[3289]不公平な選挙制度に『風穴』を明ける立花孝志の衝撃の戦略(6)

片岡裕晴 投稿日:2021/11/06 22:18

[3248]不公平な選挙制度に『風穴』を明ける立花孝志の衝撃の戦略(5)の続きです。

 
 今回の内容は主に2019年の参議院選挙で国政政党になった①『れいわ新選組』と『NHKから国民を守る党』改め②『NHKと裁判してる党弁護士法72条違反で』(NHK党)そして③いわゆる『諸派』という分類に括られてしまう弱小政党の動向についてです。

まず、選挙に関する軽いトピックスから・・・

◆二つの『民主党』は認めるのに二つの『自民党』は認めない総務省の悪意◆

 10月19日に総選挙が公示され、期日前投票が始まるとTwitterのTLに『二つの民主党』に関するツイートが沢山流れ始めた。これは立憲民主党と国民民主党の略称が両党ともに『民主党』である為に起きた疑問や混乱に関するものである。

2020年9月複雑な経緯を経て二つの党が設立された。一つは『立憲民主党』であり、今一つは『国民民主党』である。両党はそれぞれ新党の届け出を総務省に行った。その際、略称を両党ともに『民主党』として届け出て、そのまま正式に受付が終了した。

これを横目で眺めていた立花孝志は2020年12月、『NHKから国民を守る党』の党名を変更することを決め、新しい党名を『NHKから自国民を守る党』とし、党本部のある千葉県選挙管理委員会に(何食わぬ顔をして)届け出をした。その際、略称を『自民党』とした。

千葉選管からこの党名変更届を受け取った総務省は新党名は認めたものの略称は二つの『自民党』では有権者が混乱するとの理由で認めなかった。

過去においては1992年の参議院選挙で『日本新党』と『国民新党』が共に『新党』と略称したり、田中康夫の『新党日本』と平沼赳夫の『たちあがれ日本』の略称は『日本』であり同時期に存在したし、二つの『民主党』を現在認めているのに・・・ということで、立花は司法の場で係争中である。

略称に関して言えば、2013年に(まったく無名の)立花孝志が(弱小)政治団体『NHKから国民を守る党』を届け出た際、略称を『NHK党』としたが、認められず『N国党』で通してきた。

しかし、以上の様な総務省とのやり取りがあった上で、(国政政党の党首である)立花孝志は2021年7回目の党名変更を実行し、『NHKと裁判してる党弁護士法72条違反で』として届け出を行い、その略称を『NHK党』と認めさせた。

(注)開票の結果、『民主党』と書かれた票は全国平均で7%もあり、『民主党』と書かれた400万票は立憲民主党と国民民主党の得票に応じた「案分票」として振り分けられた。開票終了が想定より4時間も遅れた開票所もあった。(毎日新聞)

◆山本太郎・東京8区での混乱と爽やかな引き際、そして最上の結果◆

 衆議院議員選挙の公示の直前に山本太郎が東京8区から立候補するという情報が突然駆け巡り、Twitter上でも急にこれに関するツイートが流れ始めた。

一般の有権者には突然に見えたが、野党共闘の当事者たちの間では事前に十分話し合われたことであり、山本太郎としては、政治活動から公示後の選挙活動に移る時期に来ていたので、当然のごとく東京8区からの立候補を表明したというのが真相の様である。

しかし、四年間に渡り地元での政治活動を地道に展開していた立憲民主党の吉田晴美候補とその支持者にとっては受け入れがたい事だっただろう。吉田晴美の支持者との険悪な対立にもなりかねない事態に、Twitter上では、両方の支持者のツイートが流れ、野党共闘が壊れるのではないかと危惧するツイートとこの危機を盛んに煽る保守系、ネトウヨ系のツイートが乱れ飛んだ。

これは四党の野党共闘の主導的立場に立つべき枝野幸男の煮え切らない態度がこのような事態を招いたというのが、大方の有権者の感想だと思う。

このまま事態が進むと野党共闘の危機が訪れるように見えた時、山本太郎は東京8区の『立候補権』を吉田晴美に譲り、自らは比例東京ブロックからの単独出馬を宣言した。

これは2019年の参議院選挙で二人の身体障碍者に自らの議席を優先して譲り、舩後靖彦と木村英子を国会に送りだしたときの様な英断であった。この爽やかなドラマがあった為に、東京8区は更に注目を集め、一般の有権者を含めて盛り上がり、投票率は東京で一番高い選挙区となった。(東京8区=61.03% 全国平均=55.93%)その上、選挙期間中に山本太郎は悪びれることなく8区の吉田晴美の応援に駆け付け、支持者を熱狂させるということまでやってのけた。

結果は、吉田晴美の圧勝(137,341票)となり、石原伸晃は小選挙区で敗退(105,381票)し、惜敗率でも及ばす比例復活もなく落選した。もし、告示前の『山本太郎のパフォーマンス』が無ければ、石原伸晃は比例復活できたかもしれない。

山本太郎の自らの権利を相手に譲るという美点は山本の持つ人格の優れた面から出る優しさなのか、それとも山本のクールな計算の上に成り立つパフォーマンスなのか。はっきりとは分からないが、そのスマートな引き際に好感を持った有権者はきっと多かっただろう。

比例区で単独立候補した山本は当然のごとく当選を果たし、れいわ新選組からは他に2名が当選した。実は東海ブロックでは比例で1名当選できただけの得票数(273,208票)があったにも拘わらず、小選挙区と重複した候補者の得票率が10%に満たなかったため権利を失った。また、もし山本が東京の小選挙区から立候補していれば、小選挙区と比例の東京ブロックで二議席獲得できた。れいわ新選組が立候補の戦術をもう少し緻密に立てて居れば、衆議院で5議席獲得できたはずである。

兎も角、参議院の2議席と合わせて『国会議員が5名』が誕生したことになり、れいわ新選組は揺るぎない国政政党への道を歩み始めたように見える。山本太郎は(選挙前の党首討論だけでなく)NHKの通常の日曜討論会にも堂々と出席出来ることとなった。

一つだけ懸念を言えば、れいわ新選組は今回の選挙で2億円の寄付を街頭で集め、合計3億円を選挙費用に使った。これは次に述べる立花のNHK党の選挙費用が800万円と比べると余りにも高額であり、寄付の大半が低所得者層からのものであるとすると、山本太郎の政策は素晴らしいもの(消費税0%、奨学金をチャラにする・・・等)ではあるが、それは政権を取らなくては何一つ実現することが出来ないのだ。貧しい財布の中から寄付をしてくれる支持者がいつまで待てるのかという脆さが常に付きまとっている。

◆ホットな立花孝志のクールな戦術◆

 立花孝志は今回の総選挙を『来年の参議院選挙の前哨戦』と位置付けていた。そのため今回の選挙においては『諸派党構想』を宣伝することと、『NHK問題』が解決されつつあることを国民にPRすることに集中した。

今回の選挙では①お金を使わない②無理をしない③ネットを使う という基本方針を立てていた。そのため、今回の選挙で党が使った費用は800万円以内(供託金を除く)である。(供託金は『諸派党構想』によりほとんどが立候補者の負担であった。供託金を自ら負担した候補者はすべて落選したが、自らが獲得した票に対応した政党助成金を受け取ることが出来る)

④のお金を使わない ということについて補足すると、党の運営費はすべて政党助成金で賄っている。企業献金は勿論のこと個人からの献金ももらわない方針である。それは献金した人に対して忖度して、党の政策が影響を受けることを警戒しているからである。また、今回の総選挙の結果(比例区で796,788票、小選挙区で150,542票)年間で5,928万円の政党助成金が新たに加算される。2019年の参議院選挙で獲得した票による政党助成金は年1.6億円と確定しているので、併せて約2.2億円が党の年間の運営費ということになる。

一方、前回の参議院選挙では『諸派』の扱いであったため、マスコミではほとんど取り上げられることも無く、テレビでの党首討論会に呼ばれることも無かったが、今回は『国政政党』としてテレビの党首討論会での出演や、ニュース番組で必ず報道される、NHKと民放の政見放送を70種類流すことが出来たなど、党の費用をかけずに宣伝できたということが大きく、このことが来年の参議院選挙への準備を整えたと言える。

つまり、衆議院選挙はPRの場と割り切り、全てを来年の参議院選挙にかけるという『選択と集中』を行った。

立花は衆議院選挙は大政党に有利な選挙であり、小規模な政党が成果を出すのは参議院選挙だとよく分かっている。なぜなら衆議院選挙の選挙区は289選挙区もあり、一つの選挙区で当選できる候補者は一人に限られる。

ところが参議院選挙では45選挙区となり、そのうち中選挙区(2~6人)が13選挙区、1人しか当選しない小選挙区が32選挙区となる。このうち複数が当選する中選挙区では当選の可能性があり、一番多くの当選者が出る東京選挙区は当選の可能性が高い。

一方、比例区を見てみると、衆議院選挙では全国が11のブロックに分けられている。一番当選者が多い近畿ブロックでは定数が28名で一番当選しやすい。ところが、参議院選挙では全国が一つの選挙区となり50人が当選する大選挙区となるので衆議院の近畿ブロックよりも2倍も当選の可能性がある。

2019年の参議院選挙で立花孝志が当選出来たのはこの1点に全てのエネルギーを集中したからである。(立花が口癖のように言う『選択と集中』とはこのことである)

2022年の参議院選挙では選挙区の改選数74(プラス補欠選挙1)に対して、75人の候補者を立てる事に決めている。また、比例区(定員50)については各界での著名人が立候補を予定しているが、今回の文章では言及しない。

◆『諸派党構想』は機能したかについての分析◆

 NHK党は今回の衆議院選挙において、30名の候補者を立てた。その結果は選挙前の1議席(丸山穂高は今回立候補しなかった)が0となり、『そら見ろ!立花はもうオワコンだ』という人がいたら、それはものの見方が浅いというべきだろう。同じように野党共闘の主軸である立憲民主党と共産党が13議席と2議席を減らしたのを見て、野党共闘は失敗だったと結論付けるのも早計である。なぜなら、2017年の衆議院選挙の比例区の得票数を比べてみると、立憲民主党は1108万票 →1149万票、共産党は408万票 →417万票へとそれぞれ獲得票数を伸ばしている。そう考えると両党は議席数は減らしたものの、有権者からの支持は伸ばしたと言える。

また、NHK党は98万票 →80万票と獲得票数を減少させたが、供託金5100万円を使い政党助成金のリターンは4年間で2億3,799万円を獲得することが確定し党の財政基盤はより安定した。

今回の選挙では『諸派』という括りでマスコミから扱われている政党が5つ選挙に出た。①つばさの党(旧オリーブの木)②日本第一党③支持政党なし④新党やまと⑤政権交代によるコロナ対策強化新党である。この内、前回の参議院選挙や都知事選挙での比較をすると次のようになる。

①つばさの党  →2019年には旧オリーブの木として出馬し比例区での得票率は0.34%であったが、今回は1.4%と伸ばした。

②日本第一党  →2020年東京都知事選178,784票を獲得したが、今回は33,661(0.5%)と大幅に減らした。

③支持政党なし →2017年東京ブロック比例では2.1%(125,019票)獲得したが、今回は北海道ブロックで1.8%(46,142票)
         同じ北海道ブロックの比較では2014年に4.19%(104,854票)を獲得していた。

選挙の種類や出馬した候補者数が異なる為、あくまでも参考にしかならないが、明らかに①は得票率が増えたのに②③は減少している。その違いは『諸派党構想に』参加したか、しなかったかである。

①つばさの党の黒川敦彦氏のケースでは2019年に参議院比例区に出馬、比例区には4人立候補したので供託金は2400万円が没収となり、0.34%の得票率しかなかった。国政政党ではないので、政党助成金のリターンは0円。2021年の衆議院選挙では、『諸派党構想』に参加したので、供託金は600万円で済み、得票率は1.4%(87,702票)と伸ばした。しかも政党助成金が4年間でトータル25,258,176円(87,702×72×4年=25,258,176円)がNHK党からつばさの党に寄付されることとなる。600万円が2500万円になって帰ってくる訳で、これこそ本来の政党助成法の趣旨にかなった税金の使い方である。しかし、現行法では弱小の政治団体は容赦なく切り捨てられている。つばさの党は選挙後の政治活動を続けるための活動費のかなりの部分を作ることが出来たと言える。

また、黒川敦彦はNHK党の選挙対策委員長としても活動したので、マスコミにも取り上げられている。そして、国政政党NHK党の候補者としてテレビでの政見放送にも出ている。

ところが、②日本第一党の桜井誠氏と③支持政党なしの佐野秀光氏のケースは今回の選挙ではマスコミにまったく取り上げられることも無く、一般には立候補していることさえ知られていなかった。そして、結果は桜井氏は600万×4人 300万=2700万円の供託金を没収され、佐野氏は600万×2=1200万円を没収されて、政党助成金のリターンは0円である。今回、桜井氏も佐野氏もマスコミにはまったく取り上げられなかったことが不振の原因である。

①②③の例を見れば、『諸派党構想』に参加することがいかに有利であるかが分かる。そして、現行の政治制度の不公平を正すのに国会で多数を取って法律を立法する以外に、『知恵』を働かせれば、結果として『法律を書き換えた』のと同じ効果をもたらすことを立花孝志は証明した。

②日本第一党の桜井誠氏や③支持政党なし(=安楽死制度を考える会)の佐野秀光氏は参議院の比例区(定数50)に出馬すれば当選の可能性がある。しかし、参議院選の比例区に出馬するには最低でも3,300万円(300万円×9人 600万円×1人)の供託金が必要である。この供託金がネックとなっているのであれば、『諸派党構想』に参加して600万円の供託金で比例区に出馬するというのが合理的選択というものだと思うのだが、これまでの経緯(いきさつ)や人間の憎悪の感情というものは如何ともしがたいのだろうか?

立花孝志は政治思想の違いも、これまでの経緯も全く関係なく誰でも『諸派党構想』に参加することを求めている。

その点では黒川敦彦は合理的選択の出来る優れた政治家の資質を持っていると思う。

  (2021年11月6日投稿)