いよいよこれからが本番だ

相田英男 投稿日:2018/11/01 12:36

相田英男です。

10月30日のNYダウ株価は、400ドル以上がった一方で、かのGEの株価は、10ドルそこそこに低迷しています。理由は簡単で、同日発表された18年度第2クオーター(7,8,9月)決算で、純損益が228億ドル(約2.6兆円)の大赤字を出したためです。アメリカの企業では史上最高額の赤字だそうです。アルストムの減損から予想はしていましたが、やっぱり凄まじい規模です。フラナリーに変わって社長になったカルプには、散々な門出になりました。

今のGEの株式時価総額は10兆円くらいまで減りました(全盛期の2000年頃は50兆円を超えていた)。そこから2兆円の赤字が出てしまうと、いよいよ危ない領域になります。GEの危機は、アメリカ経済界でも、最もホットな話題の一つになりました。

今回のカルプの発表では、大赤字以外にもいくつかの注目すべき内容が出てきました。ブルームバーグの以下の題目の記事に、大まかにまとめられており、箇条書きで説明します。

〔参考記事〕
GE Sinks to 2009 Low After Accounting Probe Adds to CEO’s Woes
By Thomas Black, Natasha Rausch and Matt Robinson
Bloomberg October 31, 2018

1. 刑事訴訟される怖れがある?
上記の記事について、一部の翻訳がネットにあったので一部引用します。

(引用始め)
米ゼネラル・エレクトリック(GE)は、米証券取引委員会(SEC)による会計調査が拡大していると明らかにした。この発表で株価は9年ぶりの大幅安に見舞われ、ラリー・カルプ新最高経営責任者(CEO)にとっては厳しい船出となった。

GEは30日、カルプCEO就任後初となる決算とともに、電力設備部門で計上した約220億ドル(約2兆4900億円)の費用についてSECの会計調査が広がっていると発表。同社が1日に明らかにしていたこの減損処理に関しては、米司法省も調査している。
(中略)
特に懸念されるのは司法省の関与だ。ブルームバーグ・インテリジェンスの法務アナリスト、ホリー・フラウム氏は、「事態は一段と深刻になっている」と述べた上で、「SECは民事提訴できるが、司法省は刑事訴訟を起こすことができる」と説明した。
(引用終わり)

相田です。昨年の12月にGEは、保険事業の焦げ付きで1兆円の赤字を出し、証券取引委員会(SEC)の会計調査が続いています。実はアルストムの「のれん減損」があまりに巨額なため、SECの調査が火力事業部のGEパワーにまで拡大した。それだけではなく、司法省(the Department of Justice)も、GEパワーの会計状況の調査を始めたというのです。犯罪の可能性があり、下手をすると不正会計による告訴も想定されるとのこと。だんだん大事(おおごと)になってきました。

2. HAガスタービンの損傷トラブルは「ディープ・インパクト」だ。
英文記事の和訳されていない箇所の、気になった記載の一つを引用します。

(引用始め)

The power unit’s difficulties will “persist longer and with deeper impact than expected,” Chief Financial Officer Jamie Miller said on a conference call Tuesday. As a result, GE will miss its full-year target for cash flow by a significant amount, she said.

(引用終わり)

今回の2兆円の赤字は、火力発電部門のGEパワーで生じたものです。GEの最高財務責任者であるミラー女史という方が、「火力発電部門が抱える問題の解決には、予想以上の困難が伴う」と発言したと、記事に書かれています。ミラー女史は、状況の深刻さを“deeper impact”と述べています。

具体的な問題については、記事では触れていません。でも、私が思うに、“deeper impact” とは、HA型ガスタービンのブレード翼の損傷を指す筈です。ブレードのトラブルにより、エクセロンのコロラドの発電所と、フランスのブシャン発電所でもHAタービンは稼働を停止しました。でも、部品交換をしてタービンを動かせば解決する訳ではありません。

HAタービンを納入する際にGEは、数年間は発生するタービンの修理、補修の費用を、全て負担する長期間の保険契約(LTSA)を、電力会社との間で結んでいます。今回のような想定外のトラブルによる停止が起きると、保障期間中の費用をGEは全て負担しなければなりません。場合によっては、修理費の他に、代替で動かす旧式発電設備の燃料代も含まれます。

これらのLTSA契約により生じる、負担金額の総額が、GEは測りきれてないのだと私は思います。“deeper impact” とは、このことだろうと考えます。

3. 発電事業は二つに分けられる

現CEOのカルプが発表した最初の対策は、発電事業を担当するGEパワーを分割することです。具体的には、収益性の高い(と予想される)ガスタービンを中心とする部門と、「それ以外」の事業に分けると。後者の「それ以外」には、蒸気タービン、原発、送電、変電事業、等が含まれます。アナリスト達の間では、収益の悪い後者の部門をまとめて売却するつもりだろう、と噂されているそうです。

この辺から私の最も興味がある話につながるのですが、私の予想では、GEからスピンオフした発電事業部門は、どこかの投資会社を一旦経由した後に、東芝と合併すると思います。最早言うまでも無いのですが、東芝の重電部門の技術はGEの完全なコピーです。何から何までコピーです。GEから手取り足取り教えてもらった技術なので、何の問題も無く、くっ付ける事が可能です。

そんな不採算の事業を押し付けられても、東芝も引き受けるはずがないと、普通は考えます。が、多分東芝は受けます。何故ならば、今のGEには金がありませんが、東芝は金を持っています。半導体事業を売って儲けた2兆円があります。不採算事業を切り離した後でも、GEにはその部門を退職したOBへの年金の支払いを考える必要があります。しかしGEには年金を払う余裕が最早ありません。

スピンオフした重電事業に、GEは年金の支払い枠をかなり乗せて東芝に引き渡し、東芝の2兆円を注ぎ込んで補填する、年金が増えてめでたしメデタシ、という筋書きだと、私は予想しています。なんといっても、GEの鶴の一声でウェスティングハウスの原発を買ってしまった東芝ですから、最後までGEに尽くして終わるのではないでしょうか。

展開がますます楽しみになって来ました。

相田英男 拝