[848]消費税増税と抱き合わせで実施されようとしている「納税者背番号制度」を見逃してはいけない。

根尾知史 投稿日:2012/01/27 21:00

SNSI研究員の根尾知史です。

これから始まる消費税増税と、それに抱き合わせで実施される
「納税者(国民)背番号制度」の話を書きます。

現在、消費税の「逆進性(貧乏人ほど税負担が重くなるということ)
を緩和する」という口実で、国民への税金還付(給付)を制度化
しようという提言が聞かれます。

実際はこの流れのなかで、「税金を返金してやるんだから」
という口実で、国民ひとりひとりに「納税者番号」をふっていく
ということが行われる予定になっているのです。

世界ではまだ韓国しか実施していない、「納税番号制度」を
日本の財務省もやりたくてしょうがない。

これで、国民の指紋から、生年月日、出生地などのあらゆる
個人情報からはじまって、個々人のお金の出入りや、金融資産や
不動産資産、海外資産の移動までも一元して、そのやりとりの
いっさいを、一つの背番号ですべて監視できることになります。

政府は、国民の間の金の流れに対する、徹底した一元管理・統制
の根幹になる納税者背番号制を、消費税増税の法案に紛れ込ませて、
これから法制化しようとしています。

メディアでは、消費税増税の議論にばかり注目して、その陰で
抱き合わせされる納税番号制度は、まったく話題になっていません。
これは明らかに意図的であり、消費税率の議論に終始しています。

財務省の御用学者たちも、納税者番号制の導入を、納税者の
効率的な把握に不可欠である、という論陣を展開しています。

「課税最低限以下の低所得層を正確に把握するため」などという
口実で、納税者番号の制度化を提唱しています。

以下に、財務省の御用学者の頭目である、森信茂樹氏のそうした、
消費税増税による、低所得者への負担増加を和らげるために、、
という論調で、さりげなく、しかし、ちゃっかりと背番号制が
不可欠であるような議論には、要注意です。

(転載貼り付け始め)

●「消費増税議論(その2)  消費税の逆進性解消には
給付付き税額控除が有効だ」

森信茂樹 [中央大学法科大学院教授、元財務官僚]

ダイヤモンド・オンライン  2011年12月19日
http://diamond.jp/articles/-/15386

逆進性=消費税の最大の欠点

消費税議論で、最大の課題の一つは、所得の低い人の負担割合が
多くなる「逆進性」をどうするのか、という問題である。

消費税は、消費に対しては高所得者も低所得者も同じ割合の税負担である。
また、高所得者ほど一般的に消費が多いので、消費税負担額は多い。

しかし、高所得者の方が消費に回す割合が少ないので、所得全体に対する
消費税負担率は低所得ほど高い。これが、「累進」税率により、所得の
多い人にはより多くの税負担を求めるべきという立場から、
「逆進」として問題視される。

(中 略)

カナダやシンガポール、ニュージーランドなどでは、給付付き税額控除を
導入して逆進性対策を行っている。給付付き税額控除とは、聞きなれない
名前であるが、一言でいえば、「消費税負担分を低所得者に還付する制度」
である。

還付という言葉は、納税義務者の税金を返すことだが、消費税の場合、
納税義務者は事業者で、消費者は負担者である。そこで還付という言葉は
正確な表現ではないのだが、この方がわかりやすい。

カナダでは、3万カナダドル以下の低所得者に対して、必要最小限の
消費支出にかかる消費税相当額を、家計調査から計算し、所得税の体系の
中で税額控除・還付しており、GST(消費税)税額控除(Tax Credit)
と呼ばれている。

(中 略)

納税者番号制度の導入が必要

給付付き税額控除で逆進性対策を行うことには、課題も多くある。
最大の課題は、低所得層が誰かを正確に把握するシステム・課税インフラ
を構築することである。

わが国には、ざっと5000万件の所帯があるが、非課税所帯は推定800万件
ほどあると考えられている。しかし、国の税務当局は、課税最低限以下の
納税していない人・世帯については情報を持っていない。

そこで、わが国でも、社会保障・税共通番号を導入し、このような世帯
・人々の所得を把握していく必要がある。消費税率引き上げ・逆進性対策には、
社会保障・税共通番号の導入が欠かせない。

以上みてきたように、軽減税率の導入は、消費税率を10%まで引き上げる
今回の社会保障・税一体改革では、政策効果が低く、我慢すべきである。

そして、速やかに、番号の法制化と、カナダ型の「簡素な給付付き税額控除」
(実態は、「消費税低所得者向け社会保障給付」)の具体的設計に入ること
が望ましい。その後、本格的な給付付き税額控除、つまりワーキングプア対策
としての勤労税額控除や、少子化対策としてに児童税額控除の制度につなげて
いくことが必要だ。

(転載引用終わり)

アメリカでもまだ、社会保障番号(ソシアル・セキュリティー
・ナンバー、Social Security Number=SSN)があっても、
韓国の完璧な国民番号制にまでは及ばないそうです。

韓国は、朝鮮戦争時に、北朝鮮のスパイを識別するという
目的で、1968年11月に、当時の軍事政権が「住民登録番号法」
を制定して、これが実現されました。

現在ものすごい勢いで進行する、市場が暴走して政治を振り回した
フリーマーケタリズム(自由市場主義)の「金融資本主義」から、
「国家(管理統制)資本主義」への移行期に、世界中で国民納税
背番号制度が、いっせいに世界を覆い尽くすかもしれません。

制度の導入時は、ごくやさしく、日本で最初に消費税を始めた時と
同じように、「いやあ、それほど大変じゃあないですよ」と言いながら、
運転免許証やパスポートの更新時に指紋を取られようになる、
地元の役所から申請書が郵送されてくる、などという手順で
じわじわと、国民を刺激しない程度の何気なさで進められていく
だろうと、知り合いの税理士が言っていました。

一度導入されてしまうと、国民のプライバシーは一切なくなり
すべてが国家という巨大官僚組織にまる裸にされる、ジョージ・
オーウェル(1903-1950)の小説「1984年」の世界が
現実のものとなります。

まだ、その恐ろしさを私たちは実感で理解できていません。
しかし、法制化されてしまってからでは、遅いのです。

これに対する有効な反論が、納税者側の利益を最優先に考える
現役の「闘う税理士」たちから挙がっています。

長くなるので、ここにはその論文のポイントの部分だけ
抜粋で紹介します。

(転載貼り付け始め)

●「消費税にゼロ税率導入の必要性 – 真の意味での“完全非課税”を実現するために –

神奈川会 益子良一
http://www.zsk.ne.jp/zeikei538/ronbun.html

(前 略)

・・・消費税税率引き上げによる消費税増税の風潮が高まる中で、
今後、逆進性を緩和するために、非課税範囲の拡大、あるいは軽減税率を
採用させる運動が巻き起こる可能性があるし、また、巻き起こさなければ
ならないといえよう。

しかし本稿では、消費税*3において非課税範囲の拡大は、必ずしも逆進性を
緩和することにはならず、真の意味で逆進性を緩和するためには、究極の
軽減税率であるゼロ税率を導入し、“完全非課税”を実現する必要性が
あることについて論述する。

(中 略)

例えば医療を例にとると、医療は、国民の生命や健康維持に直接関係
するので、患者負担を増やさない政策的配慮から、別表第1の中で、
“保険診療を含めた一定の医療費”について、「消費税を課さない」
と非課税にしている。

しかし消費税は、生産から流通に至る各段階で課税が行われるが、
「別表第1に掲げるものには、消費税を課さない」とする非課税の
条文構成では、(最終)消費者に提供した役務提供に対してのみ
消費税を課さないということとなる。

すなわち、消費税と保険診療の関係でいうと、非課税規定では、保険
診療を仮に1000円とすると、その1000円について、患者(消費者)から
消費税50円をとれないこととなる。

そうなると、医療機関が医薬品等を問屋から仕入れるとき等に負担した
消費税は、誰が負担することになるかであるが、非課税規定の仕組みでは、
仕入れ等で負担した消費税部分は、医療機関が“最終消費者”として
負担することとなる。

非課税規定では、保険診療を受けた患者(消費者)は、“消費税が
課されない”が、医療機関が保険診療を行うに当たり負担した消費税は
すべて医療機関が負担することとなり、その結果、医療機関は
最終消費者として“損税が生じる”こととなることから、医療機関の
犠牲のもとに逆進性を緩和していることとなる*4。

仮に、消費税率が二桁台になって、食料品など生活必需品を非課税に
すると、消費税の逆進性を緩和するのに、医療機関のように、流通過程の
どこか(通常は零細な小売業者)の犠牲のもとでの緩和措置となり、
租税制度として好ましい方法ではないといえよう。

(中 略)

消費税を生命(いのち)に係わること、あるいは、生活必需品に
課すことを回避し、“完全非課税”を実現するためには、消費税の
仕組みからして、ゼロ税率を導入するしか方法はない*6。

ゼロ税率とは、課税資産の譲渡等の対価ではあるが非課税としないで、
標準税率に対する究極の軽減税率として、税率をゼロパーセントに
することである。

ゼロ税率を採用すると、消費税は課税されるが、消費税の税率が
ゼロパーセントなので、課税標準額に対する消費税(0%)から、
当該課税期間中に国内において行った課税仕入れに係る消費税額を
控除することができる。

先ほどの医療機関と患者(消費者)の関係で考えてみよう。
医療機関の課税標準は保険診療1000円で、患者の消費税負担額は0円
(保険診療1000円×0%)となる。

患者に消費税の負担が生じないのは、現行の非課税と同じである。

しかしゼロ税率では、その後の処理として、医療機関は、消費税の
申告をすれば、製薬会社から問屋へと、生産から流通過程の各段階で
課された課税仕入れに係る消費税の累積額を控除することができ、
その結果、医療機関に最終消費者としての消費税負担は生じない
こととなる。

(中 略)

費税税率引き上げによる増税路線の動きが着々と進む中で、
消費税廃止の運動だけではなく、中小零細企業の犠牲によらず
逆進性を緩和する運動を展開する必要性もある。

その運動の一つとして、究極の軽減税率であるゼロ税率の導入は、
消費税導入とともに廃止された物品税と同じような個別消費税化に
繋がり、消費税を廃止するに等しい経済的効果をもたらすといえよう。 

消費税増税が言われている今こそ、医療を含めた生活必需品について、
「完全非課税」を実現できるゼロ税率=免税制度の要求運動にも
取り組む必要があると考える。

(転載貼り付け終わり)

消費税増税の議論だけに惑わされてはいけません。その裏側に
ピタッと抱き合わせで埋め込まれている、「社会保障・税共通番号」
の導入という、「国民(納税者)背番号制」の実現をこそ、
いま私たち国民が声をあげて、政治家を動かし、断固として
阻止しなければなりません。

根尾知史拝