第4章 理不尽すぎる審判(その3)

相田英男 投稿日:2016/04/23 06:43

相田です。第4章の3回目です。

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4.4 訪れた運命の日(つづき)

次いで森山は「共同声明」の内容について、原研管理者(森田氏)と労組(一柳氏)の両方に質問を行った。

―引用始め―

(森山委員)そこで、次の問題に入りまして(共同声明の文章の中に)「正常な労使慣行を今後とも尊重することを相互に確認し、」こういうことがございます。正常な労使慣行というのは、どんなことをもって正常な労使慣行としておるのか。ひとつ使用者側から承りたい。

(森田参考人) たとえば組合の時間内の活動だとか、組合活動等につきまして、これはここで申し上げるのはまことにわれわれ使用者としてもお恥ずかしいのでございますが、現在のところ規制が行き届いておらないというようなことでございます。それを正常ならざるものだとわれわれは感じております。

(森山委員) それは不正常なお話なんだ。正常な労使慣行とはどんなことをやっておったのかと聞いておるのです。今後尊重するというから、どんなことをこれからあなた方は尊重してやるのか、承りたい。

(森田参考人) 正常なる慣行と申しますれば……。

(森山委員) 森田さんちょっと返事に困られるようですから、聞きますまい。不正常な労使慣行は今後は尊重しない、そういう意味ですね。そういうように逆に読んでいいわけですね。

(森田参考人) さようでございます。

(森山委員) それでは組合側に承りますが、「正常な労使慣行を今後とも尊重する」というのは、どういうことをあなた方は考えているのですか。(中略)

(一柳参考人) 労働者と申しますか、それに働いております者が、私どもの労働条件につきまして、経済的地位とか、そういうものの向上をはかる、そういうような点に関する団結権、団体行動権、団体交渉権、そういうものを信頼しないということが不正常な労働関係であるというふうに思っております。

(森山委員) 労働組合運動というのは労働者の経済的地位の向上を目ざす、そんなことは、組合があればわかり切っている。ただ問題は、ここに労使慣行ということが書いてある。どんな慣行をやっておったのか。正常な慣行として今後あなた方が維持したいのはどんなことか、言ってください。(中略)

(一柳参考人) その点につきましては、現在所側との懸案事項は非常にたくさんございます。(中略)しかも、その交渉が、(中略)所側のほうのそういう問題に関する主体性のなさと申しますか、そういうところからくる硬直した態度と申しますか、そういうものによって非常に交渉が長引いております。(中略)こういう事務折衝というのはほとんど連日やらなければ問題が片づかないというふうな状況でございます。そういうのが現在まで続いておったわけでございます。

 それが正常であるかどうかということは若干問題があると思います。しかし、これは現在までの原研の中におけるひとつの労使関係というものの歴史的な事実というものから見ましてやむを得ないのではないか、というふうに考えております。

(森山委員) 時間内の組合活動というようなものについて、あなたは、問題があるかと思うが、しかしこれはやむを得ないといっても、そういうものは、いまこれから詳しく入りますけれども、あなたはそれでいいと思っているの。それは正常な労使慣行だとあなた方は主張したいのですか。すぐこの次に具体的に入りますから、返事を慎重にやってくださいよ。

(一柳参考人) (中略)そういう時間内の組合活動というものについても、私も多過ぎて困っておると思っておる。しかし、やはりこのままでは労使間の問題はどうしても解決していかない。その話し合いをやはり続けていかなければならない。そういうような状況の中にありますので、そういうふうな慣行はやっていかなければ問題は片づかない、そういうふうに考えております。

(森山委員) いまの返事で私は満足しませんけれども、ひとつ具体的にそれでは入ってまいりたいと思います。

―引用終り―

相田です。森山と参考人の間で「正常な労使慣行とはいかなるものか?」というやり取りが幾度も繰り返されるが、議論の内容が段々と科学技術とは何ら関係ない方向にそれ始めている。「労働問題の専門家」としての森山の、原研労組への厳しい追及がここから本格的に開始される。

―引用始め―

(森山委員) 先ほど森田副理事長が、心配なのは四月一日からの超勤協定の問題だ、こういうお話がありました。それで、その超勤協定について現在の原研の労使間の協定書というものを読ましてもらったのですが、どうもこれだけだとよくわからない。

 三十八年三月三十日に結んだ時間外及び休日労働に関する協定書、昭和三十八年三月三十日、三八の一八号というものです。それを三十八年十一月十六日に、三八の一〇二号というので三月三十一日まで延期をしている。これまで大体三カ月ごとにやっておる。何回やっているのかわかりませんが、三回か四回超勤協定を結んでおるようですね。

 そしてその内容にいろいろなことが書いてある。これも読んでみると、どうもこれでもずいぶんゆるふんだなと思うんだが、どのくらいの超勤手当をやるのかということは、これには書いてないですね。何かあなたのほうには、労使間だけでもって、よそに見せない秘密協定をやっているのじゃないですか。どういう超勤協定の実情になっているか、この際ここで説明をしていただきたい。要するに、現在どういう形でやっておるのかということを説明していただきたい。

(森田参考人) 大体超過勤務手当というものは、本来は実績でもって超過勤務をいたした者に対して支払うべきものであると観念をいたしておるわけでございますけれども、われわれのほうでは、当初研究が主体をなしておったというような関係もありましてある程度予算がついている範囲内で平均化して超過勤務をしない人に対しても、あたかも給与のごとくに支払われておる部分があるのでございまして、これまで東海村では十三時間の平均がついておる、こういうことをいたしておりました。これは全体の超勤のワクの中でパンクすることは明らかだと存じまするし、また超過勤務という性質上からも、こういうことは許すべきではないということで、これは正しきに戻すべくただいま早急に案を練っております。昨日も大体の骨子を完成いたした次第でございます。

(森山委員) いまのお話だと、一時間も超過勤務の実績がない者でも、十三時間分の超過勤務手当をやる、現状はそういうやり方でおやりになっているのだということですね。

(森田参考人) さようでございます。

(森山委員) そういうものは正常な労使慣行とお認めになりますか。そういうことを外部には発表しない覚え書きでおやりになっているらしいですね。

(森田参考人) これはまことに汗顔じくじたるものでございまして、こういう支払いをしておったのは当然理事者の誤りだと思いますから、これは正しきに戻すべくやるつもりでございます。

(森山委員) 菊池理事長は、こういう問題をどうお考えになりますか。正常な労使慣行とお思いですか。

(菊池参考人) いいえ、思いません。

(森山委員) 労働組合の委員長はどうお考えですか。

(一柳参考人) これはやはり一つの歴史的な背景からそういうものが出てきておるということでございます。(中略)つまり昨年度のベースアップのときになかなか話がつきにくかった。それで、こういうことを申し上げるのは内部の恥のようなものでございますけれども、なかなか話がつかないというのは、原研の理事者の給与に関する主体性というものが非常に制約されておるので何ともならないのだ。だけれども、超勤ぐらいについては何とかやっていけるから、そういうもので少しカバーしよう、というような経緯でこういうものがついてきたのだ、こういうふうに私は考えております。(中略)

確かに超勤自体をとってみますと、それが実績時間に並行しないということはおかしなことでございますが、そういう経緯を考えた上でなければこういう問題は解決できないと思います(中略)そういうようなものは暫定手当というふうな形に直してしまうとか、そういう形で私どもとしては労働条件の切り下げにならないようにものごとを解決していただきたい。そうしなければ話はあまりうまくいかないのではないかと考えております。

―引用終り―

相田です。森山は組合との間の超勤協定(通常勤務時間外に業務を行う際の賃金の取り決め、要するに残業代のこと)の具体的な内容について、自らの「独自の入手資料」を用いて問い質した。労使間の協定書が僅か三か月の短期間で次々改訂される割には、具体的な手当の金額がそこに書かれていないのは、非公開の秘密協定があるのだろうという、森山のあまりに鋭い指摘に対して、森田副理事長は超過勤務をしない組合員に対しても、平均十三時間分の手当てを毎月支払っていた事実を認めざるを得なかった。

これはかなり姑息なやり口のようであるが、大手の民間会社等では、給与の上乗せのような意味合いで、組合員への一律の残業手当を支払う事例は割と多いと思う。ただし、特殊法人である原研は、給与金額の絶対値は別としても、公務員と同様の給与規定に従う必要が当然あることから、実体のない残業代の支払いが「正常な労使慣行である」と主張できる筈などなかった。森山の指摘に対して森田、菊池の両名が、この慣行が問題であり正すべきものと認めた。

労使間の秘密の覚書の下で、非公開の残業代が支給されていた事実が明らかにされたことで、労組の立場はいきなり苦しい物となる。そもそも原研の労使関係が揉めた理由は、給与の水準が約束よりも低いからだと組合が主張していたにもかかわらず、実際にはヤミ手当のようなものをもらっていたとなると、労組の主張には説得力を失ってしまう。協定が秘密裡であるとすると、各組合員が本当は幾ら給与をもらっているのかもはっきりしなくなる。

これに対し一柳委員長は、我々組合員の給与が約束よりもずっと低く抑えられてきたのだから、理事者側の裁量でせめて出せる範囲で、何とかやりくりしているのだ。暫定的な手当のようなもので、本来の約束された給与水準に達するまではもらう権利がある、と開き直りのような回答を行った。

しかしこの後に出た、先代原子力局長の佐々木義武からの質問によって、労組はさらに厳しい立場追い込まれることになる。

―引用始め―

(佐々木(義)委員) 関連。ただいま歴史的な結論というお話でございましたが、ちょっとお伺いしたいのです。創立以来いままで原研ではストは何回やっておりますか。

(森田参考人) これまたお恥ずかしいのですが、六十六回やっております。それから、昨年中だけで四十四回やっております。

(佐々木(義)委員) 組合の委員長に聞きたいのですが、そういう歴史的な結論の結果を尊重すべきだ、こうおっしゃるのですか。

(一柳参考人) 昨年四十何回というお話でございますが、これはどういう勘定のしかたか、私ちょっとあれなんでございます。つまり、私どもが通告してストライキをやっておりますのは、具体的に申しますと、昨年以来大きくもめました問題というのは三つでございます。

 一つは、七月にJPDRの直勤務手当を切り下げる。それからもう一つは、五班三交代の約束の時期を延ばすということでごたごたが起こりまして、(中略)これがストライキの通告という回数でまいりますと十日ばかりになっておりまして、その日ごとに出すわけであります。そういうことになっておりますので、そういう勘定をすれば十回ほどということになるかもしれません。しかし、これは一まとまりのそういうものでございます。

 それから、もう一つもめましたのは、昨年の暮れの期末手業でございます。この期末手当と申しますのは、所側のほうから一昨年の支給率を二割程度下回る案を出してこられたのであります。それで、これでは困る、これ以上お金はないということで、もめてしまいまして、そのときも一波、二波というふうにやっておりますから、それも二回という所側の勘定になればそうでありましょうが、それも一まとめのものであります。

 もう一つは、昨年十月からやっておりますベースアップに関する問題であります。これにつきましても一波、二波あるいは部分という形でやっておりますので、それを一つずっと勘定すれば四十何回ということになるかもしれませんが、もめております問題というのはその三つであります。

 その三つも多いとかなんとかいうことはありましょうが、そういうもののうち、ベースアップ及び期末手当につきましては、政府関係機関労働組合協議会というのがありまして、結局統一行動が大部分でございます。(中略)

(森山委員) この問題については意見が違うわけですから、四月一日から起きる超勤手当の問題について、すでにこれを正常な慣行と見るか見ないかということについて大きな相違があるということがはっきりしたわけです。したがって、このままでいくと四月一日までに簡単に話がつきそうにないということになりますと、原研の労働組合というのは、先ほどお話しのように大きな事件は三つかもしれないけれども、その間にあやのごとく、昨年中でも四十四回のストライキをやっておるのですから、大小取りまぜてやっておるわけです。これによって炉がとまることがないとは保証されない、それだけは私は言えるだろうと思います。

―引用終り―

相田です。原研労組がストを行った回数は、創立以来66回、そのうち63年だけで44回であるという衝撃的な数値が、森田氏から報告される。一柳氏はこれに対してたまらず、細かいストの回数は問題ではなく、大きな流れとしては3回だけである。原研の方に通知した回数を全て数えると多く感じるのだが、実態は3回なのだ、という趣旨の回答を行っている。しかし一柳氏の話は、どうにもつらい言い訳にしか聞こえない。大きな流れの中とはいえ、10日に1回以上のペースでストが起きる職場というのは、凄まじい状況というべきだろう。

これを受けて、森山の労組への追及が更に激しさを増すことになる。

―引用始め―

(森山委員) それから次に、私は、これはごく簡単に一、二の例として聞いてみたい。時間内の組合運動に対してはどういうふうな申し入れをしておるかということを、ひとつ経営者側に承りたいと思います。(中略)この問題についての資料はいまちょっと手元にございませんけれども、私の記憶で御確認を願いたいのです。たしか組合総会とか組合大会とかいうのが年に何回か認めておりました。それについては年次有給休暇の中から認める。それに評議員会とか中央執行委員会とか、そういうようなものについてはまた幾日かの、たとえば中央執行委員会なんというのは週に一日ぐらいではなかったかと思いますが、(中略)そしてそれについては覚え響きとして外部に発表しないという案でもって、賃金カットをしないのだ、まあそういう案です。そういう案を私はお出しになったように記憶しておるのですが、その辺どうですか。

(森田参考人) これは世の中の一般の通念からいって当然おかしいものだとわれわれは十分に了解いたしておりますので、これは全部撤回いたすことに私きめたわけでございます。

(森山委員) この勤務時間内における組合活動についての提案は、ここ数年来何回も出ておるようですね。その経過を私が調べたところでは、組合の総会ぐらいは年次有給休暇の中からこれを転用するということにしておるようですが、その他の大部分の評議員会とか中央執行委員会とかその他いろいろな組合活動は相当な回数及び時間これを認め、賃金カットをしないという、外部に発表しない覚え書きがいままでは出ておるじゃないですか。そういう事実をお認めになりますか。

(森田参考人) さきに出したものについては、相当そういうことになっておったように記憶いたしております。それではとうてい困るということで、撤回することにいたしたのでございます。

(森山委員) ちょうど労働省の労働法規課長が来ておりますが、時間内の組合活動で、賃金カットをしないで年次有給休暇に振りかえ、または賃金カットにならないで認めているような例が他にございますか。

(青木説明員) 賃金カットをしているかしておらぬかという実態は、各それぞれの事業場の内部問題がございまして、われわれの調査では明らかになっておりません。しかし、御存じのように、労組法の第七条第三号におきましては、一定の事項、すなわち勤務時間中の団体交渉あるいは経営協議会などの協議、そういう法で認められます事項以外の組合活動について賃金を支払うことは禁止されております。

(森山委員) そうなると、労働組合運動というものは相互不介入、自主運営の原則の上に立っておる。そういうものに原子力研究所は月給をやって、時間内の組合活動を野放しにいままでしておったというやり方、また二月における提案と同様の趣旨を認めるようなやり方は、ある意味におきましては労組法上の不当労働行為になりませんか。

(青木説明員) 法の規定の純法理論的に申しますと、そういう結果になります。

(森山委員) 菊池理事長に伺いますが、なぜとのような不正常な労使慣行を従来やってこられたか。それを承りたい。

(菊池参考人) これは、いまおっしゃったとおり、純法理論的には認められないことは私も承知しております。(中略)一番大きな原因は、やはりわれわれは非常に大きい、たとえばこの間の動力試験炉というようなものをかかえております。これについては、一日おくれればどれだけの補償を払うというようなペナルティーのついた仕事をかかえております。そういう場面で、いよいよ超勤協定が切れた。それで組合との各種の交渉が始まる際に、どうしてもそっちのほうを何とかやらなければいけないという気が強くなりまして、そのためにやむを得ずそういうことを知りつつやった。そのために、その協定の期間が二週間とか一月とかの短いもので、次の段階になると、また同じようになる。

そういうことが繰り返され繰り返されまして、去年のJPDRの引き渡し直前に、これではどうにもいけないというので、引き渡し前でありますが、私はあえて炉をとめて、労使の正常化をはかろうという決心をしたわけであります。その後いろいろないきさつもございまして、とにかくJPDRは受け取ろうということで、三月一ぱいの、先ほど問題になりました協定を引き渡しまで延ばしまして、やってきたわけでございます。

 それで、ここで、いまおっしゃったようなほんとうの正常化をやらなければならぬように考えております。だから、ただいままでそういうようないきさつで、非常にゆるふん的な態度であったことをわれわれははっきり認めます。そういう態度ではいけないと思っております。

(森山委員) 理事者側は、正常な労使慣行にあらず、時間内の組合運動は正さなければならないというお考えのようでございます。

―引用終り―

相田です。残業代のヤミ支給問題に続いて、森山は勤務時間内の組合活動の実態について質した。労組の専従者以外の組合員の大勢が、勤務時間であるにも係らず組合活動に時間を割いており、その間の給与は原研側から支給されているのではないのか?その内容は「例のごとく」非公開の取決め書にのみ書かれており、法律上の不当労働行為にあたるのではないのか、という、あまりにも厳しい追及である。

準備万端の森山はこの時のために、労働省の労働法規課長の青木氏をわざわざこの場に呼んで、原研の対応は労働組合法に違反するものだ、という発言を青木氏にさせている。これに対して理事長の菊池は、悪いとはわかっていたものの、JPDR等の大型装置を計画通りに設置して稼働させることを優先せざるを得ないことから、わかっててやってしまった。非常に「ゆるふん」な対応であり、正すべきである、と森山に頭を下げるしかなかった。

確かに森山の言う通りなのだが、こんな情けない言い訳をさせてしまうまで、菊池を追い込んでしまうのも、一体どうなのかと思ってしまう。菊池を国会に呼び出してその名声に泥を塗り、恥をかかせるために原研理事長として招聘した訳ではないだろう、菊池がやるべきことはこんなことでは無いはずだ、という無念さと憤りを、自分は読みながら感じずにはいられない。

森山はこの問題を、一柳氏に直接質すことになるが、森山の度を越した厳しい追及に、会場は一時騒然となる。

―引用始め―

(森山委員) そこで、組合の委員長に承りたいが、いままでのような野放しの、野放図な労働組合運動、時間内の労働組合運動、すなわち専従制度さえもまだ認めてない、すなわち組合の委員長以下相当数の人間がこの組合運動に相当専念していることは明らかな事実でございます。にもかかわらず、俸給は組合からもらうのじゃなくて、原子力研究所から俸給をもらって組合運動に没頭しておる。その他の各種組合活動におけるところの勤務時間のロスというものを、一切賃金カットをしないというような従来のやり方について、これを正常な労使慣行と考えておるかどうか、承りたい。

(一柳参考人) 労使間の諸問題を解決していくための諸手続とか、あるいは諸機関とか、あるいは団体交渉とか、種々の委員会とか、そういうものがございます。こういうものをちゃんとやっていくということは、これはいい労使慣行である。そういうふうに私考えております。いままでいろいろ協議とか事務折衝とか、そういうことがありました。そういう問題が、現在まで生々発展してまいりました原子力研究所の中では、労働条件その他についても変更がたびたびございます。(中略)そういうことは正しい労使慣行であると思っております。したがって、そういうことはやっていかなければならない。そうしなければ問題は解決していかないし、問題はますます混乱するばかりである、そういうように考えております。

(森山委員) どうもあなたの言うことはわからない。原子力研究所が設立されてすでに八年たっておる。その間に専従制度すらない。組合運動は野放しである。こういう実情をあなたは正常な労使慣行と考えておるのか。
  〔「参考人に対してそんな言い方は失敬じゃないか」と呼ぶ者あり〕

(前田委員長) 森山君、もう少し静かに、ひとつお願いします。
  〔発言する者あり〕

(前田委員長) お静かに願います。

(一柳参考人) 先ほどから申し上げておりますように、労使間のいろいろな問題がございます。その問題を解決するためにやっておりますいろいろな会議とかいろいろな委員会とか、そういうものは正常な労使慣行であると思っておりますので、そういうものは私どもは今後やっていかなければ、原研の当面しておるいろいろなむずかしい問題は解決していかないと思います。(中略)

(森山委員) あなたの返事はよくわからないのですがね。ただ、専従制度がなくて八年も経過していることは正常だと思いますか。あるいは組合運動が野放しになって、何回やってもよろしいし、また何回やってもこれは賃金カットの対象とならないようなやり方は正常だとお考えなんですか、こう聞いているのです。イエスかノーか、聞かしていただきたい。

(一柳参考人) いまのおっしゃり方では私ははなはだ困るのでございますが……。

(森山委員) 答えやすいように聞いているのですから、ちゃんと答えてください。

(一柳参考人) 先ほどから申しておりますように、労使間の諸問題を解決するための諸手続、それから諸機関、それからそういうものに関する調査活動とか、そういうものに関しましては、これは正常な労使慣行であるし、したがって、これは今後やっていかなければならないと思います。

(森山委員) それでまた、正常な労使慣行について理事者側とこういう常識的なことにおいても違うという事実が明らかになった。

―引用終り―

相田です。文章からでは詳細はわからないが、のらりくらりとはぐらかす一柳氏に対し、途中で森山が激高して声を荒げて、会場が騒然となったことがわかる。最早、原子力を議論するのではなく、原研の労働問題を問い質す場になってしまっている。森山のワンマンショーと化している。

4.6 打ち出された「森山ドクトリン」

森山の労組への最後の問いかけは、労働協約の問題である。以下に引用する。

―引用始め―

(森山委員) それからもう一つ、最後に伺います。原研が発足して八年目だというが、労働協約がない。私ちょっと拝見しますと、ばらばらの協約を、三カ月か二カ月あるいは一カ月、こま切れのようにばらばらにやっている。しかし、総合的な長期にわたる労働協約をいままでも締結してなければならないと私は思いますし、これからも早急に締結しなければならないと思うが、これについて原研の理事者はどう考えるか、御返事を承りたい。

(森田参考人) 労働協約がないということはまことに不正常になるゆえんであると考え、われわれも労働協約の締結についてはあらゆる努力をいたしてまいったわけでありまして、まさに協定の寸前にまで至ったことも二、三回あるのであります。最後は三十七年くらいにまさに締結しそうになったのでありますが、遺憾ながら、その当時組合の執行部の期限といいますか、それが半年ごとの更改になっておったわけです。

労働協約を締結するためには半年ぐらいはどうしても話し合いをしなければならないので、そうすると、まさに寸前のところに至って、向こうが選手交代というようなことになりますので、数回そのチャンスを逸していままでに至っておるような実情で、まことに遺憾のきわみと存じます。

(森山委員) 労働法規課長がおられるので、労働省に承りたいのです。この程度の規模の、二千人近い組合員を擁するところの組織において組合活動が行なわれ、そして労働協約がかくも長期間締結されないなどという事態は、一体ありますか。少なくとも正常な事態ではないように私は思う。(中略)

 私が先ほど声を荒らげて質問しましたことは、その点はおわびを申し上げなければなりませんけれども、どうもあまりにも常識と違うことを平然としてお答えになるものですから、義憤にかられて声を大きくしたということでございまして、ひとつ委員長において御了承を願いたい。

(青木説明員) 全国的な調査というものは行なっておりませんが、一昨年民間の事業場単位の労働組合につきまして、協約の実態調査を行ないました。その結果によりますと、千人以上の規模の事業場におきましては約八九%が労働協約を締結いたしておりまして、この労働協約によって労使関係を規律するということに相なっております。(中略)

この労働協約の締結のしかたにつきましては、個別協約を積み上げていく方式もございます。しかし、一般的にわれわれは総合的に労働条件の分野、その他ただいまここで問題になっております組合活動の分野、あるいは争議関係の分野、そういうものをひっくるめて、総合的な労働協約を労使間で締結をしていただきまして、これによって労使関係の正常化をはかっていくのが最も正常なあり方じゃないか、こういうふうに考えております。

 なお、組合活動の規制の関係につきましては、この調査によりますと、協約で規定いたしておりますものが千四百九のうち九百十五ございます。その規制の内容はまちまちでございまして、一応届け出によってできるもの、あるいは許可、承認によってできるもの、そういうふうにまちまちになっておりますが、現在約七割以上が協約でもってそういうことを規制しておるというのが、実態調査の結果の数字でございます。

(森山委員) こういう労働協約を結ぶのは常識的であり、正常ないき方だと私は考えるわけだし、いまの労働省の調査の結果の報告を見ても、これは明らかであります。組合の委員長としては、労働協約の締結についてはどう考えるか。

(一柳参考人) この問題については、前々から私どものほうとしても結びたいということで、やってきたわけでございます。だけれども、なかなか意見が合わなかったり、そのほかにいろいろ問題がありまして、どうも途中で中断してしまってだめになったりするわけであります。

 ただ、労働協約がないというお話でありますが、私どもは、ないのではないと思っております。御承知のように、労働約協には債務的なものと規範的なものがございます。そのうち規範的の、いわゆる労働条件とか、そういうものに関する部分、それについては全部あるわけでございます。ただ、そのあるのが、いわゆる個別協定方式、いま言っておられましたが、そういうふうなことの積み重ねということでできておるわけでございます。債務的な部分について欠けておるところがあるということなのでございます。

それが、たとえばこの間できました争議協定というものもその一部分でございまして、そういたしますと、それによって追補されていくという形になっております。したがって、全くないというのは、そういうことではないのであって、債務的部分のうち欠けておる部分がある、そういうことであります。

(森山委員) あなたと論争するつもりはございませんが、ただ私の感じでは、とにかくばらばらである、しかもこま切れであって、もっと労働協約としてまとまったもので、労使間がしっくりいくような協定を結ぶ必要があるということを申し上げた。世にいわゆるその意味の労働協約というものはないじゃないか、こういう議論を言っておるわけです。その点については、これ以上申し上げません。

―引用終り―

相田です。ここでの森山の主張は、「原研のような大きな組織では、労使の間で総合的な長期にわたる労働協約を結ぶべきではないのか?」というものである。「なぜ1ケ月、3カ月などのこま切れの協定をばらばらと結ぶのだ?これでは、いつまでも交渉事が減らずに、業務が停滞し続けるのではないのか?」という、これもまた、あまりにもっともな内容だと思える。要するに、協定がばらばらであるがゆえに、労使間の協議に多大な時間が費やされ、ずるずると就業時間内の組合活動が公然化され、協定の度に組合の新たな要求が出されて、更なる協議の時間を費やすというような、組合ペースの悪循環が続くのだろう、ということである。ある意味で原研の労使問題の核心であるといえる。

ここでも森山は青木労働法規課長を呼んで、「民間企業における千人以上の規模の事業場では、約八九%が労働協約を締結しており、調査結果を準備させており、労働協約によって労使関係を規律するのが一般的だ」という調査結果を説明させるという、念の入りようある。労働組合潰しの専門家としての森山の力量が、如何なく発揮されている。

 労働協約がない理由について森田副理事長は、「これまでに協定の寸前にまで至ったことも二、三回あるのだが、組合執行部の期限が切れて担当者が交代してしまうので、そのつど仕切り直しする羽目になる、誠に遺憾である」という、情けない言い訳をここでも繰り返す羽目となった。一方の一柳委員長からは、「労働協約は無いわけではなく、個別方式の積み重ねとして規範的なものはあるのだ。労働条件はそれで規定されているから良いのだ」という、現状を肯定する趣旨の回答がされている。切り貼りの協定の積み上げでも実態はカバーできているのだから、別に問題はないだろうという、開き直りともとれる発言である。

 ここまでの、森山の作り上げた一連の筋書きにより、原研内部の労使間に信頼関係が全く存在しないこと、労使間の交渉は組合のペースでグダグダに進められていることが、白日の下に晒されてしまった。自民党側の作戦勝ちである。森山は自らの主張に説得力を持たせるため、さらなる証拠を取り出して追及を行った。

―引用始め―

(森山委員) なお、参考のために、私はいま書類を取り寄せてまいりましたのですが、この一月三十日付に菊池理事長名で勤務時間内の組合活動に関する申し入れ書というのを出しておる。それについて二月末協定成立を目途として別紙案によってやりたい。そこに協定案ができまして、そして例によって外部に発表しないという覚え書きをつくっておる。

その覚え書きの内容によると、労働組合の組合活動を勤務時間内に行なうことができるものとして、総会年二回以内、一回の時間午前九時から午後五時五十分までの必要時間、この場合、原子力研究所は労働組合の組合員から年次有給休暇の請求があったときは了承する。それから、大会というのがありまして、年に八回以内、一回の時間四時間以内。それから、評議員会として年に八回以内、一回の時間四時間以内、ただし闘争委員会設置期間中は認めない。回数は闘争委員会設置期間に応じ減ずる。それから執行委員会としまして、闘争委員会を含む、週一回以内、一回の時間四時間以内。執行活動、ただし専従制に移行する段階の暫定措置として、その期間は一年以内とする、原則として特定の五名以内とする、というようなこと等が規定をされておるわけです。

しかもこれが、年次有給休暇と特に明示してあるもの以外は、全部原子力研究所で月給をもらいながらこれらの組合活動に専念するというようなたてまえになっておるように私どもは了解をいたしておるわけです。すなわち、賃金カットをしないというふうな提案になっておるようでございます。

それで、私は、そういうことはおかしいではないか、しかもこういうような協定ができておらない現状については、専従もなければ、総会であろうと、大会であろうと、評議員会であろうと、執行委員会であろうと、あるいは専従にその仕事をしておる人たちであろうと、これらが全く野放し状態になっておって、しかも月給は全部原子力研究所からもらっておる。今日の原子力研究所の労働組合の財政的基礎に対してとにかく月給をやっておる。組合活動に金を出しておるわけですから、相互不介入、自主運営の立場からあまりにおかしいじゃないか、労働法上の不当労働行為になるのではないかということを私は質問し、それに同意の意見が労働省からあったわけでございます。やや具体的に皆さまの前に一応御報告を申し上げておきたいと思います。

 そこで、私はこういうような点から見まして菊池理事長にお伺いをしたいと思います。(中略)原子力研究所の研究方向をどう持っていくかということは、私は大きな問題だと思います。私は原子力問題についての専門家でございませんから、その問題について私見をこの際申し上げることは差し控えさせていただきたい。しかし、研究所であれ工場であれ、とにかくたくさんの人が集まって仕事をするというところでは、今日労働組合ができるのはもう当然でございます。そして、その労働組合というものに折り目がちゃんとついていかなければならない。折り目が正しくなければならない。

いま見ますと原子力研究所の労働運動というのは、総合的労働協約はもちろん、勤務時間内の労働組合運動は全く野放しにされているというような状況になっておるわけです。もしたくさんの人が仕事をするにしても、組合というものが結成されて、そういう形における労使関係がないならばまた別ですが、組合というものが結成されておりながら、折り目、筋目の正しくないような組合運動を放置しておっては、どんな方向に研究方向を持っていこうとされましても、ちょうど、イソップ物語だったか何かにありますように、砂の上に皆さま方が楼閣を築こうとするようなものであろうと私は思うのです。まずたくさんの人が集まって仕事をするについては、その基本になるところの労使関係というものががっちりしておらなければ、その上にどんなりっぱな建物を建てたって、下がぐらぐらしておったら、それは全部こわされてしまうと私は思うのです。

その意味において、今日の日本原子力研究所の労使関係の実態というものは、まずこれを手直ししていかなければ、これを改善していかなければ、またがっちりした労使関係の基礎をつくっていかなければ、日本原子力研究所はその業績をあげることができないのではないかというふうに私は考えるわけでございまして、この点についての菊池理事長の御見解を承りたい。

菊池理事長も、主任研究員の方々も、原子力研究所の今後の方向ということについていろいろと御苦心をなさっておられるわけでございます。菊池先生は、特に私どもの学校の先輩でもございますし、その道の大家でございます。かねてから御尊敬を申し上げておるのでございますけれども、しかしながら、どういう方向に原子力研究所の方向を持っていかれるにいたしましても、たくさんの人と一緒に仕事をし、そのたくさんの人が労働組合を結成して、そういうものとの労使関係の上に立って仕事をしなければならないとするならば、その労使関係というものについてはっきり折り目、けじめをつける必要があるのではないか、折り目を正す必要があるのではないか。それなくしていかなる原子力研究所の運営方向というものも、どんなりっぱなものができても、くずれ去るであろうと私は思います。そういう意味で一つ御意見を承りたいと思います。

(菊池参考人) 御説のとおりと思います。

―引用終り―

相田です。森山が準備して読み上げた「勤務時間内の組合活動に関する申し入れ書」に書かれている内容は、概ね事実だったのだろう。原研労組は森山が言うところの「協定ができておらない現状で、専従もなければ、総会であろうと、大会であろうと、評議員会であろうと、執行委員会であろうと、あるいは専従にその仕事をしておる人たちであろうと、これらが全く野放し状態になっておって、しかも月給は全部原子力研究所からもらっている」という状況でありながら、「給与が約束より少ないのは許せない」という理由をさらに持ち出して、JRR-3への「30分前予告スト」を決行した、ということだ。少なくとも菊池は、それが事実であることを否定することは出来なかった。

ここで森山は、原研が困難な状況に至った理由として、菊池がこれまで訴えていたような、政府の原子力研究の方針が定まらない、原子力委員会の権限が弱い、大蔵省査定の単年度予算では十分な計画が立てられない、などというような考えに対し、「そうではない」と反論を始めていることに注目すべきである。原研が混乱しているのは、理事者側が過激な組合活動を十分に管理できないからで、労使関係にきちんと折り目がつけられることで、はじめて上手く組織が回ってゆくのだ、という方向に、関係者の目を向けるのに、森山は見事に成功したのである。労組側の活動がエスカレートし過ぎたことが、森山に反論を許すきっかけと証拠を与えてしまったと言えると思う。

ここで森山により提唱された、「組織における労使関係に正しい折り目を付けることで、原子力の研究開発を正しい方向に進めることが出来る」という考え方を、私は「森山ドクトリン」と呼ぶことにする。この日の議論で初めて「森山ドクトリン」が披露されたのだった。

(つづく)