[959]フフホト通信(中国内蒙古自治区から)

石井裕之 投稿日:2012/05/10 00:59

中国の内蒙古自治区からフフホト通信を石井裕之がお伝えします。
理由はまたゆっくりとお知らせしますが、もうすぐ山東省の青島に引越しする予定です。
海鮮が豊富で、気候も穏やかなので今から楽しみにしています。

さて、このたびは中国の南方に位置する貴州省の貴陽市のお話しです。
http://ja.wikipedia.org/wiki/貴陽市
↑貴陽市の詳しい説明はウィキペディアを参照下さい。
場所は四川省の南側です。

実は日本式の本格的な温泉施設の提案をして欲しいと、貴陽市の政府に乞われて初めてこの地を訪れました。マオタイ酒が有名なことくらいしか予備知識が無かったのですが、狭い盆地の中にひしめき合うようにして都市作りをしています。
地元の人に言わせると、「大陸の香港」だそうです。平らな場所がない、という意味ではそうかもしれません。
ここには中国に現存する少数民族の内95%の種類の民族が住んでいるそうです。我々をアテンドしてくれた現地の通訳さんもミャオ族の女の子でした。
ウィキペディアの貴陽市の紹介欄の写真を観て頂いても判るように、この小さな街に巨大な超高層ビルが乱立しています。
私は四川省の成都経由でこの貴陽市に入り、急な要請だったこともあり、ネクタイやスーツを持っていませんでした。妻に頼んで、街中に買いに行ってもらったのですが、上海や北京同様、高級ブティックが普通に並んでいたそうです。

閑話休題。温泉です。
イツノマニカ、私は中国では日本式温泉の専門化になってしまっている訳ですが(笑)、貴陽市の市役所の会議室に案内されてビックリしてしまいました。
今回の会議に参加しているのは、中国の各地から集められた投資家約200人と、企画推進側80人の、合計280人。私たちはいつも間にか、企画推進側になってしまっているではありませんか。
訳も判らぬまま、それぞれのプレゼンを聞いているうちに、ようやく話が観えてきました。

貴陽市の中心部と飛行場のちょうど真ん中ところの山間に、80平方kmという途方もない土地を確保して、そこに「映画の都~ハリウッド」の中国版を創る、というのです。
有史以来の中国の都の風景を再現し、時代劇から現代劇に至るまで、ここで全てロケが出来るような施設を建設します。更に言うと実は中国だけではありません。世界の有名な都市もここに集められるのです。
京都の太秦映画村の規模を一万倍くらいに膨らませたようなものでしょうか。
その映画ロケセット街の中に、7星ホテルや5星ホテル。日本式温泉や北欧のサウナといった施設が集められるのです。
総工費約1.2兆円。バックにはクレディ・スイスが付いているようです(余談ですが、クレディ・スイスは5年以内に香港での上場を画策しているようです)。
今から10年の歳月を掛けて建設される「街」の説明を受けて、すっかり面食らってしまいました。
と、同時に中国の「不動産バブル」について認識を新たにしたのです。
日本でも、中国の「不動産バブル」崩壊報道は繰り返し報じられています。1990年に端を発した日本のバブル崩壊を例に取るまでもなく、早晩中国の不動産バブルも崩壊する(いや、既に崩壊しているという説も)というものです。
しかし、本当にそうなのでしょうか。
確かに上海や北京の街の中心部の不動産価格は下げてきています。これは統計データの裏付けがありますから隠しようのない事実なのですが、場所によっては価格を戻している物件もある、というのです。
また、今回の貴陽市の案件に集まった投資家の面々を観ても判る通り、個人資産10億円以上の人たちが地方政府の号令一つで全国から集まるのです。
上海が駄目なら南京へ。南京が駄目ならハルピンへ。はたまた貴陽へ、新疆へ、といった具合です。
この広大な国土のそれぞれの都市の発展のスピードは様々です。狭い日本と違って都市間格差がベラボウに広がっているのです。
実はこのことが奏功しているような気がしてなりません。
この貴陽市と同様、中国の各地の余ったカネの投資先が、まだまだいくらでも存在するようなのです。

少し観点を変えて説明します。
中国の自動車の年間販売台数は、1800万台で世界ナンバー1です。
日本が軽四も含めて500万台であることを考えると、人口規模で比較しても年間5000万台くらいは自動車が売れてもおかしくありません。
また、中国の累計自動車販売台数は、ようやく1億台を越えたところです。日本全体の自動車保有台数が1億台ですから、中国では10億台保有するまで経済成長は続く、という見方も出来るのではないでしょうか。
この13億とも15億とも言われる超巨大マーケットは、実は今産声をあげたばかりなのです。内蒙古でもそうですが、地方都市(周辺も含めて)では、消費に飢えているのです。食べ物や仕事に飢えている日本とは大違いで、スキあらば電化製品を買い換えよう(買い足そう)としますし、衣料品を大人買い(一度に大量購入します)しているのです。

そのような現実を目の当たりにしたり、投資家の人たちの話を伺っているうちに、経済活動(成長)が沈静化している大都会のカネが、実に上手く地方都市に回って活かされている、ということに気付くのです。
そして、そうこうしている内に、アセアン諸国やユーロ、中東の国々とFTAの合意が為されてくると、今度は余ったカネが投資チャンスを覗ってそれらの国々に一気に流れ込んでいくのではないでしょうか。

そういったことを考えてみると、中国を中心としたアジアの成長は、今後少なくとも20年や30年は続くと観て間違いないように思えるのです。