[763]福島第一原発から放出された放射性物質量の見積もりがいろいろでてきました

ジョー 投稿日:2011/10/27 19:21

下に引用するのは昨晩でた、福島第一原発から放出された放射性物質量の見積もりです。

<引用開始>
「放射性物質放出量、政府推計の2倍か」

 東京電力福島第一原発事故の初期に放出された放射性物質セシウム137は約3万5000テラ・ベクレルに上り、日本政府の推計の2倍を超える可能性があるとの試算を、北欧の研究者らがまとめた。

 英科学誌「ネイチャー」が25日の電子版で伝えた。世界の核実験監視網で観測した放射性物質のデータなどから放出量を逆算。太平洋上空に流れた量を多く見積もっている

(2011年10月27日03時11分 読売新聞)
<引用終了>

計算したのはノルウェーのAndreas Stohlという人です。実際にのったのはネイチャーではなく、The journal Atmospheric Chemistry and Physics。その内容をネイチャー電子版がニュースとして紹介しました。論文はまだpeer Reviewの段階のようです。

セシウムに関しては、保安院が6千テラベクレル、原子力安全委員会が、1万2千テラベクレル福島原発から放出されたとしていますから、セシウム134と137が同じ量だとすれば、ノルウェーの研究者の見積もりは、日本政府見積もりの約1.5~3倍になります。

さらに、彼らは、キセノン133はチェルノブイリより放出されたとしていて、1.7×10^19 Bq という値をだしています。なんと、千七百万テラ・ベクレルです。

私は、西村肇東大名誉教授の計算の確かさを知っていますし、自分でも簡単に確かめているので、どうやったらこんな値がでるのか理解できません。また、こんなに放射性物質が放出されたら、たくさんの人が死んでいるはずです。チェルノブイリでは、放射線で付近の松までが枯れました。

どうやら海に流れた分を最大限、見積もっているらしいのですが、こうやってWorld Valueというものが、できてくるのか、そんな感じです。地球温暖化論の初期もこんな形だったのでしょう。

さて、「放射能のタブー」という本で、私は「政府は大気放出の根拠を発表していない」と書きましたが、実は、政府発表のデータの根拠は
Journal of Nuclear Science Technorogy 48, 1129-1134 (2011)
という英文雑誌に、Chino という人の名前で投稿されていました。上の論文でも引用されています。ちなみに、「放射能のタブー」を書いているときは、この論文は知らなかったので「政府は大気放出の根拠を発表していない」と書きました。

日本政府が計算した放出量が高い主な根拠は、3月15日9時から15時まで、6時間、毎時1万テラベクレル(合計6万テラベクレル)が放出されたというものです。

実は、この論文、ひどいものでした。計算の根拠、とくに、この3月15日の放出量の計算の根拠がよくわからない。Journal of Nuclear Science Technorogyは、論文誌なので、問い合わせがきたようで、彼らは8月22日に訂正を、なぜか日本語で出しました。「福島第一原発事故に伴う131Iと137Csの大気放出量に関する試算Ⅱ -3月12日から15日までの放出率の再推定-」です。

下に、どう訂正したか、彼らの文章をそのまま掲載します。

<引用開始>
(2) 3月15日の空間線量率測定から推定した放出率
福島県内では海岸部を除き、3月15日 06:00-06:10の2号機 S/C付近の爆発音以降に空間線量率の上昇がある。この事象以降の放出率については、前回の報告では、SPEEDIの計算結果をもとに、概算として131Iが10^16 Bq/hで6時間(9時から15時)放出と推定した。但し、午前中の3時間は、敷地境界の線量上昇開始時刻を根拠に外挿した仮の数値であった。

<中略>

推定によれば、3月15日は、朝7時から10時まで2x10^15 Bq/h (131I)程度の放出があり、その後、一旦、放出量は低下し、13時から17時ごろにかけて、再び4x10^15 Bq/h (131I)の放出があったと推定される。正門付近での空間線量率時変化や2号機圧力動(低下)も、この放出を示唆している。

前回の報告に比較して、131I放出量が1/5~1/2になった理由は、午前中については評価に使用できるデータがあり、仮の値を修正できたこと、午後については132Teの空間線量率への影響を考慮したことによる相対的な131I量の減少による。但し、この種の評価方法の誤差(少なくともファクター5程度)を考えると、双方が誤差範囲内とも解釈できる。
<引用終了>

「131I放出量が1/5~1/2になった」とはっきり書いてあります。どう考えても1時間あたり1万テラベクレルという見積もりは高すぎますから、少なく訂正したのだとおもいます。

「朝7時から10時まで2x10^15 Bq/h (131I)程度の放出があり」と書いてあります。これは2千テラですから、1万テラベクレルという以前の計算値の1/5です。しかし、前回は朝9時からでしたが、突然、2時間繰り上げて朝7時からにしてあります。この理由は書いてありません。

さらに問題なのは、、「13時から17時ごろにかけて、再び4x10^15 Bq/h (131I)の放出があったと推定される。正門付近での空間線量率時変化や2号機圧力動(低下)も、この放出を示唆している。」と書いてあるところです。しかし、近くのモニタリングでは、はっきりと放出量はどんどん低下しています。午後は午前よりずっと少ない量しか放出されていない。それなのに、午前の2000テラベクレル/時が、午後の4000テラベクレル/時に逆に2倍に増加している。

さらに、おかしいことは、放出時間を勝手に延長して、以前は午後3時までだったのが、午後5時までになっていることです。

結局、9時頃、2000テラベクレル/時放出されたというのが正直なところでしょう。

日本の研究者は、どんどん、放射性物質放出量を低く訂正してきているのに、外国では、前のデータを参考に、どんどん高く見積もっている。それが今の状況です。

最後に阿修羅という掲示板の書き込みにあったコメント文を貼り付けます。上記の計算をした原子力開発機構の内部事情に詳しい人のようです。

「放射能放出なんと1、5京ベクレル!!日本の魚は危険!!妊婦と子供は絶対に食べるな!!東電幹と経産省幹部を火炙り刑にしろ!」という題で阿修羅に投稿された文の、コメントです。

<引用開始>
福島第1原発事故で、日本原子力研究開発機構は、海洋への放射能放出総量が1、5京ベクレルを超えるとの試算をまとめた。東電が4~5日月分として推定していた放射線量の3倍以上に上る。

85. 2011年9月23日 06:41:26: sK5oxcmQlI
男のヒステリーほど醜いものはない。
拡散方程式のシミュレーションの前提条件等きちんと理解もしないで、結果だけみてギャーギャー騒ぐアホども。

どうせ結果の数字の意味合い自体もお前らは理解していないだろう。

事故後、原子力安全路線から危険路線に急転回した原研の似非集団にまた騙されているようだ。

きちんとSim(注:シュミレーションのこと)すれば京レベルの放射線などあり得るわけないだろうが。数Tか数十テラレベル程度に収まるのが妥当だ。

この似非数値公表は米国が日本の核武装を阻止するための、お前らアホどもを扇動する単なる手段だ。

核反対だが、何も現実を認識していないお前らのアホさ加減にはいい加減うんざりするよ。
<引用終了>

「原子力安全路線から危険路線に急転回した原研の似非集団」とあります。原研とは日本原子力研究開発機構の前の組織のことです。JOCの事故で原研と動燃が合併して、日本原子力開発機構になりました。

この文は、ただのコメント文ですから信頼性はあまりありません。しかし、もし本当なら、地球温暖化でIPCCが行っていた役割を、今、原子力研究開発機構がやっていることになります。

下條竜夫拝