[2464]藤森かよこさんの『馬鹿ブス貧乏』をおすすめする(2)

学問道場の進次郎 投稿日:2019/12/03 02:13

藤森かよこさんの『馬鹿ブス貧乏』をおすすめする(2)

この書はいろいろな角度から読むことができる。
●自己啓発本としての本書(つづき)

19世紀アメリカの思想家ラルフ・ウォルドー・エマーソン(1803-82)の言葉に
「真理は自分の内にあり、
付和雷同せず、常に自己をよりどころとして生きよ」(『自己信頼』(self-reliance  1841年)
というのがある。 元祖・自己啓発本である。 1841年エマーソンはボストンのフリーメイソン寺院で講演を行い、彼の言論活動のスタートを切った。ボストンがフリーメイソン=ユニテリアン教会のメッカであったことは、学問道場研究員の石井利明さんが、明らかにしているとおりである。ヨーロッパでは、1848年にカール・マルクスが『共産党宣言』を、フリーメイソン会館で発表している。
フリーメイソン=ユニテリアン教会が当時西洋で最先端だった。

エマーソンは、日本の啓蒙思想家に多大な影響を与えた。内村鑑三、植村正久、徳富蘇峰ら明治プロテスタントによって、わが国に紹介された。内村鑑三は、 エマソンの”Representative Men”『代表的人間像 』(1850年刊)に倣(なら)って 『代表的日本人』を著している(1894年)。

 エマーソンは、謙虚な心で自分が本当に望むことをするなら、
人間はもっと自由に幸福になれる──という。この言葉は、著名な自己啓発書や成功哲学書でも、たびたび引用されている。

藤森さんの『馬鹿ブス貧乏』にもこの信念が底流に流れている。この発展形は、逆説的になるが、以下のようになる。

(支配階級というのは)負ける自分、不幸な自分、弱く惨めな自分、孤独で孤立した自分、・・・・など想像できない。負けないように仕組まれた仕組みの上に乗っているので、それは当然だ。(『馬鹿ブス貧乏』p160)

支配階級と被支配階級の違いは、「94歳にして足腰が丈夫で、リッチで、健康で、陽気で、明るい自分は、当たり前であり、実現して当然の規定のこと」と思い込めるかどうかにかかっている。( 同上 p162)

ということなのだ。エマーソン的な「謙虚な心」というのは超人思想にもなりうる。本当は、エマーソンとドイツ人思想家・フリードリヒ・ニーチェの間に、深い交流があったということが、最近の研究で明らかになっている。このことは、『アメリカのニーチェ』(ジェニファー・ラトナー・ローゼンハーゲン著 岸正樹訳 法政大学出版局 2019年刊)でも、特記されている。
ニーチェは、エマーソンの本を多量に読んでいた。自己啓発思想も取り込んでいたのである。

ニーチェは晩年に『権力への意志』を著した。これは超人(ユーバーメンシェン・英語でsuper manスーパーマン)思想とされている。ドストエフスキーの小説『悪霊』(1872年)の中にも、アメリカ的超人像を体現するキリーロフという人物が登場する。
エマーソン、ニーチェ、ドストエフスキーは19世紀後半に、同時代人として影響しあっていた。このあたりのことは、副島隆彦先生の著書『ニーチェに学ぶ 奴隷をやめて反逆せよーまず知識・思想から』(成甲書房 2017年刊)でも、詳しく解説されている。

ただし、『権力への意志』は、ニーチェが発狂したのちに、妹のエリーザベト・フェルスター・ニーチェが改ざんして、反ユダヤ主義、民族主義の書物にしてしまった。「ニーチェをナチに売り渡した」のが、妹のエリーザベトだった。

兄フリードリヒ(ニーチェ)は、妹の反ユダヤ主義運動をずっと、嫌悪していた。夫のフェルスターのドイツ民族至上主義にかぶれている妹を、兄ニーチェは手紙で「やめろ、やめろ」とたしなめていた。
妹・エリーザベトには、ある種の女性に特有の、底知れない狡猾(こうかつ)さがあった。
天才の妻や家族には、このような女性が必ずいるものだ。

( 『エリーザベト・ニーチェ ー ニーチェをナチに売り渡した女』ベン・マッキンタイヤー著 藤川芳朗訳 2011年刊)

話を戻すと、藤森かよこさんの『馬鹿ブス貧乏』には、エマーソンとニーチェのどちらの側面もある。
「謙虚であることー自分が馬鹿であることを自覚すること」と「超人であることー自分が支配者、権力者であるのは当然のことであり、 負ける自分、不幸な自分、弱く惨めな自分、孤独で孤立した自分など想像もしないこと 」が、表裏一体となっている。これは、リバータリアニズムの創始者の一人・アイン・ランドを研究されてきた藤森かよこならではの教えだと思う。藤森先生自身があえて、「馬鹿」の一員として、お書きになっているので、嫌みがない。

私・田中進二郎は『馬鹿ブス貧乏』を読んだ後、ふと気になって、藤森かよこ講演会『アメリカにおけるアイン・ランド受容がつきつける日本のRanderたちへの課題』(2012年3月福島県での講演)のDVDを見直してみた。
すると、アイン・ランドの紹介の話の中に、『馬鹿ブス貧乏』で扱われているトピックがいくつも出てきている。更年期障害や、依存症の問題などもすでに語られている。つまり、藤森先生は、すでに七、八年前から『馬鹿ブス貧乏』に出てくる話のもとを蓄積されていたことに、改めて驚きました。

最後にこの本を作るために協力された方々の、なみなみでない熱意のほどを感じました。老若男女を問わず、読んで非常にためになる好著であると思います。
Amazonのブックレビューも非常に、心のこもったものばかりで、藤森先生の人徳の大きさを感じます。こちら↓もご覧ください。


馬鹿ブス貧乏で生きるしかないあなたに愛をこめて書いたので読んでください