ブレード問題は未だに解決していない

相田英男 投稿日:2018/12/11 17:48

相田英男です。

下の投稿で引用したロイター記事の、前半部分の説明記事が、同時刻に発表されていました。GEのガスタービントラブルの詳細に、かなり踏み込んだ内容が書かれています。GEは、トラブルの詳細を全く公表しないので、業を煮やしたロイターが、世界中の電力会社にあたって、HAタービンの状況について確認したようです。見えてきたのは、GEの大本営発表とは相当に異なる状況です。

以下に記事の中で気になる部分を抜粋して、意訳を付けて解説します。私は英語が苦手なので、そっちの方は大目にみてください。

【引用記事】
Exclusive – GE’s push to fix power turbine problem goes global
By Alwyn Scott, December 7, 2018, Reuters

以下は、記事の一部の抜粋と私の解説です。

1.タービンブレード損傷(oxidation issue)の実態について

(引用始め)
Photographs of the damaged turbine reviewed by Reuters show dozens of jagged and broken blades inside the massive machine, owned by Exelon Corp (EXC.N). The turbines are now running after two months of repairs, Exelon said.
意訳:
停止したエクセロンのHAタービンの写真を我々(ロイター)が見たところ、損傷して先端がギザギザの形状になったブレード翼が何個も確認された。このHAタービンは2ヶ月間の修理を経て、現在は運転を再開した。

GE told Reuters it identified the oxidation problem in 2015, and developed a fix before the failure in Texas. The fix uses an earlier casting method that was employed on other turbine models.
意訳:
GEはロイターに、テキサスの発電所で故障が起きる前の2015年に、同様のブレードの酸化問題が起きていたと語った。その修理の際は、それ以前に別のタービンモデルに鋳造されたブレードを使って交換した。
(引用終わり)

相田です。9月にエクセロンのプラントが止まって以来、GEはHAタービンのトラブルについて、“oxidation issue” と述べるだけで、他に一切の説明をしていません。しかし、上のロイターの記事には、現地でのブレード損傷の一端について、具体的に書かれています。

最も重要なのは、“Photographs show dozens of jagged and broken blades”という記載です。タービンブレードの先端は、本来なら平らの筈です。が、エクセロンの関係者に損傷した写真を見せてもらった処、ブレード先端がギザギザになっていたそうです。これはブレード先端の温度が高温になり、運転中に溶けて一部が飛散した事を意味します。単に表面コーティングが脱落しただけでなく、その下の基材のニッケル基超合金(Nickel based superalloy)が溶けたのです。深刻なトラブルです。

GEの言うようにoxidation(酸化)が、そもそもの破損の原因かもしれません。しかし、酸化でブレード自体がここまで消失するのは、先端の温度が想定よりも相当に上がりすぎている事を意味します。ブレード内部の冷却機能が不足している、要するにGEが設計したブレードの冷却機能に問題がある可能性も、否定できません。

“dozens of” という記載から、ギザギザのブレードは数本ではなく、数10本に及ぶと思われます。おそらくは、タービンの一周グルリとブレードがダメージを受けているのでしょう。製造の欠陥で、一部のブレードのみが性能が低かったのではなく、全てのブレードに問題があると思えします。

記事には、2015年の時点でGEはブレードに問題があると知っており、その時の修理には、以前の鋳造技術(an earlier casting method)を使った、と書かれています。ここの記載がイマイチ怪しげですが、castingとはブレードを作る際の、最初にニッケル合金を溶かし鋳型に入れて固めるプロセスを指す筈です。酸化の問題があったのは前から知っていたが、その時には、古い作り方のブレードに交換して、取り敢えず済ませた、という場当たり的な対応に思えます。ロイターの記事の説明不足もあるでしょうが、釈然としない箇所です。そのうちに経緯がわかるでしょうが。

2.他の発電所のHAタービンでもブレードの交換に着手した。

(引用始め)
Three plant operators using GE equipment that are shutting for blade repairs, Invenergy, Exelon and Tennessee Valley Authority, told Reuters GE has been transparent and responsive in installing new blades for free under warranty.
意訳:
ブレード交換のためにHAタービンを停止している電力会社、インベナジー、エクセロン、テネシーの三社の関係者は、GEは保険契約(注:LTSA契約のこと)に従い、透明で信頼出来る方法で新たなブレードの取付作業を行っていると、ロイターに述べた。

“Overall, we’ve been very pleased with GE’s HA technology and its performance capabilities,” said Beth Conley, a spokeswoman at Invenergy, which is receiving replacement blades for three new HA turbines at a Pennsylvania plant that has not yet opened.
意訳:
“私達はGEのHAタービンの技術と性能にとても満足している”と、インベナジーのスポークスマンのコンレイ女史は語った。彼らの交換用ブレードの一式はペンシルベニアの新たなHAタービンまで届けられたが、タービンの解放作業はこれからである。
(引用終わり)

相田です。エクセロンの他に、フランスでもHAタービン停止と点検について報道されました。しかし、それ以外のインベナジー社(ペンシルベニア)とテネシー・バレー社でも、既にHAタービンを停止して、点検の準備に入っているようです。インベナジーではタービンの解放作業はまだですが、GEから交換用の新しいブレードが既に搬入されているようです。多分、覗き穴からファイバースコープを入れて見たら、ブレードがギザギザだったので、「これはもうダメだ」となったのだと思います。

3.GEは楽観的な態度をあくまで崩していない。

(引用始め)
GE is setting aside $480 million (376 million pounds) to repair its 9HA, 7HA and 9FB model turbines as it restructures its power business. The 126-year-old conglomerate has declined to say how many have been shut down, or when it would replace parts – if needed – in as many as 130 such turbines it has produced.
意訳:
GEはHA, 7HA, 9FB 型ガスタービンの修理のため、480ミリオンドルの費用を準備している。GEは、修理のために停止するガスタービンの数と、タービンの部品交換が(必要であれば)行われる時期を、明らかにしていない。

Power plant operators in Japan, Taiwan, France and at multiple U.S. sites have shut down – or plan to shut down – at least 18 of the 55 new HA-model turbines that GE has shipped so far, French utility data and interviews with more than 20 industry experts, including executives, plant operators, insurance specialists, engineers and consultants with direct knowledge of GE turbines show.
意訳:
日本、台湾、フランス、アメリカの幾つかのサイトの発電プラント関係者達の話をまとめると、GEにより世界中で55台導入されたHAタービンの内の、18台以上が点検、補修のために停止される予定である。

In an interview, GE gas power systems CEO Chuck Nugent played down the significance of turbine shutdowns and the French data, saying that GE turbines are performing “extremely well,” despite the need for “early maintenance” to fix the blades.
意訳:
GEガスパワーシステムCEOのニュージェント氏は、一連のガスタービン停止とフランスの発電所の不具合データが深刻なものであるとは考えておらず、「GEのガスタービンはどれも“きわめて順調に”稼働している」と、インタビューで答えた。ブレード修理のための“早急なタービンの停止”が、必要であるにもかかわらず。
(引用終わり)

相田です。ロイターの調査では、タービンユーザーである電力会社の方は、ブレード損傷について危機感を持っているものの、GEは公式発表では前向きな発言を続けるのみです。GEと電力会社の発言には、明らかに温度差があります。

おそらくは、今回のブレードのトラブルについて、GEは未だに抜本的な解決策を見出だせていないのだと、私は推測します。技術的な解決策も、LTSAに関するビジネス的な損失についても、両方についてです。

GEのコメントの通りに、問題が収束しつつあるのならば、トラブルの状況と解決方法についての詳細なロードマップを、早急に開示するべきです。それならば投資家も安心して、株価の低下も早めに収まる筈です。しかし、事故の詳細情報を全く発表せず、アメリカ国内のユーザーから、ブレードの新品への交換作業を少しずつ進めています。問題の根深さが芋ずる式に明らかになる事を恐れている、としか思えません。やり方があまりに姑息です。

今回のユーザー側からの調査により、GEの困難な状況が、また一つ明らかになりました。10日の月曜日のGEの株価は、終値で遂に7ドルを割りました。スティーブ・ツサが予言した6ドルの目標株価に到達してしまいました。

GEが認めなくても、SECによるGEパワーへの調査から、問題はいずれ明らかなります。投資家達は、そてを見越して最後の期待も投げ捨て始めているのでしょう。

相田英男 拝