下町ロケット(第2部)

相田英男 投稿日:2019/01/08 20:36

相田英男です。

年始に最終話が放送されたこのドラマには、私も観入ってしまいました。架空の話なので、細かいところに無理も多い内容ですが、私は素直にいい話と思いました。

一方で、ネットには次のような意見もあります。一部を引用します。

(引用始め)

佃製作所はやっぱりブラック企業」と感じてしまう、3つの理由

1/8(火) 8:15配信
ITmedia ビジネスオンライン

 先週、ドラマ「下町ロケット」(TBSテレビ)の新春特別編が放映され14.0%という高視聴率を叩き出した。
(中略)

 このドラマは、ロケット技術者から町工場の社長となった主人公・佃航平と、彼が率いる「佃製作所」の社員たちが高い技術力を武器に、さまざまな困難に立ち向かって夢をつかむというストーリー。「ものづくり」に情熱を注ぐ技術者たちが織りなす感動ドラマに、お正月から胸が熱くなったという方も多かったのではないか。
(中略)

 ただ、これから日本の労働現場であらためなくてはいけない「悪しき労働文化」が、このドラマで肯定的に描かれているどころか、現実にはあり得ないほど美化されてしまっているのは紛れもない事実だ。

 高校野球、大学スポーツ、アマチュアスポーツ団体などで体罰・パワハラ上等というゴリゴリの体育会カルチャーが根付くこの国で、常軌を逸した体罰や“しごき”を美化するスポ根アニメ・ドラマが公共電波でじゃんじゃん流されていたことを踏まえれば、「下町ロケット」が労働現場に与える影響を見くびってはいけない、と申し上げたいのである。
(中略)

 「働く」ということは、「夢をかなえるため」「自分が成長するため」と経営者から叩き込まれた社員は、自らすすんで時間外労働やサービス残業に身を投じ、低賃金や低待遇であっても不平不満を口にしない。採用ページなどで「夢」「自己実現」「成長」といううたい文句を掲げるブラック企業が多いのはそのためだ。
(中略)

 タイトルにもなっているロケットや、今回の無人トラクターなどは実はすべて社長である佃航平の「夢」だったが、彼の熱意にほだされるうち、気が付けば全社員がその「夢」を追いかけている。ブラック企業における「やりがい搾取」の典型的なパターンだ。

 だから、社員たちは自らすすんで残業をする。佃航平に「もう帰れ」と言われても自主的に遅くまで働いている。それどころか、業務外の労働まで喜んでやってしまう。

 ドラマをご覧になった方はよく分かると思うが、佃製作所の社員たちは、佃社長の思い付きで、他社の訴訟のために調査や、農作業など時間外労働にも駆り出されている。あれに賃金が支払われているか否かは不明だが、もし払われていないのなら完全に「やりがい搾取」である。
(中略)

 もし佃製作所のような従業員200人規模の社長が、自分の「夢」を社員に押し付けて、それを理由に、長時間労働や、業務と関係のない仕事をやらせていたら――。間違いなく社員たちから不満が噴出し、「洗脳系ブラック企業」として大炎上してしまうだろう。

 いくら家族的な雰囲気の中小企業といえど、宗教団体ではないのだ。

(引用終わり)

相田です。放送された話の流れを単に追っていくと、上の通りです。が、技術屋としての私の感想は少し違います。

前回のシリーズでありましたが、主役の佃社長という人は、天下の帝国重工に先んじて、高性能のバルブシステムを自ら考案して、特許を取ってしまいます。一流大企業が数十人のプロジェクトで開発した技術を、粗末な環境の中でも、たったの数人で先に開発し終わる設定です。少なくとも10年くらいは、他社よりも進んだ発想を持っていると予想します。会社の社長の前に、技術者として超一流の腕とアイデアを持つ人物です。

佃社長くらいの能力があれば、彼が書く図面や技術レポートを読むことで、「凄い」と感動して、近くで技術を学びたいという若者が、自然に集まって来るでしょう。優れた技術には、他の技術者を感動させる力があります。私が若い時に、自分よりも何段階もレベルの高い能力を持つ技術者を見かけた時には、素直に感動した記憶があります。話の内容や、彼の書いた論文の記述が、非常に趣き深く、美しいのです。

その人の存在を知った時には、「自分も努力したら、ああなれるかもしれない」と、寝る間を惜しんで実験したり、テキストを読んだりした記憶があります。ほんの数年間でしたが、技術者としてのレベルアップのきっかけになりました。

一流の能力を持ってはいるけど、報われない。そんな技術者の周りに、腕に自信のある若手が自然に集まって出来たのが、佃製作所だと思います。

佃社長は熱く理想を語って若手を洗脳するのではなく、本当は、黙って技術を見せるだけで導いているのだと、私には思えます。ただし、それだとドラマにならないので、テレビではわかりやすく、熱く語っているのです。

佃社長の本当の姿は、アイン・ランドの「水源」の主役の、ハワード・ロークのような人だと、私は思います。不遇ではあるけれど、一流の技術力を持っていて、語らずとも見る人が見れば実力が分かる。私がテレビを見る時には、頭の中で勝手にキャラ変してたので、あまり違和感はなかったです。

周りの若手も、優れた技術を学ぶために側にいるだけで、いつまでもブラックに甘んずる訳ではなく、いずれは独立するつもりでしょう。でも、技術屋でない人は、あれは浪花節で洗脳されてると、そのまま受け止めてしまうでしょうね。

ただ私は、自殺してしまった電通の女の子のように、自らが望まずに激務に晒される事を良しとは思いません。相手の実力が自分を遥かに上回る事が、冷静に考えて判断できた時に、謙虚に学ぶ姿勢を持つことが大切だと思います。

相田英男 拝