[792]TPPと日本

大川晴美 投稿日:2011/11/21 02:42

会員の大川です。TPP(環太平洋パートナーシップ協定)について、輸出大企業や総合商社に勤務する私の知人は、異口同音に「参加すべきだ」と言います。一方、農業関係者や日本医師会は反対や懸念を表明しています。TPPは、アセアン 3(日中韓)やアセアン 6(日中韓豪NZ印)に対抗してアメリカが推し進めている戦略ですが、これに日本が参加することによって私たちの生活は本当に良くなるのでしょうか。

関岡英之氏は「国家の存亡 『平成の開国』が日本を亡ぼす」(PHP新書、2011年)で、TPPの問題点をわかりやすく解説しています。同書によれば、TPPは日本の農業と医療に市場原理を導入することによって、穀物自給率のさらなる低下と食糧の海外依存を加速させ、混合診療の解禁によって医療費の高騰を招き、日本が誇る国民皆保険(公的保険)を崩壊させるといいます。
投資の分野では、日本政府の法律や規制のために外資系企業の営利活動が制約された場合、日本政府に損害賠償を請求できるというルールが導入されるようです。損害賠償請求の具体的な手段として、国際仲裁委員会と称する場が用意され、審理は一切非公開で不服申し立てもできない制度が検討されているといいます。つまり、外国資本が政府の主権より優位に立つことになるのです。
労働の分野では、正社員の解雇が容易になるなどの規制緩和が求められ、貧困層が増え、貧富の格差が一層拡大する可能性があります。
私たちは、このようなTPPの危険性を知らされていません。

TPPの背景には、ミルトン・フリードマンとシカゴ学派の経済学、すなわち新自由主義あるいは市場原理主義と呼ばれる思想があるようです。しかし、私たちの生活に直結する農業や医療や労働の分野に、これ以上市場原理を導入してよいものでしょうか。関岡氏は、日本の穀物自給率(カロリーベース)は先進国で最低であり、食糧安全保障の観点から危機的な状況にある、と警告しています。アメリカもフランスもイギリスも、食糧の中で穀物だけは戦略物資として補助金をつぎ込んで保護しているのです。

日本経済新聞は11月20日の一面で、「(日本にとって)最大の貿易相手、中国が参加するASEANプラス6のほうが(TPPより)経済効果が高い」と書いています。

国際政治経済は各国が生存を賭けてぶつかり合う情け容赦のない世界なので、アメリカが国益を追求するのは当然なのですが、世界経済が不透明さを増す今こそ、日本政府は国民の生活を最優先に考えて交渉してほしいものです。