[65]中国の内蒙古から

石井裕之 投稿日:2010/08/20 02:32

中国の内蒙古の石井です。私は中国の地方都市に居て、文字通り内側から中国を眺めています。こちらで本格的に生活を始めて早一年が経とうとしています。そんな中、妻の計らいでこちらの権力を持った人たちやちょっとした富豪さん達に随分と会わせてもらい、一緒に様々な話をしてるのですが、その中で最近気づいたことを報告させて頂きます。な~んだ、今頃判ったの?などと言わずに聞いて下さい。この生の声をお伝えし続けることが、この「道場」に参加させて頂いている私の役割だと勝手に思っています。

日本に戦前から存在していた、いわゆる財閥と呼ばれる巨大コンツェルンは、解体されて無残な形になってしまいました。しかし、戦後の混沌とした環境の中から、今日に続くような大企業が育ってきたのですね。本田宗一郎や松下幸之助などのような人達の伝説です。松下なんか、何と二股ソケットの量産によって大きくなっていったと言うではありませんか。今でこそ総合家電メーカーみたいなことを大きな顔をして言っていますが始めは皆そんな感じだったのですね。
以前にテレビで、戦後の日本の経済成長を通産省が引っ張った、みたいな内容のスペシャルドラマをやっていたのを思い出しました。日本電産にパソコンを作るように命じたり、富士重工業に国民構想車を作るように命じたりしながら、言うことを聞いてくれる企業には、国としての全面的なバックアップを約束していたような内容でした。正に、官民一体となって日本を作り上げたのだ、とするプロパガンダのようなものでしたが、当時の焼け野原の日本に、そんなに基礎体力のある企業が数多く存在していた筈はないのです。大きな企業は解体されてしまったのですから、残った会社は本当に中小零細企業ばかりだった筈なのですね。そこは文字通り「ゼロ」からのスタートで、1億国民全員に金持ちになるチャンスがあったのではないでしょうか。今では考えられなかったチャンスです。その時に、後先考えずに行動に移した人の中で、運よく今日にまで生き残ってきたのが、ホンダであり松下(パナソニックか)であるような気がするのです。NECやソニーもありますね。

それがどのようなシステムだったかと言うと、アメリカからの外圧に耐え忍びながら、海外の情報に長けた優秀な官僚達が、経済成長の為の戦略を描き、その為のプログラムを作り、そのプログラムに乗っかってきた企業をスクい上げ、技術面から金銭面に至るまで、全面的にバックアップしていく、というものです。要するに、政府のお墨付きを貰うことが出来れば、半分成功したようなものです。これを「自由主義経済」と呼んで良いかどうかの議論は別にして、概ね以上のようなステップを踏んで今日に至ってきた訳ですね。

一旦、企業が大きくなってしまうと、その企業を守るための規制を作り上げ、法律でガンジガラめにしてしまい、後続の競合者を完全にシャットアウトしてしまいます。日本にベンチャーが育たない所以ですね。ま、それも今は良いです。

翻って、現在の中国です。
企業の発展の様子を伺ってみると、当時の日本と全く一緒のことをやっています。今、中国では海外からの投資を受け入れ、技術の吸収にやっきになっていますが、その一方で民族系の企業の設立と発展に対して、大きなバックアッププログラムを持っています。

民族系の企業が(個人が)起業したり、新たな分野に進出していく時に、その総投資額の半分程度を何とか調達しさえすれば、後は政府(の命令を受けた銀行)が超低金利で融資してくれるプログラムなのです。ここで上手くきっかけを掴んだヤツから順番に、富裕層という名の社交界にデビューしていくのです。中国の銀行の貸付残高がどんどん膨らんで行って、増資に増資を重ね、世界のトップテンに顔を連ねるようになった理由もこれで判ったような気がします。

中国の50代以上の世代の人は、官僚こそが一番の花形だと思っています。今でも本気でそう思っているようです。しかし、優秀な人間が、皆公務員になってしまっても国としては困りますから、今、「起業」を促したり、「企業」を育てて大きくすることにやっきになっています。少しでも特色が観えるようなら、先にも書いた通りの全面的なバックアップが保障されるのです。ですから、事業家達も政府のお墨付きを貰うのに必死です。毎日の接待は必須ですが、それこそ海外の情報にもアンテナを張っていて、目先の変わった技術やサービスが目に付くと一目散に囲い込みに入ります。何故なら、そのことで先ほどから繰り返し書いている、政府の無制限のサービスと成功へのキップを取り付けることが出来るからなのです。

日本の戦後の企業発展の仕組みと現在の中国の発展の状況を見比べてみて、以上のような観察結果に至ったのです。これが理解出来ただけでも中国に渡ってきた甲斐があるというもの。何故なら、上手くすると私のようなものでも、ひょっとしたら大成功するようなチャンスが転がってくる可能性が秘められているからです。13億だか14億だか知りませんが、多くの中国の国民全体に、今ならそのチャンスがあるのです。
中国の経済が破綻するかも、ナンテのは言いっこなしです。日本だって国民全体が「冷蔵庫」や「洗濯機」を買う、という目標に向かって一致団結して経済発展を何とかやり遂げたのですから。中国も今、そんな時代なんですね。混沌としていて、先行き不透明で、だからこそ逆にその中から大きなチャンスが見つかりそうなんですね。今は皆に平等に、です。