[2158]トランプ大統領のパリ協定離脱について

下條竜夫 投稿日:2017/07/11 18:51

下條竜夫です。今日は2017年7月11日です。

先月、地球温暖化防止をグローバルな形で推進する国際協定、いわゆるパリ協定(Paris Agreement)からの離脱をトランプ大統領が表明して話題になった。このことについて、いろいろ調べたので、ここに報告する。重要なことは、新聞や報道で言われているように、トランプ大統領がパフォーマンスでパリ協定離脱を表明したわけでは、必ずしもないと言うことだ。

まず、6月2日の日本経済記事から引用する。

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米パリ協定離脱「歴史的過ち」 批判広がる

 【ニューヨーク=大塚節雄】トランプ米大統領によるパリ協定からの離脱表明を受け、米国内外で1日、強い反発が広がった。首都ワシントンでは抗議デモも発生。一方、炭鉱業が盛んな地域では歓迎の声も上がった。

国連のグテレス事務総長は「とても失望する」との声明を出し「環境問題で米国がリーダーであるのは重要だ」とクギを刺した。「持続可能な未来へ米政府や米国のあらゆる関係者との連携に前向きだ」と指摘した。

 昨年の大統領選をトランプ氏と争ったヒラリー・クリントン氏はツイッターに投稿し「歴史的な過ち」と指摘。「離脱は米国の労働者や家族を置き去りにする」と批判した。オバマ前大統領も声明で、トランプ政権が「未来を拒む少数の国に加わった」と批判した。世界でパリ協定に加盟していない国はシリアとニカラグアの2カ国だ。

 1日夕にはホワイトハウスの近くで環境団体の呼びかけによる抗議デモが起き、集まった人たちが「気候の危機に目覚めよ」「科学は命を救う」などと書かれたプラカードを掲げ、決断を翻意するよう求めた。

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特に、科学者が、このパリ協定離脱決定に対して、猛抗議している。これは大幅に研究費が削られるからで、実際、すでにNASAや地球環境問題に関する研究は予算が削られている。先週、宇宙物理学で有名なホーキング博士が「地球はこのまま金星になる」と一番過激な発言をした。

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「地球の気温は250度まで上昇し硫酸の雨が降る」ホーキング博士
2017年7月4日(火)19時01分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

<アメリカのパリ協定離脱を批判したホーキング博士が、地球の「金星化」を予言。さらにこれを裏付けるデータも>

著名な理論物理学者スティーブン・ホーキング博士が、人類に警告を発した。地球上の気温はいずれ250度まで上昇し、このままだと手遅れの状況になる可能性があるという。

7月2日に母校のケンブリッジ大学で行われた75歳の祝賀記念講演でホーキング博士は、アメリカの「パリ協定」からの脱退が原因で、地球上の気温上昇が加速するとの見方を示した。人類にとっての最善策は、他の惑星を植民地化することだと語った。

ホーキング博士は「地球温暖化は後戻りできない転換点に近づいている」と指摘し、ドナルド・トランプ米大統領によるパリ協定脱退の決断がさらに地球を追い詰めることになると非難した。気温は250度まで上がって硫酸の雨が降るという、まるで金星のように過酷な環境だ。

さらにこれを裏付けるような調査結果が出た。アメリカ気象学会の衛星データから地球表面と地球全体の温度が連動してどんどん暑くなってきていることが確認されたとワシントン・ポストが報じた。
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しかし、実はアメリカ内では共和党が昔からこのパリ協定に反対していた。それを受けて、首席戦略官のスティーブ・バノンが、このパリ協定からの離脱を推進した。だから、トランプ大統領がパフォーマンスで離脱したというわけではない。6月4日の日本経済新聞の記事から引用する。

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温暖化に懐疑論なぜ トランプ政権下の米で勢い
トランプ米大統領が温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」からの離脱を決めた。歴史的に共和党政権下では「温暖化懐疑論」が根強く、世界に影響を与えてきた。米国でも大多数の科学者は、人間活動が温暖化を深刻にするという考えを支持する。しかし、予測の不確実さなどを問題視する一部の研究者が政府と結びつき発言力を増している。

■証言者選び「意図的」

 今年3月、米下院の科学・宇宙・技術委員会が気候科学をテーマに公聴会を開いた。委員長のラマー・スミス議員(共和党)は一貫して温暖化の科学的根拠に疑いを投げかけてきた人物だ。

 証言した4人の科学者のうち3人は懐疑派として知られる。ジョージア工科大学のジュディス・カリー名誉教授は「気候の複雑なシステムは根本的に予測が難しい」「人間活動が温暖化の支配的原因かは不明だ」などと主張。国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)を中心とした温暖化予測の「コンセンサスづくり」も批判した。
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さて、我々が、ここで注目しなければいけないのは、今回のパリ協定と、10年ほど前に地球温暖化対策で話題になった京都議定書(Kyoto Protocol)との違いである。

トランプ大統領が離脱を表明したパリ協定は、COP21とも呼ばれている。もうすでに21回ほど地球温暖化に関する会議を積み重ねてきたことを意味する。

このパリ協定には、当然、二酸化炭素削減の目標がある。しかし、それぞれの国の目標に法的拘束力はない。したがって、例え温暖化ガス排出量を削減できなくても罰則罰金などはない。これは、参加を渋る米国への配慮と言われている。ちなみに、日本では2015年6月に地球温暖化対策推進本部(本部長・安倍晋三首相)が国内の温室効果ガス排出量を2030年までに2013年比で26%削減するという目標案をたてている。

一方、京都議定書(Kyoto Protocol 、京都のCOP3で決まった、だから3回目の会議だった)では、2012年に5%削減(1990年比)するため、先進国各国に排出削減目標を設定していた。また守れない場合には罰則があるため、1トンあたりの二酸化炭素の排出権取引市場が設定され、排出枠を超えて排出してしまった国が買い取る仕組みになっていた。当然、目標を達成できそうもない日本企業が買いまくった。

しかし、リーマンショックで排出権取引は大暴落してしまった。その結果、シカゴの排出権取引市場は閉鎖された。またヨーロッパの市場もおよそ最高値の1/100程度でしか売買されていない。事実上、排出権取引市場は死んでしまったのである。

この排出権取引の大暴落で日本が全体でいくら損したのかという情報はでていない。しかし、キチンと調べたら大変な額になるだろう。

したがって、パリ協定では、排出権取引はつかえない。そこで、でてきたのが「途上国への援助」という、日本が昔からODAとして行ってきた海外援助である。資金は先進国が拠出する。毎年1,000億ドル(10兆円)を上回る資金を目標としているらしい。

この資金の名前を緑の気候基金(The Green Climate Fund)という。とりあえず、アメリカが30億ドル(約3000億円)、日本が15億ドル(約1500億円)資金提供するとされている。

ところが、これはあまり意味のないことだ。実際に、二酸化炭素を放出しているのは先進国なので(1850年以降の二酸化炭素放出の50%以上がアメリカとEU)、無理に途上国に資金提供しても削減される二酸化炭素はたかがしれている。

しかも、このサイトを長年見ている方はおわかりだと思うが、トランプ大統領は「アメリカ・ファースト」、つまり「国内問題最優先、国際問題後回し」主義である。当然、30億ドルなどというお金は出せない。だから、トランプ大統領はパリ協定からの離脱を表明した。

一方、AIIB政策を推進する中国は、援助をする方なのにもかかわらず、この海外援助を大歓迎している。6月17日の朝日新聞記事から引用する。

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中国主導AIIBがパリ協定推進 温暖化対策に投融資へ 2017年6月17日

 中国主導で設立されたアジアインフラ投資銀行(AIIB)が16日、韓国済州島で2度目の年次総会を開き、地球温暖化対策に結びつく投融資に注力していく方針を打ち出した。米国が離脱を表明した温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」を推進するためだ。

 気候変動問題への対応では、中国が牽引(けんいん)役としてグローバル規模に期待されており、パリ協定堅持を掲げる欧州の参加各国・地域などの声に応えた形だ。

 「AIIBにはパリ協定を推進し、支持するという重要な役割がある。参加国が将来、二酸化炭素排出を減らす支援に力を入れる」。この日にあった総会の開幕式で、金立群総裁はこう強調した。具体的には、温暖化ガスの排出が少なく、安全な発電施設への投融資に重点的に取り組む。

 「パリ協定」では、中国と欧州連合(EU)が全面履行すると合意。AIIBによると、加盟国・地域すべてがパリ協定に署名しているため、気候変動対策で協力しやすい環境だった。

 米国が協定離脱の方針を示して以降、国際社会では「中国が環境問題で世界をリードする国になると確信している」(望月義夫・元環境相)など、中国に期待する声が多かった。
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温暖化問題でもすでに中国が世界を牽引するようになっているわけだ。

さて、最後に地球は本当に温暖化しているのかという問題にコメントしておく。下に示す図は地球衛星による最新の地球全体の大気温度である。

昨年の暑さがすごかったことがわかる。この高温のために、南極の氷も溶けたらしい。今までは北極の氷面積が溶けても、南極の氷面積は増えていたため、北極だけを取り上げて地球温暖化を宣伝していた。ところが昨年だけは、南極の氷面積も低下したらしい。

これで、一時、「地球は、太陽の活動が弱くなっているので寒冷化する」という研究者がたくさんいたが、みごとに打ち砕かれてしまった。

では温暖化しているのかというと、それも怪しくて、ご覧のとおりに、今年に入ってだんだんと低下している。だから、数年、数十年の変動が大きくて、地球は温暖化しているのか寒冷化しているのか、まだ決定できないというのが正しいのだろう。

下條竜夫拝