[2305]買春で辞職した新潟県知事と、爆発した旅客機のジェットエンジンの話

相田英男 投稿日:2018/04/20 23:28

相田です。

重ねて投稿ですが、今回はどうしても書きたかったので、御容赦ください。

新潟県知事の米山隆一が以前に、女子大生を買春していたという、週刊誌の報道があった。それを認めて、知事を辞任するという。米山氏は、灘高校、東大理科三類を経て、医師として働きながらも、司法試験にも合格するという、学歴エリートの頂点を極めた人物だ。そのエリートが、数度の挫折を経て政治家になった。しかし、将来を嘱望されながらも、女性問題によりあっけなく失脚してしまう。私が学生時代に読んだ、高橋和巳(たかはしかずみ)の小説「悲の器」の内容を、そのまま地で行く筋書きで、大変感慨深い。高橋和巳といっても、若い人たちはほとんど知らないだろう。私の学生の頃(バブル期末から崩壊期)にも、高橋和巳を読む者など、既に誰もいなかった。

「悲の器」のような文学の古典(という程古くはないが)の持つ力は、侮れないものがある。描かれた内容が、実際に起きてしまうのだから凄い。人間心理や社会のあり方に対しての、深い洞察を踏まえて描かれた小説は、虚構とはいえど、真実を抉り出すものだと実感した。

米山隆一は、柏崎原発の再稼働については否定派(マスコミは慎重派と書いているが)だった。しかし私は、米山の原発再稼働反対の姿勢は、上辺だけで心が込もっていない、と思っていた。「地元の新潟県に原発があると、危なくて怖い」という、米山の肌感覚から生じた、素直な反対の気持ちではなかっただろう。「やっと県知事になれたのだから、出来るだけ目立ってやろう」という、不純な目的に、原発を利用していると思った。怪しげな下心が見え隠れしていたので、私は米山が好きでは無かった。

とはいえ、米山の掲げた「新潟県独自に行う安全性の検証が、柏崎原発の再稼働の条件だ」という主張には、真剣に向き合うべきだと、私は考えていた。これまでの原発推進側の、一般市民に対する説明のやり方には、問題が多くあるのは明白だ。上辺だけで心が込もってないとはいえども、米山の出した再稼働への条件は、鋭い処を突いていた。流石は、頭が抜群に切れる、エリートだけのことはある。これから東電や政府と新潟県の間で、丁々発止の議論が始まるのだろう。時間はかかるが、議論が深まっていけば良い、と、少しは期待はしていた。それで、この結末である。持って行きようのない虚しさと、脱力感から、しばらく私は抜け出せそうにない。

これでは米山は、単に、原発の再稼働を遅らせて、東電に莫大な損失を与えただけの、単なる迷惑な人で終わってしまうではないか。知事を辞めても会社経営などで、稼ぎはあるらしい。それならば、「悲の器」でも読んで、もう一度、自分を見つめ直したらどうか?多分、米山は「悲の器」をまだ読んでないだろう。既に読んでいて、女子大生を誘っていたのなら、それはそれで立派だとは思うが・・・・・

さて、セクハラだ、買春だと騒がしい世相だが、私の今の一番の関心は、日本ではなくアメリカにある。何といっても、GE(ゼネラル・エレクトリック)が、いつ潰れるのか、という状況と期待から、目が離せない。

ジャック・ウェルチが社長を辞める2000年頃には、GEの株式時価総額は、50兆円近い莫大な金額だった。ところが、今では何と、10兆円程度の5分の1まで減ってしまった。2017年の初頭から現在までの間にも、16兆円も減ったのだ。それだけ株価が、急激に値下がりした、ということだ。今のGEの株価は13ドルくらいだ。ちょっと前までは30ドル近い価格だった。「時価総額が10兆円といえば、三菱重工(1.4兆円)や日立製作所(3.8兆円)の、数倍もあるじゃないか。まだまだ立派な会社だよ」と思うかもしれない。しかし、さすがに下がり過ぎだ。投資家のGEへの信頼は完全に失われた、と言ってよい。。

最近では、ウォーレン・バフェットがまたGEの株に興味を示している、といった噂話がニュースに載るだけで、GEの株価が1ドルくらい上がったりする。数日経つと、また元の株価まで、すぐに下がるのだが。全くもって、情け無い会社になり果ててしまったものである。天下のGEたるものが。

数日前にサウスウエスト航空という会社の旅客機が、ニューヨークの空港を離陸した直後に、エンジンが破損して、壊れた部品が窓を突き破り、フィラデルフィアに緊急着陸する事故があった。窓側に座っていた乗客の女性は、頭に部品が激突して死亡した。40代の女性で2児の母親だが、大きな銀行の役員の一人だったという。痛ましい事故である。

壊れたエンジンの製造元はGEだった。正式にはCFMインターナショナルという、GE とフランスの製造メーカーとの合弁会社だ。しかし、アメリカで用られるエンジンは、GE系列の工場で組み立てられている。だから、今回壊れたエンジンの製造責任は、GEにある。既に、アメリカ国家交通安全委員会(NTSB)による事故の調査が、始まっているらしい。

壊れたのは、エンジンの前側にあるファンブレード(回転翼、温度は高くならない部品)だという。疲労破壊で回転中に吹っ飛んだらしい。飛行中の旅客機で、ジェットエンジンの回転部品が壊れて、人にぶつかるなどという事故は、絶対にあってはならないものだ。川崎重工の新幹線台車の製造ミスなどよりも、遥かに罪が重い。神戸製鋼のアルミなどは、十分な強度があるにもかかわらず、欠陥材料だと、散々非難を浴びせられた。人が死んでしまったGEのエンジントラブルと、神戸製鋼のアルミ素材の仕様書の不正では、一体どっちが問題なのか?誰か俺に教えてくれや、と、声を大にして叫びたい。

既にウヤムヤになっているが、少し前に羽田空港で、離陸中に火を吹いた旅客機のエンジンも、GE製だった。しっかりGEのロゴがエンジンの脇に書かれていたのを、私はニュースで見た。やっぱり今のGEは、何かおかしい。会社全体がトラブルの抱え過ぎで、細かい技術的な配慮が足りなくなっているのではないか?滅亡へのカウントダウンが、ヒタヒタと刻まれているのを感じる。東芝の車谷会長の舞台への登場も、いよいよ近いと、私は観る。

相田英男 拝