東芝はGEのバッファ(緩衝、衝撃吸収材)である
相田英男です。
先週末のGEの株価は、10ドルを下回り8.58ドルまで沈んでしまいました。そして、週明け月曜になると、株価はついに終値で8ドルを割りました。先週の木曜にアナリストのスティーブ・ツサが、「GEの適正株価を“6ドル”まで引き下げるべきだ」と、コメントしたのが波紋を呼んだそうです。株式時価総額も遂に、7兆円そこそこまで落ち込みました。昨年の4月には、GEの時価総額は25兆円を超えていたのです。が、たったの一年半で1/3以下に減ってしまいました。
時価総額が8兆円以下になると、ソフトバンクグループや三菱UFJにも及びません。ソニーとほぼ同じレベルです。2000年頃にはアメリカ最強と呼ばれたあのGEが、何というショボくれた会社に落ちぶれてしまったのでしょうか。
CEOのカルプは、GEパワー(発電部門)の危機的状況について、「そろそろ持ち直すだろう」’We’re getting close’ と、インタビューで述べたようです。ですが、赤字を脱却しても、GEには最早、金融事業もデジタル事業もメディカル事業も、売却してしまうため収益は期待出来ません。株価を反発させるための成長エンジンとなる事業が、GEには残っていないのです。ジェットエンジンと発電用ガスタービンを、地道に作って売るだけの、単なるメーカーになるしかありません。
これまで日本では、アナリストや経済誌の記者達が、「日本の企業は製造業だけに頼っていても、ジリ貧になるだけだ。GEを見習って選択と集中をすべきだ。経営改革を早く進めろ」と、散々叫んできました。ところが、その「日本が見習うべき理想の企業」だった筈のGEが、何とこの有様です。今となっては、地道に「物作り」を続けてきた日本の会社の方が、しっかり生き残っているではないですか。失敗したのは、GEを見習って「選択と集中」に取り組んだ、あの東芝でした。アナリスト連中は、所詮は、その場の適当な思いつきをコメントするだけです。彼らには、先のことなど全く見えていないのが、よくわかります
まだまだGEの危機はこれからです。行き着く所まで行くと思います。
翻って日本では、東芝が、8日の木曜日に、2018年7月~9月決算と当面の事業計画を発表したそうです。車谷CEOになり初めての事業報告会です。しかし、「発表の会場が高級ホテルだったのがケシカラン」とか、「半導体を売却した後の成長戦略が見えない」とか、相変わらず経済マスコミ連中から叩かれています。
でも私が考えるには、車谷会長はよくやっていると思います。おそらく何もしないで、当面の時間を稼ぐことが、今の東芝の最も重要な任務だからです。なぜならば、東芝はGEが今後分割して切り離すであろう不採算部門を、吸収、合併する必要があります。GEの最期のリストラで放出される経営資産(殆ど赤字の)を、受け止めるためのバッファ(緩衝材)となるのが、東芝に与えられた役割なのです。だから今の東芝は、新たな事業を勝手に提案して設備投資などして、お金を減らさないように、敢えて何もしていないように、私には見えます。
せっかく半導体事業を打って、大金を得る見込みがついた。ウェスティングハウスの清算も終わり、アメリカのLNG事業も中国に買って貰える目処がついた。そして、「そのままでしばらく待て」という指示が、東芝の経営陣に出されているのです。「天の声(JPモルガン)」として。
面白いのは、お金に余裕が出てきた今の東芝は、新規事業の開拓ではなく、自社株買いに積極的にお金を使っています。この自社株買いについても、経済記者達からは「金と時間の無駄遣いだ」と、非難の的になっています。日経の記事から引用します。
(引用始め)
東芝、7000億円の自社株買い発表 1株3635円 上場企業で過去最大規模
日本経済新聞 2018年11月12日 19:15
東芝は12日、今月8日の取締役会で決議した7000億円の自社株買いの具体的な方法を発表した。自社保有分を除く発行済み株式総数の約30%に相当する最大1億9257万2200株を、12日の終値と同額の1株3635円で買い付ける。13日の取引開始前に東京証券取引所の立会外取引で取得する。
7000億円の自社株買いは国内の上場会社では過去最大規模とみられる。東芝は、昨年末の大型増資を引き受けた海外ファンドなどの応募を想定している。
1株当たりの買い付け価格は、昨年末の増資の新株発行価格に比べ実質38%高い。
一部のファンドは保有する東芝株を売却するとみられる。一方で、「再建でさらに株価が上昇する可能性もあり、東芝株の継続保有も検討する」としているファンドもある。東芝側も「今回だけで7000億円分を全て取得できるとは思っていない」(幹部)とみている。
13日の立会外取引で7000億円分を取得できない場合は「国内の自社株買いでは一般的な、証券会社を通じたアルゴリズム取引で買い付けを進めていくのではないか」(市場関係者)とみられている。
東芝は19年11月までに7000億円の自社株買いを終わらせる方針。取得した自社株については、一定規模を消却するという。
(引用終わり)
技術屋の私は株には素人ですが、自社株買いを行うと単純に株価が上がるため、既存の株主の利益が高まります。この東芝の自社株買いが、先にゴールドマン・サックスが増資のために集めて来た「物言う株主達」に向けての対応なのは、言うまでもありません。彼らも間抜けでは無いので、GEの赤字部門と東芝が合併するとなると、当然猛反発する筈です。なので、GEとの合併までに、株価を出来るだけつり上げておいて、彼らを儲けさせる必要があります。つまらない設備投資に資金を費やして株価を下げるのは最悪です。当面は手持ちの資金を減らさずに、自社株買いで海外投資家を儲けさせるのが、最善の策と言えます。
なので、元銀行員の車谷CEOの今の対応は、とても理にかなっていると、私は考えます。今は何もしてはいけないのです。窮地に陥ったGEの、最期のリストラ作業が完了し、東芝との合併の準備が整うまでは。
私達の日本という国家は戦後、アメリカのデモクラタイゼイション(強制的な民主化教育)を受けて、旧ソビエトや中国のバッファとして利用されて来ました。同じように、JPモルガンによりデモクラタイゼイションされた東芝は、壊れゆくGEのバッファとして使われるのです。まさに今、目の前で展開される貴重な、壮大な、デモクラタイゼイション・ドラマの成り行きから、しばらく目が離せません。
相田英男 拝