[1943]イギリスのEU離脱について。 それと私の新刊本が明日、発売です。
副島隆彦です。 今日は、2016年6月29日です。
私の最新刊の 「トランプ大統領 と アメリカの真実」(日本文芸社刊)が、明日(30日)から発売されます。今、今日のぼやき の方で宣伝しています。そちらをお読みください。 私、副島隆彦が、渾身の情熱を込めて書いた本であり、日本人としては最大量の情報を集めて書いたから、きっと日本人にとって重要な本です。買って読んでください。
「 英国民投票、「離脱派」勝利 51.9%獲得、選管発表 (2016年6月24日 日本時間 午後3時 )
「 日経平均、終値1286円安 16年2カ月ぶり下げ幅 」 (6月24日)
私は、6月23日に投票があったイギリスの国民投票(ナショナル・レファレンダム)でのEU離脱派の勝利(51.95%の過半数)を、24日の昼頃知った。急いで何か書かないと、思いながら、翌日24日の 世界のス各国の株式の連鎖暴落を、24日(金)の金融市場の反応として知った。
日本の株も、1300円ぐらい下げて、日経平均が15,000円を割った。暴落がさらに続いて、12,000円台とかにまで落ちると、安倍政権が危なくなる。
GPIF(ジー・ピー・アイ・エフ。 かつての悪名高い年福=ねんぷく=事業団)という日本国民の140兆円の年金の運用 (本当は、他にまだ600兆円ぐらい隠している)を、馬鹿が、やめとけばいいのに、株式投資から生み出そうとして大失敗している。また評価損が、8兆円とか出ただろう。それらの累積の損はどこかに、隠し続けている。
「GPIFは、これまでに(15年間で)40兆円 儲(もう)かって来た」の一点張りだ。年金の減額が、激しく起こるようになったら、日本の老人たちが騒ぎ出す。そして飢えている、失業者たちが騒ぎ出す。
私は、イギリスのEU離脱( BREXIT ブ「レ(エ)」グジット。Britain Exit ブリトン・エグジットの略。このE は、明瞭な「エ」で発声する)は、衰退するイギリスの運命だと思っている。だがいくら今更(いまさら)「EU=本当は、ヨーロッパ同盟=から出てゆく」と言っても、出て行きようがない。だらだらと、このまま、いつものヨーロッパ人の29か国の首脳(指導者)たちの、いつもながらの会議ばっかりが続く。
今朝のBBCで、イギリス独立党(極右翼政党。ユダヤ人排斥を言わない民族主義に純化したことで国民政党に成長した)ナイジェル・ファラージュ党首( 同性愛者)がEU議会の会員でもあるから、「あなたたち、このEU議会の議員たちは、( 威張っていて、ヨーロッパ各国の貴族さまの血筋の人たちだと私は知っているが)、何か仕事をしているのか」と、嫌味を言い放って、反発の怒号と顰蹙を買っていた。
フランスのマリーヌ・ルペン女史(国民戦線、右翼政党 )が、ファラージュの肩を持った。 「スコットランドと 北アイルランドは、ブリテイン(イングランド)から離れてでも(分離独立に近い)自分たちはヨーロッパ人でありたい(EUに留まる)」と発言したスコットランドの議員が、拍手喝さいを受けていた。
「イギリス(イングリッシュ)のEU離脱」とは、唯(ただ)一点、「移民(マイグラント、経済難民)及び 政治難民(レフュジー refugees )が、これ以上、イギリスに定住しないでくれ」という、イギリス人の保守派の人々の叫び声だ。
このことを、どこの国のテレビ局の大新聞も、言わない、書かない。活字にしない。
イギリス国民の多くは、「もうこれ以上、貧乏な有色人種(カラード・ピーポー coloured people )がイギリスに入り込んで来ないでくれ」と願っているのだ。アラブ人イスラム教徒も、西インド諸島(カリブ海)を中心とする真っ黒い顔をした子供たちや、北アフリカの黒人も、インド人、パキスタン人も、その他のアジア人種も、もうイギリスに移住してこないでくれ。さらには、最近増えている、
東ヨーロッパ各国からの一応、白人の移住者たちが、EUが出来てから増えている。「この一応白人の失業者たちも、さっさと自国に帰ってくれ」とイギリス国民は願っている。
この一点だ。それ以外のことでは、EU離脱をしても何もいいことはない、と皆、分かっている。EUに拠出しているイギリスからの負担金を、出さないで、国内の医療費に回せ、とファラージュたちは言っている。
イギリスの公立小学校や中学校で、もう、クラスの半分ぐらいが西インド諸島黒人で、彼ら 黒んぼ(あるいはクロちゃん) の 少年少女が、” I’m English . “ 「私は、イギリス人よ」と言うのを周(まわ)りの白人たちが聞いて、げんなり、がっくりしているのだ。 しかし、それは口に出しては言えない。
「イギリスは、白人の国だ。有色人種は出ていけ」 と言うと、人種差別主義(レイシズム。レイシアル・ディスクミネイション)になって、自分が、人種差別主義者の悪人(あくにん、わるもの)になってしまう。 人は誰も、自分が、悪人、わるもの、悪漢、ゴロツキだとは、思いたくないし、そう言われたくもない。 まわりから見たら、相当に悪い人間だ、と見られていても、自分ではそうは思っていない。自分のことを、いい人だ、と皆思って、生きている。
この「もう白人(だけの)国家でなくなっている」厳しい現実の原因を作ったのは、自分たちだ。原因は、まさしく16世紀(1500年代)からの、“海、海洋、外洋船、航海(ナビゲイション) の時代”で、植民地主義(コロニアリズム)の300年間で、世界中の主要地を、植民地にして搾取し、それがさらに高度化、発達して20世紀(1900年代)からの帝国主義(インペリアリズム)で、世界中を、西欧列強(せいおうれっきょう。ヨーロピアン・パウアズ European powers )が分割支配、再分割の戦争をしたからだ。
だから「植民地も本国と同じ。平等に取り扱う」という法律が出来て、どんどん、あるいは、じわじわと有色人種が入り込んで来るようになった。植民地支配のツケが回ったのだ。
流入者の数が、イギリスとフランスに、それぞれ450万人ずつ居る。もっと増えているだろう。 イギリスとフランスの人口は同じで、どちらも6400万人だ。ドイツは、8200万人の人口でトルコ人出稼ぎ者(移民)でもう3代ドイツにいるというトルコ人(イスラム教徒)が人口の13%というから、ちょうど1000万人いる。そして、今度の、シリアと北イラクからの政治難民(レフュジーズ)が100万人だ。
イスラム教徒の移民たちの中から、その子供たちの世代から、自分たちは、このヨーロッパ白人たちの国で、ひどい差別を受けて育った、と思う不満分子の若者たちが、イスラム過激思想(サラフィーヤの思想)の影響を受けて、突然、銃の乱射をする、という事態にどんどんなりつつある。この流れはもう止められない。
それらのことを、イギリス人も西欧人も、よく分かっている。だから、「もう、これ以上入ってこないでくれ。お願いだから」と、哀願、愁訴、嘆願している。もうこれ以上、有色人種の移民たちに、社会福祉(ソシアル・ウエルフェア)の費用を出す余裕はない、と喚(わめ)いて叫(さけ)んでいる。
だが、これらのことは活字にはならない。テレビ、新聞は白(しら)けて書かない。 移民たちが集住する大都市の貧民区(かつてのゲットー)の映像だけは流すようになった。
だが、それでも、経済法則(エコノミック・ラー economic law )に従って、貧しい、食い詰め者の移民たちは、どんどん入り込んでくる。 今、世界は、いや、先進国は、それとの闘いだ。
昔は、戦前も戦後も、「人種を混ぜよ。混血させよ。どんどん移民させよ」という思想が、蔓延していて、各国政府が、移民を自ら、奨励、勧奨して、ひとり3万ドル(400万円)ぐらいの支援金を出して、移民させた。日本の場合は、ハワイと北アメリカの次は、ブラジルなどの南米に農業移民をさせた。
それが、世界的にうまくゆかなかった。いろいろと人種間の抗争の原因となった。だから、今は、「もう人種を混ぜるな。移民を奨励するな」の時代になった。 「民衆を動かすのも、観光旅行までにさせておけ。出稼ぎも5年ぐらいで帰らせろ」になっている。
イギリスもアメリカと同じで、白人比率がどんどん下がっている。だから、ドナルド・トランプが、わざとスコットランドに、この時期に行って、ルパート・マードック( オーストラリア出身の下層白人の出で、イギリスの ザ・タイムズ紙やアメリカのFOXチャンネルを買収したメディア王 )と25日に会った。そして、トランプは、「イギリス国民のEU離脱の選択はすばらしい。アメリカ(白人)国民も同じ考えです」と発表した。
マードックにしてみれば、2年前に、雑誌出版事業のことで、イングリッシュが自分を、差別して痛めつけたことへの復讐、反撃もあるから、トランプと会談して支持を表明した。
私、副島隆彦は、ここで思い出すのだが、日本では、この移民(流入)政策において、30年前から、現実主義 的な、「アジア諸国からの移民を入れない。流入させない」政策を、外務省と法務省が、中心となって、意地汚いまでに優れた対応をやってきた。
その金字塔(きんじとう)になった本がある。それは、『 戦略的「鎖国」論 』 西尾幹二(にしおかんじ)著である。 講談社から、1988年に出された本だ。 保守言論人の西尾幹二(にしおかんじ)氏に、大きな先見の明があった、ということになる。 だから、この本を、あらためて称揚(しょうよう)しなければいけない。
日本人は、この移民流入を阻止する、という島国政策において、すばらしく、人種差別的で、泥臭いまでに現実対応の政策を、国民に議論させる前から、着々とやってきた。私は、この西尾幹二の「(日本は、移民問題では)戦略的(に)鎖国(せよ)論」を今から、取り上げて、詳しく論じたい。が、今日は出来ない。
出入国管理(しゅつにゅうこくかんり)の行政を、日本が、どれぐらい官僚統制(かんりょうとうせい)で、厳格にやってきたかを詳しく説明したい。が、今日は出来ない。
トルコ人の出稼ぎ労働者が下層の、現場の、きつい、きたない仕事をするから、ドイツはものすごく綺麗で清潔な国だ。しかし、そのままトルコ人やイスラム教徒が、居ついてくれるな、というドイツ政府の苦し紛れの政策が続いている。西尾幹二は、学者留学時代にドイツの現実を見て、早くも1988年にこの本を書いた。
それで、外務省官僚 たちから絶賛された。それで、西尾に栄誉(ご褒美)を与えて中央教育審議会の委員にした。そしたら、西尾が、その教育問題の政府の大きな審議会で暴れだして、官僚たちの作文を否定して、さんざん官僚さまたち に迷惑をかけた。それで西尾は追い出された。
私、副島隆彦は、イギリスのEU離脱問題(BREXIT)については、もっと深い、イギリス保守党内部の、一番、奥深いところにいる「反EU」の、貴族さま(王党派。Tory トーリーの伝統)たちの動きを凝視している。
表面のイギリス保守党は、キャメロン首相が、EU残留を言いづづけた。そして残留方針が敗れて、キャメロンは即座に、辞任表明した( それでも、10月までだらだらと、やる気だ)。ドイツとフランスは、「さっさと出て行ってくれ」と、強気の態度を示しているが、これも虚勢だ。どうせ会議ばっかりで、何も進みはしない。今のままだらだら、だ。
だが、イギリス保守党の「奥の院」には、全く別の思想と意思がある。かつてのマギー・サッチャー首相(女傑)の「EU加盟、絶対反対」の勢力である。このことは、今日はもう書けない。
私は、大きくは、イギリスももはや、「移民流入反対」(シェンゲン協定を認めず。国境や、列車の中でも、外国人へのパスポート・チェックを復活する)以外では、大きく譲歩するしかない。ヨーロッパ人は、もう、分裂しようがないのだ。
いまさら、ユーロという統一通貨を無し、にはできない。ヨーロッパ人は皆、「統一EUパスポート」を握りしめてその恩恵をしみじみと噛み締めている。今さらこのふたつの財産を捨てることはできない。あの破産国家ギリシアでさえ、ユーロ通貨の放棄は何があってもできない。ヨーロッパは、合計で5億人だ。 高速鉄道で2時間も走れば、隣の国に付く。そんな人口が700万人程度の、スイスやオーストリアなどの チビコロ(ちびすけ)国家が、何が国家か。日本の埼玉県や千葉県と同じ人口ではないか。
そんな小さな国の連合体がEUである ヨーロッパ人が、何か騒ごうが、何をやろうが、それが根源的なところで、世界に影響を与えることはない。表面だけの大騒ぎだ。白人中心主義の白人文明の考え方だ。世界緊急危機を誘発するぐらいが関の山だ。今度の大きな世界金融危機(ワールド・ファイナンシャル・クライシス)はヨーロッパ発だ、と決まった、ということだ。
白人さまたち の世界をそのままほっておいて、世界は勝手に動いてゆく。西欧文明が、すばらしかったのは、1500年代(16世紀。ヨーロッパ近代=モダーン=の始まり)からの、たった500年間の話だ。その500年間の白人中心主義が今、終わろうとしている。
どれだけ威張っていても、自分たち西洋白人たちが作った、諸人権(しょじんんけん)、と平等主義(エガリタリアニズム)と、貧困者救済、と デモクラシー(民主政治)などの、荘厳な人権宣言(デクララシオン・ド・ ラ・オンム)の綺麗ごと=理想主義の 理念が、私たちの目の前で、ぶっ壊れつつある。
そんなものに振り回される振りなど、やっている暇は私には、ない。 私、副島隆彦は、もっと冷酷に、大きな世界の動きを見ている。 副島隆彦拝
(転載貼り付け始め。 新聞記事 資料)
●「メルケル独首相がキャメロン英首相にくぎ-EU離脱で幻想を抱くな」
Merkel Tells Cameron Before EU Summit : Don’t Delude Yourself
2016年6月28日 ブルームバーグ
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2016-06-28/O9H9BB6KLVRC01
ドイツのメルケル首相は英国に対し、欧州連合(EU)離脱に関して幻想を抱かないようにとくぎを刺した。英国の離脱選択後初のEU首脳会議を前に発言した。会議にはキャメロン英首相も出席する。
メルケル首相は28日ドイツ連邦議会で演説。英国はEU離脱後の特別待遇を期待することはできないとし、英政府が離脱を正式申請する前に新たな関係について非公式に協議することもないと言明した。
「今回のような場合、EUの協定が定める条件にいかなる誤解もあってはならない。英国の友人たちに対する私の唯一のアドバイスは、下さなければならない決断について幻想を抱くな、というものだ」と語った。
EU加盟国首脳はこの日から2日間の日程でブリュッセルに集まり、英国の離脱を話し合う。このサミットに臨む独政府の姿勢を説明したメルケル首相に議員らは喝采した。
離脱の「交渉でいいとこ取りは絶対に起こり得ない。EUの一員であることを望む国と望まない国との間には明白な違いがなければならず、そうなるだろう」とも首相は断言した。
●「 世界の株式市場、215兆円失う 英EU離脱派勝利で株安 」
2016年6月25日 AFP
http://www.afpbb.com/articles/-/3091738
英国の国民投票で欧州連合(EU)離脱派が勝利するという衝撃的な結果を受
け、24日は各国で株価が大きく値下がりし、合計2兆1000億ドル(約215兆円)が 市場から失われる形になった。世界経済に打撃を与える新たなリスクに直面した 投資家の間に動揺が広がった。
各国の株式市場の代表的な株価指数は、東京と仏パリ(Paris)で約8%、独フ ランクフルト(Frankfurt)で約7%、英ロンドン(London)と米ニューヨーク (New York)で3%以上、26日に総選挙が行われるスペイン・マドリード (Madrid)では12.4%も下落した。
英国のEU離脱という欧州にとって極めて重大な構造変化やデービッド・キャメ ロン(David Cameron)英首相の後任人事などで先行き不透明感が強まり、安全 資産とされる円や優良債券、金が買われた。
●「世界の時価総額、1日で3兆ドル消失 英EU離脱で 金利低下加速で金融株に売り」
2016/6/25 日経新聞
英国が欧州連合(EU)離脱を決めたショックでグローバルに株安が連鎖し、先週末24日の1日だけで世界の株式時価総額は約3.3兆ドル(330兆円強)と全体の約5%に相当する額が消失した。英国によるEU離脱が世界経済の足を引っ張るとの懸念が強まったためだ。業績への打撃が大きいとして世界的に金融株に売りが集中した。
世界取引所連盟(WFE)のデータをもとに、世界の株価の動きを示すMSCIワールド指数の動きから推計した24日時点の世界の時価総額は約64兆ドル。英国のEU離脱による減少が響き、70兆ドルを超えていた直近ピークの2015年5月末を大きく下回る。
24日の時価総額の減少幅は、英国の15年の名目国内総生産(GDP)の約2兆8000億ドルを上回る規模だ。米リーマン・ブラザーズが破綻した08年9月15日は46兆ドル程度あった世界の時価総額が約1.7兆ドル(4%弱)減少した。今回の方が時価総額の減少幅・減少率ともに大きい。
総じて時価総額の大きい金融株が軒並み急落したのが響いた。震源地の英国ではロイヤル・バンク・オブ・スコットランド(RBS)が24日に18%安と大幅に下落し、年初来安値を更新した。大陸欧州ではイタリアのウニクレディトやフランスのソシエテ・ジェネラルの下落率が20%を超えた。
背景にあるのが、「英国のEU離脱が世界経済の成長率を鈍化させる」(JPモルガン・アセット・マネジメントの重見吉徳ストラテジスト)との懸念だ。英財務省は今後2年で英国経済が3.6%縮小するとの試算を公表済み。経済協力開発機構(OECD)は英国を除くEUのGDPが1%減ると予測する。
景気の停滞感が強まれば、世界の中央銀行が金融緩和に動くとの観測が浮上し、金利には低下圧力が加わる。そうなれば「利ざや縮小によって金融機関はますます稼ぎづらくなる」(三菱UFJモルガン・スタンレー証券の藤戸則弘投資情報部長)との思惑も金融株の下げを助長した。
英国によるEU離脱が世界経済に及ぼす影響は今後じわじわと表面化してくるとみられる。株価の低迷が長引くようだと、企業の資金調達の妨げとなったり、「逆資産効果」を通じて個人消費を冷え込ませたりする恐れも出てくる。
●「英国のEU離脱で注目高まる「ゴールド」 ソロス氏「暗黒の金曜日」予言的中」(キーワード;ブレクジット, ゴールド, 金, 英国)
2016/06/24 ZUU 編集部
破局のにおいをハイエナのように嗅ぎつけていたソロス氏
伝説の男が、また伝説を生み出した。1992年に英国中央銀行にポンド売りを浴びせて巨額の利益を上げ、当時の欧州為替相場メカニズム(ERM)からの脱退を余儀なくさせた著名投資家のジョージ・ソロス氏(85)。
彼は先週、因縁の国イギリスの欧州連合(EU)離脱を予言し、国民投票の翌日である6月24日が「暗黒の金曜日」になると語っていた。この予測は的中し、世界の市場は大暴落モードに突入した。
こうしたなか、同氏率いるヘッジファンドの「ソロス・ファンド・マネジメント」が、安全投資先としてゴールドや金採掘企業株の買い付けをしていることに、改めて注目が集まっている。ソロス・ファンドが米国株の下落に賭けるショートを拡大し、金と金鉱山株の上昇に賭けるロングをしていた「先見の明」が際立つ。
ソロス・ファンドは2015年12月末から2016年3月末までに、米国株ETF(上場投資信託)のプット(「売る権利」を取引する投資商品)を100万個から210万個に増やす一方、カナダをはじめ米国、南米、オーストラリア、アフリカで鉱山の運営と開発プロジェクトを展開する国際金鉱業企業バリック・ゴールド社(本社・カナダ)の株式保有を0株から1900万株に増やし、同社の筆頭株主となった。
その結果、3月末から6月上旬にかけて、9000万ドルの利益を得た。また、1月から3月の間に、金ETFのコール(「買う権利」を取引する投資商品)を、0個から100万個に引き上げていた。
ソロス氏はすでに昨年秋から年末に、金保有を3360万ドル以上に買い増しており、今年に入って世界経済や金融への不安心理が高まりつつあったなか、4月以降もゴールドのロングを拡大し続けていたとしても不思議ではない。ソロス氏お得意の、「破局の局面」を利用した取引だ。
6月9日付の米経済紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』は、「長きにわたって休止を守ってきたソロス氏が、満を持して取引に戻ってきた」と、ソロス氏の動きを表現した。ハイエナのような嗅覚を持つソロス氏は、血のにおいを嗅ぎつけ、狩場に戻ってきたのである。
同氏は6月20日、英国離脱で「ポンドの為替レートは急落し、それが金融市場や投資、物価、雇用に即時、大幅な影響を及ぼす」「今回のポンド急落は、私のヘッジファンド顧客がかなりの利益に浴する幸運を得た1992年9月の15%下落よりも大きく破壊的なものになるだろう」と予測していた。
安全資産の金にマネーが殺到して高騰
英国のEU離脱で、世界経済全体が「脱グローバル化」へと大きく渦を巻いて逆回転を始めた。金は、こうした長期的なリスク資産価値の下落に強い「無国籍通貨」とも呼ばれる有事の安全な実物資産だ。為替や株式・債券市場で不安心理が支配すると「究極の安全資産」である金が買われるため、ソロス・ファンドの収益は大きく伸びるだろう。
景気が上向く時に買われやすい英国北海ブレント原油は、「EU離脱」のニュースを受けて一気に6.6%下落し、1バレル当たり46ドル81セントをつけた。一方、金価格は8%上げ、過去2年間で最高値の1オンス当たり1355ドルまで高騰をしている。多くの専門家は、「近いうちに1400ドルの壁も突破する」と見ている。
では、今回ソロス・ファンドが買い増しているバリック・ゴールド株と、ニューヨーク証券取引所に上場する世界最大のドル建て金ETF「SPDR(スパイダー)ゴールド・シェア」とは、どのようなパフォーマンスを見せているのか。
まず、バリック・ゴールド社は、近年の金下落の影響で業績がさえず、負債が130億ドルに達する「ダメダメ企業」だった。だが同社は今年度20億ドルの負債削減を目標に積極的な経費削減を行い、目に見えるキャッシュフローの改善を実現した。ソロス氏も、そこに注目したのだろう。
そして、何よりも同社への追い風となっているのが、世界経済の成長鈍化である。金融政策も財政政策も効かない状況の下、国際的な景気後退の予測が相次ぎ、年内の米利上げも遠のいている。そこに、英国離脱のダブルパンチだ。業績改善の著しいバリック・ゴールド株は過去3か月間に1株当たり価格が10ドル近辺から20ドルと倍になっており、金が1400ドルを目指すなか、さらに上げていくことが予想される。
ちなみに、ソロス氏はカナダのバンクーバーを拠点とする鉱業会社シルバー・ウィートン社への投資も増やしており、同社もここ1か月半で株価は大きく上げている。
翻って、有名な金ETFのSPDRは非常に活発に取引がされているため、流動性の心配が要らないところが魅力だ。直近では、2008年から2009年の金融危機で、株式や債券の価格が値下がりするなか、金は逆に値上がりしたことが記憶に新しい。英国離脱で金融恐慌の可能性が取りざたされる環境で、SPDRも上げていくだろう。離脱直後では、SPDR S&P 500 ETFが1.3%上昇している。
英国のEU離脱をピタリと言い当てたソロス氏の投資方針は、市場関係者の注目を浴び続けよう。これからの市場で不安定さが常態化することが予想されるなか、ボラティリティ(価格の変動幅)が大きくなる世界は、ソロス氏にとって絶好の狩場である。
ゴールドや金鉱株の上昇は、世界中で資金の流れに重要なシフトが起こりつつあることを示唆している。常に果敢に株式市場に挑んできたソロス氏の金へのシフトは、「彼が弱気になった証拠」と評されているが、市場のパラダイムシフトに誰よりも早く勘付いたソロス氏にとっては、当たり前の現実的な立場の転換だ。因縁の国イギリスのEU離脱による金上昇で、彼の血は再び燃えているのである。(在米ジャーナリスト 岩田太郎)
(資料、転載貼り付け終わり)
副島隆彦 記