[980]架空対談「副島隆彦氏vs広瀬隆氏」続編

田中 進二郎 投稿日:2012/06/14 03:48

 架空ケンカ対談  副島隆彦氏vs 広瀬隆氏 
田中進二郎です。ケンカ対談というのを春に二回「今日のぼやき」に掲載していただきました。学問道場サイト運営のかたがた、ありがとうございます。今日掲載する文章は、4月末に完成したのですが、学問道場に載らなかったので、「まあいいかな」と私も思っていたのですが、次に投稿する予定の文章の見通しがついたので、「重掲」にまずこちらを発表することにいたしました。賞味期限切れの感も強いのですが、先日原発事故についての憤りを述べられていた方もいましたので、「ああ、私と同類のひともいるんだな。じゃあこの原稿もまるきり無意味ではなさそうだな。」と思い、投稿することにしました。

4月にこの文章を終わらせたあとしめくくりに副島先生主催の「福島原発難民ツアー」に参加、原発事故後の行政がいかに国家官僚の主導で粛々とすすめられているかについて、理解を新たにしました。副島先生が何ゆえに「福島の現場に来るように。」と繰り返しおっしゃっていたのか、そのことの意味を痛感しました。

福島に行った後と、行く前の自分が変質していることも事実ですが、自分としては愛着がある、このケンカ対談を未完で終わっていると思われたくなくて発表します。最終回(その5)が自慢です。今日載せるのは故吉本隆明氏が日本人への最後の遺言として、「原発を
危険だからやめるというのは、人間が猿に戻るに等しい」という趣旨のことを訴えた、それを架空副島氏が架空広瀬氏に言ったあとのところからです。

これより架空ケンカ対談

(その4続き)
広瀬氏「今、あなたが言われた吉本隆明さんの発言を石原都知事が引用してひどいことを書いています。(産経新聞2/6朝刊1・2面)全く絶句してしまう内容なのです。後半の部分を読んでみましょう。
(これより石原慎太郎の文章より引用)
『人間の進化進歩は他の動物は及ばない人間のみによるさまざまな技術の開発改良によってもたらされた。その過程で失敗もありその超克もあった。それは文明の原理で原子力もそれを証すものだ。そもそも太陽系宇宙にあっては地球を含む生命体は太陽の与える放射線によっても育まれてきたのだ。それを人為的に活用する術を人間は編み出してきた。その成果を一度の事故で否定し放棄していいのか、そうした行為は「人間が進歩することによって文明を築いてきたという近代の考え方を否定するものだ。人間が猿に戻るということ」と吉本隆明氏も指摘している。
 人間だけが持つ英知の所産である原子力の活用を一度の事故で否定するのは、一見理念的なものに見えるが実はひ弱なセンチメントに駆られた野蛮な行為でしかありはしない。
 日本と並んで原子力の活用で他に抜きんじているフランスと比べれば、世界最大の火山脈の上にあるというどの国に比べてももろく危険な日本の国土の地勢学的条件を斟酌せずにことを進めてきた原発当事者たちの杜撰さこそが欠陥であって、それをもって原子力そのものを否定してしまうのは無知に近い野蛮なものでしかありはしない。
 豊かな生活を支えるエネルギー量に関する確たる計量も代案もなしに、人知の所産を頭から否定してかかる姿勢は社会全体にとって危険なものでしかない。』(引用終わり)
 
広瀬氏「浜岡原発の全面停止の市民の要求に対しても、石原都知事は危険なんてないと、強弁してきた。浜岡の地勢条件から見た危険性について完全無視を貫いた石原慎太郎。その彼が厚顔無恥にも吉本氏を自分の勝手な脈絡に取り込んでいるわけですよ。吉本氏の発言は政府や東電が喜んで援用するだろうなあ、と思っていたら、よりによって、石原が言い出すとは思いませんでした。産経新聞を読む自民党支持者数百万の大衆がこんなのを読んで「さすがは文学者石原慎太郎だ。いいぞ。」なんて頷いている姿を想像するとおぞましいの一言です。」 

副島氏「石原慎太郎は吉本隆明氏が亡くなったときにも、『戦後最大の思想家』などと賛辞を新聞に載せていた。生きている間は吉本氏に発言の場を与えなかった敵がである。許しがたい。石原はとっくの昔に老害そのものになっている。どうせここまで追い詰められたのなら『今こそ東京に原発を!』ぐらい言え!(笑い)2月になって、東電バッシングが解禁になって政府やメディアは東電をスケープゴートにする姿勢がはっきりした。当然こうなるだろうという予想通りの展開だ。経済産業省+保安院や政治家は解禁日に合わせて、メディア工作をしていることが見え見えだ。自分たちは東電を隠れ蓑にこそこそ国民の怒りから逃れようとしている。」

広瀬氏「石原都知事は、反原発運動のことを、福島原発事故が発生したから気が動転して集団的ヒステリーに陥っている、と言ってるけど、ほとんど半世紀かけて日本国民全体が、原子力発電の存在に対して無意識になるように仕組んできたこと、これに対して国民は怒っているわけでしょう。それなのにね、石原は『一度の失敗ぐらいで多くの国民が感情的になっている』と二重の嘘をついているんです。東海村JCOの臨界事故すら国民の記憶から抹消しようとしているのではないか。そのように読めます。」

副島氏「吉本隆明さんが言っていることは、スリーマイル島事故やチェルノブイリ事故、そしてこの福島原発事故でも、原発推進派と反原発も双方とも非民主的であること、これを訴えておられたのです。原発推進派は権力と金を使って事を押し進めようとするし、反原発は恐怖心を煽って国民の支持を集めようとする。どちらも人間の良心を麻痺させる方法であるという点では共通している。左翼運動ひいては反原発運動の中にあるスターリニズムこれを批判してきたのが、吉本さんですよ。反原発運動はいまだに教条主義とヒステリー、という手法から卒業できていない。

たとえばですよ、福島の被災地なんかをずっと、ガイガーカウンターで計ってみると、日に日に放射能が弱くなっているのです。昨年3月の爆発直後は福島市は3月13日に24マイクロ・パーアワーと『非常に高い数値』だったがストンと放射線量は落ちて、5月・6月には1.4マイクロシーベルト・パー・アワーぐらいの平均値になっている。けれども放射能コワイコワイ派は3月とか4月(2011年の)に測定した放射能被曝の測定値、たとえば20マイクロシーベルト、パーアワー(一時間当たり)だったらそれに24時間×365日(8760倍)を掛けないことには気がすまないのです。それで年間累積被曝量175ミリシーベルト・パーイヤーというのを出して、『信じられないくらいにこの土地は汚染されてしまいました。もう、ここには当分人は住めません。子供は絶対に避難すべきです。』と言う。飯館村がまさにそうだった。

ICRPが昨年の大震災後3月の終わりに住民の被曝限度は20ミリシーベルト・パーイヤーまでと変更した。本当はこんな程度の被爆は、ちょうどいいホルミシス効果が表れて長生きできるんですよ。ICRPの放射線医学の専門家は中村仁信氏をはじめとして、山下俊一氏も中川恵一氏もみんな、こんな程度は安全だと言っている。しかし放射線医学の専門家でもないあなたたちは、彼らを『御用学者』よばわりし続けて医学者の社会的信用を失墜させる言動をはたらいている。御用学者は原子力工学や核物理学が専門の連中なのである。かれらと放射線医学の専門家たちを意図的に混同して、アジテーションしているのがあなたたちのやりかただ。

また事故直後に測定した高い数値を8760倍した年間積算放射線量の放射能汚染マップみたいなのを、ばらまいて日本国民を福島に入れないようにしている。これが教条主義でなくて何なのだ。」(筆者注 一例としてオークラ出版「放射能ホットスポットマップ」)

広瀬氏「教条主義をいうのなら、東電をはじめとする電力会社の方ですよ。彼ら東電社員は、現在では原発のプラントをただ動かしているだけで、もうほとんどのひとが故障したらどうすればいいのかについての経験も知識もない一介の労働者ですよ。、原子炉という巨大装置は、テレビ解説やインターネットで検索したら出てくるような模式図なんかと全然異なる、複雑に入り組んだ仕組みになっている。田中三彦氏のような、原発を造った設計技師でないとわからないですよ。ところがすでに現在造られてから40年を超えてきて、日本人として設計に加わったひとの多くが定年を迎えて、現場を去ってしまっている。原発は急速に斜陽産業になりつつあるのです。

内部が腐食した組織では教条主義がはびこります。原発が事故を起こしてもきちんと原因を調査しない。だからわれわれのような本来門外漢である人間がなんとか情報を共有し合って、東電の事故の責任を問うていかなくてはいけない。彼らは東電敷地内で900ミリシーベルト・パーアワーの放射性瓦礫がみつかっても、それがどうしてそんなに高い数値なのかを説明することもできない。これはMOX燃料(プルトニウム・ウラン混合酸化物)との関連があるからですね。使用済みの核燃料プールが水素爆発を起こしたためだと考えられるんですが、マスメディアで絶対に口にしてはいけないのが、プル・サーマル計画とMOX燃料とプルトニウムという言葉です。

確かに武田邦彦氏のように原子力村に片足を突っ込みながらものを言ってる人間には真実は語れないと思いますよ。武田氏はご自身のブログで『プルトニウムの危険についてはそれほどの心配はいらない。』と書いていますが(筆者田中注 グーグルで「プルトニウム」を検索すると武田邦彦氏のこのコメントがでてきます。)ま、つまり庶民の不安や怒りを代弁しながら、本当のタブーについては適当なことをいって、ごまかすこと。これが最初から原子力村から武田氏に与えられていた役割なのかもしれませんね。はじめからそういう戦略が練られていたと。

また彼はぺらぺらと聞かれもしないのに原子力安全委員にいた当時のことを語っているが、安全委員会が原発周辺の各市町村にヨウ素剤を配らなくてもいい、どうせ原発は安全だからと全員賛成で決定したときに、彼は一人で反対したというのですね。でもそれじゃあ、市町村に「ヨウ素剤をもらいに行きなさい」とかなんか、独力で行動したのかというと、何にもしてない。そういう中途半端な性格なんです。足尾銅山鉱毒事件の田中正造のように権力の横暴や怠慢をみても行動に移そうとはしない。でもね、それこそ彼みたいなのが原子力帝国の要請する人間像なんですよ。アメリカなんかでは原発労働者に対してストレス・テストをする。原発の耐性審査じゃありませんよ。性格が反抗的でないか、とか秘密を暴いたりする人間じゃないか、とかね。そういう精神的傾向をも職員や労働者に対してテストします。まあ、私とあなたは絶対にアメリカの核処理施設や原発で働いたりできません。(笑い)」

副島氏「たしかにあの男は優柔不断そのものです。今でもはらわたが煮えくり返ってくる。私が信頼しているのは放射線医学総合研究所や、放影響研究所の放射線医学の専門家たちですが、武田邦彦はICRP(国際放射線防護委員会)の山下俊一氏や中川恵一氏は嘘を言っている、と私の前ではっきりいった。それは『原発事故、放射能、ケンカ対談』のp85を読んでいただければわかる。ところが私が『嘘をついている』と復唱したら、『しまった、こういうと後で小宮山宏に叱られる』と思ったのでしょう、必死に前言撤回しようとしている。ここらへんは私の読者たちはにやにやしながら読んでくれているでしょうけどね。武田の化けの皮はとっくにはがれている。よくあんなにもころころ意見を変えれるもんだ。彼のブログの文章はひとつの文章の中で考えが変わる。あれでは、かなり頭の悪いラドママ(放射能コワイコワイ症の母親)ですら、武田はおかしいと気づくだろう。」

広瀬氏「日本の放射線医学者も、1950年代前半までは世界のトップクラスの研究者が数多くいました。しかし1960年代に入り、中曽根康弘をリーダーとする推進派にパージされてしまいました。放射線医学総合研究所には木村真三氏のように、福島の事故の直後に深刻な放射能汚染の実態を調査をした方もおられます。しかし研究所は事故後勝手な行動は慎むようにと指示を出して、研究者たちを牽制したのです。木村氏は辞職願いを出して、福島に行ったのです。放医研とはこのような組織です。東海村JCO事故のときも同じだったと木村氏が語っています。真の研究など許されてないのです。まともな放射能の専門家などほとんどこの組織の中にはいません。(『原発の闇を暴く』p176より)

副島氏「むちゃくちゃなことを言うな。放医研や放射線影響研究所のいってることが正しいのである。チェルノブイリでもスリーマイルでも急性放射線障害を除いては、小児甲状腺癌以外の健康被害はほとんどでていない。ロシア科学アカデミーのアルチュニアン博士もチェルノブイリ周辺で、甲状腺癌を発症したのは740人で死者はないといっている。事故の作業員48名が急性放射線障害で亡くなった以外では、80人が白血病でなくなった。けれども白血病はどこででも起こっている病気です。(『放射能のタブー』より)」

ただし、今のICRPの委員会組織には複数の指令系統があるんでしょう。笹川財団などが研究費を出している山下俊一氏や中川恵一氏のような旧来の保守系にもつながりが深い放射線医学会の勢力と、彼らのいうことは嘘だと、1ミリシーベルトでも危険だと言えというグループ。ICRPは医学者の中でコンセンサスがあるという表看板の裏に回ると、旧勢力はもういらないという考えの人間もいるでしょう。私は武田邦彦のような人間を新体制派であると、はっきり彼の目の前で言ってやりました。

彼ら新体制派の特徴とは庶民の味方の、ふりをすること、それと近代的人権論をふりかざそうとすることです。小佐古敏荘(菅内閣での内閣参与で,ICRPの基準値引き上げにともない、福島の児童に20ミリシーベルトまでの被曝までを許容するとした内閣の発表に抗議して内閣参与を辞任した。)にも同じことが言える。今回の原発事故でマスメディアの前で泣いたやつはみんなうそつきだ。そのことを私は真実言論派の人間として暴く。小佐古も、今中哲二もそしてあなたも泣いた。

話を戻すと、武田のような人間の人権思想には、日本の家族制度というものに対する理解がない。日本の家族というのは一蓮托生の運命共同体的な側面を持っている。父親が福島を離れられない以上、子供たちも福島を離れることはできない。これは第一義的には経済的な理由からなのですが、日本の家族特有の性格からくるところもある。それらを無視して、子供が大人同等の人格と権利を持つとみなすのは、現実にまったくそぐわない。

そういえば水俣病問題でも同じようなことがあった。有機水銀中毒になった魚を食べた母親の胎内にいた胎児が有機水銀に冒された。その結果生まれたときにすでに水俣病に罹患していて、その後死亡した。この問題に裁判所は、堕胎罪は故意犯なので適応できない。しかし当時の法感情に照らしてなんとか有罪にしたい。そこで裁判所は業務上過失致死罪を適用した。刑法学者や裁判官たちは、胎児にも人権があるとみなしたのである。
(副島隆彦、山口宏共著『法律学の正体』第四章 刑法を参照)

今あげた例ほど、放射能こわいこわい派の害は微妙ではない。あなたたちリベラル派の抽象的な愛からくる『子供も老人も放射能から守らなければならない』という主張ははっきりと非現実的なもので、百害あって一利なしだ。まさに地獄への道は善意で舗装されている、の格言通りだよ。

今回のような緊急事態において、社会が構成員すべてを守ろうとするのは土台無理な話だ。現実社会を冷酷に見つめると、逆説的にではあるが、ハリウッド映画の自然災害もののようなものの方がずっと真実を衝いているように思える。映画と同様、実際には日本の裕福な層から順に『ノアの方舟』に乗るチケットを手に入れ、海外に移住していっているのだ。

その一方、最も放射能汚染の被害を受けた、福島県民は東京に一時避難するための新幹線代すらままならない人もいるのである。そして福島の一般市民の大部分が福島を離れては食っていけない。こういう現実を無視して、子供たちをとにかく守れということになんの意味もない。もうあらかた原発事故の危機は終わった。これからはショック・ドクトリン政策に惑わされずに少しでも明るく家族一丸となって、生活の立て直しを進めていくことだ。山下俊一氏のいう『放射能は笑っている人にはやってこない』というのは名言だな。ヨウ素剤の問題だって、日本人の食卓には海藻類がたくさん入ってるから、ヨウ素剤を飲まなくても大丈夫、という意味でしょ。ただ、あのタイミングでいうのはさすがにまずかったと思う。けれども今なら彼の言葉も見直されるのではないか?」

広瀬氏「・・・それは一定のヒバクシャのでてくることを前提にした上での話ですね。」

副島氏「だから、言ってるだろう。今回の福島のレベルでは被爆者はでてこないんだって。」

広瀬氏「あなたの言いたいことは大体わかりました。福島の家族を引き裂いてしまったら、それはもう家族ではない、ということですね。けれども旧約聖書にでてくるある一つの逸話を思い出していただきたい。ソロモンの叡智といわれているものですが、ソロモン王のもとへ二人の女が駆け込んできて、賢明なソロモン王に裁きを求めた。二人の争いというのは、ひとりの赤ん坊をめぐって、どちらもその子が自分の子だと主張して譲らないのであった。

そこでソロモン王はこういった。『では、この赤ん坊を真っ二つにして二人に分けて与えよう』と。するとひとりの女がこういった。『そうするくらいなら、その赤ん坊をあの女に与えてください』と。それを聞いたソロモン王は「お前が本当の母親である」と言って、その女に赤ん坊を返したという。(列王記 上 第三章より)

家族愛とはこういうものではないですか?たとえどのような代償を払おうとも、子供が生き延びることを願うのが、普遍的な親の愛というものでしょう。子供を避難させなかったばっかりに、甲状腺がんや白血病にさせてしまったと、悔やむ母親の悲しみはどんなに悲痛であることか。このような母親はどうしても自分がわが子を殺してしまったという、罪悪感にさいなまれるケースが多いのです。チェルノブイリはまさにそういう母親の嘆きの大地と化したのです。これから3年後の福島がこうならないことを祈るのみです。」
(その4了)