アルミの話

相田英男 投稿日:2017/10/13 03:59

―相田さんこんにちは。ずいぶん早い対談ですけど、もう東芝の話がまとまったんですか?

(相田)この間本が出たばかりで、そんな訳ないだろう。あれだよ、アルミの話だよ。

ー ああ、今話題になっている、神戸製鋼所(神鋼)がアルミ材料を売るときに、特性データを改ざんしたニュースですね。神鋼といえば日本を代表する老舗の鉄鋼素材メーカーですよね。東芝とか日産に続いて、「神鋼よ、お前もか」てな感じですよね。

(相田)まあ神鋼のやったことは、非難されて当然ではある。だけど、アルミって結構難しいところがあるんだよね、材料としては。

ー でもアルミは、飲料缶とか窓のサッシなんかで、普通に使われてるじゃないですか。ごくごくありふれた材料ですよね。

(相田)身近にありふれているところが、アルミの問題のひとつだ。沢山出回っているから、どうしても売値を下げざるを得ないところがある。「所詮はアルミじゃないか、値段が安くて当たり前だ」と、誰もが考えるからね。でも、アルミは簡単な材料じゃない。

本来の純粋なアルミ金属は、鉄に比べて強度がかなり低い。料理に使うアルミ箔なんか、ペラペラで簡単に破けてしまうだろう?だから、アルミを構造材料として使うには、高い強度を引き出すために、別の元素を沢山、例えば5種類以上とか、添加した合金にするんだ。多元合金(たげんごうきん)というんだけど。でも多元アルミ合金は、強度を上げた代償であまり伸びなくなる。強くても伸びが小さいという、バランスの悪い材料になりがちなんだ。

ー それなら、バランスの悪いアルミ合金を、どうやって使えるようにするんですか?

(相田)最初に合金のインゴットは溶かして作る。それから、鍛造(たんぞう)や圧延などの加工を加えたり、高温で加熱処理したりする。そうすると、伸びが出て特性のバランスが取れるようになるんだ。ただし、多元アルミ合金の特性には不安定なところがある。加工や熱処理の条件が少しでもずれると、特性が十分に出ない。逆に強度が落ちたりしやすいんだ。

アルミ合金の特性を安定させるには、加工や熱処理の条件を細かく変えて、何回も繰り返す必要がある。けど、何回も加工、熱処理を繰り返すと値段が高くなるだろう。安く思われているアルミに、手間ひまかけて高くすると、なかなか買ってもらえないんだよ。だから最後の方の手順をすっ飛ばして、ユーザーに出しちゃったんじゃないかな、神鋼は。

ー そんなことして、部品が壊れたらどうするんですか?

(相田)鉄に比べてアルミは軽いから、飛行機や電車や自動車なんかの移動機械に使われることが多い。H2ロケットにも使われてるらしい。移動中にこれらのアルミ部材が壊れたら、とんでもないことになる。でもアルミのユーザー側も、部品を設計する時には強度にある程度の余裕を取っている。材料のギリギリの強度で使っていると、あっという間に部品が壊れてしまうからな。神鋼も、その辺の余裕を見越して手を抜いてるんだと、俺は思う。向こうもプロだから。

ー 何のプロだかわかんないですが。でも、今のところでは、ユーザー側から問題があったという報告は無いみたいですね。神鋼のアルミ部材を使っても。

(相田)そもそもこのアルミ材料は、太平洋戦争戦争中にゼロ戦の機体として開発された、超々ジュラルミンから派生した合金だ。元々は超先端材料として開発された合金が、今ではバナナの叩き売りみたいに安く売られてる。材料を作る側にも、なかなかつらい所もあるよな。

トヨタのプリウスは3百万円台で売られている。だけど、使っている部品を個々でバラ売りしたら、総額は軽く一千万円を超える筈だ。ものすごい高級部品を揃えても、量産効果で無理矢理に値段を下げてるんだ。確かに消費者には良いことかもしれないけど、商売としてはどうかなという違和感が、前々から俺にはある。

神鋼は不正な手続きをやったけど、材料が今すぐに壊れる訳じゃない筈だ。欠陥だ、自分のクルマは大丈夫か、とか騒ぎ立てても、まず壊れたりしない。冷静に対応するべきと思う。

ー ところで、僕たちの対談も入った「東芝はなぜ原発で失敗したのか」(電波社)という単行本が、書店で発売中です。ぜひご覧ください。

相田英男 拝