やっぱりウソだよこの話
相田です。
以下の記事は、異なる話題が入り乱れた、ごちゃごちゃした内容で、大変わかりにくい。書いた人物が、内容をよくわかっていないので、仕方がないのだが。ざっくり整理すると、以下となる。
① 軽水素とホウ素による核融合反応を、岐阜県にある核融合実験装置(LHD)を使って確認した。
②実験のアイデアは、米国の核融合スタートアップ企業の「TAEテクノロジーズ」が提案した。
③ 軽水素とホウ素による核融合反応は、中性子を発生しないが、従来のD-T反応の30倍の高温反応が必要となる。
④TAEテクノロジーズでは、磁場反転配位(FRC)型という閉じ込め性能が高いプラズマ制御技術を開発中である。ただし、基礎検討の段階で超伝導コイルを使った実験はまだである。
⑤TAEテクノロジーズの研究者は、30年以内にFRC型核融合反応の実証炉が出来る、と期待してる。
最初に、岐阜県の核融合科学研究所の話が出てくるので、そっちの成果なのかと思った。だが、そうではなく、実験装置を使わせただけだ、ということらしい。岐阜県は、単にダシに使われただけだった。
それでもプラズマ型の核融合装置で、実際に核融合反応を確認した事例はほとんど無いので、貴重な実験ではあるのだろう。14ミリオン電子ボルトのエネルギー持つ高速中性子が生じる実験など、その辺の機械で安易に出来るものでは無い。イーターの実験も、スケジュールの大半は、核融合反応を起こさないで、重水素(D)だけのプラズマの安定制御実験を、延々とやるのだ。最後の最後に、核融合を起こすために、三重水素(T)を含むプラズマを作り装置を稼働する。が、そっちは、何が起こるかわからないので、正確な工程を決めておらず、出たとこ勝負になる筈だ。
私がここで、ずっと書いているが、D-Tの核融合反応では、高速中性子が発生し、周囲の機械に大きなダメージを与えるのだ。プラズマ制御のために使う超伝導マグネットも、中性子を浴びて特性が低下し、超伝導を維持できなくなる。この超伝導から常伝導状態に変化する現象を「クエンチ」と呼ぶ。記事の通りに、イーターで核融合反応を起こすと、早い段階で超伝導マグネットにクエンチが起きて、プラズマ制御が困難になると予想されている。
だから、イーターが動き始めても、その後に、商業用の核融合発電が早期に実現するなど、出来る筈ないのである。キャノングローバルなんちゃらという、シンクタンクのおっさんが、「核融合発電が商業ベースに乗る日も近い」と、散々吹聴しているが、あんなのは全て大ウソだ。大概にせえよ、全く。
それで上記の③に、中性子を発生しない新たな核融合反応を確認しました、メデタシですね、という事になる。が、そんな安易な事は、やっぱり全くない。
実験内容を書いた記事をチラリと見たが、ホウ素(B)の原子は、最初からプラズマ中に燃料としてある訳では無く、LHD装置の脇についている、プラズマを加熱する中性ビーム加熱装置を使って、水素プラズマ中にイオンとして打ち込むらしい。確かにそれならプラズマになるだろうが、そんなやり方でチビチビとホウ素イオンを加えても、ほとんど核融合反応の発熱は期待できない。
なので、上記③の磁場反転配位(FRC)型とやらの、新しいプラズマ制御方式を使って、更に高密度のプラズマを作る研究を続けます。どうか皆さん、TAEテクノロジーズにたくさんのお金を投資してください、という話に繋がる訳だ。ふう、ややこしいぜ。
それで、そのFRC型の新しい核融合炉が、いつモノになるかというと、「20―30年代に発電能力を実証する」らしい。「発電能力を実証する」とは、商業発電炉の一つ前の実証炉(デモリアクター)を建設して、発電を起こす、という意味だ。ちなみに、イーターは実証炉の前の「実験炉」である。イーターはの構想は、私が学生時代から既にあった。それから30年長を経て、2兆円を費やして、ようやく実験に漕ぎつけた。せっかく作ったのだから、これから10年くらいは実験に使うだろう。その結果を踏まえてから、次の実証炉に進むと、計画されている。
それと比べると、だな、イーター(トカマク型)とは全く異なる炉形で、あと30年で実証炉を作るというのは、どう考えても無理があるのではないだろうか?実験炉をスキップして、いきなり実証炉に進むという道もある。が、そうそう上手くいくのか?中性子を発生しない核融合反応は、温度が高温になるため、高温に耐える材料が必要になるそうだ。私は断言するが、現在の世界に存在する材料よりも、高温に耐え得る材料は、最早存在しない。今後、研究を重ねても作れない。少なくとも金属材料ではあり得ない。GEや三菱重工が、高温ガスタービンを開発する過程で、周期律表に存在するほぼ全ての元素を使って、金属の耐熱性を突き詰めているからだ。
セラミックスならば可能性はあるかもしれない。しかし、セラミックスは溶接ができないため、タイルのような貼り板で使うのが席の山だ。使える部分が限定されざるを得ない。そんな状況で、早期の発電試験ができるのだろうか?まあ、ヘリウム3のように、原料が木星から取って来ないと使えない訳ではないので、その分マシではあろうが。
なので、このTAEテクノロジーズとかいうスタートアップ企業が言うことも、やっぱり大ウソだろう。核融合の話を読むと、このように、あちこちにたくさんのウソが散りばめられている。それを御大層に読者に煽るので、壮大な詐欺の勧誘を受ける気分に、毎回させられるのである。
(引用始め)
世界初「軽水素とホウ素による核融合実験」に成功、スタートアップが描く未来
5/7(日) 16:10配信
日刊工業新聞 ニューススイッチ
3月、自然科学研究機構核融合科学研究所(岐阜県土岐市)と米国の核融合スタートアップ「TAEテクノロジーズ」(TAE、カリフォルニア州)は共同で、軽水素とホウ素による核融合実験に世界で初めて成功した。軽水素とホウ素による核融合は、重水素と三重水素を使った一般的な核融合に比べて反応条件は厳しいが、放射線である中性子が発生しない点で優れる。今回の成果について、TAEの最高科学責任者(CSO)でカリフォルニア大学教授の田島俊樹氏は「軽水素とホウ素による核融合実現の入り口に立った」と力説する。
TAEは1998年に創業し、長年にわたり核融合発電に挑戦してきた。核融合スタートアップとしては最古参の存在だ。核融合は重水素と三重水素の核種を用いるのが一般的だが、非主流の軽水素とホウ素による核融合を目指している。
今回の実験は、核融合研の大型ヘリカル装置(LHD)で行った。磁場で閉じ込めたプラズマにホウ素の粉末を振りかけた後、時速1500万キロメートル超の速度で側面から軽水素を照射してホウ素にぶつけ、核種同士を融合。この核融合反応によって生じたヘリウムをTAEの計測器で捉えた。
重水素と三重水素による核融合では反応の際、放射線である中性子が発生する。中性子は膨大な熱エネルギーを持つが、遮蔽(しゃへい)が難しく、炉壁に当たると金属を放射化し、放射線を出す放射性物質に変化させてしまう。
これに対し、軽水素とホウ素では反応の結果、高温のヘリウムしか出ないため、炉壁が放射化するリスクが小さい。反応条件が難しいという課題もあるが、それでもTAEが軽水素とホウ素の核融合を目指すのは、創業者の故ノーマン・ロストーカー氏の遺志を受け継いでいるからに他ならない。
ロストーカー氏はカリフォルニア大学アーバイン校(UCI、カリフォルニア州)のプラズマ研究者であり、田島教授は教え子に当たる。73年、田島教授はロストーカー氏に初めて会った際「プラズマの理論は構築された。これからはそれを使った応用が重要だ」と説かれた。その応用の一つが核融合であり、50年もの歳月を経て師の教えを実現しようとしている。
ロストーカー氏が唱えたのが「End in Mind」(出口から考えよ)という思想だ。では、核融合発電における出口とは何か。それは安定的にエネルギーを生み出し続ける装置を成立させることだ。そのためには、軽水素とホウ素の核融合しか道はない―。TAEはそう結論付けた。田島教授は「中性子が出ることによる安定運転への影響は大きい」と指摘する。
一般的な核融合発電を阻む主な課題は、中性子による放射化と超電導コイルの性能劣化にある。放射化は保守が困難になるなど、安定運転に支障を来す恐れがあった。また超電導コイルに中性子が多く当たると、熱により超電導特性が失われる「クエンチ」という事象が発生する。これを防ぐため、中性子を遮蔽(しゃへい)する炉壁を大きくすると、今度は装置全体が巨大になり、コスト増につながる。
一方、軽水素とホウ素では中性子が出ないことから放射化の懸念がなく、装置のコンパクト化にもつながる。ただ、核融合を起こすための反応温度が極めて高く、重水素と三重水素よりも30倍のプラズマ温度が必要になるという。このため国際熱核融合実験炉(イーター)のように強力な磁場でプラズマを閉じ込めるトカマク型の方法や、レーザーで核融合反応を起こす方法は使えない。そこでTAEが採用したのが、磁場反転配位(FRC)型という炉系だ。
FRCは理論上、閉じ込め性能が高い高エネルギーのプラズマを作ることができる。まず線形装置の両端で閉じ込め効率が低いプラズマを生成。それらを中央に向けて加速させ、二つのプラズマを合体させて閉じ込め効率が良いプラズマを作る。プラズマの性能が高まると外側から強力な磁場で閉じ込める必要がなくなり、プラズマ自身が持つ磁場によって閉じ込められる。
従来はFRCのプラズマを一定時間、閉じ込めることが難しかったが、プラズマに外部から高エネルギーを与える方法で課題をクリアした。これらの方法について、田島教授はプラズマを「自転車」に例えてこう表現する。「自転車はペダルをこぐまでは不安定で転びやすい。だが、ひとたびペダルが回り、進み始めると安定して前に進む。プラズマも同様にエネルギーを高めていけば、自分自身が作る磁場によって安定的に閉じ込められる」。
具体的にはこうだ。まずFRCのプラズマに外部から加速器でエネルギーを加える。加速器からのエネルギーを受け取ったプラズマは、自身が持つ磁場の閉じ込め性能が高まり、安定化するという仕組みだ。今後建設する実験装置や商用炉では加速器のパワーを上げ、よりプラズマにエネルギーを与える。同時に高エネルギーになったプラズマが外側に広がろうとするのを抑えるため、超電導コイルを導入する計画だ。
高温に耐える材料開発不可欠
事業体制も着々と整いつつある。2022年には米グーグルや住友商事などから2億5000万ドル(約336億円)の資金調達を実施。またグーグルの計算機の知見を生かし、開発を効率化している。ロストーカー氏が抱いた夢はTAEに受け継がれ、今、花開こうとしている。田島教授は「(ロストーカー氏が)20年以上研究してきたプラズマや装置の知見を進歩させてきた結果だ」と強調する。
核融合においてプラズマ研究は進展しているが、発電にはエネルギーの取り出しや装置としての安全性が求められる。特にFRCは通常想定する核融合発電よりも高温のプラズマを使うため、それに耐えうる材料開発が不可欠だ。田島教授も「我々はプラズマの専門家ではあるが、周辺機器については協業していく必要がある。日本企業にはその点を期待している」と話す。
実現まで遠く、国が研究の主体だった核融合。しかし、10年ごろに急増した核融合スタートアップの存在は、この潮目に変化をもたらした。巨額の民間資金が流れ込むことで研究開発が加速。野心的なスタートアップは20―30年代に発電能力を実証すると意気込む。TAEもその1社だ。田島教授は言う。「2、3年後に核融合発電を実現できるとは言わない。ただ30年かかる話ではない」。その目は核融合の「出口」を捉えている。
(引用終わり)
相田英男 拝