広瀬隆が推薦したシステムも蓋を開けてみたら、この体たらくだったという話

相田英男 投稿日:2019/06/25 12:18

相田です。

ロイターで、GEのガスタービン事情について、シャープな分析をしてくれるアーウィン・スコット記者の記事です。私はGEの報道については、彼の記事とトゥサのコメントを最も信頼しています。

ただし今回も、読んだ後で「う~~ん」と唸るような内容です。

H型ガスタービンというのは、今のHAモデルの先行機です。ジャック・ウェルチ時代にGEの威信を掛けて開発されたマシンです。当時の贅を尽くしたようなハイテク技術をふんだんに取り入れていました。その一つに、高温パーツの「クローズド蒸気冷却システム」というのがあり、高温パーツ内部に張り巡らせた細く曲がった通路内部に、蒸気を発生して循環させて温度下げる、という物でした。

普通の空気を流すよりも、蒸気を使う方が冷却効果が高い、という考えに基づく設計です。ただし、タービンの運転中に、高温ガス中に蒸気が少しでも漏れると、ガスが強烈に冷えて発電効率が落ちるので、蒸気漏れを防ぐシール技術が大変そうでした。また、起動してから蒸気を加熱発生して、タービン内部を循環させるまでの時間がかかるのも、欠点だったようです。

ガスタービンの最大のメリットは、停止からの起動が早いことです。今電気がいるな、というタイミングでバツンとスイッチを入れると、1時間くらいでタービンが起動して電気を作れることが、ポイントです。今の流行りの風力や太陽光発電などの、不安定な電源を使う時に、この高速起動出来るガスタービンの特徴は、非常に助かります。

ところが、H型タービンの場合は、おそらくは、起動してから蒸気冷却システムが安定して、電気を供給するまでに数時間は掛かってしまうのです。これなら、自然エネルギーと組み合わせても、あんまりメリットがないじゃないか、という事みたいです。高いメンテ費用ばかりGEに巻き上げられて。後継機のHAモデルでは、蒸気冷却から普通の空冷式に戻したので、起動が早くなったようですが。

そういえば、以前に広瀬隆大先生が「燃料電池が世界を救う」という御著書で、絶賛されていたのが、このGEのH型ガスタービンでした。それが今となっては、何とも間抜けな世界です。そうとしか言えない。

ちなみに、入念に資料を集めるスコット記者も、今回うっかり失念したようですが、H型タービンを使う発電所は、英国のバグラン・ベイ以外にも存在します。それは、千葉の富津海岸にある東京電力のプラントです。

最近のニュースで、東京電力がGEからHAタービンを3台買うとか買わないとかで、物議を醸していますが、どうも、このニュースに関係しそうな気が、私はします。もしかすると、富津のH型タービンをHA型にリプレースするのかもしれません。でも、本来なら、30年使える筈のマシンを、GEの都合で早めにリプレースする羽目になるなら、あまりに理不尽な話です。東電を問い詰めても、シラを切って、絶対答えないでしょうけど。

(引用始め)

General Electric to scrap California power plant 20 years early
GEはカリフォルニアの発電所を20年も早くスクラップにする

By Alwyn Scott
Reuters June 22, 2019
(Adds detail about GE-owned plants)

NEW YORK, June 21 (Reuters) – General Electric Co said on Friday it plans to demolish a large power plant it owns in California this year after only one-third of its useful life because the plant is no longer economically viable in a state where wind and solar supply a growing share of inexpensive electricity.
ゼネラル・エレクトリック社は金曜日に、カリフォルニアに作った大規模な発電プラントを、風力と太陽光による安価な電力供給がシェアを拡大している状態では、もはや経済的に成立しない事を理由に、耐用年数の3分の1しか経たずに、取り壊す計画を発表した。

The 750-megawatt natural-gas-fired plant, known as the Inland Empire Energy Center, uses two of GE’s H-Class turbines, developed only in the last decade, before the company’s successor gas turbine, the flagship HA model, which uses different technology.
インランド・エンパイア・エネルギーセンターとして知られる、750メガワットの天然ガス焚きプラントは、10年間に開発された、GEの2基のHクラスガスタービンを使用している。H型タービンは、その後継機であり現在は同社のフラッグシップ機となったガスタービンのHAモデルとは、異なる技術を使用している。

The closure illustrates stiff competition in the deregulated energy market as cheap wind and solar supply more electricity, squeezing out fossil fuels. Some utilities say they have no plans to build more fossil plants.
このプラントの閉鎖は、規制が緩和されたエネルギー市場において、安価な風力と太陽光がより多くの電力を供給する事で、化石燃料発電の割合を削り取るような、激しい競争の状況を反映している。複数の発電事業者は、今後は化石燃料の発電プラントを建設する計画はないと述べている。

It also highlights the stumbles of Boston-based GE with its first H-Class turbine. The complex, steam-cooled H design takes hours to start, suffered technical problems and sold poorly, experts said.
この発電所の閉鎖はまた、ボストンを拠点とするGEの、初の(高性能ガスタービンとなる)Hクラスタービンのつまずきを浮き彫りにする。この複雑な蒸気冷却システムを持つ、H型設計のタービンは、起動するのに何時間もかかり、技術的な問題を抱えており、そして殆ど売れていない、と、専門家は語った。

“We have made the decision to shut down operation of the Inland Empire Power Plant, which has been operating below capacity for several years, effective at the end of 2019,” GE told Reuters. The plant “is powered by a legacy gas turbine technology … and is uneconomical to support further.”
GEはロイターに対し、「我々は、数年前から出力を下げて稼働していたインランド・エンパイア発電所の運転を、2019年末には停止する事を決定した」と語った。この発電所は「旧式のガスタービン技術を用いており…これ以上のサポートを続けるのは、経済的ではない」と、述べた。

GE declined to comment on whether it would take a charge for shutting the plant. GE operates few power plants of its own.
GEは、プラントの閉鎖に費用がかかるかどうかについて、コメントを控えた。 GEは、自身では発電所をほとんど運転していない。

In a filing with the California Energy Commission on Thursday, GE said the plant is “not designed for the needs of the evolving California market, which requires fast-start capabilities to satisfy peak demand periods.”
木曜日にカリフォルニア州エネルギー委員会に提出した資料の中で、GEは「この発電所は、ピーク電力の需要時間に対応するための高速起動能力を必要とする、カリフォルニア市場の電力市場の発展のためには設計されていない」と述べた。

GE’s newer HA turbine can power up in under an hour, more quickly than the H to match fluctuating supplies of wind and solar power, GE said. The large market for the H turbine that GE anticipated “did not develop and has resulted in an orphan technology installation at IEEC,” the filing said.
「GEの最新のHAタービンは、風力発電と太陽光発電の電力変動に対応するために、1時間以内で起動することができる」とGEは述べた。「Hタービンのための大規模な市場は、GEが期待したように発展しておらず、結果としてHタービンは国際電気標準会議(?IEECのつもりですが自信ありません by 相田)の規準に従わない、孤立した技術の導入になっている」と、その資料には記されている。

It added that GE will no longer support or make replacement parts for the H turbine. Only one other plant uses H turbines, Baglan Bay in Wales.
その資料には、GEがもはやHタービンのためのサポートをしないか、交換部品を作ることもないであろうであろうと、付け加えられている。 他にHタービンを使用しているのは、ウェールズのバグラン・ベイ発電所(英国)だけである。

California approved the Inland Energy Center, located in Riverside County, about 75 miles (120.7 km) east of Los Angeles, in 2003 and the plant opened in 2009. Industry experts estimated it cost nearly $1 billion. Similar combined-cycle gas-power plants run for 30 years before being decommissioned, according to a recent study by S&P Global Market Intelligence.
カリフォルニア州は、2003年にロサンゼルスから東へ約75マイル(120.7 km)のリバーサイド郡にあるインランドエネルギーセンターを承認し、2009年に開業した。 産業界の専門家の予測では、その開業時には10億ドル近くの費用が掛かったという。S&P Global Market Intelligenceの最近の調査によると、同様のコンバインドサイクル用ガス発電所は、廃止されるまでに30年間は稼働する。

One of the two Inland Empire turbines was mothballed in 2017, cutting the plant’s output to about 376 megawatts, according to the filing and the California Independent System Operator, which oversees the state’s electricity grid. Closing the plant will eliminate about 23 jobs, the filing said. GE has been promoting its “H-Class” turbines amid a severe downturn in demand for fossil-fuel power plants.
GEの資料の記載と、カリフォルニア州の電力網を管理する独立系システム事業者の証言によれば、2つのインランド・エンパイアのタービンのうちの1つは、2017年に運転を停止し、プラントの出力は約376メガワットに削減された、という。工場を閉鎖することで、23人程のの雇用が削減される、とその資料は語っている。 GEは、化石燃料発電所の需要が大幅に低迷する中で、その「Hクラス」タービンの運転を推進している。

The two “H” turbines being demolished in California differ from GE’s current HA, which uses air cooling, said a former GE engineer familiar with both turbine types.
「カリフォルニアで解体されている2つの “H” タービンは、GEが現在推進するHA型とは設計が異なる。HAは空冷方式を採用している」と両方のタイプのタービンに精通している、GEの元エンジニアは語った。

Still, premature closure of a turbine marketed as “H-Class” is a negative for GE as it struggles to restore profits at its power business, the expert noted. Power, once GE’s largest division, lost $22.8 billion last year as the company grapples with slack demand for fossil-fuel plants. The company is set to lose up to $2 billion in cash this year. GE is selling the California power plant site to a company that makes battery storage, which is increasingly used to make wind and solar power available when needed, replacing the need for some fossil fuel plants.
「それでも、 “Hクラス” として販売されているガスタービンの、時期尚早の閉鎖は、電力事業での利益の回復に手間取るGEにとって、ネガティブな事件だ」と、その専門家は述べた。かつてのGE最大の事業部門だったGE-Powerは、化石燃料発電の需要の低迷に苦しんでおり、昨年は228億ドルを失った。同社は今年、最大20億ドルの現金を失うだろう。 GEはカリフォルニアの発電所の敷地を、蓄電池製造会社に売却する手続きを行なっている。これらの蓄電池は、一部の旧式の化石燃料発電所を置き換えるため建設される、風力及び太陽光発電システムに用いるため、需要が増加している。

(Reporting by Alwyn Scott Additional reporting by Scott DiSavino; editing by David Gregorio and Leslie Adler)

(引用終わり)

相田英男 拝