[539]トーマス・ラッキー(ミズーリ大学名誉教授)2008年の論文より

六城雅敦 投稿日:2011/05/21 02:26

微量放射線の健康への好影響を30年前から研究している有名なT.ラッキー博士の最新論文(Dose-Response,2008)を読んだので、かいつまんでまとめます。

本文中には日本人研究者の論文からの引用も多数あります。電力中央研究所(ここから研究者や政治家へ金がばらまかれている)は電力会社の設立なので差し引いても、放射線影響研究所(広島と長崎にある日米共同運営機関)が綿密に収集したデータベースを用いて導き出されたヒバクシャの結果には一瞥する価値があります。

論文中にで近藤という名前がしばしば出てます。
大阪大学近藤宗平教授もラッキー教授と同様の指摘をされています。
http://homepage3.nifty.com/anshin-kagaku/sub081128kondo.html

(貼り付け始め)
日本人の放射線怖がりすぎの原因は何であろうか?
それは、一つには、放射線取締りの行き過ぎである。日本の法律では、一般公衆の被ばく限度は1年間1mSvで、放射線職業人の被ばく限度は5年間100mSvである。他方、米国の保健物理学会の声明は次のようになっている。「放射線の健康影響は100mSv以下ではでは認められていない。放射線のリスク評価は年間50mSv以上の被ばくに限定すべきである。」
 米国保健物理学会の声明は放射線は年間50mSv以下は安全という主張。この主張に賛成する運動を国内で広げたい。この運動が広がれば日本人の放射線怖がりは治るだろう。
(貼り付け終り)

収集されたデータによれば低線量の放射線は有害ではない、いや実際には人間の健康に明らかに有益であることが多い。近藤宗平(1993)

「結論として、低量放射線(100mSv未満)更には超低量放射線(10mSv未満)の発ガン性リスクの評価にあたり、LNT仮説があてはまるとは考えにくい」フランス科学アカデミーおよび国立医学アカデミー(2005)
注:LNT仮説:Linear No Threshold 被曝量を直線で表すと発ガンリスクも比例する仮説

■■■■ T.ラッキー教授の論文(2008)のまとめ ■■■■

1.胎児への影響

先天性欠陥、死産、白血病、癌、死亡率、男女割合、幼少期の成長・発達度、遺伝子異常、突然変異から血清タンパク中のDNAを50年にわたり調査した結果
(1)広島・長崎298,868名の子供達からは何の影響も見いだされなかった。
(2)1Sv以下で10-90mSvを浴びた胎児の方が死産・先天性異常・新生児死亡率が低かった。
(3)3Sv以上浴びた胎児に小頭症や知的障害が発生している。

2.癌(白血病)発生率
(1)長崎で310-690mSvの被曝をした人々(2,527名)に白血病での死者は0
(2)長崎で390mSvの被爆者(25,643名)に白血病での死者は0
(3)広島・長崎で260mSv以下の被爆者は白血病死亡率は平均値(1万人に18名)以下
(4)1950-78年でガン死亡率は1.2Sv以下の被爆者は年平均(2.3人/1000人)以下の年2.1人/1000であった。
(5)1950-78年で広島・長崎の250mSv以下の被爆者のガン死亡率は一般平均を1とすると0.9となる。
(6)長崎では3Sv以下の被爆者のガン死亡率は一般平均を上回ることはなかった。
(7)広島・長崎でのガン死亡率は60mSvを被曝したグループ23,000名は一般平均より低く、かつ平均寿命が長い。
(8)広島・長崎でのガン死亡率は20mSvを被曝したグループ7,400名ではさらに著しい低下があった。

3.寿命について
(1)100mSv~1Svの被爆者の子供50,689名の死亡率は一般平均より低い。
(2)同年齢のグループとの比較では癌を除く死亡率では1.8Sv以下の被爆者は65%であった。
(3)広島・長崎で2Sv未満の被爆者20,000人の平均寿命の短縮は認められなかった。
(4)1950-85年の死亡率は700mSv以下の被爆者で相対的な低下が認められた。最小値は140mSvの被爆者。
(5)45歳から75歳の年齢では、5mSvよりも10mSvの被爆者の方が死亡率が1~3割少ない。(より強い放射線の方が長寿であったという意味)

3.水爆とチェルノブイリ
1954年(昭和29年)のビキニ環礁で被曝した第五福竜丸の乗組員23名中、6.7Sv被曝した一人は206日後に死亡した。
しかし他の2~5.75Svの被爆者は(論文作成時1993年までの)40年間癌の発生はない。
第五福竜丸はチェルノブイリの場合と酷似している。つまり2Sv未満の作業員209名は誰も死亡していない。

4.考察
引用した論文によると、急性の低線量放射線は日本の原爆生存者へ生涯にわたり健康に寄与したことを示唆している。広島と長崎の人々が浴びた放射線は、いわば「放射線ワクチン」と言える。

一時的に浴びるにせよ、慢性的に受けるにせよ、動物を使った1991年の実験によれば、たとえば以下のような長期的効果があることが判明した。

 1)大量の電離放射線への抵抗力
 2)傷の治癒が早いこと
 3)ミクロではDNAや細胞の修復力の改善
 4)免疫力の強化
 5)罹病率の低下(特に感染症からの)
 6)健全な子孫
 7)死亡率の低下
 8)平均寿命の伸び
など

原爆による放射線の影響を総括すると、結果的には「電離放射線は生命体には不可欠なもので、我々はその不可欠な物質が不足しているかもしれないという仮説」を裏付けるものである。原爆生存者に関する諸研究により、放射線には有益と有害の境界があることが明らかになった。この結論によりフランスの権威ある委員会も全ての放射線は有害であるという考えは間違っているというという確証を発表した。

以上

※全訳文の入手先は 茂木弘道氏 http://hassin.org/まで