ザ マス イズ ザ マス

相田英男 投稿日:2019/03/02 00:43

相田です。

今週の始めに、GEにまた動きがあった。GEの医療機器部門(GEメディカル)の中にある、バイオファーマ(生体医薬品)技術に関する、開発機器や検査設備製造のグループを、CEOのラリー・カルプがかつて率いていた、ダナハーという精密機器会社に、売却する事が決定した。この取引によりGEは、2兆円以上の高額の売却費をダナハーから受け取るという。その費用を、来年に支払期限が迫っているほぼ同額の負債の支払いに充てることで、当面凌ぐことが出来るという。本来、GEメディカルは、事業部全体を別会社として分離して上場、売却する予定だった。フラナリーCEOの時代はそのように発表していた。

しかし、GEの事業の中でも最も利益を挙げている金の卵ともいえる部門が、メディカル部門だ。それを売却すると、その後にどうやって稼ぐのだという、もっともな批判が、アナリストから出されていた。そこで今回の取引では、メディカル事業部の中のバイオファーマに関するグループのみを分離して、MRI(核磁気共鳴)製造などの主力部隊は、GEに残すこととした。将来の金ヅルを残しながら、借金を返せますよ、偉いでしょう、という訳だ。株価は一旦は数ドル上昇したものの、また落ち着いたようだ。

ダナハーはカルプがGEに重役として昨年迎えられる前に、15年間も社長を務めた会社だ。ダナハー側にも、カルプの采配で株価を5倍に上げてくれた恩義がある。カルプに頼まれたら、無理でも嫌とはいえまい。今回の交渉を見事なM&Aだ、とか書いた、某日経新聞もあった。が私には、保険の営業にパートで雇われたオバちゃん達が、ノルマ達成のために、自分の家族に必要もない保険を、無理矢理売り付けるように思えて、あまり感心しない。カリスマ経営者と期待されて迎えられカルプであったが、やる事は所詮は、保険のオバちゃんと変わらないのか。顔は爽やかなイケメンで、髪もフサフサなカルプは、ビジュアル度の方は前任者のF氏よりも相当高いのだが。

とはいえ今回の借金を返しても、GEにはまだ10兆円近くの有利子負債が残っている。以前のトリプルA時代の格付けのGEならば、社債を大量に発行して乗り切れた。だが、今のGEの格付けは、ジャンク債レベルのトリプルBプラスまで下げられたので、社債が最早発行出来ない。事業の切り売り以外に、GEはどうやって10兆円を返してゆくのだろうか?新たな金ヅルを持っているCEOをつれてきて、カルプを首にして入れ替えたりするのだろうか?今のGEは、アクティビスト(物言う株主達)の要求を聞かざるを得ないらしいので、彼らならやりかねない気もするが・・・・

正直、私は昨年の秋にGEの没落が決定的になって以来、気持ちがハイの状態が続いている。今まで当然だと思い込まされていたことが、全くのウソだった事実が白日の下に晒された。そのことで、私の頭の中に永年あった判断の基準が、大きく崩れてしまったのだ。

GEこそは、アメリカの覇権を象徴する最強の企業であり、日本の発電・重電会社を牛耳る皇帝だった。圧倒的な資金力と最先端の経営技術を駆使する事で、最新テクノロジーを製品として具現化し、業界をリードし続けるのがGEであると、私は深く信じ込まされていた。

それが、今の体たらくとは、一体何なのだ?

史上最高の経営者と呼ばれたジャック・ウェルチが、自ら選別し、鍛え育てたエリート経営者達が、今のGEを導いているのではないのか?50兆円以上あった時価総額が、10兆円を切るまで落ちぶれるなど、アメリカ最高のエリート経営陣の采配として、許されるものでは無いだろう。

結局は、今までマスコミや新聞社が持ち上げ、賞賛し尽くしてきたGEの栄光は、全くの嘘だったのだ。ウェルチ自身の栄光も、たまたま運が良かっただけだったのだ。何が伝説の経営者だ。よくもこれまで20年以上もの間、デマを吹聴し続けてくれたものだ。GEを見習え、アメリカの企業経営者達の振る舞いと判断を見習え、日本の企業は遅れて恥ずかしいのだ、などと。

俺はもう、これからは、お前等には騙されない。

さて、今回の状況について、我らが頼れるスティーブ・トゥサの意見はというと、「ザ マス イズ ザ マス」だそうである。数学は所詮は数学、単純な数字合わせで取り繕ったところで、中身が伴っていなければ無意味だ、という事らしい。ちなみに、株価の目標価格も6ドルのまま据え置くそうだ。

「ザ マス イズ ザ マス」とは、何ともカッコいい響きである。一度言ってみたいものである。

3月5日には、J.P.モルガンのカンファレンスで、GEの状況についてカルプ自らが説明し、その際にはトゥサとの間で、直接のQ&Aのやり取りも予定されているらしい。何が起きるか、今から楽しみである。

(引用始め)

Is Larry Culp Leading General Electric In the Right Direction?
James Brumley
Investor Place, March 1, 2019

He certainly said all the right things, and, he said them in the right way … Now, just because General Electric CEO Larry Culp can make investors feel good, it doesn’t necessarily mean Culp can produce results that will drive GE stock higher.
Boiled down to its most basic form, that’s the crux of the debate surrounding General Electric stock right now, following Tuesday’s release of Larry Culp’s first letter to owners of General Electric stock.
彼の言った事と示した方向は、確かに正しいのだろう。しかし、ゼネラル・エレクトリックのCEOラリー・カルプ氏が投資家の気分を良くできたからといって、GEの株価を引き上げられるとは断言できない。火曜日のLarry CulpによるGeneral Electric株式所有者への最初の手紙の発表に続いて、最も基本的な問題点、つまり現在のGeneral Electric株式に関する状況が、議論の核心となっている。

The message was long on ideas and goals. Yet, it was short on specifics regarding how he may actually be able to lead GE out of perdition and back to its former greatness.
そのメッセージには、アイディアとゴールについて長く記されていた。それでも、彼がどのようにしてGEを現在の虐待から救い出し、かつての偉大さを取り戻すための方法についての詳細な説明は、とても短かった。

The market is patient with the company right now, but that won’t be a permanent condition.
市場は今のところ同社を辛抱強く見守っているが、それが永遠に続く訳ではないだろう。

The Math Is the Math

It was, by and large, a typical letter to shareholders, cheering the good, acknowledging the not-so-good, and painting a picture of a bright future that will focus more on the customer and improving the balance sheet.It also means little in the grand scheme of things, as most CEO missives to the market do.
手紙の内容は概して、株主に宛てての典型的なものあった。良い事を持ち上げて、それほど良くないことは認める、そして、顧客とバランスシートの改善に、より焦点を合わせることで、明るい未来の絵を描き出していた。そこで書かれている物事の壮大な計画には、市場に向けて公表される数多くのCEO文書と同様に、ほとんど意味は無い。

That doesn’t mean investors didn’t respond. They loved it, and had they not propelled GE stock up to the tune of 10% on Monday following news it was selling its biopharma unit to Danaher , they may have been willing to pour in again in a big way. Still, up more than 50% from its December low, clearly the crowd believes in GE again.
それは投資家が反応しなかったという意味ではない。彼らはそれを愛した。月曜日に、バイオファーマ部門をダナハーに売却したニュースを受けて、GEの株価を10%まで引き上げていなかったならば、彼らは再び大いに注ぎ込むつもりだったのかもしれない。それでも、12月の安値から50%以上も株価は上昇し、明らかに群衆はGEを再び信じている。

Not the whole crowd though.J.P. Morgan analyst Stephen Tusa is no stranger to being in the minority. Good thing too. His price target of $6.00 for GE stock is not only well below the stock’s current price near $10.70, it’s also the lowest target sported by Wall Street’s pros.
しかし、群衆の全てが信じている訳ではない。J.P.モルガンのアナリスト、スティーブン・トゥサ氏は、少数派であることに不慣れではない。良いことについても。彼のGEの株価目標である6.00ドルは、現在の10.70ドル近くの株価をはるかに下回ると同時に、ウォールストリートのプロが予想する中で、最も低い目標でもある。

And yet, Tusa’s view of General Electric may be the most sound, and least swayed by hollow hope.
それでも、トゥーザのゼネラル・エレクトリックに対する見方は、最も健全で、そして、希望が無い状況でも揺るがないかもしれない。

“At this stage of the game, the math is the math,” says Tusa, who believed GE’s free cash flow for the current year will be in the range of $1.5 billion to $2.0 billion. Tusa goes on to explain, however, “I can tell you right now, that $10 per share does not reflect where fundamentals currently stand.”
「ゲームのこの段階では、数学は数学に過ぎない」とトゥサは語る。同氏は、GEの今年のフリーキャッシュフローは15億ドルから20億ドルの範囲になると信じている。しかしトゥサは続けて、「1株当たり10ドルは、ファンダメンタルズの現在の状況を反映したものではないことは、直ちに言える」と説明している。

“They are giving a massive amount of benefit to a significant swing in Power, from negative $3.0 billion in free cash to probably about $1.0 billion( ) in free cash over the next three years,” continues Tusa, who adds “and they are also assuming that GE Capital is zero [in free cash flow]” when the company’s capital arm is still bleeding cash.”
「彼らは今後3年間で、マイナス30億ドルのフリーキャッシュから、おそらく約プラス10億ドルまで、電力部門の利益がV字回復する事で、大幅な利益が得られると考えている」トゥサは続けて、次のように語った。「彼らは、GEキャピタルは(フリーキャッシュフローにおいて)ゼロであると仮定している。キャピタル部門のキャッシュの流出が止められない今の状況でも」

Tusa doesn’t think the company’s Power arm will flip to profitability that quickly. He also points out “GE Capital is not a zero [in terms of cash burn]. GE Capital is a substantial negative … [with] significant drags over the next couple of years.”
トゥサは、同社の電力部門がそれほど早く収益性を向上させるとは考えていない。また、「GEキャピタルはゼロではない(キャッシュバーンの観点から)。 GEキャピタルは実質的にはネガティブであり、今後数年間はマイナス方向に大きく引張るだろう」とも、トゥサは指摘した。

(引用終わり)

相田英男 拝