[2209]神戸製鋼を巡る壮大な喜劇は、もうやめろ

相田英男 投稿日:2017/10/28 00:40

相田英男です。

選挙だ、北朝鮮だ、女優の不倫だ、と騒ぎのネタは尽きない。それでも、神戸製鋼所の報告書偽装の話題は、もうしばらく続きそうだ。社長が何度も記者会見に引きずり出されて、頭をさげていた。その度に、報道関係者達から罵声を散々浴びせられていた。それが、何度も繰り返された。最近は体調を崩した社長に代わり、他の重役が会見で謝っているそうだ。謝る方も、非難を浴びせる方も大変だと思う。

(引用始め)

<神鋼JIS取り消し>顧客離れ拡大も 不正発覚、後絶たず
毎日新聞 10/26(木) 21:44配信
◇「安全性確認」残る疑念
 神戸製鋼所は納入先の8割超で製品の安全性が確認されたと発表した。しかし、強度が基準を下回っていたにもかかわらず「安全」という説明はわかりづらい面もあり、最終製品を利用する消費者の疑念を払拭(ふっしょく)できるかも課題となる。

 神戸製鋼がデータを改ざんした製品は、すでに出荷先で加工されて安全性の確認が困難なケースが多い。そのため、神戸製鋼は改ざん前の元データを出荷先に提供するなどして、取引先に安全性の確認を求めている。

 JR東海は、一部の新幹線で問題のアルミ部材が使われていた。過去10年分の元データを神戸製鋼から取り寄せて確認した結果、強度が最大3%程度不足していた。JR東日本も、新幹線の一部の部品の強度がJIS基準に対し約0.4%不足していた。ただ、両社ともに設計段階で高い強度を設定しており、「安全上は問題ない」という。

 大手自動車各社も、神戸製鋼の提供データを基に調査した結果、アルミ板などの安全性は確保されていたと説明する。しかし、強度不足の程度などは公表していない。「車の性能を左右し、競争力に直結する部品のデータは明かせない」(業界関係者)からだという。ただ、日本の製造業で不祥事が続く中、消費者に分かりづらい「安全宣言」では不信がぬぐえない懸念も残る。【安藤大介、井出晋平、和田憲二】

(引用終わり)

以上のように毎日新聞では報道されている。

ここで技術的に考えよう。神鋼のデータを改ざんした一連の材料、いわゆる「トクサイ品」を使った自動車や、電車や、飛行機などの機械が、これからどんどん壊れたりするものだろうか?これは言い切って良いのだが、壊れることはまず無い。理由は、上の記事でも書かれている。材料を買った機械メーカー(以下ユーザー)が、部品に加工して仕上げる際に、設計強度にかなりの余裕を取っているからだ。トクサイ品とはいえ、いきなり強度が元の半分くらいの、ヘナヘナに弱くなる訳ではない。上記の記事では、最大でも3%という僅かな強度の低下だ。他の全てのトクサイ品を調べても、少なくとも9割以上の強度は出ていると思う。

9割以上の強度がある材料を使って、それでも壊れるならば、元々の設計にほとんど裕度がないということだ。普通はそんな危ない設計はしない。あるとしたら、GEの設計した発電用ガスタービンくらいだ。ガスタービンとは結構凄い機械であって、最も高温になる第一段動翼(GEはバケットと呼ぶ)の、先端の1/4くらいが溶けて無くなっても、平気で回ったりするらしい。点検でタービンをバラした時に、「おお、羽根の先が無いぞ!?」とザワつくことがしばしばあったと聞く。

この間、羽田空港から飛び立った旅客機のエンジンから火が出て、緊急着陸したニュースが派手に放送されていた。あの事故の理由は、未だに発表されてない。火を吹いたエンジンの横には、GEのロゴがしっかり書かれていた。最初は鳥が突っ込んだことで誤魔化そうとしたが、すぐにそうではないと発表された。それきり音沙汰が無いままだ。多分、GEのエンジン部品の中に欠陥品が混じっていたのだろう。どうやってシラばっくれるか、思案中なのではないか?

結局、神鋼の素材を使った部品が壊れるかどうかは、ユーザーの設計内容によって決まる。だから、神鋼もこれには回答は出来ない。でも、ヤバイとわかったユーザーが、神鋼をかばって「安全性に問題が無い」などと回答するだろうか?そんなことは、まずありえない。壊れた責任をユーザー も負わなければならないからだ。当たり前の話だが。だからユーザー達の「大丈夫だ、壊れない」という回答は真実だと思う。

神鋼は日本の技術の信頼に傷を付けたとか、酷いことを言われている。でも、不正な品物を数十年にわたって出していても、全く問題が無かったのも、ある意味で凄い技術力とはいえまいか?????「ここまでは手を抜いても問題が起きない」という線引きを、神鋼の現場はきちんと把握していた訳だ。神鋼の現場の担当者達は、金属材料の特性についての理解が十分に深かった。だからトクサイ品が混じっていても、気づかれなかった。データを捏造したのは確かにマズいが、神鋼の技術レベルに間違いは無い。

「データを改ざんした製品は、すでに出荷先で加工されて安全性の確認が困難なケースが多い」とか書かれている。が、そんなことはない。加工された後でも、部品のサンプルを切断して、研磨して、酸溶液を使ってエッチングして、顕微鏡で観察すれば、金属材料の微細構造組織(マイクロストラクチャー)が確認できる。その後で、材料の硬さをビッカース硬度計(こうどけい)を使って測れば良い。金属材料の硬さと強度には高い相関性があるから、強度が十分に出ているかどうかを、部品の状態でも高精度に見積もることが可能だ。

部品の硬さのデータをマイクロストラクチャーの写真で補足して考察すれば、それで決着する。簡単な作業で済むぞ。

というか、「加工された後では、安全性の確認が困難だ」とかいう、あまりにもテキトーな説明を、毎日新聞は一体誰に聞いたのだ?武田邦彦のようないい加減な学者(もどき)からではないのか?旧帝大の阪大、京大、名古屋大、東北大には、今でも優秀な金属材料の専門家がいる。彼らの話を毎日新聞は、何故聞かないのだ。東工大にも立派な金属の先生がいるぞ。

でも、彼ら立派な専門家達の回答は、押し並べて「神鋼の材料でも、何も壊れない」というだけだろう。普通に考えると、あのレベルのトクサイ品で、部品が壊れる理由など存在しない。でも、それでは話が続かないので、敢えて「専門家」のコメントを、マスコミは記事にしないのではないか?できるだけ神鋼の社長に謝らせて、話題を引っ張りたいのだ。皆さんで煽っているだけよ。

福島原発の放射線も同じだが、技術的には何も問題が起きないことが明らかであることを、「問題だ」と騒ぎ立てることに、果たして何の意味があるのだろうか?もっと事実をありのままに見直すことを、誰もやろうとはしないのだろうか?

やらないよね。煽ることが目的なんだから。

「日本の技術への信頼が失われた」と言われるが、そもそも日本の技術を批判出来る筋合いの国が、一体何処にあるというのか?ドイツか?フランスか?アメリカか?

フォルクスワーゲンの車の排ガス数値を誤魔化したドイツが、神鋼を批判出来るのか?フランスもアメリカも、一兆円の金を掛けても原発一基を作れないではないか。「そんなショボくれた連中にケチを付けられる筋合いなど、日本には無いわ」と私は訴えたい。

あと、最後に「東芝はなぜ原発で失敗したのか」(電波社)も、よろしくお願いします。
(あまりに強引かもしれない)


東芝はなぜ原発で失敗したのか

相田英男 拝