[3134]不公平な選挙制度に『風穴』を明ける立花孝志の衝撃の戦略

片岡裕晴 投稿日:2021/05/13 16:33

(2021年5月13日投稿)

◆既得権益者が高い壁を作りアウトサイダーの参入を阻む選挙の仕組み◆

民主政治は国民の様々な意見を汲み取り、少数の人々の利益も無視することなく国政政治に反映させる仕組みを取り入れていかなければならない。

ところが、現状は国政選挙であっても投票に参加する人が有権者の50%~60%にとどまり、その結果、自民公明の得票率が(全有権者の)30%しかないのに与党の国会議員が3分の2を占めてしまうという恐ろしい結果を生み出してしまうのである。

その原因は少なくとも4つあって、①一票の格差②小選挙区制度③既得権益者(*既成政党)が持つ組織票④組織化されない非既得権益者(アウトサイダー)の多くが投票に行かない、ということにあるのだと思う。

*7つの既成政党(=既得権益者の政党すなわち自民、公明、立憲、共産、維新、国民、社民をいう)
*2つの新興政党(=れいわ新選組、NHKから国民を守る党)
以上9つが国政政党である。(国政政党とは直近の国政選挙で有効投票数の2%以上の票を獲得し、かつ1名以上の国会議員を有する政党をいう)

さて問題は国政政党は選挙運動に於いて特別に優遇され、さらに選挙後に獲得票数が政党助成金に反映するという政党助成法上の特典があるが、国政政党以外にはこの特典が適用されないということである。

この国政政党への特別の優遇(*2)が弱小の政治団体が国政に参入しようとする時の大きな障壁となり、新規参入が難しく既成政党が既得権益者として、政界を牛耳る状況を作って来たと考えることが出来る。(注:共産党はなぜか政党助成金を受け取らない)

それ故、現状は国政政党というプラットフォームを借りて、国政選挙に出ない限り国会議員になることは困難であると言ってよいだろう。

(*2)弱小政治団体への差別の主なものは①国政政党には認められるテレビでの政見放送が弱小の政治団体には認められないこと②新聞広告が税金(一定額)に依って掲載可能であるが、弱小の政治団体にはこの特典も無いこと③選挙の結果獲得した票数が政党助成金の形で戻ってこないことがあげられる。

◆野末陳平氏の場合◆

例えば2019年の参議院議員選挙において元参議院議員の野末陳平氏は東京選挙区から無所属で出馬し91,194票を獲得したが落選した。そして、300万円の供託金も没収された。野末陳平氏は9万票以上も票を獲得したにも関わらず政党助成金を一円も受け取ることが出来なかった。

もし野末氏が国政政党の公認候補として出馬していれば、一票当たり47円の政党助成金が交付され6年間に2千5百70万円(47円×91,194×6年=25,716,708円)がその所属する国政政党および本人に支給されるのである。

つまり、無所属や弱小の政治団体から選挙に出る場合、選挙のスタート時点においても、また選挙後の政党助成法の待遇においても極めて不利な状況で選挙戦を戦わなければならないのだ。既得権益者である国政政党が優遇され、新規参入を阻む厚く高い壁が最初から『意図して』作られていることは明らかである。

そして、つねに批判され続けている二世議員、三世議員がのさばり続くのも、この公職選挙法の不平等な条文にその大きな原因があることが判明するはずである。

◆2019年に起こった記憶されるべき2つの出来事◆

この年の7月、憲政史上に残る二つの出来事が起こった。(そして、ここに新しい民意の方向が示されている)

その第一は、①れいわ新選組から2人の身体障碍者の国会議員が誕生したことである。

本来なら当選が難しいであろうこの2人の候補者が当選した背景には2つの要因があった。

一つは山本太郎の誰も思いつかない奇策ともいうべき戦術であり、その原因を作ったのは自民党の傲慢で横暴で自分勝手な選挙制度の改悪(比例区において定数を2議席増やし、上位2名を特定の候補者に指定できる様に改悪した)があり、これを逆手に取り、かつ山本太郎が自らの議席を二人に優先して譲るという英断があったからである。

第二は、②NHKから国民を守る党が国政政党に飛躍したことである。

これはほとんど無名の民間人である立花孝志が既存の国政政党というプラットフォームを使わずに6年の歳月をかけて、地方議会選挙で少しずつ議員を増やしながらとうとう国政政党に飛躍するという誰も成し遂げたことのない快挙であった。

過去に国政政党を使わずに国会議員になった人は何人かいた。しかし、それは青島幸男氏やアントニオ猪木氏のようにテレビを通して全国的に有名であった人が国会議員になった例である。

無名の立花の場合はYouTubeでの動画配信を通して、熱狂的な支持者を獲得するという手法が新しかったと言える。

◆立花孝志が構想する『古い政党を支持しない党』が風穴を開けるだろう◆

2013年に政治団体『NHK受信料不払い党』としてスタートしたこの政党はその後、『NHKから国民を守る党』(N国党)→『NHK受信料を支払わない方法を教える党』(NHK党)と党名を変更し、今度の衆議院議員選挙と2022年の参議院選挙に向けて四度目の党名変更を行い『古い政党を支持しない党』という国政政党になる。

立花は党名を変更するのみならず、これまでになかった『構想と構造』を持った全く新しいイメージの政党を作ろうとしている。

まず、上部構造として国政政党『古い政党を支持しない党』があり、その下に数十の政治団体が所属するという構造になる。

国政選挙に立候補しようとする人は、それぞれが独自のワンイッシュー(一つの政治主張)を掲げる政治団体として『古い政党を支持しない党』の傘下に入り、『古い政党を支持しない党』の候補者として立候補する。

従って、単独の政治団体で立候補した場合に被る(冒頭紹介した)不利な条件ではなく、国政政党の優遇された立候補者としての待遇(テレビでの政見放送など)を受け取ることが出来る。

さらに選挙で獲得した当該候補者の得票数が政党助成金としてそれぞれの(弱小)政治団体に還元されるという仕組みになる。(例えば参議院選挙で2万票獲得した候補者は47×20,000×6年=5,640,000円が政党助成金として党に入ることになる。参議院選挙区の供託金3百万円は十分に賄えることになり、(例え供託金が没収されようとも)資金面でも安心して立候補できる仕組みが提供されることになる。

「政党助成法」という法律がある。この法律は民主政治の健全な発展に寄与することを目的として作られた法律であり、国民から一人当たり250円を集めこれを原資としておよそ320億円の資金を政党と議員に国庫から交付される。

民主政治を実現することがこの社会の目標であるならば、新たに政治家を目指す弱小の政治団体にも新規参入を促し、援助の手を差し伸べるという精神が必要なはずであるが、現実には冒頭述べたように新規参入を阻むような高いハードルが公職選挙法で『意図して(悪意を持って)』設けられており新規参入をしようとする政治団体は高額の供託金を知った段階で出馬を諦めていた。

このような高いハードルに風穴を開けたのが『古い政党を支持しない党』の構想(又は諸派党構想)である。本来なら国がやるべきことを、立花孝志は自分の作った国政政党のプラットフォームを弱小の政治団体に開放することで、既存の国政政党と同じ公平な条件で国政選挙に立候補できる道を開いたと言ってもよい。

(つづく)