[810]アメリカに操られた、 ヨーロッパの財政統合・金融統制へのシナリオ
SNSI研究員の根尾知史です。
はたして、ユーロは、ヨーロッパ経済は、
これからどうなって行くのでしょうか。
欧米のメディアも、今ごろになって、ユーロを崩壊
(解散)させてしまうことの「コスト(損失)」が
膨大すぎるから、何としてもユーロの分裂・解体は
防がなければならない、と言い始めました。
先月まではあれほど、ユーロの崩壊も避けられないと、
さんざん「ユーロ危機」煽っていた、その同じ舌の根
も乾かぬうちにです。
日本のマスコミは論外ですが、欧米の一流金融紙や
英BBCなどの国営放送でも、やはり大きくはアメリカ
に操られて、踊らされて、「国際世論を扇動する役割」
をさせられているのです。
ユーロ危機やヨーロッパ諸国の財政危機を集中的に
報道させることで、アメリカ自身が自国で抱える巨額の
財政赤字や、米国債がデフォルト(債務不履行、金利や
返済の不払い)間近である実態から、しばらく世界の
注目をそらすということはできるでしょう。
だから、日本国内で金融評論家や経済学者を名乗る
「扇動家(アジテーター、agitator)」たちが、
アメリカの世界規模での情報戦略の術策にはまって、
なんでもかんでも「破綻だ、破綻だ!」とオオカミ少年を
やらされて、騒ぎ立てて、不安を煽って、それで本や
雑誌が何万部も売れればいい、というものではありません。
そうではなくて、実際は、アメリカのロックフェラー
国際資本勢力の後ろ楯を受けた、ドイツのメルケル
首相と、フランスのサルコジ大統領、新しいイタリアの
マリオ・モンティ首相(官僚出身)、そして、
欧州中央銀行(ECB)のドン、マリオ・ドラギ総裁と
彼がひきいるヨーロッパの「国際官僚(テクノクラット)」
たちが、欧州の政治家とタッグを組んで、アメリカが
ヨーロッパで抱え込んでしまった巨額の損失が表面化
するのを、どうにか抑え込んでしまおうという動きが
画策されているのです。
だから、統一通貨のユーロを利用する17ヵ国ばかり
ではなく、EU(欧州連合)に加盟する27ヵ国
(イギリスを除くと26ヵ国)で、無理やりの財政統合、
金融・税制の統一化を、強引に押し進めることに
決まりつつあるのです。
ヨーロッパのEU加盟27ヵ国が、財政統合すると
それはまるで、アメリカ合衆国の50州が、統一通貨
である米ドル(USD)を介して財政統合されて
いるのとおなじような状態になる、という構想が
あるようです。
以下に、そのことを解説した記事を、抜粋でご紹介します。
(転載貼り付け始め)
●「米国各州と欧州各国の統合の違い」 Capital―経済コラム
ウォール・ストリート・ジャーナル 日本版 2011年 12月 15日
http://jp.wsj.com/Economy/Global-Economy/node_360939
欧州は一段と完全な財政統合に傾いている。少なくとも、ドイツは
そう表現し、「Stabilitätsunion(安定統合)」と呼んでいる。
(中 略)
ドイツの視点では、ユーロを救済できる唯一の長期的解決策は、
規定されている財政規律に向け各国財政に対する共同体としての
統制を強化することだ。
米国では財政統合が確立している。ドイツからギリシャへの資金
提供の場合のような騒ぎを伴わずに、米政府を通しコネティカット州
の納税者が納めた税金はカリフォルニア州の失業保険に向けられる。
また、労働者は米国の50州を自由に行き来できる。欧州諸国間と
異なり、米国の州ごとのインフレ率の違いは持続しない。
米国の州はほぼ全部、多くの場合州憲法によって、年間の財政均衡が
既に義務付けられている。
しかし、欧州の場合は各国が単一通貨を共有している。それぞれの
国が、明白な連邦政府による援助といったものはなく、独自で
借り入れを行う。米地方債市場は総額2兆9000億ドル(約230兆円)
規模に達する。
このことが、エコノミストが熟考してきた疑問につながる。
ギリシャの状況を受けてイタリアの借り入れコストが押し上げ
られるのであれば、米イリノイ州や米自治領のプエルトリコ
(米国の他州と比較して経済規模に対する債務比率が最も高い)
の信用力を巡る市場の疑いが強まると、カリフォルニア州に
同じことが起こり得るだろうか。
(中 略)
その答えは意外だ。以下のシナリオを考えてみよう。イリノイ州は、
高水準の債務や機能しない政治のために、地方債に対し既に他州
よりも高い金利を払い、債務返済の深刻な問題に陥っている。
(中 略)
欧州に目を向けると、答えは明白なようだ。過剰債務を抱えた国が、
同様に過剰債務を抱えた諸国の借り入れ金利を押し上げる。
しかし、国際通貨基金(IMF)の新たな作業リポートによると、
こうした現象は米国ではみられていない。
・・・1つの州の借り入れコストの上昇は通常、他州の借り入れ
コストの低下につながっていることが分かった。
これは欧州で非常に歴然とした波及パターンとは正反対の状況だ。
(中 略)
・・・おそらく(米国の)地方債市場は非課税のミューチュアル
・ファンドがほとんどだ。発行体の1つが不安定に見えても、
投資家は市場を離れるのではなく、資金を他に移す。
もしくは、不安なニュースが出てきても個人投資家は税制面での
優遇措置を望んで自分の住む州の債券を維持することから、
問題が州を越えて素早く広がることはない。
(中 略)
コロンビア大学のアンドリュー・アング氏は欧州からの興味深い
教訓に注目している。同氏の研究はIMFチームのものと類似している。
同氏は、米国の50州はユーロ圏加盟17カ国よりも経済的統合が
ずっと進んでいるとみている。したがって米国の州が発行する
地方債は、たとえば、原油高、デフレ圧力、米国債格下げといった
米経済全体に吹き付ける逆風に対する反応が大きいと考えられる
(また、実際多くのエコノミストがそうみなしている)。
一方、それほど統合されていない欧州経済のなかでの各国の国債は、
それぞれの国の状況に一層大きく反応する。
(中 略)
なぜ欧州と米国のケースはそれほど異なるのか。アング氏は2つの
矛盾する仮説を示す。
カリフォルニア州の債務問題がいかに混乱していようとも、
「ドル連合」の崩壊を懸念する向きはいないだろう。もしくは、
投資家は米政府が破綻の危機に直面した州の救済に乗り出すと
確信しているだろう。
しかし、(欧州の場合に)ドイツが同じことをするかどうかは
確信が持てない。
(以後、略)
(転載貼り付け終わり)
だから、ヨーロッパはこれから、どんどん財政・金融制度
を統合させられて、ユーロ(EUR)を統一通貨とする、
「ユナイテッド・ステイツ・オヴ・ヨーロッパ(ヨーロッパ
合衆国)」をめざす方向性にあるのだと考えられます。
これによって、税制度も効率化し、ユーロが流通する
するヨーロッパ諸国に、いっせいに「統一増税」を
実施するのつもりなのでしょう。
こうしてヨーロッパ全土の諸国民から、資産を巻き上げて、
「大きすぎて潰せない(トゥービッグ・トゥーフェイル)」
を口実に、巨額の含み損、不良資産を抱えるヨーロッパの
大手銀行をヨーロッパ統一の「公的資金」で救済するのです。
アメリカの中央銀行である「FRB(米連邦準備制度・銀行)」
にあたるのが、「ECB(欧州中央銀行)」になります。
ECBが、EU(欧州連合)加盟の27ヵ国から統一増税で
巻き上げた「税金」が、「公的資金」の半分を占めるでしょう。
残りの半分は、EU(欧州連合、つまり、ユナイテッド・
ステイツ・オヴ・ヨーロッパ=ヨーロッパ合衆国)が
発行する「ユーロ共同債(ユーロ・ボンド、Euro bond)」に
よる外国からの借金が、ヨーロッパ共通の「公的資金」です。
こうして無理やりあつめた「公的資金」を注入して、
ヨーロッパの潰れそうな大手銀行や金融機関を、国営化
したり、合併統合させて、ゾンビ企業として生き長らえ
させるのでしょう。
欧州統一の中央銀行(ECB)の「公的資金」で、ギリシャや
アイルランドやスペインの国債を買い支えて、デフォルト
(債務不履行)するのを抑え込むのです。
だから、これらのヨーロッパ諸国の国債を保証している
ハイテク保険商品である「CDS(クレジット・
デフォルト・スワップ)」を販売していたアメリカの
銀行たちも、補償金の支払いを迫られて、倒産の危機に
直面するという、リーマン・ブラザーズの失態を
無理やり回避させられるのです。
米ロックフェラー金融資本と欧英ロスチャイルドとの
フィクサーをつとめる、ヘッジファンド界のドン、
ジョージ・ソロス(1930- )も、そうしたアメリカに
よるヨーロッパの債務危機への対応戦略の一端を、
以下のようなパフォーマンスで担っているようです。
(転載張り付け始め)
●「ソロス氏のファンド、破綻したMFグローバルの欧州国債購入―20億ドル相当」
HEARD ON THE STREET
ウォール・ストリート・ジャーナル日本版 2011年12月9日
http://jp.wsj.com/Finance-Markets/Finance/node_357851
著名投資家ジョージ・ソロス氏一族のファンドは、
経営破綻した米金融会社MFグローバルが保有していた
約20億ドル相当の欧州国債を買い取った。関係筋が明らかにした。
これらの国債への投資損が同社の経営破綻の一要因になっていた。
同社はジョン・コーザイン前最高経営責任者(CEO)の指示により、
トレーディング収益を上げるため、イタリアを中心に欧州の様々な
国の短期国債を買い、保有額は63億ドルまで積み上がっていた。
夏にかけ、これらの国債投資をめぐり、投資家、監督当局、
格付け会社の間で懸念が強まり、同社は10月31日、連邦破産法
11条の適用申請に追い込まれた。
MFグローバルは63億ドル相当のうち15億ドル相当を破産申請
前に売却し、48億ドル相当が残った。こうした残りは、
ロンドンでのMFグローバルの破産管財人KPMGに引き継がれた。
(中 略)
ソロス氏の会社は今年、投資の一部を安全な流動資産に移して
いたため、今回約20億ドルを支払うことができた。
同筋によると、同氏とソロス・ファンド・マネジメントの
投資チームの購入額は当時の時価より低かった。取引には
JPモルガン・チェースも参加。ほかにも大手投資家がいた
という。JPモルガンの広報担当はコメントを控えた。
ソロス氏のファンドは取得した国債の半分以上を今も保有
しているという。
ソロス・ファンド・マネジメントは、ソロス氏、一族、同氏の
慈善事業の資金260億ドルを運用している。最近イタリアを
はじめとする欧州国債の相場が持ち直していることから、
その後の5週間で利益を得た可能性がある。
(中 略)
ソロス氏のイタリア国債購入は大きな意味を持つ。
世界有数とされる賢い投資家が、少なくとも今回購入した
国債が償還を迎える2012年12月までは、イタリア国債が
デフォルトしないと見込んでいることを示すためだ。
同氏の動きはユーロ圏の危機拡大が回避されることに
賭けるようなものである。
(中 略)
第2四半期の投資が期待外れに終わったことから、
ソロス氏は外部投資家に10億ドルを返還して会社を
「ファミリーオフィス」に変えることを決めた。
そのため、多くのヘッジファンドが直面している
当局の監視強化を避けることが可能だ。
(転載張り付け終わり)
たとえ目論みどおりにユーロ危機を沈静化できても、
私がこれまで何度も書いてきたとおり、「ヨーロッパ人
の税金」と「他国からの借金」で充当される「公的資金」
を、銀行を救済するために大量に注ぎ込んだあとの
ヨーロッパには、「失われた10年、20年」が
待ち構えています。
日本政府が、1990年のバブル崩壊で不良債権を
抱えた日本の銀行に「公的資金(日本国民の税金)」
を注入して救済したあとに、日本経済を襲った
「失われた20年」が、これからヨーロッパでも
始まるのです。
いっぽうのアメリカには、「失われた●●年」という
ような悠長なことを言っている余裕はありません。
来年早々には、ヨーロッパの数倍の規模で米国債が
デフォルト(債務不履行)するという「債務危機」や
「米ドル危機」が、ふたたび勃発するでしょう。
だから副島隆彦先生が書かれるとおり「戦争(刺激)
経済(ウォー・ブースト・エコノミー)」で、
世界のどこかで無理やり戦争を引き起こすという
戦略で、来年から新たな戦火が拡大していくのでしょう。
ヨーロッパは、表面的にはこの「戦争(刺激)経済」
戦略は採りません。
上品ぶった老獪なヨーロッパ人たちは、増税と借金と、
アメリカが引き起こす戦争への密かな荷担をするしか
ないので、日本と同じようにじわじわと衰退して行く
しかないのです。
ユーロの見通しは非常に難しく、一概にいいか悪いか、
という判断はできません。
私が以前から書き続けているとおり、ユーロという
ヨーロッパ統一の通貨をいまから解散して、改めて
それぞれの国の通貨に戻すことは、そのためのコストや
労力、生じてくる様々な損失やそのリスクを考えると、
現実的ではありません。
ヨーロッパは、ギリシャやアイルランドやスペインが
債務危機だと言っても、その借り入れ先は、主にドイツ
とフランスであり、つまりおなじ通貨圏のなかにおける
「内輪」の貸し借りです。
いっぽうのアメリカは、中国と日本、サウジアラビアなど
から、その借り入れ額の半分近くを借り入れています。
しかし、それでも足りない財政資金を、アメリカの中央銀行
(FRB、米連邦準備銀行)に米国債を買い戻させるという
「禁じ手」の架空の借金政策でまかなっています。
そのための資金源が、一昨年から続けている「QE(量的
緩和政策、キューイー、クオンティテイティヴ・イージング)」
です。何のことはない、担保のない「米ドルの増刷」です。
米国債の発行総額に対する、外国への販売比率が減少
しているように見えるのは、自国内で米国債をさらに
買い上げているからです。
しかしそれでも、中国やサウジアラビア、日本などの
外国からの借入が巨額であり、ヨーロッパのように
ユーロ経済圏の「内輪」での借金ではありません。
だから、いまヨーロッパ諸国がやっているように、
債務の返済や利払いができなくなった時点で借り換え
をして返済期間を延長させるとか、契約条件を変更
したり、契約そのものをなかったことにしたり、
ということができません。
したがって、「債務不履行(デフォルト、財政破算)」
が実現する可能性は、アメリカのほうがより高くて
明確なのです。
だからこそアメリカは、イランで新しい戦争を起こして、
経済が破綻しそうな状況を、戦争の混乱でうやむやの、
めちゃくちゃにしてしまおうと目論んでいるのです。
ニューヨークのワールドトレードセンターへの旅客機
追突テロ、「9・11(セプテンバー・イレヴン)」くらい
の規模と衝撃で、世界中の人々を震え上がらせるような
突拍子もない襲撃や爆撃、テロ事件を仕掛けてくると
警戒しておくべきです。
そのあとの急激な武力衝突(つまり、戦争)から、
世界各国に恐怖をあたえて、金融危機や国際経済
システムが崩壊しそうな現在の危機を、無理やり
「戦時緊急統制令」のような強硬手段で抑え込んで
帳消しにしてしまうのです。
「緊急時だからしょうがない」という、私たちが
「3・11」の東北東日本大震災と、福島原発事故の
混乱と恐怖のなかで何度も言い聞かされたあの言葉
(口実、正当化)で、欧米人をいっせいに扇動する
のでしょう。
だからいまでも、欧米のメディアは、フクシマは
まだまだ放射能汚染が深刻で「危険だ危険だ」という
報道を、自国民に流し続けています。
「戦時緊急統制令」で、緊急の「増税」や「銀行の
業務一時停止」、「預金引き出し制限(預金封鎖)」
を強行しようとしているのです。
あやゆる金融取引やお金の流れを規制して監視する、
第二次世界大戦時のような、恐ろしい「戦時統制経済」の
国家総動員体制にまで、強引に持っていくのです。
そのとき、ユーロや米ドルや日本円がどうなるのか。
やはり基本は、複数の地域や分野などあらゆる形に
広く分散して、まさかのための保全の体制を
各自整えておく、ということに尽きるのでしょう。
根尾知史拝