概略がほぼわかった

相田英男 投稿日:2020/10/10 14:30

相田です。

アゴラでの篠田英朗と池田信男が、学術会議問題について対談するビデオを見た。池田が、学術会議が共産党に引き回されている、と、散々喚く内容かと思ったが、予想より落ち着いた内容で、少し安心した。

どうも、学術会議員に共産党関係者が多い事実が、ようやく右翼に認知されつつあり、その証拠の一つとして、私が以前に「ぼやき」で書いた福島要一の話の短文だけが、切り取られて拡散しているようだ。池田信男もそちらを見たのかもしれない。どうせ騒ぐのなら、私の本が書店に並んでいる時に騒いでくれよ、今更おそい、と言いたくなるが、それは冗談だ。

しかし、池田が今になって「学術会議は共産党の活動拠点だった」と題して書くのは、完全に世論へのミスリードだ。単に右翼を煽って、不要な騒ぎを大きくする結果しか産まない。確信犯的にあのタイトルを付けたのだろうが、池田も所詮、文章の内容よりも、注目を集める事を優先する書き手という事だ。

さて、ビデオ対談を聞いて色々思う所はあった。篠田が、1983年に中曽根首相が、学術会議の人選に政府が関与しない、と述べたのは、学術会議との間でなんらかの「ディール」があったのだろう、と語っていた。私には篠田の「ディール」の意味が何となくわかる。そのうち書く。

なるほどな、と気づいたのは、菅義偉総理は、今回の学術会議との対立を数年前から時間を掛けて、準備していたのだろう、とする池田の予測だ。今年の正会員半数(105人)の入れ替えのタイミングで「やるぞ」と菅総理、ではなく安倍前総理が決めていた、それを菅総理が実行した、という事らしい。確かにそうかな、と私も思う。

安倍の悲願だった、憲法改正の裏カードとして学術会議の体制変更を、水面下で同時に準備していた訳だ。その理由は明白で、学術会議という組織が、終戦直後のGHQ -SCAPにより作られた組織だからだ。安倍&自民党右派の判断では、学術会議も平和憲法第9条と同じく、アメリカから無理矢理に押し付けで作られた物だ。だから現憲法と同時に刷新するべきだ、という事らしい。

確かに、これだと納得がいく説明である。占領軍のソーシャル・エンジニアリングにより生じたひずみを、一気に片付けてしまえ、という目論見なのだ。

しかしである。それならば、安倍と菅は、大きな判断ミスを犯している。私にはそう思える。

端的に言えば、彼らの失敗は、原発の再稼働を遅らせた事だ。読者は何の事やらピンと来るまいが、説明を続ける。安倍が側近として置いていた、経済産業省出身のの官僚達が問題だ。彼ら経産省の側近達の意向により、安倍は、意図的に原発の再稼働を遅らせたのだ。私はそう確信している。

その理由は、国内の電力会社の力を弱体化させて、経産省の影響力下に置くことにある。あわよくば、戦前にあった日本電力発送電のように、一つの国策会社に再編成するのが、経産省の長年の悲願だった。そのために、今の各電力会社の利益につながる、原発の再稼働を意図的にサボタージュしたのだ。それを安倍は見逃し続けて来た。

具体的には、原発を置いてある各自治体に集まる反対派に対して、経産省は専門の科学者、技術者達を派遣して、説得する事をほとんどしなかった。責任を全て電力会社側になすりつけて、見殺しにした。山本太郎や、売春で辞任した新潟県元知事、そしてイベント毎に電力会社や発電所付近にデモに集まる、左翼系の反対派を、専門の科学者達が粘り強く説得させる機会を、安倍政権は意図的に封じた。その方が、経産省の利権拡大につながるからだ。

しかし、経産省の利権のために、科学技術の正当な筋を捻じ曲げた、という事実は、重いツケとなり残される。

安倍が去った今になり、共産党系の活動家が跋扈する学術会議を刷新しろ、それが筋であろう、という主張は、いまさら通らない。反対派の左翼活動家を散々煽っておいたのは、安倍政権ではないか。電力会社の立場を不当に陥れるために。それを継承する菅政権が、今になり、左翼研究者達を非難するのは、お門違いではないのか?

左翼の攻撃が電力会社に向いている間は、全く放置しておきながら、自分達が攻撃されるのは、絶対に許さない、という事か?

福島で溢れつつある、トリチウム入りの汚染水も、希釈して海に放出するのが、科学的な筋だ。水産物の放射線も全く影響ないレベルに保てる。その事実を、福島の漁民達に、科学者達の口から直接、わかりやすく、粘り強く伝える事が、科学的な筋であろう。しかし、安倍政権は、その努力を意図的にサボタージュしたのだ。

科学的な筋をないがしろにしておきながら、学術会議側には、法律的な筋、公務員の立場としての筋、を押し付けるのは、それこそ「筋が通らない」のではないか?

学術会議の問題を「筋が通る」で判断するのは、安倍政権がやってきた対応から振り返ると、あまりに理不尽すぎる。私は今回は、左翼側の肩を持つ。筋を通すための粘り強い話合いを否定し続けたのは、安倍政権である。学術会議の、共産党を含む左翼主義者達は、遠慮なく、思う限りの主張をぶつけるべきだ。そうでなければ、あなた達は、安倍と菅に、程よく利用されたままでおわるだろう。

しかし、私のこんな真面目な主張は、ネットに拡散される事はまず無いだろう。福島要一が36年間も学術会議員だった、という右翼に刺さる短い文脈だけが、私の名前と一緒に拡散される。それが現実だろう。全く勘弁してもらいたいが。

相田英男 拝