[2382]大化けする「N国党」、胡散臭い政治団体から国政政党への飛躍(1)

片岡裕晴 投稿日:2019/01/16 19:13

「NHKをぶっ壊す!」という特定の政治目標の実現を目指して結成された政治団体であるN国党(NHKから国民を守る党)は昨年の1月時点ではわずか4人の地方議員を有する、ほとんど知名度のない政治団体であったが、12月末時点では13名にまで所属議員の数を増やし、この4月に行われる統一地方選挙では、すでに50名近くの公認候補者を抱えており、その勢いは止まらず、ひょっとしたら100名近くの公認候補を出す可能性すらある。そして7月の参議院選挙では公職選挙法の政党届け出をするための必要条件である候補者10名を擁立することになるという。

NHKから国民を守る党の代表である立花孝志氏は元NHK職員である。私が立花氏のYouTube動画を観て面白いと思い注目し始めたのは、もう6年も前のことである。

まるでサラ金の取立人か暴力団の様な凶暴なNHK集金人が法律に無知で気の弱い庶民に対し、乱暴に契約を迫り震え上がらせている現場に、突然現れる正義の味方月光仮面のオジさんよろしく、無法な集金人に対し刑法第130条、住居侵入罪や不退去罪、迷惑防止条例違反を盾に、時には刑事訴訟法第213条私人逮捕権を行使して、NHK集金人を逮捕し、警察官を呼ぶという一連の流れを動画に撮り、これをYouTubeで公開するという活動を行っていた。

当時この痛快な動画を観て感動した私は2度ほどカンパの現金を振り込んだことがあった。例えていえば、上野公園で大道芸をしているアーチストの芸の出来栄えの素晴らしさに、思わず投げ銭を入れるような感覚だろう。自分の出来ないことを難無くやり遂げる人の才能に感動し応援したくなるのは、自然な成り行きである。

前回の統一地方選挙、船橋市議会議員選挙(2015年)に立花孝志は立候補し、立候補者73名、定数50名中35位で当選した。ところが翌年の東京都知事選挙に出馬したため、船橋市議職は自動失職することになった。年収1300万円の市議職を投げ打ち、都知事選に出て供託金300万円を没収されるというこの事態を暴挙といい、売名行為をする胡散(うさん)臭い人物とみる向きも多い。(知事選では有効投票総数の10%を獲得できなかった候補者の供託金は没収される。ちなみにこの都知事選では21名の候補者中8位であった)

しかし、合理的な価値判断を重視する立花孝志にとっては、こんなに安い費用で出来る宣伝活動はないと思っているのだろう。テレビの政見放送、各家庭に配布される選挙公報、税金で賄われる選挙ポスターなどは金額に換算すれば、数億円もの宣伝費となる。それがたったの300万円で出来るのだ。

自分の名前と政党(NHKから国民を守る党)の名前を広く知らせる為の300万円の宣伝費と考えればこれほど安い買い物はないのだ。実際、首都圏では立花孝志とN国党の名前はこの後かなり知られるようになり、2018年の同党の候補者を立てた地方議員選挙に有効な影響があったと判断していいだろう。

【地方議会で地殻変動が起こっている】

N国党が当選者を出した過去12回の選挙の分析結果から投票者の1.4%から2.3%の得票が得られたことが分かる。つまり、投票に行った人の100人中2人位はN国党に投票したのだ。
地方議会選挙の場合は投票率が年々下がっており、35~45%前後が普通である。低投票率の選挙では、組織票を持つ政党、公明党、共産党、自民党が強い。公明党、共産党の得票数は投票率が35%の場合も、50%の場合もそれほど変わらない。つまり、この2党に投票する人はどんな選挙にも必ず投票所に足を運ぶ人であり、常に一定数である為、投票率が上がる選挙では逆に不利な結果となる。だから、公明党は衆参同時のダブル選挙や、国政と地方政治の選挙が同時に行われ投票率が上がる選挙を極端に嫌っているのだ。

この増加分の多くは、支持政党なし(=浮動票)が多数を占めるのだが、前回の国政選挙の結果からは立憲民主党がこの増加分の投票者の票の多くを集めていることが分かる。そして、N国党は組織票の公明党型ではなく、浮動票を集める立憲民主党型なのだ。

昨年(2018年)に行われた地方選挙の内、N国党の公認候補が立ち、当選した選挙では投票者の2%、つまり100人に2人がN国党に投票したことはすでに述べた。有権者が20万人以上いて、議員定数が30人規模以上の地方議会では、N国党は1名の当選が見込める。

しかも、これまではほとんど知名度が少ない中での当選であり、立花孝志やNHKから国民を守る党を聞いたことがあっても、何やら胡散臭い政治団体とまだまだ思われている中での得票数であることに留意する必要がある。

2018年11月から12月にかけて行われた松戸市議会議員選挙、八千代市議会議員選挙、西東京市議会議員選挙の結果を見てみよう。すると、驚くべきことが分かる。この3つの選挙で日本維新の会(隠れ維新を含む)の候補者よりも多くの票を集めている。また、西東京市議会議員選挙ではN国党、国民民主党、都民ファーストの会がそれぞれ1名の候補者を立てた。この選挙では国民民主党と都民ファーストの会は落選したが、N国党は最下位ながら当選している。

つまり、国民民主党、維新の会、都民ファーストの会等の国政政党よりも多くの票を集める力がすでにあるのだ。

これらのことは、7月の参議院議員選挙で重要な意味を持っている。つまり、比例代表選において2%の票を集める可能性が高い。有権者数1億390万人、投票率55%で計算すると、114万票の得票が期待できる。比例区では100万票で一人の当選が見込めるので、比例区で1名当選することはほぼ確実である。

ここで、重要なのは当選者数よりも獲得票数である。
投票総数の2%を超えると公職選挙法で政党要件を満たし、政党交付金を受け取ることが出来、NHKの日曜討論などにも出ることが出来るからだ。そして、公職選挙法で政党とみなされると、次の衆議院議員総選挙では非常に有利な立場で選挙に挑むことが出来る。

(つづく)

2019年1月16日投稿