ニュースタイトルだけで内容がわかるよ

相田英男 投稿日:2022/12/17 12:43

相田です。

核融合の話である。アメリカのローレンス・リバモア研究所に、国立点火施設「NIF」という実験設備がある。米エネルギー省によると、この設備を使って、核融合の実験で「歴史に残る成果」が達成されたという。アメリカ政府の公式発表のため、それなりのニュースが流されている。

以下の引用は、それを受けた、とあるジャーナリストのコメントである。一般の方々の素朴な感想だろう。私ごとき一技術屋では名前しか知らない研究機関を、数多く訪問して取材されている。それでも、核融合についての認識は、以下のような程度か、こんなものなのだろうな。

あちらこちらで書かれているように、「核融合と核分裂(原子力)とは違う」と思われているらしい。しかし、核融合と原発の核分裂は、同じである。私は断言する。核融合も核分裂も、エネルギーの根本は、物質の質量そのものである。質量を熱エネルギーに変換する事で、高熱を発生させるのだ。その高熱でお湯を沸かして、蒸気タービンを回して、発電するのだ。

エネルギーの根本は物質の質量である。質量自体がエネルギーの源だ。我々の身体も質量を持つ、超巨大なエネルギーの塊である。だから普段の生活で、危なくてしょうがない、などと、心配する必要はないのだが。

エネルギー源の根本は同じだ。違うのは、エネルギーを取り出すプロセスである。核分裂は、ウランなどの重たい原子核をぶち破る事で、質量をエネルギーに換える。対して核融合は、水素などの軽い原子核を溶かしてくっ付ける事で、エネルギーにする。これだけの違いだ。

なので、「核融合は核分裂と異なる仕組みなので、安全な発電方式だ」という説明は、全くのプロパガンダである。核融合炉の危険さは、原発(軽水炉)以上である。

以下の文章にあるようにNIFというのは、192本の巨大レーザー装置を使って、燃料ペレットに高熱を集中させる仕組みである。超強力なレーザーを200機も使って実験するのだ。こんなものが、平和利用のための、クリーンな発電設備である筈が無いだろう。少し頭で考えたら、普通の人でもわかるだろう。

こんな発表は、アメリカの軍産複合体の、めくらましの、公式プロパガンダでしかない。抜け抜けと、よく言えたものだ、と、呆れざるを得ない。核融合炉こそが「ウソ技術」の筆頭である。

(引用始め)

夢の核融合エネルギー
2022.12.17

「地上で太陽を作り出す」

簡単には言葉の意味が理解できないが、米国の国立点火施設「NIF」があるローレンス・リバモア国立研究所(LLNL)を、最初に訪問したのはもう30年になる。数百メートルにも渡る金属箱のようなものが横たわっていたのを覚えている。レーザーが旅するものだと言われた。当時も今も、全体では野球場くらいの巨大施設だ。

それからさらにその30年前、つまり今日からいうと60年くらい気が長い基礎研究が継続されている。筆者の母校、カリフォルニア大学バークレー校で、「プルトニウム」を発見したグレン・シーボーグ博士の長時間対談をやった頃だ。シーボ―グ博士にも「NIFも取材したら」と言われた。

(中略)

核を利用する兵器には大きく2種類ある。「核分裂」と「核融合」だ。核分裂兵器はプルトニウム(PU)やウラン(U)元素の原子核(陽子・中性子)を利用しており、プルトニウムはナガサキ、ウランはヒロシマで使われた。

核分裂の際、放出される中性子が別の原子核が吸収してさらに分裂、それが継続して分裂がドミノ倒しのように次から次に起きる。分裂がごく限られた時間内に一定の臨界量に達すると、連鎖反応が持続、莫大なエネルギーになり、それが核(分裂)爆弾になる。

原子力発電の場合は、原子炉の中で前述のようにウランが核分裂をする時、臨界状態を制御・維持、その熱で水を沸かして水蒸気を作り、それでタービンを回して発電する。

「核分裂」とは全く違う、もう1つの「核融合」。核融合だけを利用した爆弾は、現時点ではほぼ不可能とされる。重水素と三重水素を、熱で加速して核融合させる。高温・高圧がまずは必要だ。それを作り出すために、上記の核分裂爆弾、原爆を「起爆剤」として使う。
核分裂爆弾と比べると、水爆は1000倍くらいの威力があるという。

「核融合」は「核分裂」と共に、制御は大変、放射性物質の扱いも難しいが、その莫大なエネルギーを上手く使おうという考えは、当然、大昔から存在する。太陽が常に明るく輝いている原動力。主に重水素と3重水素の2つの軽い原子核が、重いヘリウムと中性子に変わる時に出る莫大なエネルギーだ。原子の中心にある原子核が衝突している部分が太陽に似ている。

全て上手くいけば、脱炭素、そして一方の「核分裂」利用の原発の危険性から逃れる可能性がある。日本はEUと組んで、茨木県に実験的な施設を建設、試験運転を始めるという。やはり将来を考えているフランスは、磁力利用の核融合炉で、今回話題を呼んだ米国の高出力レーザー利用とは、全く違う。

これも30年近く前だが、筆者は全米にある「国立研究所」全ての訪問取材をした。ライフワークの原爆関連取材だ。ヒロシマ原爆を作ったロスアラモス、双璧のリバモア(LLNL)、サンデイア、サバンナリヴァー、オークリッジY12、ハンフォード、アルゴンヌ、ブルックヘイブン、フェルミなどなど、フクシマ事故取材もあり、複数回取材した。ロスアラモスでは、内部を深く複数回取材した唯一の日本人ジャーナリストと言われた。国家核安全保障局(NNSA)はその窓口で米エネルギー省内でも、核関連を全て仕切っている。

そこの友人がつい数日前、教えてくれた。半世紀以上、努力している核融合炉NIFの実験で大きな前進があったというものだ。訪問した30年くらい前には、夢物語で、いつ可能になるか、実験が成功するか不明と言われていたが、今回の成功は、小さな一歩、だが同時に大きな一歩とも言える。

実験では、192本の巨大レーザーで凍結水素入りの容器を破壊した。放出したエネルギーと比べて爆破により得られたエネルギーが大きかった。つまり、差引勘定でクリーンエネルギーが生成できた。

しかし実用にはまだまだ大変な道のりがあると、NNSAの友人に言われた。だが貴重な一歩。米国の基礎リサ―チ、基礎研究は日本では想像できないほどのスケールがある。今回の核融合の研究だけでなく他の分野でも、長時間やっても失敗の可能性もあることもやっている。失敗を恐れていては、重要な基礎研究などできないのだ。

野口 修司
国際ジャーナリスト
国際ジャーナリスト(在米40数年)。東京生まれ。UC Berkeley 修士号。安全保障、国際テロ、原爆、原発、日米関係、国際金融を中心に世界30数ケ国・現地取材を行う。ビル・ゲイツ、スノーデン、アサンジへの世界的スクープインタビューも。米国の調査報道記者賞。国際エミー賞審査員2回。

(引用終わり)

相田英男 拝