[406]西村肇・東京大学名誉教授の記者会見に行く。

アルルの男・ヒロシ 投稿日:2011/04/09 00:35

アルルの男・ヒロシ(中田安彦)です。今日は2011年4月8日です。

今日の午後に東京・有楽町の帝国ホテルで、副島先生の知人でもある東京大学名誉教授の西村肇(にしむらはじめ)氏が「理論物理計算が示す福島原発事故の真相」という緊急記者会見を行いました。私と学問道場の六条雅敦(ろくじょうつねあつ)研究員が聴講しました。今回はこの記者会見の内容を報告したく思います。

まず西村肇教授は以下のような経歴です。

1933年 東京生まれ、満州育ち
1957年 東京大学工学機械学科卒業
1966年 東京大学工学部化学工学科助教授
1980年 東京大学工学部教授
1993年 東京大学名誉教授
研究工房シンセシス設立、主催。現在に至る。
http://jimnishimura.jp/whois/whois.html

西村教授の主著は『水俣病の科学』(日本評論社)です。この本は有機水銀が河川や海に流出したことによる公害・水俣病についての研究書です。西村教授は、「汚染の広がり」についての専門家であるようです。

この日の記者会見は、全部で5つの部分で構成されていました。

1.大気への放射性物質の毎日の放出量
2.海域への放射性物質の毎日の放出量
3.チェルノブイリや他事故との比較
4.水素爆発事故に至る詳細な経過の完全解明
5.研究結果からいえる「大災害の主要原因」

この会見では1から3までが大気と海に流れだした放射性物質(ヨウ素131とセシウム137)の「量」についての理論物理計算、後半の4と5が福島第一原発1号機の水素爆発(12日15時36分)にいたるまでの1号機の原子炉の温度変化や炉内の水位の測定値についてのものです。

したがって、3月末から騒がれた、海への高濃度放射能を含んだ水を放水したことやタービン建屋内の床での放射能を含んだたまり水についての話はありません。また、放射能が人体にもたらす害ということにも触れているものではありません。そこは了解したほうがいいと思います。

西村教授は、「拡散方程式」というものを使って大気・地上や海域への放出された放射性物質に限って話を進めています。

会見ではまず5番目の結論部分から入りました。この結論を「西村論文」の「研究結果から導かれる重要な結論」から引用します。

(引用開始)

1.放射性物質の大気と海域への排出を比較すると、大気への放出は海域よりも1000倍大きい。
2.仮に3月22日の状態で大気への放出が100日間続いたとすると、総放出量はチェルノブイリ事故の1000分の1を超えない程度である。
3.液位低下の理論物理計算が実測値と完全に合っていることから、地震で炉本体の破損はなかったが、タービン付近の蒸気配管系が地震によって破損したと推定される。
4.同じく液位の理論物理計算と実測値の比較から地震時沸騰状態にあったはずの水温が一見40度まで下がり、6時間後に沸騰していることから、地震直後にはディーゼルエンジンによる緊急発電系が働き、いったん水温を下げたが、その後エンジンが止まり、冷却機能がなくなり、水素爆発に至ったと推定される。

(引用終わり)

以上の結論を導き出すために行った計算を本文で述べているのが今回、西村教授が専門誌『現代科学』(5月号)に寄稿した論文です。この論文の説明を2時間ほど行いました。

しかしながら、この論文の内容を説明することは私にはできません。上の結論を導くためにいろいろな計算を行ったことが書かれています。それを第三者が検証できるようにデータを残しているわけです。これは学術誌への寄稿論文であるからそういうことが中心になっています。

上の結論が正しいとすれば今回の原発事故はチェルノブイリほどの総量の放射性物質は放出されていない。ただ、この大気と海域への放出比率の1000:1という数値は、西村氏によれば、ことのほか大きな差異であったということです。

また、第一原発の1号機の水素爆発にいたるまでの課程についても、新聞などで言われているような、津波の被害や原子炉そのものの損傷が地震の瞬間に起きたということではなく、破損はせいぜいタービン付近の蒸気配管の破損であり、原子炉の水位が低下した原因は蒸発と蒸気漏えいであって水の漏えいではないということになるようです。

また、事故(水素爆発)の原因についても、根本的な原因は当初は動いていたディーゼルエンジン(ディーゼル燃料による自家発電機、新潟鉄工製)が何らかの理由によって止まってしまったために、冷却機能が止まってしまったことが直接の原因であるという結論です。

よく原子炉の安全については「止める」、「冷やす」、「閉じ込める」が基本だと言われていましたが、このうち「止める」までは出来ていて、そのあとの「冷やす」と「閉じ込める」が出来ていなかった。地震そのもので原子炉が壊れなくても、そういう冷却が出来なくなることで原子炉が何時まで経っても冷えない、裸になった燃料棒が溶けていって、そこから放射能が出続けるということです。

このようなことはすでにこの1ヶ月近く報道でもずっと言われてきたことでしたが、今回の西村論文ではそれを実際に炉内の水位の変化や燃料棒の温度変化をなどを計算することで確かめたかたちになるのでしょう。

だから今後の原発震災の教訓としては、地震があったり予期せぬ事故があった場合でも緊急発電による炉心冷却の道が常に残っておくべきであるということになるのでしょう。

そのようにすでにいろいろな専門家が言っていますからこれは別に意外な話ではありません。これは研究論文ですから巷で言われていることをちゃんと物理学として立証する役割を果たしているわけです。

なぜ冷却水を送るポンプを動かす発電機が5時間から6時間ほどで機能しなくなったのか。実は私はこの理由を一番知りたかったのですが、今の状況では分からないとのことでした。

原子炉の事故は物理学や放射線医学といった耳慣れない学問が複合的に絡んできます。私自身、この事故が起きるまでシーベルトとかベクレルという数値すら聞いたことがなかった。

ただ、福島原発内で起きていることが、のっぴきならない方向に向かう可能性をいまだ秘めている事態であり、それはしばらく先まで続くのだということは、専門家の口調から推測することが出来るだけです。

このような原発震災があった今だからこそ私達がやるべきなのは、やはり原子力に依存しないエネルギーの開発を地道に進めていくことなのであろうと私は思います。