[3204]不公平な選挙制度に『風穴』を明ける立花孝志の衝撃の戦略(4)

片岡裕晴 投稿日:2021/08/04 14:43

 (2021年8月4日投稿)

この文章は[3166]不公平な選挙制度に『風穴』を明ける立花孝志の衝撃の戦略(3)の続きです。

◆政界の風雲児・立花孝志◆

 2021年7月21日立花孝志は都庁で記者会見を行い、この秋に行われる衆議院議員選挙の候補者(東京選挙区)13名の発表を行った。

これより前、旧N国党は幾度も党名変更を重ね『古い政党から国民を守る党』に党名を変えていたが6月28日に『嵐の党』へと何度目かの党名変更をした。そして7月4日の東京都議会議員選挙では『嵐の党』から2名の公認候補者と3名の推薦候補者を立てて有権者の反応を見た。その結果を踏まえて、この秋の衆議院議員選挙に合わせて、また党名を変更して『NHKと裁判してる党弁護士法72条違反で』(NHK党)という新党名で選挙に挑むことになる。この様に党名を目まぐるしく変えるにはそれなりの理由がある。これについては、後半で触れることとする。

さて、候補者発表の記者会見では12名の小選挙区からの候補者と1名の比例区からの候補者が発表された。公示日までには更に追加発表される。また東京以外の小選挙区と比例ブロックについては、各県庁などで随時記者会見を行う予定である。

また、『諸派党構想』での公認候補者の条件については当初は一定の制約を設けていたが、これもすべて無くし、『被選挙権を有する人で300万円の供託金を自分で用意できる者』なら全て公認する方針であることも併せて記者会見で発表した。(注:小選挙区の供託金は300万円、比例区の供託金は600万円である)

その結果、国政政党以外から今回の衆議院選挙に立候補しようという候補者には二つの選択肢が出来た。①直接選挙管理委員会に届け出る方法と②『NHKと裁判してる党弁護士法72条違反で』(以下NHK党と略す)という国政政党の公認候補者となり、NHK党を通して選挙管理委員会に届け出る二つの選択肢が用意されたことになる。

候補者にとってどちらが有利な選択であるかは前回に説明した通りである。

つまり国政政党『NHK党』は候補者と選挙管理委員会の中間に立花孝志が『少数派の候補者』の為に作り上げた『選挙における公平な権利を付与する機関』であると定義できる。

別の言葉で言えば、公職選挙法が既得権益者の為に作り上げた強固な壁に『風穴』を明け、公職選挙法が少数派の候補者に科していた『差別』を消し去り、全ての候補者が平等に選挙に参加できるように『法律を書きなおした』と言い換えても良い。

その結果、この秋に行われる衆議院選挙において、例え供託金没収点以下の得票数でも落選候補者は救済されることになる。

これまでならば供託金没収点に達しない弱小候補者はまるで『お前みたいなクズは二度と国政選挙に立候補するんじゃない。300万円は罰金だ!』と言わんがばかりに供託金を没収されて終わりであったが、『諸派党構想』に参加すれば自分が獲得した票数に応じて政党助成金が国庫から交付され、衆議院ならば(次の解散までの平均)3年間、参議院ならば6年間に渡り政党助成金が交付される。

何度でも強調しておくが、これは既得権益者が築いた高い壁を打ち壊す動きの一つであり、NHK問題と本質は同じなのだ。

◆佐野秀光氏はなぜ4人の候補者を立てねばならなかったのか?◆

 前回の衆議院選挙(2017年10月)において、『支持政党なし』(佐野秀光党首)という政治団体が比例代表東京ブロック(定数17)で獲得した票は12万5019票であった。そして当選は叶わず供託金2400万円(600万円×4人)は没収された。2400万円も供託金を没収されたのに、選挙後の政党助成金の交付は0円であった。

もし、この2017年の選挙で『諸派党構想』というものが存在し、『支持政党なし』(党)が『諸派党構想』に参加していれば、この選挙での『支持政党なし』の獲得票数125,019票に対して約3900万円の政党助成金か国庫から交付されたことになる。(78円×125,019×4年=39,005,928円)

没収された2400万円に対し政党助成金でのリターンが、3900万円ならいいなぁと考えた人はまだまだ考えが甘い。『諸派党構想』で出馬すれば、供託金は600万円で済むのだ。(注1)

そもそも『支持政党なし』が何故4人もの候補者を立てたのか?一人でも当選が難しいのに4人も立候補するなんて馬鹿じゃないの と普通は誰でも思うだろうが、それでは佐野さんがかわいそうである。

なぜ佐野氏が苦渋の決断をして、4人分の供託金2400万円を用意しなければならなかったかというと、「公職選挙法」の高い高~い壁がそこにあった。即ち国政政党(公党)以外の政治団体が比例ブロックに立候補する場合、定数を5で割り小数点以下を繰り上げた数の候補者を立てなければならないからだ。東京ブロックの場合定数17なので(17÷5=3.4 →4)4人の候補者が必要である。(注2)

一方、社民党は公党なので一名の候補者を立て、落選したので供託金600万円は没収されたが、56,732票獲得し結局4年間で約1770万円の政党助成金が交付された。なんと社民党は『支持政党なし』の半分以下の票しか取っていないのに供託金の倍以上の政党助成金をもらっている。この一点を見ても社民党が既得権益者側の政党であるかが分かるであろう。

これが、北海道ブロックならば、定数8なので(8÷5=1.6 →2)2人の候補者1200万円でよい。事実、『支持政党なし』は前々回の2014年の衆議院選挙において(一番安くて済む)北海道ブロックで挑戦して獲得票104,854票(得票率 4.19%)の結果を得たが落選。これは社民党の獲得票53,604票(得票率 2.14%)の2倍の得票である。しかも、「公職選挙法」で守られた社民党は国政政党なので1名の立候補者(供託金600万円)で済み、かつ選挙後の政党助成金は没収された供託金の倍の1200万円(78×53,604の3年分として=12,543,336円)のリターンが有った。(注3)

恐らく佐野さんは2014年の北海道ブロックで4.19%もの得票率を得たので、2017年の衆議院では東京ブロックで4%を超えれば当選できると踏んで挑戦したのだが2.1%しか取れずに落選、公職選挙法の壁の高さと理不尽さを思い知ったはずである。

そうすると、2019年に立花孝志が政治団体『N国党』を国政政党に飛躍させた戦略がいかに優れたものであったかを高く評価していいだろう。

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(注1)国政政党(公党)は比例代表ブロックに立候補者を一名から立てる事が出来る。しかし、公党ではない政治団体が比例代表ブロックに候補者を立てるためには、各ブロックにより決められた数以上の候補者を立てる必要がある。東京ブロックで立候補する場合を例にとると、公党なら候補者は一名(供託金600万円)から立てられるが、(弱小の)政治団体は最低4名(供託金2400万円)が必要である。まさに驚愕すべき不公平さが「公職選挙法」によって決められ、弱小の政治団体はこの事実を知った段階で立候補を諦めるだろう。
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(注2)近畿ブロックは定数が28である。従って政治団体が近畿ブロックで候補者を立てる場合(28÷5=5.6 →6)6名の候補者を立てなければならず、その供託金の額は3600万円になる。全国11ブロックのすべてで立候補すると、なんと41名の候補者を立てねばならず、供託金は2億4千600万円もかかる。公党であればこれが11名、供託金6千600万円でよいことになる。
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(注3)2014年の衆議院選挙での当選者は3年後に衆議院が解散されたので3年で議員資格を失職した。

◆スローガンを党名にする立花孝志の才気◆

 立花孝志は今回国政政党(公党)として初めての国政選挙に挑戦する。そして、総選挙に向けての新たな党名を『NHKと裁判してる党弁護士法72条違反で』(略称NHK党)という衆議院選挙用の党名で挑むことになった。

これはまるでスローガンの様な党名ではないか?キーワードは『裁判』と『弁護士法72条』である。この二つのキーワードを選挙を通して有権者国民に浸透させることが目的である。

そして、『諸派党構想』という革命的な発想で「公職選挙法」に書かれた(弱小)政治団体に対する理不尽な差別を破壊する選挙戦略で2021年の衆議院選挙に挑む。

新たに政治家を志す人は誰でも(たとえ立花と政治思想が異なっていても)公党である『NHK党』の傘下に入り、大政党からの立候補者と全く同じ条件で選挙に出馬することが出来ることになった。

『NHK党』は政治団体として結党して以来これまでに7回党名を変更している。それは有権者に党の活動内容を知ってもらうという目的からである。『党名はスローガン』でもあるのだ。(まさに『名は体を表す』である)

衆議院選挙に向けた『NHKと裁判をしてる党弁護士法72条違反で』という倒置法を用いた長い党名は、恐らく初めて見た人には一度見て理解できずもう一度読み直すほど、長くて分かり辛い党名かも知れない。

むしろ二度読み直してもらうことが目的であると言ってもよい、そして党名を正確に覚えてもらう必要は全くなく、『裁判』と『弁護士法72条』というキーワードが有権者の頭の中に残ればいい。『党名はスローガン』なのだ。

衆議院選挙の比例ブロックでの投票は「党名」を書かなければならない。そして党名は略称『NHK党』または単に『NHK』だけでOKである。

弁護士法72条違反という刑事罰を伴う犯罪をNHKが犯している実態を国民に知ってもらい、すでに10件もの裁判を起こしている実績をを有権者に理解してもらい、その判決が衆議院選挙後にも出ることに注目を集めて行こうという目的が立花にはある。

立花にとって党名はその時々の選挙に訴えるテーマそのものである。だから恐らく2022年の参議院選挙ではまた党名を変更して2022年の有権者に訴えるはずである。

『諸派党構想』により、立花は有権者からの2%以上の支持を獲得することが出来る。一方、『諸派党構想』に参加する各政治団体の候補者も(例え供託金が没収されようとも)供託金以上のリターンが得られる可能性が高い。これは、『みんな』が有難うと言える党である。そうだ『みんなの党』だ。『みんなの党』と言えば渡辺喜美(わたなべよしみ)である。

余り知られていないことだが、2019年7月の参議院選挙で当選した立花孝志はすぐに渡辺喜美と会談し、参議院院内会派『みんなの党』を立ち上げている。

これまでの経緯と立花孝志という人物の思想と『諸派党構想』の性格を考えると、党名は最終的には『みんなの党』(Your Party)がふさわしいと思う。

そして、立花は最大の敬意をもって渡辺喜美を新しい党首に迎え入れると思う。

恐らく立花はあと数年のうちにNHK問題に決着をつけ、自身は政治家を辞めるつもりでいる。その時には2年前に国会議員の地位を比例第二位の浜田聡にパスしたように、今回は公党の党首の座を渡辺喜美にパスし、渡辺喜美は『新生みんなの党』を復活させるであろう。

立花孝志とはその様な男である。

(次回につづく)