[2422]「れいわ」のアバンギャルド、立花孝志と山本太郎。

片岡裕晴(かたおか のぶはる) 投稿日:2019/07/18 11:47

今から10年前の2009年の8月下旬のある日、私は京都市内から国道一号線を東に向かって移動していた。山科を過ぎ、逢坂の関を越え大津市内に入る。あと10分も走行すると右手に巨大な東レ大津工場が見えてくる。その大きな正門前には選挙カーが止まり候補者が挨拶をしている。

この年の8月30日に行われる衆議院議員選挙に向けて東レ労組出身の民主党候補者川端達夫が選挙活動を行っているのが分かる。それはいつも見られる選挙の風景であったが、たった一ついつもと大きく違うことが起っていた。

この民主党の候補者の前を通る車はどの車もスピードを落とし、そして多くの車がわざわざ窓を開け、運転席や助手席から思い切り手を振り、笑顔で声援を送っていた。

この時、多くの国民は自民党の政治に辟易(へきえき)していた。失われた年金問題、余りにも質の悪い自民党の閣僚たち。ハッキリ言うと多くの人は自民党に憎悪の感情を抱いていたのだ。

そして、民主党の掲げる主張、「高速道路の無料化」「ガソリン暫定税率撤廃」「子供手当2万6千円の実現」への期待感、自民党に対する負の感情と民主党に対する正の感情が、民主党候補者に向かって手を振らせ笑顔を向けさせていた。

そして、8月30日の選挙では投票率が70%近くまで上がり、民主党政権が誕生した。

ここで注目することは、通常なら60%の投票率が70%になったという一点である。この10%とは普通なら選挙に行かない1000万人の有権者である。この有権者(無党派層であり浮動票と言われる人たち)がカギを握っている。

【二人ののアバンギャルドと橋下徹との本質的な違い】

2008年にブームを巻き起こし、政界に躍り出た橋下徹は大衆の不満をうまく掬い上げ、大阪府民の心を掴み政治の世界に登場した。

2019年の今年、新たに起こっている二つ政治の渦も熱狂的な支持者を集めながらその動きは大きくなりつつある。

今回の参議院選挙で山本太郎と立花孝志が目指す直近の目標を達成することが出来るかどうかまだ分からない。

2008年に成功した橋本の手法は、人間の持つ負の感情、嫉妬心や憎しみや怒り、優遇されている者を引きずり下ろすことにより得られる満足感、いわば人間の持つ劣情に火をつけることにより成功した。

山本太郎と立花孝志は反対に、人間の持つ正しい感情を目覚めさせることにより、人々を引き寄せている。一言でいえば彼ら二人は義人である。

人間の持つ正義感、弱い者を助けたいと思う優しい心、不正を行うものをあくまでも許さないという強い気持、彼らの政策の根底にはこのような人間性の持つ正しい感情が確実に存在している。

【アバンギャルドたちはブームを巻き起こすことが出来るか?】

既存の政党、与党(自由民主党、公明党)は勿論のこと、野党(立憲民主党、国民民主党、共産党、維新など)を含めて彼らは既得権益者なのだ。

権力の中枢とつながり、経済力(大資本)や報道(NHKをはじめとするマスコミ)や三権(司法、立法、行政)を支配するエリートと呼ばれる人たちであり、彼らは時には抗争するし、お互いに対立し抵抗するふりを見せて大衆の支持を得ようとする。しかし、実は裏で手を握り、お互いの分け前を手にしている、そういう人たちなのだ。

2011年にアメリカで起こった抗議運動、「ウォール街を占拠せよ」で掲げられたスローガン ”We are the 99%” 。

この時、アメリカ人は気付き始めた。 二大政党が交互に政権を担い、マスコミが政治を監視し、バランスよく運営されることで理想的な民主主義が実現できるという嘘に気付いた。

実は金のあるものがロビー活動で議員を買収し、議会の評決を左右することを、マスコミはフェイクニュースを流し、自分たちエリートに都合の良い世論を形成することに気づいた。

いま、日本で起こっている二つの政治的な動きがある。一つは山本太郎の れいわ新選組 の立ち上げであり、もう一つは立花孝志の「NHKをぶっ壊す!」「これは、令和の百姓一揆だ!」というという主張である。

山本太郎と立花孝志は今のところなんの連携も取らず、別々の動きをしている。しかし。彼らの政治主張には通底するものがあり、二つの動きが大衆を巻き込むほどの大きな流れになった時には合流する事がありうると私は考えている。

二人の政治手法を見てみると、既存の政治家では到底発想し得ないほどの鮮やかさで、奇抜な考えを打ちだしそれを実行できる人であることが分かる。

まずは山本太郎。彼は小沢一郎の自由党の共同代表として、小沢の目指す野党共闘を実現すべく「消費税率の5%への引き下げ」を共通の政策とするよう他の野党に提案した。そして、この条件が受け入れられないのであれば、自らは新党を立ち上げ消費税廃止を目指すと宣言し、他の野党に決断を突き付けた。

結果はご存じの通り、山本は れいわ新選組 を立ち上げ、支持者から1億円の寄付を募り、目標の1億円が集まると10人の候補者を立て、参議院選挙に挑んでいる。寄付金はすでに(7月16日現在)3億円を越えたようだ。

支持者は勿論のこと、他のすべての政治家が注目していた東京選挙区に山本は出るのか?山本は東京選挙区にはなんと沖縄創価学会員の野原ヨシマサ氏を擁立、当事者として沖縄問題を東京都民に訴えることがどの程度のインパクトを与えるか、そして公明党の切り崩しがどの程度ありうるかが注目される。

山本太郎は比例区に立候補することとなった。ここで支持者を困惑させる驚愕すべきことが起る。

今回の参議院選挙から導入された比例の「特定枠」制度から説明しなければならない。発端は一票の格差問題であり、人口の少ない鳥取県と島根県、徳島県と高知県が合区となった。その結果(本来当選していたはずの自民党議員)二人の議席が失われるという自民党のごり押しで(この二人の自民党議員を救済すべく)昨年7月公職選挙法を改正し「特定枠」が設けられた。特定枠に指定された候補者は(その候補者の獲得票数がたとえ最低でも)最優先で当選するという本来あり得ない制度である。

この非難轟轟だった制度を実に鮮やかに逆手に取ったのが山本太郎の発想の豊かさ大胆さである。
山本は「特定枠」の一番目にALS(筋萎縮性側索硬化症)の舩後靖彦氏(ふなご やすひこ 61歳)を二番手に脳性まひで重度障害者の木村英子氏(54歳)を擁立し、自らは3番手になるという奇策を用いた。

つまり比例区の得票数が100万票に達すると船後康彦氏がまず当選し、200万票に達すると木村英子氏が当選する。
そして、300万票に達しない場合は山本太郎は落選する。

山本は自らを犠牲にすることによって、退路を断ち、背水の陣を敷き、支持者に300万票に達しない場合、山本太郎は国会に議席を得られないと暗に示すことによって支持の拡大を有権者に迫っているのだ。

勿論300万票を遥かに超え、500万票に達し比例区で5人の当選者を出し、東京選挙区でも野原ヨシマサ候補が(定数6の内)6番目に滑り込む可能性も有りうるだろう。
しかし、一番高い可能性は、200万票は超えるが300万票に達しないというケースだろう。このケースの場合れいわ新選組は一体どうなるのだろう。

「特定枠」の候補者の2名が議員となった場合を具体的に見てみよう。

実に興味深くワクワクするような事態が待ち受けている。この難病を抱える二人の新しい議員を他の700人以上の国会議員はどのように迎え入れ接するのだろう。選挙期間中は弱者に寄り添うと言い、巧言令色を弄する多くの国会議員がどのような発言をし、どのような態度を見せるのか、ここは一見の価値があると言える。

難病のため常に介護者の付き添が必要な議員が発言をし、賛否の意思を示す、これは従来の議事運営のスピードで可能なのだろうか。
特に本会議場で投票する場合、今の議場では階段での上り下りが必要なのだが、一体どのように国会のシステムを二人の弱者に合わせて改善するのだろう。
パラリンピックを積極的に国家事業として推し進めている自民党の議員や(本心に反して)バリアフリーを積極的に推進しますと公言している議員たちが国会のバリアーをどのようにフリーにしていくのか楽しみである。

二人の参議院議員が誕生した場合、れいわ新選組は党首山本太郎が従来通り、街頭演説やテレビでの政治活動を行うだろう。そして、2年3か月のうちに必ず行われる衆議院議員総選挙に出馬して、議員に復活できるだろう。

もう一つの可能性としては、現行のおかしな選挙制度を更にもう一度逆手にとって、比例区の全候補者9人が交代して議員を務めるというアイデアはどうだろう。
スポーツの試合の様に選手交代を行えばよい。6年×2人÷9人=1.333年、平均して1年4か月づつ議員を務めることが可能であり、各議員はそれぞれの分野の当事者であり、重要な問題提起を行うことが可能である。

1年と4か月の時間では自らが抱える問題の法律を成立させるには短いかもしれないが、交代した議員がそれを継承していけばよい。最初に議員を務める二人が適当な期間議員を務めたのち辞職し、順次繰り上げで議員を勤めればよいのだ。
これは支持者から集めた貴重な資金に支えられて、立候補した各候補者にとっても、寄付をした支援者にとっても十分納得できる手段だと思う。

次に立花孝志。山本太郎と並ぶ「れいわ」のアバンギャルドである。彼は「令和の百姓一揆」というスローガンを掲げた。その昔、百姓がスキやクワを手に持ち、お代官様に立ち向かったように、スキやクワの代わりにスマホを片手に持ち、(選挙なんか行ったことのない人々に)選挙に投票に行こうと呼びかけている。「令和の大塩平八郎」と自ら呼んでいる。

4月の統一地方選挙で26名の地方議員を誕生させ一時は40名以上の議員を抱えるまで大きくなったN国党は、7月の参議院議員選挙に向け、当初は確認団体として認められるための最低数の候補者10名を擁立をし、比例区3名、東京選挙区7名を予定していた。その後さまざまないきさつがあり、方針を大きく変更。立花孝志がネットで呼びかけると10日のうちに1億5千万円の資金が集まり、候補者は比例区4名、選挙区37名の41名の候補者を立てる事となった。また、地方議会においてはN国党の公認が得られれば、当選する可能性が極めて高くなり、議員になる為だけに、N国党の公認をもらい、当選すると辞めて自民党に入党する議員が多数出るという事態に、立花はN国党自体も既得権益であると考えるようになった。
そのため、従来の方針を変更して、NHKがスクランブル放送を実施すれば、N国党を直ちに解党すること、立花孝志はスクランブル放送が実施されれば、政治家を辞めることを宣言した。

世の中の1%のエリートが作り上げた既得権益システム、自民党は勿論のこと既存の野党さえも1%のエリート階級であり、彼らの行う立法府での欺瞞に満ちたインチキ民主主義をぶっ壊そうとしている。その核心に存在する悪の既得権益組織こそNHKなのだ。だからこの一点に狙いを定めて「NHKをぶっ壊す!」なのだ。

立花孝志と山本太郎に共通するのは、投票を呼び掛けている対象が今まで選挙なんか行ったことのない人々を主な対象としていることである。この人々が1%のエリートが作り上げたインチキなシステムにの存在に気づき、どれだけの人が正義の感情に目覚めて立ち上がるか?すべてはこの一点にかかっている。

前回2016年の参議院選挙の投票率は約55%、有権者1億620万人の内5800万人である。実に45%、4800万人もの有権者が投票に行っていないのだ。立花も山本も投票に行く55%の有権者の切り崩しを狙うより、投票に行かない45%の有権者を掘り起こした方が、確実に得票に結び付くと考えている。投票に行かない層の内1000万人が投票所に足を運べば、その多くはN国党またはれいわ新選組に投票してくれる可能性が高いと私は考える。

新聞やテレビなどのオールドメディアとネット情報というニューメディアが存在する。人々はどの情報の影響を強く受けて選挙に臨むのだろうか。そこには幅広いグラデーションが存在する。
大雑把に乱暴に断言すれば、55%の人々は新聞やテレビの影響を強く受け、45%の人々はスマホなどのネットの影響を強く受ける人が多い。オールドメディアは立花孝志と山本太郎を意図して無視し、最小の報道しかしない。ニューメディアは好意的に量的にもはるかに多く報道している。立花孝志はオールドメディアを最初から相手にせず、ネット情報を自らも発信し、ネット情報に大きく影響を受けている45%の人々を主なターゲットとしている。

すべては今まで選挙に行かなかった人が立花孝志や山本太郎の呼びかけに気づき選挙に行こうと決断するかどうかにかかっている。この場合、N国党とれいわ新選組は政党要件を満たす条件の「得票率2%以上と一人以上の国会議員」を実現できる可能性が高い。そうなれば政党要件を満たし国政政党として認められ、政党交付金と次の衆議院議員選挙での有利な条件を獲得できる。

参議院議員選挙の三日前のいま言えることは、普段は選挙に行かない人々、政治を諦め政治をバカにしている人、政治なんか自分と関係がないと思っている人、これらの4800万人の内のうちの何100万人が投票所に足を運ぶかが、NHKから国民を守る党とれいわ新選組が次のステップへと飛躍するカギとなるだろう。

2019年7月18日投稿