[2246]自分達が言っていることをわかっているのか?

相田英男 投稿日:2017/12/24 01:13

相田です。

しつこいと思われるだろうが、伊方原発の稼働停止の裁判に関して書く。私の本を読まれた方はご存知だろうが、あの本の最後にはカルデラ噴火の話を載せている。あれを書いている時は、こんなふざけた裁判が進行中だとは知らなかった。その判決もまた、技術屋としては、あまりにふざけているとしか思えないものだ。以下は毎日新聞の社説を引用する。

(引用始め)

伊方原発差し止め命令 噴火リスクへの重い警告
毎日新聞2017年12月14日 東京朝刊

原発の安全性への疑問が、司法界に広がっていることの証しだ。国や電力会社は重く受け止めるべきだ。

 昨年再稼働した四国電力伊方原発3号機(愛媛県)について、広島高裁が運転差し止めを命じる仮処分決定を出した。高裁では初となる。

 伊方原発から約130キロ西に阿蘇がある。四電は噴火で約15センチの火山灰が積もると想定したが、決定はこの想定を過少だと判断した。そのうえで、伊方原発を安全審査で合格させた原子力規制委員会の判断は不合理だと結論付けた。世界有数の火山国である日本は、原発と共存することができるのか。そんな根本的な問いかけが、司法からなされたと言えよう。

 東京電力福島第1原発事故を受けて定められた新規制基準に基づき、電力会社は、原発から160キロ圏の火山の影響調査を義務づけられた。原発の運用期間中に噴火が起きて、火砕流や溶岩流が到達する恐れがあると評価されれば、立地不適格で原発は稼働できない。

 阿蘇は約9万年前に巨大噴火(破局的噴火)を起こし、世界最大級の陥没地形(カルデラ)ができた。

 四電は、より小規模の噴火を想定し、火砕流などが阿蘇から到達する可能性は十分に低いと評価した。規制委も認めた。一方、広島高裁は、現在の火山学には限界があり、過去最大規模の噴火を想定すべきだと指摘。原発の敷地に火砕流が到達する可能性は低いとは評価できない、と判断した。この決定に従えば、現在稼働中の九州電力川内原発1、2号機(鹿児島県)も停止の対象となるだろう。

 周辺には、阿蘇のほか鹿児島湾など、複数のカルデラがあり、巨大噴火の影響を受ける危険性が全国の原発の中で最も高いとされる。九電は四電と同様に、運用期間中にそうした噴火が起きる可能性は十分低いと評価し、規制委も了承していた。日本で巨大噴火が起きるのは1万年に1回程度とされている。だが、頻度が低いからといって対策を先送りすれば、大きなしっぺ返しを受けることを、私たちは福島第1原発事故で学んだはずだ。

 政府や電力会社は、原発の火山対策について、さらに議論を深めていく必要がある。

(引用終わり)

毎日新聞とは、東スポや日刊ゲンダイなどのタブロイド紙ではなくて、日本を代表する本格的(?)な新聞紙だと、私はかねてから思って来た。しかしである。上の社説の文章の内容は、どういうことだろうか?この社説を読んで、「ふーん、そうなのか」と、納得する方々が、日本には大勢いる、ということなのだろうか?

社説には「カルデラ」、とか「破局的噴火」という文言が使われている。これを書いた毎日新聞の人物は、カルデラ噴火に対する認識は持っているのだろう。しかし、毎日新聞のカルデラ噴火の理解は、あまりにも浅すぎる。こんな社説など、とても書いてはいけないレベルの、浅すぎる理解である。

私は、自分の本を書く前に、カルデラ噴火について、ネットから幾つか文献を拾って読んでみた。わかったことは、カルデラ噴火が起きたならば、原発が壊れる前に、日本人の殆どが死んでしまうということだ。私の認識は大袈裟ではない。私は火山学の素人だ。が、この分野の第一人者である、神戸大学の巽教授が、次のようにコメントされている。

(引用始め)

伊方原発3号機の運転停止の仮処分: 司法判断の意味とマグマ学者からの懸念
巽好幸 神戸大学海洋底探査センター教授

(中略)
 テレビで放映された映像を見ていると、原告団は「歴史的判決」と意気揚々である。ヒロシマという悲劇の地に暮らす人々の原発への思いは十分に理解できるものがある。一方で、火山の息遣いやマグマの動きに注目するマグマ学者としては、この高揚感に一抹の懸念がある。それは、今回の判断が「原発反対」の道具だけに使われはしないかということだ。

もちろん私は原発賛成派には属さない。そもそも世界一の地震大国、火山大国に原発はふさわしくないと感じる。私の危惧は、感情的原発反対論者の多くが、巨大噴火で原発が破壊された場合の危険性のみに注目していることである。冷静に考えていただきたい。巨大カルデラ噴火が一度起きて原発が火砕流で被害を受けるような場合には、その領域に暮らす人々の日常生活はすでに高温の火砕流によって破壊されているだろう。

そればかりではない、数十キロメートルの高さまで立ち上がった巨大噴煙柱から偏西風に乗って運ばれる火山灰は、日本列島の大部分を覆い尽くしてしまう可能性が高く、その場合は列島の大部分でライフラインがストップする。今回の伊方原発問題で想定された阿蘇山巨大カルデラ噴火が起きると、広島には恐らく火砕流は到達しないであろうがほぼ確実に1メートルもの厚さの火山灰に街は埋没し、人々の日常はほぼ完全に崩壊すると予想される。

 巨大カルデラ噴火の危険性を根拠に原発再稼働に反対すること自体は正当であると思うが、それ以前に(少なくとも同時に)巨大カルデラ噴火そのものの試練に対する覚悟を持つべきであろう。もちろん、覚悟は諦念ではない。いかにこの火山大国で暮らしていくかを考えることこそ覚悟である。

(引用終わり)

海を隔てた九州で起きた、巨大な噴火の影響で、愛媛県の原発が破壊される状況で、原発の周囲で生活する愛媛県の方々は、その生命は、原発さえなければ安全に保たれるのだ、と、毎日新聞の記者は認識して、社説を書いたのだろう。上の社説を読んだ私には、そのようにしか理解できない。

「別にそれで良いではないか。原発のような恐ろしい機械を止めるならば、多少は論理的におかしな主張でも、許されるのだ」と、原発反対派は考えているのだろうか?

そうだとすれば、それは、大きな間違いだ。

自分の信念を貫くために、論理が破綻した主張を繰り出して、相手を押さえつけるのならば、同じやり方で、自分たちも斬られる事を覚悟しなければならない。伊方原発を止めた原告と裁判官は、戦時中に治安維持法で左翼達を大勢検挙して、獄殺した、日本政府の振る舞いと、何ら変わらない。そのことを、原発反対派は、よくよく理解するべきである。

返す刀で、自分達も斬られても、文句は言えないのだ。考えてもみないのか、お前らは!?

私は断言するが、今回の裁判の判例を支持するかどうか、その判断は、自然科学現象を論理的に考えて、受け止められるかどうかの試金石であり、踏み絵になる。日本の知識人達のSTEM(Science, Technology, Engineering and Mathematics)の理解度を試す、リトマス紙なのだ。この判決についてのコメントは、後々まで記録されて、各自の理解力評価を下される証拠となると、覚悟するべきだ。以下に、その証拠となる記事の一つを載せる。

(引用始め)
「伊方原発の運転差し止め」を決めたベテラン判事の本音を読み解く
町田徹 現代ビジネス 12/19(火) 6:00配信

(中略)
現在の火山学の知見では、阿蘇カルデラの火山活動の可能性が十分小さいと言えず、噴火規模の推定もできないことから、約9万年前に起きた過去最大の噴火VEI7を想定して、伊方原発の立地の適切性を評価せざるを得ない、と決定は指摘。

 四国電力が行った地質調査や火砕流シミュレーションから、火砕流が原発の敷地に到達する可能性が小さいと言えないので、原発の立地として伊方原発は不適切だと断じたのだ。

 加えて、下級審が、そのような規模の噴火が原発の運用期間中に発生する可能性が示されない限り、安全確保策を示さなくても問題ないと差し止め請求を棄却したのは誤りで、司法がそのような限定的な解釈をすることは許されないとも述べている。
(中略)
 裁判所のヒエラルキーを勘案すると、期間限定に関する広島高裁の言い様は、下級審にフリーハンドを与えたものとは思えない。むしろ、同高裁の論理だてを熟考するよう下級審の判事にプレッシャーを与えたものと解釈した方が素直だろう。

 また、後述するが、原発再稼働の是非の判断を原子力規制委員会に丸投げにして、選挙のたびに脱原発が基本政策のような印象を有権者に与えながら、一向に脱原発や縮原発の戦略を描こうとしない安倍政権にも圧力をかけたものと思われてならない。

 仮処分が電力各社に与えた衝撃も大きい。出張先を本拠地とする電力会社を取材した。予想した通り、この電力会社の幹部は、深い苦悩の色を浮かべて、次のような危機感を吐露した。

 「日本列島全体で発生の確率が『1万年に1回程度』とされる超巨大噴火の可能性を根拠に立地の是非を論じたら、日本中探しても原発を建設できる土地などない。わずか40~60年という耐用期間中に、そうした超巨大噴火が原発を直撃する確率となるとほぼゼロに近いのに、あまりに乱暴な判断ではないのか」

 「こうなると四国電力1社の問題にとどまらない。まずは関西電力がマスコミ対応などを含めて全面的なサポートに入るだろうが、これは原子力発電所を保有する電力会社に共通の問題である。われわれは一致団結して、社会的な理解を求めていかなければならない」――といった具合である。

 福島第一原発事故前は日本に50基以上の原発が存在したが、30年後には少なければ1~2基、多くて5~10基くらいしか、日本に原発が残らないかもしれない。自らは決して口にできないが、それが電力会社の本音だと筆者は取材で感じている。

 そんな電力会社の衝撃緩和策としての最小限の原発稼働のシナリオを粉々に打ち砕き、各社の収益を圧迫して、最終的に経営危機に追い込みかねない、そんな悪夢のシナリオとして、広島高裁の仮処分が下ったというのが、電力各社の受け止め方となっている。

 そこで求められるのが、広島高裁の野々上裁判長の目から見ても納得できるであろう、政府主導の脱原発もしくは縮原発の明確な青写真作りである。

(引用終わり)

広島高裁の野々上裁判長を「論理的に納得させる」ことは、私には不可能だ。

相田英男 拝