中国で建設中のアレバ製原子炉には欠陥部品が使われている。それでも彼らは交換せずに稼働させるだろう。あとは野となれ・・・である。

相田英男 投稿日:2016/05/27 23:25

相田英男です。
今日は2016年5月17日です。
オバマが広島に来た日です。

 フランスの有名な原子力メーカーにアレバという会社がある。先日、中田さんのブログの中で、アレバが開発したEPRという新型原発に関する話が書かれていました。

http://blog.livedoor.jp/bilderberg54/archives/48029153.html 

 EPRについては正直なところ、私はこれまでノーマークであったので、なんであんなに建設に手間取るのだろうと不思議に思っていました。今回、中田さんのブログをきっかけに、自分でいくつかの資料をネットで探してながめてみたところ、見えてきたEPRの実情は、予想を超えたダメダメさでした。

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題目:ヨーロッパ新型軽水炉(EPR)は何故ダメ原発になったのか

相田英男

1.EPRの特徴
 EPR (Europrean Pressure Reactor) とは、フランスとドイツが共同開発した新型の加圧水型軽水炉である。EPRの最大の特徴は、福島原発のように電源が破壊されてしまっても、炉心熔融に至らず、自然に燃料の冷却を続けることができるという「受動的安全性」を備えている(と言われる)ことだ。この受動的安全性を持つ軽水炉のことを「第三世代プラス炉」と呼ぶ。現在運転中の軽水炉のほとんどは第二世代型原発にあたる。順に説明すると、第一世代炉とは第二次大戦後にソビエト、英国で作られた炉と、シッピングポート(PWR)、ドレスデン(BWR)の二つの軽水炉のことで、最初期に作られ始めた発電用原子炉である。これらを量産化出来るように改良して普及した炉型が第二世代にあたる。

 その次世代にあたる第三世代の軽水炉で、実際に建設されたものは世界でも4機しかない。それは、日本の柏崎、浜岡、島根にある、改良型沸騰水型原発(Advanced Boiling Water Reactor, ABWR)である(いずれも現在は停止中)。PWR型原発の第三世代炉は、なんだかんだで実は未だに稼働していない。この日本のABWRの4機は、第二世代よりも安全性が高いといわれるが、受動的安全性は持っていない。福島のように全電源喪失が起これば、ABWRはやはり炉心溶融する(そうならないように、電源のバックアップが整備されているが)。全電源喪失が起きても炉心溶融しない(はずの)軽水炉が、アレバのEPRと、ウェスティングハウスのAP1000であるが、共に建設中で運転実績はまだ無い。

 EPR については、10年位前に学問道場でも話題になったことがある。ヨーロッパに留学されたある研究者の方から、日本の軽水炉よりも安全性、経済性が格段に優れた原子炉が欧州で作られて、既に建設が始まっている、日本の原発技術は時代遅れになるだろう、という紹介記事が、何度か書かれていたからだ。私はその時初めてEPRについて知ることとなり、そんなすごい炉が作られたら、確かに日本は追いつけないだろうな、と思った。ところが、先の中田さんの記事によると、ヨーロッパが自信を持って送り出したはずの、EPRの調子が実はさっぱりであるらしい。

2.EPR問題の概略
 数あるEPRの問題の中でも特に深刻なのは、圧力容器という部材の欠陥であるという。PWR軽水炉の炉心は稼働中に157気圧の高い圧力にさらされるが(BWRでは半分以下の70気圧)、この高い圧力を封じ込める部材が圧力容器である。圧力容器は軽水炉の中核となる最重要部材であり、厚みが20cmかそれ以上の分厚い鋼材で作られている(原子力百科事典ATOMICAより)。ここに欠陥があるとすれば尋常な話ではない。私がEPRの圧力容器問題についてネットで調べたら、日本の原子力規制委員会がまとめた資料を見つけた。絵付きの大変わかりやすい内容で、概要をほぼつかむ事ができる。この資料を参考にして、EPRのどこがダメなのかを、一般の方にわかりやすく解説しようと思う。

http://www.nsr.go.jp/data/000130929.pdf
フラマンビル3号機(EPR)におけるRV材料(上蓋、下鏡等)の鋼材組成に関する問題
(以下は資料①とする)

 一部の説明では、アレバによる圧力容器の設計不良とされているが、この資料①を見たところでは、設計が悪いわけではなくて作り方に問題があるようである。

 資料①スライド4の絵からわかるように、軽水炉の圧力容器は長い円筒の上下に、球体を2分割したドーム形状のパーツ(上蓋、下鏡)を取り付けて作られている。問題はこの上下のドーム状の部材に、通常より強度の弱い箇所が存在していることだ。この部材は初号機のオルキルオト3号(フィンランド)を除く、建設中のEPR全てのプラント〔フラマンビル(仏)、台山1,2号(タイシャン、中国)〕で採用され、下部の部材(下鏡)は圧力容器と一緒に既に現地で設置されてしまっているらしい。上蓋はなんとかなるが問題は下鏡で、こちらを交換するには圧力容器全体をもう一度吊り上げて外すことになり、とんでもない手間と費用がかさむことになる。現実的にはアレバ単独で下鏡を交換するのは不可能だと思う。

 何でこんな事になったのかの理由も資料①に描かれている。ドーム部材の作り方は、資料①スライド4と7によると、大きな溶解炉(鉄を溶かす御釜)を使って鉄材を溶かして、円柱形状の鋼塊(こうかい)をまず作る。この鋼塊を薄くロールで圧延し、最後に型で押し潰してドーム形状に仕上げるのだという。溶解後の鋼塊の上下の部分にはスラグと呼ばれる細かいゴミや不純物が集まっているので、圧延の前にこの上下の使えない部分を切り飛ばす事になる。ところがアレバは上部分の切り飛ばしが甘く、鋼塊上部に使えない部分が残ったままで圧延にかけてしまった。その結果、絵に描かれているようにドームに成形した後で、てっぺん部分にちょうど質の悪い部材が残ってしまったという。

 何ともお粗末な話であるが、資料①の最後のスライド12には、このトラブルの防止方法もきちんと書かれている。その方法とは、単に、鋼塊をもっと大きな御釜で溶かすことだという。日本でこの部材を作る際にはスライド7のように250トン溶解炉を使うところが、アレバの溶解炉は157トンと容量が小さかった。鋼塊を大型にすることで、上下の不具合部分をたくさん切り飛ばしてやれば、質の良い部分だけで圧延が出来るでしょう、という事だ。言われなくてもわかるよ、そんな事は、てなものである。

3.日本製鋼所(JSW)が有する、恐るべき鍛造(たんぞう)技術
 実は圧力容器を作るには、今回問題となった上下のドーム型よりも、間の円筒部分の方が難易度は数段高い。しかしEPRでは、この難しいはずの円筒部分では問題はなかったらしい。何でドームよりも円筒の方が作るのが難しいのか?円筒を作るには、板材を圧延した後で筒状にグルンと巻いて、突き合わせの部分を縦方向に直線状に溶接すれば、簡単に作れると思うであろう。初期の軽水炉ではこの方法で圧力容器は作られていた。私が論考で取り上げた原研のJPDR(動力試験炉、今は解体されて存在しない)の圧力容器も、この方法で作られていた(技術評論家の桜井淳(さくらいきよし)氏の著書「日本原子力ムラ行状記」による)。

 しかし近年の軽水炉は違う。最近の原子炉圧力容器では、円筒の縦方向に溶接をしてはいけない。原子炉を稼働する際には、圧力容器の円筒の周方向に引っ張り力が加わるため、縦方向に溶接線があると、割れる恐れがあるとASME(アスメ、アメリカ機械学会のこと)により縦方向溶接線を無くすように推奨されているのである。現在、圧力容器の筒の部分は、溶接無しの丈の短い筒を縦に数段重ねて、円周方向にグルンと溶接して作られているのである。

 継ぎ目のない円筒の作り方は、陶芸の手まわしロクロを思い浮かべればよい。鋼塊の中心に穴を開けてくり抜き、分厚いドーナッツにする。その後に高温に加熱して、回転させながら鍛造(たんぞう、高温の金属をプレス機で変形させる技術)を行い、外径を徐々に拡げてゆくのである。言うのはたやすいが、100トンを超える馬鹿でかい真っ赤に焼けた鋼塊を、大型機材を駆使して加工するのは、至難の技である。

 EPRでこの加工が難しい筒の部分にどうして問題が無いのかというと、作ったのがヨーロッパでなく、我が日本の日本製鋼所(JSW)の室蘭工場だからである。日本製鋼所は100トン以上の大型鋼塊の鍛造技術に関して、世界トップの技術力を持つ日本の誇るべきメーカーの一つだ。

http://www.meti.go.jp/committee/sougouenergy/denkijigyou/jishutekianzensei/003_haifu.html
資料4 (株)日本製鋼所における「技術・技能の伝承」と「人材の育成」 
(以下は資料②とする)

 上の資料②のスライド5の中に、JSW室蘭工場で原子炉圧力容器を作る際の方法と、実際の写真が記載されている。見ただけでおよそのやり方はわかると思う。スライド5の図面に載せてあるプレス設備は、最大荷重1万トン以上の超大型の装置である。その大型プレス機の外側に巨大なリングを置いて、厚みを少しずつ減らすのだ。写真の中の人間から鋼塊リングのサイズが把握出来る。なんとも恐るべきアクロバティックなやり方で、圧力容器のシームレスリングは作られているのだ。同じものを中国でも作ろうとしたものの、ことごとく失敗したという。そりゃそうだろう。

 JSWは明治の創業以来、日本最北の室蘭で鍛造技術を黙々と磨いて来た。戦艦大和の大砲もここで鍛造されたという。JSWはざっくりいうと三井系列の兵器産業部門の中核企業である。三菱重工と並ぶ日本の国家の屋台骨を支える重要企業の一つだ。左翼連中からは兵器産業会社とか、軍産複合体の一員だとか、原発会社とか、さんざん批判されるだろうが、このような高い技術力を持つ企業が地道に活動することで、社会の安定が図れるのも疑いようのない事実だ。

4. 圧力容器は何故割れる?
 EPRの圧力容器の作り方が悪いとして、いったい何が問題なのかを簡単に述べる。圧力容器の材料は鉄なのだが、もう少し詳しくいうと低合金フェライト鋼というもので、鉄の 中に1%ちょっとくらい他の元素を加えた合金である。水道管などに使われる安価な炭素鋼(鉄と炭素の単純合金)よりも、ニッケル(Ni)、モリブデン(Mo)、マンガン(Mn)などの特殊元素を加えて、強度を増している。資料①のスライド8に合金の成分表がある。

 EPRの圧力容器で何が問題なのかというと、運転中にバキンと割れる可能性があるかもしれない、と心配されている。金属を構造材料として使うメリットは、力を加えるとグニャリと曲がるからだ。手持ちの針金やスプーン等を探して、手で力を加えると曲がるのだが簡単には折れない(昔は関口少年のスプーン曲げとか、テレビで話題になった。わかるのはジイさん連中だけだろうが・・・・)。一方で、力を無理に掛けると、曲がらずに割れてしまうセラミックスのような材料は、構造材料としては危なくて使えない。金属に力を加えた時にグニャリと曲がる現象を、冶金学(やきんがく)では塑性変形(そせいへんけい、plastic deformation)と呼ぶ。構造材料として重要な性質は、強度が強いだけではなく、塑性変形が可能であることである。だから鉄のような金属材料が重宝されるのだ。

 鉄鋼材料は金属の中で構造材料に最も広く使われている。しかし鉄鋼材料にはある問題があって、温度が低くなると塑性変形が出来なくなり割れてしまうのである。鉄は温度が下がるとセラミックのように 、恐ろしくもバキンと割れるのだ。なんで温度が下がると鉄が割れるのか、それは鉄の塑性変形の主体となる「らせん転位(てんい)」(screw dislocation、金属の結晶の中に存在する原子1個分の線状のズレのこと)という格子欠陥(こうしけっかん、lattice defects、金属結晶中の原子の規則配置のズレの総称)の一種の動きが、温度が下がるに伴って急激に難しくなるためである。らせん転位が動きにくくなると、力を加えても鉄が変形出来なくなり、曲がるより先に割れてしまうのである。なんで、らせん転位が低温で動きにくくなるのかというと、パイエルス力という結晶周期に対応する力が転位に作用して、その大きさが低温になると・・・・・・、となる前に話をやめる。

 これがフェライト系鉄鋼材料(体心立方結晶(BCC構造)を持つ鉄合金のこと、BCC結晶についてはWikipediaとかを見てください)で生じる「低温脆性(ていおんぜいせい)」のメカニズムである。広瀬隆(ひろせたかし)よ、あんたは私が上で書いた内容を正確には理解出来ないだろう。広瀬は「原子炉時限爆弾」という本の中で、原子炉メーカーの技術者は金属材料について 全くわかっていないと、無責任にもほざいていた。私は原子力には関係無い会社にいるのだが、これくらいの金属の基礎知識は、企業研究者ならば誰でも持っている常識なのだ。いらぬ心配を拡めて世間の不安を煽るな、アホ。

 ちなみに、鉄にクロム(Cr)という元素を13%以上加えた合金をステンレス鋼と呼ぶ。クロムの作用により、鉄の表面に不動態皮膜(ふどうたいひまく)という薄い皮膜が出来て、サビにくくなるのだ。さらに鉄にクロムを18%、ニッケルを8%加えると、結晶構造が 面心立方構造(FCC構造、Wikipediaとか参照のこと)に変化して、低温でもらせん転位が動きやすくなるため、低温脆性が原理上起きなくなる。この材料がオーステナイト系ステンレス鋼と呼ばれるもので、サビにくくて低温でも割れないという、優れものの材料である。一般に18-8ステンレスと呼ばれる材料がこれである。

 こんないい材料が出来てバンザイと、最初は皆喜んでいたのだが、世の中はそんなに甘くはなく、オーステナイト系ステンレス鋼もやはり割れてしまう場合があったのだ。これが「応力腐食割れ」(おうりょくふしょくわれ、stress corrosion cracking, SCC)と呼ばれる現象である。応力腐食割れはBWR型軽水炉の部材で多発し、関係者を大いに悩ませることとなる。私の原子力の論考の第5章で触れると思う。

5. 初めからヤバイと思っていたアレバ
 話がそれたが、鉄が低温で割れるとはいえ、通常の材料で割れるのは、零下何度の低温での話である。軽水炉の圧力容器が零度以下に冷やされるのは、ほとんどあり得ないことなので、原子炉で鉄を使うことには全く問題はない。しかし、鉄の成分が資料①のスライド8の表の値から外れて、不純物などが多数混入してしまった場合は、室温(20℃くらい)か、場合によっては100℃を超える高温でも、割れが生じてしまう場合がある。EPRの圧力容器では、これが起きる可能性が高いことが確認されている。

 上の説明のように、鉄鋼材料はある温度以下に冷えると急激に割れやすくなるのだが、この温度を延性-脆性遷移温度(えんせいぜいせいせんいおんど、ductile brittle transition temparature, DBTT と略す)とよぶ。DBTTより高い温度では鉄は割れずに、DBTTより低温になると割れやすくなるということだ。

 DBTTを評価する方法が、資料①にも記載されているシャルピー衝撃試験と呼ばれるもので、角棒形状の鉄の試験片を横に置き、その中心を振り子の先に付けたハンマーで叩き割るという、ユニークな実験である。試験片は振り子の最下部に置かれ、試験片を叩き割ったハンマーが、その後にどれ位の高さまで上がるかにより、鉄の割れやすさを判断する。割れやすい(変形しにくい)材料では、ハンマーが当たった瞬間に破断するため、その後にハンマーは高い位置まで上昇して最後に落下する。一方で変形し易い材料では、割れる前に試験片が変形してハンマーのエネルギーを吸収するため、ハンマーは低い位置までしか上がらない。試験片を叩き割ったハンマーの動きで、鉄が割れやすい(脆性)、または、割れにくい(延性)かどうかの、判断が出来るのだ。

 資料①のスライド2によると、ASN(フランス原子力局、日本の原子力規制庁に相当する組織)からの要求に従って、アレバが 米国製EPRに使用する予定の上蓋から試験片を採取して、シャルピー衝撃試験を行った。その結果がASNが定めた安全規格値を満たさなかったことが、問題が大きくなったきっかけらしい。面白いのは資料①スライド2の説明で、

―引用始め―

AREVAは上蓋・下鏡を新しい方法て製造することとした。2008年以降、ASNとAREVA間て設計が妥当であることの評価方法を協議。合意を得ず、AREVAは製造開始。

―引用終わり―

という記載があることだ。ASNとアレバの間で、新しい作り方について協議をしたものの、物別れとなり、ASNが疑惑の目を向ける中で、アレバは勝手に圧力容器を作り始めてしまった。そして、容器を実機に組み込んでしまった後で、衝撃試験の結果が基準に満たないことがわかったのだ。アレバのやり方はある意味、確信犯的なやっつけ仕事であり、安請け合いして仕事をミスする三流メーカーによくあるパターンだと思う。

 さて、上の引用で「新しい方法」と書かれているならば、「古い方法」もある筈である。古い作り方とは一体どのようなものなのか?おそらく誰もが察しがつくであろうが、フラマンビルの前に造り始めたEPR初号機であるオルキルオト3号機の、上蓋・下鏡の製造元はJSW(日本製鋼所)だったのだ。JSW室蘭の250トン溶解炉により最初の上下の蓋は作られたが、EPR2号機以降になるとアレバはJSWでの製造を止めて、フランスの子会社で内作させることとしたのだ。しかし、アレバの「新しい方法」がJSW等のそれまでのセオリーから離れた作り方だったため、ASNが疑問を呈した。そしてASNの危惧に全く沿う形で、実機に欠陥が見つかってしまったのだ。

 次の資料のスライド12の中に、JSWが作ったERP用の圧力容器、蒸気発生器の部材の一覧が記載されているので、確認して頂きたい。

http://www.aec.go.jp/jicst/NC/senmon/kenkyuukaihatu/siryo/kenkyuu08/ka-si08.htm
資料第1号 室蘭製作所における原子力発電機器用鍛鋼品の取組み
(以下は資料③とする)

 資料③のEPRに関する表において、上下の蓋はそれぞれ①(Closure Head)、⑦(Bottom Head)に該当している。オルキルオト3号機の①⑦にはF(おそらくFinish、製造完了のことか)マークが記載されており、JSWが作ったことが確認されるが、それ以降のフラマンビルと中国の台山1の原発では、①⑦にFマークの記載は無く、JSWは上下蓋を作っていないことがわかる。そして、フラマンビル、台山は既に圧力容器の据え付けを完了して、建設工事は終盤に差し掛かっているのである。もはや、あちゃー、としか言えない状況である。(台山2号機も圧力容器は既に設置済みで、上下蓋①⑦は多分アレバ製である。米国EPRの圧力容器はまだ現地設置されていない)

6.世界最新鋭の原発は張子の虎だった
 今回の事例から見えて来たのは、ヨーロッパでの物づくり技術力の著しい低下だ。日本で鍛造を行う場合は、JSWの技術が基準となることから、アレバのような失敗は(現状では)まずあり得ない。10年くらい前の原子力業界御用達の業界紙である「電気新聞」の記事で、EPRの建設工事を見学した技術者のコメントを読んだ記憶がある。それには、「日本の原発の建設現場に比べて、EPRではかなり時代遅れな方法が多く使われていた」、とあったと記憶している。EPRの特徴としては、旅客機が衝突しても壊れない、とか、いかなるトラブルが起きても安全性を確保できる、等の先進性が広くアピールされていた。おそらくは設計段階では、そのような性能が盛り込まれていたのだろうが、その先進性を実機の建設に反映できなかったのだ。

 EPRの概念設計はおそらく80年代から始められていたと思う。その時点では、欧州でも第2世代軽水炉の建設を経験したベテラン技術者達が多数存在し、先進的な設計を取り込んだとしても十分に実現性があると、関係者達は見込んでいたのだろう。しかし、時が経つにつれてベテラン技術者達は少しずつ現場から離れて行き、「現実の物づくりの困難さ」の認識が、開発担当者達の中で徐々に薄れてしまったのではないのだろうか。

 上の資料③スライド12によると、初号機のオルキルオト3号の圧力容器、蒸気発生器は全て、JSWで作られている。流石にアレバも、最初の1発目は信頼できるメーカーに全てを任せたのだが、2号機以降では少しずつ内作に切り替えた様子が伺える。アレバがJSWから内作に変えたのは、納期の短縮とコストダウンの必要に迫られたからだと思う。「主要機器がまともだった」オルキルオトの建設が10年以上遅れて、違約金や追加工事の予算がアレバの経営を圧迫するようになった。続くフィラマンビル、台山では、そのダメージを少しでも取り返すために、圧力容器の一部を内作に切り替えたのが、結局は仇になった、ということだ。

 この圧力容器のトラブルはアレバとEPRの致命傷といえる。EPRは張子の虎だったのだ。

 高性能のマシンを提案することは立派なのだが、商業設備ならば安く作って利益を上げることも大切だ。高性能の機械を安く作るには裏付けとなる高い技術力が必要なのだが、アレバの、圧力容器という最重要機器を作る際の技術判断をみると、あまりにもお粗末としかいえない。最近の風潮で、プレゼンテーションなどのバーチャル技術は素晴らしいのだが、現実の物作り技術が遂にバーチャルに追い付かなくなったのだろう。I to T〔Internet of Things(モノのインターネット化)〕等といった、美辞麗句で誤魔化しても、日々の地道な継続と積み重ねがなければ、現実の物はつくれないことの証明である。技術力が衰えつつある日本も他人事ではない。

7.台山(タイシャン)原発は一体どうなる?
 他人事でない話はもうひとつあり、それは中国の台山に造られてしまったEPRだ。こちらの2基の圧力容器には、アレバが「内作」した部材が既に設置されてしまっている。彼らはこいつを、これからどうするつもりなのか?私の予想では、新規部材への交換はせず、このまま稼働させると思う。フラマンビルの方はASNが待ったをかけても、台山の稼働の判断はアレバと中国政府の取決めで決められる。おそらく手間と金のかかる交換等せずに、このまま運転するだろう。

 資料の①によるとアレバはASNに、欠陥があったとしても圧力容器が脆性破壊する(バキンと割れる)ことはない、とコメントしているらしい。一見開き直りにも思えるアレバの主張であるが、これには実は一理あり、現在稼働中のアメリカの軽水炉の中には、圧力容器の劣化が進みDBTTが100℃を超えるプラントが現れている。しかしASME(アメリカ機械学会)は、圧力容器が破壊に至るには材料の脆化以外にも、相当に厳しい条件が加わる必要があるため、これらの原発でも脆化の状況を継続監視しながら運転を行うことに支障はないと、判断しているという(桜井淳「日本原子力ムラ行状記」による)。

 日本でも九州にある玄海1号機等の旧式の原発では、DBTTが100℃を超えて上昇しており、緊急炉心冷却装置(ECCS)が作動して炉心が水で急激に冷やされた場合に、大きな熱応力(大きな温度差により圧力容器内部に働く力のこと)が加わり、圧力容器が割れて大惨事になるという警告を、東大金属工学科の教授だった井野博満(いのひろみつ)氏が行っている。しかし元東大教授の井野氏といえども、権威のあるASMEの判断を覆すのは難しいと思う。(結局のところ、玄海1号炉は2015年12月に廃炉が決定された)

 私の論考の第5章のネタばらしになるが、井野氏は武谷三男(たけたにみつお)の愛弟子の一人である技術評論家の星野芳郎(ほしのよしろう)が組織した、現代技術史研究会というグループのメンバーである。実は西村肇(にしむらはじめ)先生も、この研究会のメンバーである。一方で先に触れた技術評論家の桜井淳氏は、原研等で原子力実験に携わりながらも、星野芳郎に弟子入りして評論家としての指導を受けており、星野の正当な後継者を自認している。しかしその桜井氏は、井野氏を始めとする現代技術史研究会のメンバーの主張を、正当な技術論から離れた左翼政治運動の一環であると、厳しく批判しているところが面白い。ちなみに元は原発容認派だった桜井氏は、福島事故をきっかけに軽水炉の即時廃止を主張するようになった。

 話は戻るが、アレバの言うように、台山原発の圧力容器の一部が脆化していたとしても、すぐには破壊することは無いのだろう。しかしEPRは全くの新設計の原発であり、未だ運転実績はない。EPRは、他の第2世代原発のような枯れた技術による機械ではないため、「想定外」のトラブルが起きないとは言えない。仮に圧力容器が破損しても、EPRでは「受動的安全性」による多重防護装置が機能するため、他の原発よりも安全だとアレバと中国が言い張るのなら、何をかいわんやであるが・・・・

 このような状況に至ったならば、日本も台山原発が少しでも安全に稼働するように、積極的にコミットするべきだと思う。南シナ海に面した台山が事故ったならば、日本への影響も避けられまい。アレバから圧力容器の図面を入手して、独自に強度解析を行って検証するなど、先方に要求しても良いのではないのか?資料①などでは、日本の原子力規制委員会も調査は進めているようだが、静観するだけでは済まなくなるだろう。

 副島先生の新刊ではないが、今後中国が世界覇権国として台頭するならば、原発大国として米欧日に取って替わるのも、避けられない必然だ。左翼が主張するように日本の原発を全てシャットダウンしても、共産党が支配する中国、そしてロシアでの新規な原発建設を止めることは出来ないだろう。この事実を冷静に受け止めて対応する姿勢が、今の日本の識者達にあるとは言えまい。

相田英男 拝