勉強が足りないと危険かどうかもわからない
―相田さん、お久しぶりです。本が出てからしばらく経ちましたけど、元気してます?
(相田)ああ、おかげ様でね。あれで落ち着くかと思ってたけど、いやいやどうして。GEが、まさか、こんなことになるとはな。
ー去年の9月過ぎから、GEの株価が急に下がったのが、ニュースで騒がれ始めました。年が明けてからも、保険の赤字で1兆円計上した、とか、すごかったですよね。ウォーレン・バフェットからも、とうとう見放されたGEですけど、まだまだ苦境は続きそうですよね。
(相田)それもだけれど、眞子さまはこれからどうなっちゃうのかな?紀子さまとの仲も険悪だって、女性自身にも書かれてたよな。まあ、週刊誌情報だけど、相手の男があれだと、母親もやっぱ心配になるわな。いくら見た目が爽やかで、性格が優しくても、生活力が足りなくて金にだらしない男は、大勢いるからな。イケメンだけど、あちこちから借金しまくってる男とかな。眞子さまも人生経験をある程度積んだら、そんな世の男達のダメダメさも、段々わかってくるだろうけど。いかんせん、あの環境だとな・・・
俺は別に二人で駆け落ちして、10年くらい一緒に暮らして、後になってから「やっぱりダメだったわ、お母さん」とか、眞子さまが戻って来てもいいじゃん、とか思う。でも、二人とも思いっきり面が割れてるから、何処に隠れても、オッカケが付いて来て、生活が丸裸にされるされるだろうし。若いのに大変だな、とか心配になるよな。
日本中のオッサン、オバサンの全員が、俺と同じ気持ちなんだろうな。「できるなら皇居まで乗り込んで、眞子さまを直接説得したい」とか、誰しも思うよな。
ーそんなこと話すために、僕を呼んだんですか?
(相田)いや、そうじゃない。申し訳ない。今回は川崎重工の、新幹線組み立てのトラブルのニュースだったな。
ー去年の年末に、JR西日本の車両が運転中に異音がしたので、名古屋駅で止まった事故ですよね。点検したら、何と、台車の部品がバックリ割れていた。最初は鉄道会社の運転対応の不備が責められましたが、実は川崎重工の作り方が問題だったという。川重の社長さんが記者会見で謝ったんですよね。
(相田)俺もよくわからなかったのが、新幹線の台車が割れて壊れたという。ところが鋼材の厚さが、たった7mmのペラペラだって言うんだよな。で、そのペラペラの薄板鋼材を、台車の組み立て中に、川重の作業員が4mmまで削っちゃった。だから割れた、とかニュースに書かれていた。新幹線の台車にそんな薄板を使うなんて、一体どうなってるんだろう?と、疑問だった。今回のニュースで、川重から部品(側バリ、そく梁)の断面図が出てきた。それを見たら、ようやくわかったよ。
台車の部品とはいえ、羊羹(ようかん)の外箱みたいに薄板を曲げて、箱型の形状にしてるんだよな。昔は多分、もっと厚い鉄鋼材を使ってたんだろう。でも今の新幹線では軽量化のために、箱の厚みをギリギリまで薄くしてるんだ。それでも設計を工夫して、外側のフレームだけで十分な強度を出す構造にしている。今回初めて絵を見てわかったよ。ものすごいハイテクの設計だと、感心したよ。でもこのハイテクの構造が、今回の事故に繋がったんだよな。残念なことだけど。
ーあんな薄い板をさらに削ったりしたら、すぐに穴が空くだろうなとは、誰でも普通に思いますからね。また削った場所というのが、よりによって梁(ハリ)の真下の底面ですからね。あの部品で一番荷重が掛かる場所でしょう?よく今までもったと、逆に感心しますよね。
(相田)マスコミでは、川重の安全への認識が足りないとか、専ら書かれている。けど、今回の件では「大変すみません。これからはもっと、安全と信頼性回復に努めます」とか川重に反省させても、全く意味が無いと、俺は思うな。
ーどういうことですか?
(相田)だって、あの構造の部品に、上から大型車両が載っかって、何トンもの荷重を支えるんだぜ。しかも、高速移動体の台車の梁だから、運転中には、振動や繰り返し疲労変形がひたすら加わる訳だ。その梁の厚さは、たったの7mmしかない。現場で組み立てる時にそんな場所を、更に削るなんて選択肢があるか?ましてや、亀裂の起点になり得る可能性が一番高い、梁の下側を削るんだぜ。安全性とか持ち出す以前に、普通はそんな技術的な判断をするか?
俺は機械設計を本格的に勉強した訳じゃない。だから偉そうなことは言えない。だけど、例えば、板材を曲げた時に、曲がった外側には、引っ張りの応力(おうりょく)が掛かって、裏のの内側の表面は逆に、圧縮の応力を受ける。これくらいは、素人の俺でもわかるよ。応力(おうりょく、英語ではstress、ストレス)は、材料の内部で働く力のことで、物体の外から働く外力(がいりょく、英語ではforce、フォース)とは違う、というのは、言うまでもないよな。
その時に、板の外側の一部だけが厚さが極端に薄かったり、亀裂があったりしたら、引っ張りの応力集中(おうりょくしゅうちゅう)が起きて、外側からの亀裂が貫通して、板はあっという間に割れてしまう。これくらいのことは、技術者なら誰でも、理解してるのが当たり前だと、俺は思ってる。
ーまあそうだと、僕も思います。
(相田)そもそも川重の作業員達は、毎日現場に行くとさ、最初にこれから組み立てる台車を現場で見る訳だ。その時に台車を眺めながら、自然に頭の中で考えるもんじゃないのか?「これは、新幹線のボディーを支える土台だ。それで、横に取り付けるこの側バリに、上からものすごい力が掛かるんだよな。新幹線の運転中には、この側バリの中央が上から押されて、下にたわむから、下側には強烈な引っ張り応力が掛かるだろうな」とかさ。
それから「だから、側バリの下側には割れの起点になる傷とかを、出来るだけ付けちゃいけないよな。板の厚さもたったの7mmしかないから、これ以上薄くなったら、絶対にマズイよな」という具合に、連想するんじゃないか?。普通の技術者センスをもった作業者なら、そう思うだろう?
ーあの台車の構造を見ると、梁はそういう機能になってると、普通はわかるでしょうね。
(相田)ところが、ニュースによると、現場で実際に梁を削ったという本人は「削ることで強度が落ちて、割れるなんて全然考えなかった」とか、言っているらしい。本当だとすれば、上の俺が言った一連の発想を、全く思いもしなかった、ということだよな。本人が実際に、何十個も台車を現場で削りながら、だぜ。
現場は別に削った本人一人だけじゃなくて、全員で40人位のチームだったんだろう?でも、周りの他の39人も、そいつを見ながら「あいつ梁の底を削ってるゼ、ああ、何かヤバそう」とか、誰も思わなかった訳だ。まさか、周りに隠れて誰も見えないところで、台車をこっそり削ってたりは、多分しないよな。
ー現場の責任者は、削る量は0.5mmまでにしておくように、言ってたそうですけどね。
(相田)その責任者も、一応最初に言っただけで、実際にどれだけ削ってるかは、後からは確認しなかった。そもそもが、その責任者が削るよう指示するのが大問題だ。けど、どうしても梁の底面を削らないといけないとしよう。それなら、0.5mm以上は絶対に削り過ぎないように、細心の注意を払うべきだ。
あの新幹線の台車と外バリの、構造と機能が正しく頭の中で認識できていれば、技術者ならば普通にそうする。でも、どれだけ削ったかどうか、現場の責任者は全く関心がなかったみたいだ。責任者も問題意識をほとんど持ってない、そのレベルの認識だった、ということだよな。
ーなんか、説明がくどいんですけど。要するに相田さんは、責任者を含めて現場の作業員全員の、技術の理解力が足りない、と言いたいんですか?
(相田)その通りだ。現場では、0.5mm以上は部材削ったらいけない、とかルールがあって、それを紙に書いて壁に貼ってあったともいう。でも「そのルールを守らなかった」ことは、大きな問題じゃない。それ以前の、「プロの技術者としての、ごくごく基本的な技術の常識を、作業員が持っているのか」という方が、はるかに重要だ。
どれだけ危険な事が目の前で起きていても、技術的な判断が間違ったら、それを危険だとは思わないだろう?壁にどデカく、作業ルールが紙で貼ってあってもさ。問題は現場作業員の、技術の基礎知識の不足だ。安全かどうかの認識ではなく、知識そのものが足りないんだ。だから、危険を見抜くことが出来ずに、こうなったんだ。
彼等は全員、会社に入ってからも、材料強度や機械設計の基礎知識について、座学で教育は受けている筈だ。でも習った筈の知識が、現場で全く生かされていない。現実の物や製品を扱う際に、頭の中の知識が使われていないんだよな。
例えば、自動車の運転免許を取って、最後の講習で、事故現場の悲惨な写真とかいっぱいビデオで見せられるよな。そこで安全運転を心がけましょう、とか聞く訳だ。その後で、本人が実際に車を自分で運転してて、すぐに歩いている人間にぶつかって、大ケガさせたとしよう。その時に「車に人がぶつかって、こんなに血が流れるなんて、思いませんでした。免許の講習では、実感が全然湧きませんでした」とか、言い訳するレベルだぜ。今回の川重の不具合は、俺にはそう思える。
ー最後の例えは、なんか変な気もしますけど。でも40人も作業員がいて、誰も危ないと気づかないのは、確かにおかしいですよね?
(相田)頭の中に「これは後から壊れるかもしれない」という認識が無かったら、「危ない」なんて思えないよ。本人達に悪気が全く無いんだから、周りが「安全に気をつけろ」と、散々注意喚起しても、全く意味がない。眞子さまの婚約相手みたいに、本人に悪気が全くないんだから、説得のしようがないよな。
ーそれは‥‥‥ちょっと‥‥‥違う話じゃあないんでしょうか?
(相田)まあ、それはともかくさ、「作り手が理屈をわかってなくても、作業のルールを決めてそれを守らせればいい」とかいうと、「それは違う」と俺は思う。ルールを決めても、その意味が理解できなかったら、「守ろう」なんてモチベーションが、湧くわけがない。ルールの前に理屈と技術がある。その理解と実践が、日頃から出来ているかどうかが、技術者にとって一番大事だ。当たり前のことなんだけどなぁ。
俺は川重全体がこんな素人技術者の集まりだとは、思わない。川重は、幅広いタイプの産業機械を長年作り続けて来た、立派な会社だ。でも、問題の新幹線の台車の現場には、並レベル以上の技術判断が出来る作業員が、誰もいなかったんだろう。名の知れた会社でも、今回みたいなトラブルが、しばしば起こる場合がある。何でかというと、以前に俺も、似たようなトラブルを起こした、とある現場を、見たことがあるからだ。大きな声では言えないがな。
現場の責任もあるけど、事故が起こる事例についての日頃の教育とか、注意喚起が足りなかった、会社の組織そのものに、問題があると俺は思う。
壊れた外バリの部品は、川重が別の会社に外注して作らせたんだ。今回のN700系新幹線の設計は、川重が率先してやるんじゃなくて、JR東海とJR西日本が主催するプロジェクトで、設計が進められたという。この時の台車の部品の設計には、川重はあまり関与してないんじゃないかな。設計側があまり問題意識を持っていなくて、部品の加工を外注に出したように、俺は思う。現場に外注先から外バリが届くと、形が歪んでいたんで、後付けの部品が溶接出来なかった。というのが、問題の始まりみたいだ。自分達のアイデアで設計した部品なら、設計側も問題意識も持ってただろう。だから、外注にももっと厳密に指示を出して、歪んでない部品ができただろうな。
ー世耕経産大臣が川重に対して、「猛省を促した」とか、書かれてましたね。
(相田)でも、経産省の官僚の連中も、偉そうなこと言えないぜ。あいつらの方が、もっと罪深いことしてるじゃないか。
ーと、言いますと?
(相田)3.11福島事故の話さ。11日の夕方に、福島第一原発の対応で官邸に呼ばれた、原子力安全・保安院の寺坂信昭(てらさかのぶあき)院長は、首相の菅直人にこっぴどく怒られれた。寺坂はそれ以来、官邸に出てこなくなった。あの時、原子力安全・保安院こそが政府の先頭に立って、原発事故の収集にあたる決まりだった。ところが、その組織の最高責任者が、最初に居なくなったんだ。寺坂は東大経済学部出身だから、「原発のことは何にもわかりません」て、逃げちゃった。一体何なんだ、これは?
ついでに当時、福島第一原発に常駐していた保安院のメンバーが数名いた。彼らが東電と連携して、現地の状況を官邸に送るルールだった。そしたら、その保安院の常駐者達は、真っ先に福島から逃げちゃった。だから現地の情報は、東電ルートからしか官邸に入らなくなって、対応がおくれた。そして、水素爆発しちゃったんだよな。保安院は経産省の下部組織で、原発事故の対応のために作られた最高組織の筈だった。そのトップと現地の派遣員の全員が、いきなり最初に居なくなるんだもんな。お前らこそ「猛省を促したい」、だぜ。俺からすれば。
ーでも、「あの事故の対応の責任は、菅直人と民主党にある」とか、世耕は言うでしょうね。
(相田)いいや、最初に保安院をあの組織として作った時は、自民党政権だった。だから、世耕も責任から逃げられないね。流石に文系キャリア官僚の天下り先には、保安院長のポストは無理があった。たいがいにしろよ、あいつらも。いざという時の覚悟が足りないぜ、全く。
ーとりあえず、こんなとこですか。ところで、副島先生から頼まれた、西村肇先生の物理の本の感想文は、一体どうなってるんでしょう?
(相田)あれか‥‥‥いや、俺が西村先生の本を書評するのも、あまりにおこがましすぎるだろう?だから、「大学時代にどうやって俺は、物理の勉強に挫折したのか」という内容にしたんだ。昔買った解析力学の参考書とかを、本棚の奥から引っ張り出して、読み返してるけど、難儀してるんだよな。
ーでも、途中の原稿読みましたけど、かなりおちゃらけた内容だったじゃないですか。シュレディンガーは、波動方程式の解き方がどうしても分からなかった。だから不倫相手の女性の旦那に頼んで、解き方を教えてもらった、とか書いてありましたけど。
(相田)そんな話ばかりじゃ、無いんだってば。
相田英男 拝