[2339]『自由人物理:波動論、量子力学原論』について

ジョー(下條) 投稿日:2018/08/29 18:19

今日のぼやきに相田さんが西村肇先生の『自由人物理:波動論、量子力学原論』について書いている。この本は私も「ランダウの『力学』や『物理学辞典』を横に置いて引きながら、正月と夏休みに読んだ。本当に勉強になった。

一言でいうと、この本は副島先生の『世界覇権国アメリカを動かす政治家と知識人たち 』の物理学版である。『世界覇権国アメリカを動かす政治家と知識人たち 』を読めば、世界の思想の現在の状況が頭に入る。同様に、『自由人物理』を通読することで、物理を学んだ人なら誰でも、日本でトップクラスの物理通になれる。そういう本だ。

ニュートン力学から始まって、相対論的量子力学まで説明してある。その中に物理の基本概念がどのようにして導入されてきたかが、数式ではなく、ことば中心で丁寧に説明してある。我々は教科書は読んでも、原典まで通読することはほとんどない。だから、基本概念が導入されてきたときの背景がピンとこない。それが手稲に説明されている。ここがすごいところだ。

最後は西村先生の量子化学理論と物理学者としての自分の業績で締めくくっている。スピンのところの理解は、昔、長沼伸一郎という人が書いた『物理数学の直感的方法』(長沼伸一郎著、ブルーバックス)に相当する。あともう少しで、本当に直感的にスピンを理解できるところまで来ている。

さて、印象に残ったところを、相田さんにならって私も下に書き出しておきます。

1)力学の中に解析力学という一部門がある。大抵、力学の教科書の最後の方にくっついていて、「ニュートン力学以外でも、こういう解き方もあります」という形で紹介されている。

西村先生は、この解析力学をニュートン力学の上に置き、創始者であるラグランジェとハミルトンを非常に高く評価している。ランダウの『力学』でも、最初が解析力学になっていて、ずっと不思議だったのだが、今回『自由人物理』を読んで「あーそうなのか」と納得した。

解析力学こそが力学の王様であり、ニュートン力学はむしろそこからの派生であるとの見方である。

2)この本は、やはり、量子力学とはいかにして発展してきたかというところがすばらしい。今まで称賛されることの多かったハイゼンベルグ、ボーアを低く置き、アインシュタイン(光量子仮説)とドブロイ(物質波)を高く評価している。

このような見方を初めて知った。現在の量子力学の教科書はすべてプランクの量子仮説から始まって、不確定性関係(ハイゼンベルグ)、原子モ
デル(ボーア)とつながっていき例外はない(本当にない)。この指摘は、今後の量子力学を学ぶものにとって重要な事実だ。

3)特に、「原子の中の物質波を定在波で考えることで原子構造が説明できる」というのが朝永振一郎の考えであるという発見に感動した。私は量子化学を授業で教えているが、この「定在波だけが原子内で存在するからn=1,2,3と増えていく」という考えは間違いだろうとずっと思っていた。この考えが、ドブロイのものではなく、朝永振一郎のアイデアであると聞いて納得した。

4)この本の基調をしめているのは、『言葉で考える物理』だ。私は、数学は得意ではないので、いつも言葉で考えて物理をやっている。だからこの考え方が非常に気に入った。

5)繰り返しになるが、この本をきちんと通読できれば、物理を大学で学んだ人なら誰でも日本でトップクラスの物理通になれる。だから非常に重要な本だ。

下條竜夫拝