[2241]お市の方についての小考

8067浅川京華 投稿日:2017/12/19 05:27

市川崑監督の映画『破戒』を、先日、20数年ぶりで観たが(私が『破戒』を観るのは、これで3回目か4回目だ)、2165で、引用した主人公の言葉「先生のお後を追って生きたいという気持ちを、抑えることが出来ません」は「先生に導かれて生きたいという気持ちを」の間違いだった。
本題。山田風太郎氏の『妖説太閤記(昭和53年 講談社)』という小説がある。私は、これが、豊臣秀吉を、一番実像通りに描いている、と思っている。『妖説太閤記』では、1秀吉の目的はお市の方だった(天下人になったのも、ひたすらその為だった)2信長を殺したのは秀吉だった 、と描かれている。2については、副島先生の『信長はイエズス会に爆殺され、家康は摩り替えられた』を読み、山田説より副島説の方が、より、真実だろう、と考えるようになったが(もし山田氏が生きていて、副島先生の「信長はイエズス会に殺された」説を知ったら「あっ!!」と思っただろう)、1に関してはやはり山田説が最も鋭い、と、今だに思っている。秀吉がお市の方を狙っていた、というのは、歴史上でも定説、フィクションの世界でも定番になっているが、秀吉のような偉人が、女ごときに執着していた筈が無い、秀吉がお市の方に横恋慕していたというのは、メロドラマ的なフィクションだ、と言う人もいるが、私はそれは、浅薄な見方だと考える。人間は皆、他人が知ったら「エッ!?まさかー」とゾッとするような、とんでもなく気持ち悪い目的を隠し持って、行動しているものだ。凡人がそうなら、偉人と呼ばれている人間は、もっと「そう」だろう。副島先生が、秀吉については、本当の事が伝えられている(徳川が意図的に、そうした)、なので、あまり自分は、秀吉については言う事が無い、と、仰っておられたと思うが、秀吉についての本当の事というのは、よく知られている、猿そっくりの物凄いブ男だった、とか、物凄い女好きだった、生まれが卑しかった、等の事だろう。秀吉のお市の方ヘの横恋慕を「メロドラマ的なフィクション」などと言ったが、例えばの話、薄汚いホ―ムレスの男が本気で、誰か皇室の女性を「いつかあの女をものにしてやる」と、画策していたら、と、想像してみれば良い、真底ゾッとする。秀吉のお市の方ヘの横恋慕とは、そういうものだ。で、なぜお市の方は、日本の歴史上、名高い女性なのか。織田信長の妹で、絶世の美女だった、というだけで、こんなに有名にはならない。お市の方は「嫌いな男(秀吉)の言いなりになるくらいなら死ぬ」という女の真実を、体現している女性である。お市の方の偉大さは、この点に尽きる。