中で、長年凝り固まった固定観念が、ガラガラと崩れ落ちる音がずっと続いていました。
早く文章にまとめなければ、と気持ちが焦るのですが、自分の理解の速度が現実の早さに追いつけない状況です。ニュースが英語でしか報道されないせいもあるのですが・・・
そんなイライラした心境で、以下の記事を見つけました。
記事にある「姶良(あいら)カルデラ」というのは、2万年前のたった一度の噴火で、南九州一帯に数メートルの厚さのシラス台地を作りました。数日の間で、人間が見渡す限り以上の広さに、数メートルの火山灰が降り積もったのです。人類が未だに目にしていない規模の、あまりに巨大な噴火です。今同じ噴火が起きたならば、日本人の半分は逃げ遅れて死ぬでしょう。
そんな巨大な災害の予測に、なぜ原子力規制委員会ごときが、率先して関わる必要があるのでしょうか?噴火が終わった数ヶ月くらい後で、九州にまた人が住めるようになる、などという、甘い事を、よもや考えているのでしょうか?
起きたならば間違いなく、日本人の存亡の危機が生じる大災害の予測を、何でわざわざ原発に絡める必要があるのでしょうか?自然の起こす災害を、あまりにも軽く考え過ぎではないでしょうか?
姶良カルデラがl噴火すれば、西日本の人間のほとんどは死んでしまうと、少しは想像力を使えばわかるでしょうに。その時に原発が壊れて、一体何が問題なのでしょうか?
原発なんかほっといて、さっさと韓国か中国に脱出する事を考えるべきではないのでしょうか?でも、これだけ揉めていたら、水際で全員追い返されるでしょうけど。
もしくは、原発をゴジラと同じ位の化け物だと、心底から錯覚しているとか?
橋下徹がネットテレビか何かで、「三角関数を学校で教えるのは、意味がないから止めろ」と、発言したそうです。「人を馬鹿にするなよ、橋下の野郎」と、最初は私もカッとしました。でも、こんな提言が原子力規制委員会から出されるのですから、委員会の連中も全員、三角関数が理解できていないレベルの知能と思えます。
(引用始め)
「破局的噴火」を警戒、海底火山を常時観測へ
1/7(月) 8:59配信、読売新聞
原子力規制委員会は、火山の破局的噴火による原子力発電所への影響を評価するため、2021年度から鹿児島湾内の火山「姶良(あいら)カルデラ」の海底での常時観測に乗り出す。地殻変動や地震などのデータを集めて破局的噴火のプロセスを解明し、原発の安全審査に生かすのが狙いだ。
破局的噴火は、噴出物の量が100立方キロ・メートル以上の超巨大噴火で、火砕流が数十~100キロ・メートル以上の範囲に到達する。国内では1万年に1回程度起きているが、縄文時代の7300年前が最後で、科学的な観測データがないため詳細はわかっていない。
こうした噴火によってできた巨大なくぼ地はカルデラと呼ばれ、大部分は海底や湖底にある。海底でのカルデラの常時観測は国内初。規制委は19年度から予備調査を開始し、研究を委託する機関の選定などを進め、21年度に海底に地震計や水圧計などを設置、観測を始める計画だ。
破局的噴火の原発への影響を巡っては、広島高裁が17年12月、阿蘇カルデラ(熊本県)の破局的噴火で火砕流が到達する恐れがあるとして、四国電力伊方原発3号機(愛媛県)の運転差し止めを命じ、注目された。同高裁は18年9月に決定を取り消したが、この間、伊方3号機は停止した。
九州電力の川内原発(鹿児島県)や玄海原発(佐賀県)でも、破局的噴火の懸念から運転差し止めを求める仮処分申請が相次いでいる。
(引用終わり)
相田英男 拝
【37】ブレード問題は未だに解決していない
相田英男です。
下の投稿で引用したロイター記事の、前半部分の説明記事が、同時刻に発表されていました。GEのガスタービントラブルの詳細に、かなり踏み込んだ内容が書かれています。GEは、トラブルの詳細を全く公表しないので、業を煮やしたロイターが、世界中の電力会社にあたって、HAタービンの状況について確認したようです。見えてきたのは、GEの大本営発表とは相当に異なる状況です。
以下に記事の中で気になる部分を抜粋して、意訳を付けて解説します。私は英語が苦手なので、そっちの方は大目にみてください。
【引用記事】
Exclusive – GE’s push to fix power turbine problem goes global
By Alwyn Scott, December 7, 2018, Reuters
以下は、記事の一部の抜粋と私の解説です。
1.タービンブレード損傷(oxidation issue)の実態について
(引用始め)
Photographs of the damaged turbine reviewed by Reuters show dozens of jagged and broken blades inside the massive machine, owned by Exelon Corp (EXC.N). The turbines are now running after two months of repairs, Exelon said.
意訳:
停止したエクセロンのHAタービンの写真を我々(ロイター)が見たところ、損傷して先端がギザギザの形状になったブレード翼が何個も確認された。このHAタービンは2ヶ月間の修理を経て、現在は運転を再開した。
GE told Reuters it identified the oxidation problem in 2015, and developed a fix before the failure in Texas. The fix uses an earlier casting method that was employed on other turbine models.
意訳:
GEはロイターに、テキサスの発電所で故障が起きる前の2015年に、同様のブレードの酸化問題が起きていたと語った。その修理の際は、それ以前に別のタービンモデルに鋳造されたブレードを使って交換した。
(引用終わり)
相田です。9月にエクセロンのプラントが止まって以来、GEはHAタービンのトラブルについて、“oxidation issue” と述べるだけで、他に一切の説明をしていません。しかし、上のロイターの記事には、現地でのブレード損傷の一端について、具体的に書かれています。
最も重要なのは、“Photographs show dozens of jagged and broken blades”という記載です。タービンブレードの先端は、本来なら平らの筈です。が、エクセロンの関係者に損傷した写真を見せてもらった処、ブレード先端がギザギザになっていたそうです。これはブレード先端の温度が高温になり、運転中に溶けて一部が飛散した事を意味します。単に表面コーティングが脱落しただけでなく、その下の基材のニッケル基超合金(Nickel based superalloy)が溶けたのです。深刻なトラブルです。
GEの言うようにoxidation(酸化)が、そもそもの破損の原因かもしれません。しかし、酸化でブレード自体がここまで消失するのは、先端の温度が想定よりも相当に上がりすぎている事を意味します。ブレード内部の冷却機能が不足している、要するにGEが設計したブレードの冷却機能に問題がある可能性も、否定できません。
“dozens of” という記載から、ギザギザのブレードは数本ではなく、数10本に及ぶと思われます。おそらくは、タービンの一周グルリとブレードがダメージを受けているのでしょう。製造の欠陥で、一部のブレードのみが性能が低かったのではなく、全てのブレードに問題があると思えします。
記事には、2015年の時点でGEはブレードに問題があると知っており、その時の修理には、以前の鋳造技術(an earlier casting method)を使った、と書かれています。ここの記載がイマイチ怪しげですが、castingとはブレードを作る際の、最初にニッケル合金を溶かし鋳型に入れて固めるプロセスを指す筈です。酸化の問題があったのは前から知っていたが、その時には、古い作り方のブレードに交換して、取り敢えず済ませた、という場当たり的な対応に思えます。ロイターの記事の説明不足もあるでしょうが、釈然としない箇所です。そのうちに経緯がわかるでしょうが。
2.他の発電所のHAタービンでもブレードの交換に着手した。
(引用始め)
Three plant operators using GE equipment that are shutting for blade repairs, Invenergy, Exelon and Tennessee Valley Authority, told Reuters GE has been transparent and responsive in installing new blades for free under warranty.
意訳:
ブレード交換のためにHAタービンを停止している電力会社、インベナジー、エクセロン、テネシーの三社の関係者は、GEは保険契約(注:LTSA契約のこと)に従い、透明で信頼出来る方法で新たなブレードの取付作業を行っていると、ロイターに述べた。
“Overall, we’ve been very pleased with GE’s HA technology and its performance capabilities,” said Beth Conley, a spokeswoman at Invenergy, which is receiving replacement blades for three new HA turbines at a Pennsylvania plant that has not yet opened.
意訳:
“私達はGEのHAタービンの技術と性能にとても満足している”と、インベナジーのスポークスマンのコンレイ女史は語った。彼らの交換用ブレードの一式はペンシルベニアの新たなHAタービンまで届けられたが、タービンの解放作業はこれからである。
(引用終わり)
相田です。エクセロンの他に、フランスでもHAタービン停止と点検について報道されました。しかし、それ以外のインベナジー社(ペンシルベニア)とテネシー・バレー社でも、既にHAタービンを停止して、点検の準備に入っているようです。インベナジーではタービンの解放作業はまだですが、GEから交換用の新しいブレードが既に搬入されているようです。多分、覗き穴からファイバースコープを入れて見たら、ブレードがギザギザだったので、「これはもうダメだ」となったのだと思います。
3.GEは楽観的な態度をあくまで崩していない。
(引用始め)
GE is setting aside $480 million (376 million pounds) to repair its 9HA, 7HA and 9FB model turbines as it restructures its power business. The 126-year-old conglomerate has declined to say how many have been shut down, or when it would replace parts – if needed – in as many as 130 such turbines it has produced.
意訳:
GEはHA, 7HA, 9FB 型ガスタービンの修理のため、480ミリオンドルの費用を準備している。GEは、修理のために停止するガスタービンの数と、タービンの部品交換が(必要であれば)行われる時期を、明らかにしていない。
Power plant operators in Japan, Taiwan, France and at multiple U.S. sites have shut down – or plan to shut down – at least 18 of the 55 new HA-model turbines that GE has shipped so far, French utility data and interviews with more than 20 industry experts, including executives, plant operators, insurance specialists, engineers and consultants with direct knowledge of GE turbines show.
意訳:
日本、台湾、フランス、アメリカの幾つかのサイトの発電プラント関係者達の話をまとめると、GEにより世界中で55台導入されたHAタービンの内の、18台以上が点検、補修のために停止される予定である。
In an interview, GE gas power systems CEO Chuck Nugent played down the significance of turbine shutdowns and the French data, saying that GE turbines are performing “extremely well,” despite the need for “early maintenance” to fix the blades.
意訳:
GEガスパワーシステムCEOのニュージェント氏は、一連のガスタービン停止とフランスの発電所の不具合データが深刻なものであるとは考えておらず、「GEのガスタービンはどれも“きわめて順調に”稼働している」と、インタビューで答えた。ブレード修理のための“早急なタービンの停止”が、必要であるにもかかわらず。
(引用終わり)
相田です。ロイターの調査では、タービンユーザーである電力会社の方は、ブレード損傷について危機感を持っているものの、GEは公式発表では前向きな発言を続けるのみです。GEと電力会社の発言には、明らかに温度差があります。
おそらくは、今回のブレードのトラブルについて、GEは未だに抜本的な解決策を見出だせていないのだと、私は推測します。技術的な解決策も、LTSAに関するビジネス的な損失についても、両方についてです。
GEのコメントの通りに、問題が収束しつつあるのならば、トラブルの状況と解決方法についての詳細なロードマップを、早急に開示するべきです。それならば投資家も安心して、株価の低下も早めに収まる筈です。しかし、事故の詳細情報を全く発表せず、アメリカ国内のユーザーから、ブレードの新品への交換作業を少しずつ進めています。問題の根深さが芋ずる式に明らかになる事を恐れている、としか思えません。やり方があまりに姑息です。
今回のユーザー側からの調査により、GEの困難な状況が、また一つ明らかになりました。10日の月曜日のGEの株価は、終値で遂に7ドルを割りました。スティーブ・ツサが予言した6ドルの目標株価に到達してしまいました。
GEが認めなくても、SECによるGEパワーへの調査から、問題はいずれ明らかなります。投資家達は、そてを見越して最後の期待も投げ捨て始めているのでしょう。
相田英男 拝
【36】【速報】中部電力西名古屋発電所の6台を含む18台以上のHA型ガスタービンが停止される予定
相田英男です。
先に書いた投稿の内容を一部差替えます。
ロイターの速報ですが、初段ブレードのコーティング破損が問題になっていた、HA(アドバンスドH型)ガスタービンについて、世界中の発電プラントで少なくとも18機を停止して、点検する予定であることが、ユーザーの電力会社関係者からのインタビューで明らかにされたそうです。
記事を以下に引用します。ロイターがまとめた停止検討中のプラントに、中部電力の西名古屋発電所に作られたHAタービン6機が、しっかり載っています。西名古屋のHAタービンは、運転開始後に世界最高の発電効率を更新した、凄いだろう、と大々的にマスコミ発表されていました。それが、まさかこんな羽目に陥るとは、全くの「想定外」だったでしょう。
やっぱり三菱重工のJ型ガスタービンにしとけば良かった、とか、中部電力は後悔しているかもしれません。流石に今度の中部電力の6台のHAタービンが点検で停止するとなると、電気新聞も記事にしなければならないでしょう。すると、東京電力のHAはどうなんだ、とか、北海道電力の石狩湾発電所のやつは大丈夫か?とか、話が広がるでしょう、必然的に。もはや隠蔽は不可能です。
GEにとって問題は、タービン翼の交換などの物理的な費用だけではなく、LTSA(長期保守契約、数年間の修理に伴う費用を電力会社が事前に、GEに保険として支払うこと)に伴い生じる追加費用です。電力会社はHAタービンの停止中に、止めていた旧式の発電設備を再稼働して、重油や石炭などの燃料を新たに買うとかする必要に迫られます。これら諸々の諸経費をまとめて全部、GEは負担しなければなりません。
先週の記事によると、GEパワーの巨額赤字の内容を精査しているSEC(アメリカ証券取引委員会)は、ガスタービンのLTSA契約に伴う収入を、GEの経理部門が過度に盛っていた可能性が高いと、慎重に捜査を進めているそうです。SECも間抜けではないので、やっぱりそこが一番怪しいと思うでしょう。
まあ、私はある程度予想していましたが、GEにとって最悪の展開になりつつあります。CEOの首を何度もすげ替えた処で、中身の毒は全く浄化されないことが、証明されました。
(引用始め)
Factbox – Power plants with GE turbines shutting for repairs
ReutersDecember 7, 2018
NEW YORK (Reuters) – Utilities are shutting down at least 18 of General Electric Co’s (GE.N) newest gas turbines for repairs at power plants from Taiwan to France, according to more than a dozen interviews with plant operators and industry experts.
Here is a list of power plants that operators have shut down or plan to shut down for turbine blade replacements or other repairs following a blade failure at an Exelon Corp (EXC.N) plant in Texas in September, according to the sources.
Plant name: Lackawanna Energy Center
Turbines: 3 x GE 7HA
Location: Jessup, Pennsylvania
Owner: Invenergy
Plant name: Allen Natural Gas Plant
Turbines: 2 x GE 7HA
Location: Memphis, Tennessee
Owner: Tennessee Valley Authority
Plant name: Nishi-Nagoya Thermal Power Station
Turbines: 6 x GE 7HA
Location: Nagoya, Japan
Owner: Chubu Electric Power Co.
Plant name: Dah-Tarn
Turbines: 2 x GE 7HA
Location: Taoyuan City, Taiwan
Owner: Taiwan Power Co.
Plant name: Bouchain
Turbines: 1 x GE 9HA
Location: Bouchain, France
Owner: Electricite de France
Plant name: Colorado Bend II
Turbines: 2 x GE 7HA
Location: Wharton County, Texas
Owner: Exelon Corp
Plant name: Wolf Hollow II
Turbines: 2 x GE 7HA
Location: Granbury, Texas
Owner: Exelon Corp
Sources: Companies, GE, Reuters research
(Reporting by Alwyn Scott)
(引用終わり)
相田英男 拝
【35】東芝はGEのバッファ(緩衝、衝撃吸収材)である
相田英男です。
先週末のGEの株価は、10ドルを下回り8.58ドルまで沈んでしまいました。そして、週明け月曜になると、株価はついに終値で8ドルを割りました。先週の木曜にアナリストのスティーブ・ツサが、「GEの適正株価を“6ドル”まで引き下げるべきだ」と、コメントしたのが波紋を呼んだそうです。株式時価総額も遂に、7兆円そこそこまで落ち込みました。昨年の4月には、GEの時価総額は25兆円を超えていたのです。が、たったの一年半で1/3以下に減ってしまいました。
時価総額が8兆円以下になると、ソフトバンクグループや三菱UFJにも及びません。ソニーとほぼ同じレベルです。2000年頃にはアメリカ最強と呼ばれたあのGEが、何というショボくれた会社に落ちぶれてしまったのでしょうか。
CEOのカルプは、GEパワー(発電部門)の危機的状況について、「そろそろ持ち直すだろう」’We’re getting close’ と、インタビューで述べたようです。ですが、赤字を脱却しても、GEには最早、金融事業もデジタル事業もメディカル事業も、売却してしまうため収益は期待出来ません。株価を反発させるための成長エンジンとなる事業が、GEには残っていないのです。ジェットエンジンと発電用ガスタービンを、地道に作って売るだけの、単なるメーカーになるしかありません。
これまで日本では、アナリストや経済誌の記者達が、「日本の企業は製造業だけに頼っていても、ジリ貧になるだけだ。GEを見習って選択と集中をすべきだ。経営改革を早く進めろ」と、散々叫んできました。ところが、その「日本が見習うべき理想の企業」だった筈のGEが、何とこの有様です。今となっては、地道に「物作り」を続けてきた日本の会社の方が、しっかり生き残っているではないですか。失敗したのは、GEを見習って「選択と集中」に取り組んだ、あの東芝でした。アナリスト連中は、所詮は、その場の適当な思いつきをコメントするだけです。彼らには、先のことなど全く見えていないのが、よくわかります
まだまだGEの危機はこれからです。行き着く所まで行くと思います。
翻って日本では、東芝が、8日の木曜日に、2018年7月~9月決算と当面の事業計画を発表したそうです。車谷CEOになり初めての事業報告会です。しかし、「発表の会場が高級ホテルだったのがケシカラン」とか、「半導体を売却した後の成長戦略が見えない」とか、相変わらず経済マスコミ連中から叩かれています。
でも私が考えるには、車谷会長はよくやっていると思います。おそらく何もしないで、当面の時間を稼ぐことが、今の東芝の最も重要な任務だからです。なぜならば、東芝はGEが今後分割して切り離すであろう不採算部門を、吸収、合併する必要があります。GEの最期のリストラで放出される経営資産(殆ど赤字の)を、受け止めるためのバッファ(緩衝材)となるのが、東芝に与えられた役割なのです。だから今の東芝は、新たな事業を勝手に提案して設備投資などして、お金を減らさないように、敢えて何もしていないように、私には見えます。
せっかく半導体事業を打って、大金を得る見込みがついた。ウェスティングハウスの清算も終わり、アメリカのLNG事業も中国に買って貰える目処がついた。そして、「そのままでしばらく待て」という指示が、東芝の経営陣に出されているのです。「天の声(JPモルガン)」として。
面白いのは、お金に余裕が出てきた今の東芝は、新規事業の開拓ではなく、自社株買いに積極的にお金を使っています。この自社株買いについても、経済記者達からは「金と時間の無駄遣いだ」と、非難の的になっています。日経の記事から引用します。
(引用始め)
東芝、7000億円の自社株買い発表 1株3635円 上場企業で過去最大規模
日本経済新聞 2018年11月12日 19:15
東芝は12日、今月8日の取締役会で決議した7000億円の自社株買いの具体的な方法を発表した。自社保有分を除く発行済み株式総数の約30%に相当する最大1億9257万2200株を、12日の終値と同額の1株3635円で買い付ける。13日の取引開始前に東京証券取引所の立会外取引で取得する。
7000億円の自社株買いは国内の上場会社では過去最大規模とみられる。東芝は、昨年末の大型増資を引き受けた海外ファンドなどの応募を想定している。
1株当たりの買い付け価格は、昨年末の増資の新株発行価格に比べ実質38%高い。
一部のファンドは保有する東芝株を売却するとみられる。一方で、「再建でさらに株価が上昇する可能性もあり、東芝株の継続保有も検討する」としているファンドもある。東芝側も「今回だけで7000億円分を全て取得できるとは思っていない」(幹部)とみている。
13日の立会外取引で7000億円分を取得できない場合は「国内の自社株買いでは一般的な、証券会社を通じたアルゴリズム取引で買い付けを進めていくのではないか」(市場関係者)とみられている。
東芝は19年11月までに7000億円の自社株買いを終わらせる方針。取得した自社株については、一定規模を消却するという。
(引用終わり)
技術屋の私は株には素人ですが、自社株買いを行うと単純に株価が上がるため、既存の株主の利益が高まります。この東芝の自社株買いが、先にゴールドマン・サックスが増資のために集めて来た「物言う株主達」に向けての対応なのは、言うまでもありません。彼らも間抜けでは無いので、GEの赤字部門と東芝が合併するとなると、当然猛反発する筈です。なので、GEとの合併までに、株価を出来るだけつり上げておいて、彼らを儲けさせる必要があります。つまらない設備投資に資金を費やして株価を下げるのは最悪です。当面は手持ちの資金を減らさずに、自社株買いで海外投資家を儲けさせるのが、最善の策と言えます。
なので、元銀行員の車谷CEOの今の対応は、とても理にかなっていると、私は考えます。今は何もしてはいけないのです。窮地に陥ったGEの、最期のリストラ作業が完了し、東芝との合併の準備が整うまでは。
私達の日本という国家は戦後、アメリカのデモクラタイゼイション(強制的な民主化教育)を受けて、旧ソビエトや中国のバッファとして利用されて来ました。同じように、JPモルガンによりデモクラタイゼイションされた東芝は、壊れゆくGEのバッファとして使われるのです。まさに今、目の前で展開される貴重な、壮大な、デモクラタイゼイション・ドラマの成り行きから、しばらく目が離せません。
相田英男 拝
【34】いよいよこれからが本番だ
相田英男です。
10月30日のNYダウ株価は、400ドル以上がった一方で、かのGEの株価は、10ドルそこそこに低迷しています。理由は簡単で、同日発表された18年度第2クオーター(7,8,9月)決算で、純損益が228億ドル(約2.6兆円)の大赤字を出したためです。アメリカの企業では史上最高額の赤字だそうです。アルストムの減損から予想はしていましたが、やっぱり凄まじい規模です。フラナリーに変わって社長になったカルプには、散々な門出になりました。
今のGEの株式時価総額は10兆円くらいまで減りました(全盛期の2000年頃は50兆円を超えていた)。そこから2兆円の赤字が出てしまうと、いよいよ危ない領域になります。GEの危機は、アメリカ経済界でも、最もホットな話題の一つになりました。
今回のカルプの発表では、大赤字以外にもいくつかの注目すべき内容が出てきました。ブルームバーグの以下の題目の記事に、大まかにまとめられており、箇条書きで説明します。
〔参考記事〕
GE Sinks to 2009 Low After Accounting Probe Adds to CEO’s Woes
By Thomas Black, Natasha Rausch and Matt Robinson
Bloomberg October 31, 2018
1. 刑事訴訟される怖れがある?
上記の記事について、一部の翻訳がネットにあったので一部引用します。
(引用始め)
米ゼネラル・エレクトリック(GE)は、米証券取引委員会(SEC)による会計調査が拡大していると明らかにした。この発表で株価は9年ぶりの大幅安に見舞われ、ラリー・カルプ新最高経営責任者(CEO)にとっては厳しい船出となった。
GEは30日、カルプCEO就任後初となる決算とともに、電力設備部門で計上した約220億ドル(約2兆4900億円)の費用についてSECの会計調査が広がっていると発表。同社が1日に明らかにしていたこの減損処理に関しては、米司法省も調査している。
(中略)
特に懸念されるのは司法省の関与だ。ブルームバーグ・インテリジェンスの法務アナリスト、ホリー・フラウム氏は、「事態は一段と深刻になっている」と述べた上で、「SECは民事提訴できるが、司法省は刑事訴訟を起こすことができる」と説明した。
(引用終わり)
相田です。昨年の12月にGEは、保険事業の焦げ付きで1兆円の赤字を出し、証券取引委員会(SEC)の会計調査が続いています。実はアルストムの「のれん減損」があまりに巨額なため、SECの調査が火力事業部のGEパワーにまで拡大した。それだけではなく、司法省(the Department of Justice)も、GEパワーの会計状況の調査を始めたというのです。犯罪の可能性があり、下手をすると不正会計による告訴も想定されるとのこと。だんだん大事(おおごと)になってきました。
2. HAガスタービンの損傷トラブルは「ディープ・インパクト」だ。
英文記事の和訳されていない箇所の、気になった記載の一つを引用します。
(引用始め)
The power unit’s difficulties will “persist longer and with deeper impact than expected,” Chief Financial Officer Jamie Miller said on a conference call Tuesday. As a result, GE will miss its full-year target for cash flow by a significant amount, she said.
(引用終わり)
今回の2兆円の赤字は、火力発電部門のGEパワーで生じたものです。GEの最高財務責任者であるミラー女史という方が、「火力発電部門が抱える問題の解決には、予想以上の困難が伴う」と発言したと、記事に書かれています。ミラー女史は、状況の深刻さを“deeper impact”と述べています。
具体的な問題については、記事では触れていません。でも、私が思うに、“deeper impact” とは、HA型ガスタービンのブレード翼の損傷を指す筈です。ブレードのトラブルにより、エクセロンのコロラドの発電所と、フランスのブシャン発電所でもHAタービンは稼働を停止しました。でも、部品交換をしてタービンを動かせば解決する訳ではありません。
HAタービンを納入する際にGEは、数年間は発生するタービンの修理、補修の費用を、全て負担する長期間の保険契約(LTSA)を、電力会社との間で結んでいます。今回のような想定外のトラブルによる停止が起きると、保障期間中の費用をGEは全て負担しなければなりません。場合によっては、修理費の他に、代替で動かす旧式発電設備の燃料代も含まれます。
これらのLTSA契約により生じる、負担金額の総額が、GEは測りきれてないのだと私は思います。“deeper impact” とは、このことだろうと考えます。
3. 発電事業は二つに分けられる
現CEOのカルプが発表した最初の対策は、発電事業を担当するGEパワーを分割することです。具体的には、収益性の高い(と予想される)ガスタービンを中心とする部門と、「それ以外」の事業に分けると。後者の「それ以外」には、蒸気タービン、原発、送電、変電事業、等が含まれます。アナリスト達の間では、収益の悪い後者の部門をまとめて売却するつもりだろう、と噂されているそうです。
この辺から私の最も興味がある話につながるのですが、私の予想では、GEからスピンオフした発電事業部門は、どこかの投資会社を一旦経由した後に、東芝と合併すると思います。最早言うまでも無いのですが、東芝の重電部門の技術はGEの完全なコピーです。何から何までコピーです。GEから手取り足取り教えてもらった技術なので、何の問題も無く、くっ付ける事が可能です。
そんな不採算の事業を押し付けられても、東芝も引き受けるはずがないと、普通は考えます。が、多分東芝は受けます。何故ならば、今のGEには金がありませんが、東芝は金を持っています。半導体事業を売って儲けた2兆円があります。不採算事業を切り離した後でも、GEにはその部門を退職したOBへの年金の支払いを考える必要があります。しかしGEには年金を払う余裕が最早ありません。
スピンオフした重電事業に、GEは年金の支払い枠をかなり乗せて東芝に引き渡し、東芝の2兆円を注ぎ込んで補填する、年金が増えてめでたしメデタシ、という筋書きだと、私は予想しています。なんといっても、GEの鶴の一声でウェスティングハウスの原発を買ってしまった東芝ですから、最後までGEに尽くして終わるのではないでしょうか。
展開がますます楽しみになって来ました。
相田英男 拝
【33】GEがイラク発電所建設に参画しても、株価上昇への御利益はなさそうだ
相田英男です。
トランプ大統領の横槍により、シーメンスがイラクで進めていた発電所建設事業の半分を、GEが受注することになりました。これについて、JPモルガンのアナリストの、“セルジオ越後”ではなくて、スティーブ・ツサが、相変わらずの辛口でコメントしています。
ツサによると、今回の取引は事業金額は大きいものの、GEが得る利益は、期待される程に大きくはない。何故なら、蒸気タービン等の利益マージンの小さな装置がほとんどで、利益率の大きなH型ガスタービンの受注には未だに至っていない、ということです。イラクとGEとの契約内容の詳細が明らかではないが、おそらくは、イラクの発電所建設がGEの株価低迷に、歯止めをかけることはできない、とツサは言っています。
それよりも、H型ガスタービンのトラブルによる停止の、株価へのネガティヴな影響が未だに大きい、とのこと。
発電所の設備は何でも作れば良い、という訳ではなく、利益が大きな設備とあまり儲からない物があります。イラクで作るのは、ガスタービンと蒸気タービンを組み合わた、コンバインドサイクル設備(GTCC)のようです。ガスタービンを納入すれば、高温部品を頻繁に交換する必要があるため、末長い補修費用(LTSA)による売り上げが見込めます。
一方で、蒸気タービンを受注しても、図体がでかくて作るのに手間が掛かる割に、点検の部品交換の頻度が少ないのです。ガスタービンのような超高温下で、部品が使われる訳ではないので。部品を交換する時も、装置が馬鹿でかいので、ガスタービンよりも手間暇が掛かります。だから、あまり部品交換が必要ないように、最初から作られているのです。
シーメンスにも意地があるので、ドイツ政府と連携して、本命のガスタービンの受注だけは、絶対にGEに渡さないように、頑張ったのだと思います。トランプは、「この間の戦争で何千人もアメリカ兵が死んだんだぞ、インフラ建設の美味しい所だけ、ドイツに持っていくとは何事だ」みたいな剣幕で、イラク政府を脅したみたいです。けれども、GEがもらえたのは、結局はマージンの少ない装置や水処理施設などの、どうでもいい周辺設備だけになりそうだ、とのことです。
(引用始め)
GE-Iraq Deal May Not Be What It Seems Despite Trump Pressure
APARNA NARAYANAN
Investor’s Business Daily, 10/22/2018
General Electric (GE) and Siemens both signed agreements for power generation in Iraq, after the Trump administration reportedly intervened on behalf of the American industrial conglomerate’s GE Power unit.
GE announced Sunday it had signed “principles of co-operation” to add up to 14 gigawatts of power generation capacity, with 1.5 GW set to come online as soon as next year. Siemens said Monday it had entered into a “memorandum of understanding” to add 11 gigawatts of power generation capacity in four years.
But analysts at JPMorgan called the GE Iraq deal a “vague collection” of conversions, services and upgrades, mainly of low-margin steam turbines, with projects involving the advanced H-frame gas turbines yet to be decided.
In addition to the deal’s terms, the language of GE’s statement was “vague” while that of Siemens was “more firm, “JPMorgan analyst Steven Tusa said in a note Monday, noting both involved “unrelated throw-ins” like water treatment units.
“It appears GE does not have entitlement to the large frame turbines, despite a rich legacy of installed base in Iraq, and despite the well-publicized intervention of the U.S. government,” he wrote.
(引用終わり)
相田英男 拝