[834]毎日新聞「記者の目」への意見

大川晴美 投稿日:2012/01/17 21:47

大川です。毎日新聞朝刊に「記者の目」というコラムがあり、1月11日は久野華代記者の「専門家は社会を見ているか 低線量被ばくの健康影響評価」という記事でした。
手元に紙のコピーしかないのですが、その趣旨は、「年20ミリシーベルト程度の被ばくによる健康影響は低い」という、昨年12月に政府のワーキンググループが公表した結論について、「避難や帰宅にかかわる重要な数値が専門家の間だけで決まり、住民との対話がなかった」ことを、久野記者が強く批判しているものです。記事の最後に「ご意見をお寄せください」と書いてありましたので、以下のメールを送りました。ここに転載します。

なお、以下のメールで私が「放射線医学・生物学の専門家ではない」と述べた方々について、他意はなく、それぞれのご専門の業績について言及したり否定したりするものではないことを、念のため申し添えます。

(1月16日発信メール 転載はじめ)
毎日新聞社 「記者の目」係
久野華代 様

おはようございます。昨日、下記の意見をお送りしました、大川晴美です。
下記メールの中で、肥田舜太郎氏は放射線医学・生物学の専門家ではない、という趣旨の記載をしましたが、確認したところ、被爆者医療において低線量被ばく、内部被ばくなどを研究されていることがわかりましたので、この点訂正いたします。
どうぞよろしくお願い致します。

大川晴美
(転載終わり)

(1月15日発信メール 転載はじめ)
From: **********
Subject: 1月11日「記者の目」への意見
To: ***********
Date: Sun, 15 Jan 2012

毎日新聞社 「記者の目」係
久野華代 様

はじめまして。***の大川晴美と申します。
1月11日貴紙朝刊「記者の目」 「専門家は社会を見ているか 低線量被ばくの健康影響評価」について、意見を申し上げます。

放射線の専門家は住民との対話をほとんど行っていない、というご指摘について、大筋ではそのとおりだと思います。しかしながら、久野様にとって専門家とは、誰のことを指しているのでしょうか。
「低線量被ばくの健康影響評価」というテーマですので、まさに「低線量被ばくの健康影響」の専門家、という意味だと思います。そうであれば、ここでいう専門家とは、放射線医学あるいは放射線生物学を専門とする専門家でなければなりません。素人ながら私が9カ月にわたって自分で調べて勉強した限りでは、放射線医学・生物学の専門家は、「年間100mSv以下なら健康リスクは極めて低い」という結論で概ね一致しています。たとえば、山下俊一氏、中川恵一氏、高田純氏、近藤宗平氏、松本義久氏は、この分野の「本当の専門家」です。
一方、小佐古敏荘氏、武田邦彦氏、小出裕章氏、肥田舜太郎氏(引用者注:上記1月16日付転載メール参照)、児玉龍彦氏などは、この分野の専門家ではありません。これらの方々は、原子力工学や、放射線「以外」の医学が専門であり、放射線医学・生物学の専門家ではありません。これらの方々を「放射線の健康影響の専門家」であると誤解していることが、メディアや政府が混乱する一番の原因なのです。このことを、いつまでたってもメディアと政府が理解できないのです。これらの方々の著書をよく読めば、放射線医学・生物学の専門家でないことは、私のような素人でもわかります。略歴を見るだけで当然わかりますし、「○○mSvでも危険」という時の根拠が、放射線医学・生物学の最新の研究成果ではなく、ICRPの基準値そのものであったり、現在の日本の法律や規制値そのものであったりすれば、法律・基準値・規制値のほうに詳しいことがわかります。(引用者注:上記の方々の中でも、法律・基準値・規制値に言及されない方もいます。)

まさにここに、問題の根本があります。
すなわち、現行の国際的な基準値や日本の法律による基準値は、何十年も前から変わらずに放置されている一方で、放射線医学・生物学の研究成果は日進月歩で進んでいます。(医学や生物学は、法律に合わせてくれませんからね!)その最新の研究成果と、旧態依然たる基準値・規制値とが、年々大きく乖離しているという現実こそが問題なのです。このことこそが、放射線防護政策全体の矛盾となって、住民を混乱させ、苦しめているのです。
2つの学問分野をつなぐ役割を、誰も果たすことができていない・・・この問題に切り込まない限り、たとえどちら側の専門家が住民と対話しようと、矛盾は矛盾として存在し続けます。

毎日新聞は他紙に比べて、放射線の健康影響についてよく理解されていると聞きました。次の段階として、ぜひこの「根本的な問題」に鋭く切り込んでいただきますよう、切にお願い申し上げます。

最後に、福島の人々と一生懸命対話を続けている専門家(その多くは放射線医学・生物学)を、私は何人も知っています。本当に一生懸命、誠心誠意、対話を続けています。久野様には、専門家の中にもこのような方々がいらっしゃることを知っていただき、ぜひ応援していただきたいと思います。

大川晴美