[1855]Zeus Ex Machina 「デウス・エクス・マキーナ」  である。 

副島隆彦 投稿日:2016/01/31 11:24

副島隆彦です。 今日は、2016年1月31日(日)です。

 今の世界で起きていることは、 Zeus Ex Machina .「ゼウス・エクス・マキーナ」 である。 日銀の黒田東彦(はるひこ)総裁が、29日の 午後、後場の株式市場の終わり際を狙って、株つり上げの 奇策に出た。「マイナス金利政策の導入」だ、と。この者たちは一体、何をやっているのか。

 「ゼウス(デウス)・エクス・マキーナ」 とは、人間どもの愚かなる所業(しょぎょう)のその最中(さなか)に、突然、何者か奇妙な者が出現して、ギリシア悲劇の舞台を めちゃくちゃに破壊してしまうことだ。「オリンポスの12神(じゅうにしん)」と日本では教えるが、天(てん、ティエン heaven )を支配している天帝(てんてい、ティエンデイエ)である 天帝ゼウス、デウス Zeus  の天罰が落ちることだ。

 私、副島隆彦は、神(かみ)という言葉は、誤訳だ、とずっと書いてきた。
16世紀(1500年代)に日本に日本侵略・支配(日本人洗脳)のためにやってきた宣教師(伴天連、バテレン、パードレ、ファーザー、神父)たちが、「日本人の土俗の信仰では、カミ、カム、カンサー というらしいで、天(ゼウス)を「神(かみ)」と約した。

 だからそれ以来、日本の学者たちまでが、ゴッドや、ヤハウェやアッラーまでもを神と誤訳しづづけて今に至る。

 神、神さん、神(かん)さー、というのは、日本人にとっては、町はずれに住んでいる占(うらな)い師、呪(まじな)い師、巫女(みこ、ふじょ、いちこ、言付け=託)のことだ。 すなわち、お金を取って予言をしてあげる近(きん)未来予言者のことだ。 私、副島隆彦も、この近未来予言の業者である。

 「デウス・エクス(の外側)・マキーナ」は、「天帝デウスは、マキーナ(マシーン、人間どもが作った愚かなる秩序)の、常に その外側(Ex、エクス)にいる」 ということだ。「この天をも畏(おそ)れぬ愚かなる所業」を、次々と策出(さくしゅつ)して、国家政策と称して 繰り出す 愚か者たちに天の罰が落ちるだろう。

 私は、このことを自分の本で3年前に書いた。 あのとき、黒田東彦は、人格者でいい人なのだが、もともとは悪人(ワル)ではないのに、自分から進んで悪の権力者の列に加わった。だから、2013年4月4日の、あの みんなで、びっくり仰天の ”異次元(いじげん)緩和” じゃぶじゃぶマネー の 「財務省が刷り散らした国債=国家借金証書の)の日銀による(国債)引き受け 130兆円 → 270兆円(の倍にする)」のトリック芸 を発表した。

「 中央銀行が、国家の借金を大量に引き受けること」は、やってはいけないことだ。これをやると、やがて毒が国家そのものに回る。ところが、今は、なんと「日銀の国債引き受けは、もう360兆円ぐらい」になっている。今年2016年の年末(12月)までには、436兆円になるようだ。 

 このことの持つ本当の意味を、日本国民の中の「自分は頭がいい」と思い込んでいる人たちまでが実は分からない。「権力さま、お殿(との)さま、お上(かみ) のやることには逆らわない」という程度の、その程度の「頭のいい私」なのだ。

 その次に、どれどれ、私たちお奉行(ぶぎょう。勘定奉行 )さまが、「我らでも株で儲けることぐらいは出来るぞよ」と、監督者(コントローラー。当局。賭場(とば)の胴元(どうもと)) のくせに、自分で相場を張る、ということまで始めた。

 その挙句(あげく)が、投資の大失敗で、日本国民の大切な、年金 を 棄損した。それから郵貯と簡保(かんぽ)のカネまでも、在日ゴールドマンの社員どもを使って、「私たちに任せなさい」 で、NYの株にまで、突っ込んで、それで大損を出している。郵貯も簡保も、私が書いた通り、株式上場したあと、今ではもう 2割以上も上場初値(はつね)よりも落ちている。 国民をだましたのだ。

 この金融官僚の 馬鹿者たちがやっていることは、もともと民間のものであり、民間市場で必要であるカネを、国家が金融市場から吸い上げて、国家部門に回して、それで当たり前だ、というその脳が、問題なのだ。

 国(くに。財務省と日銀のこと)が、株にカネを突っ込んでしまったら、そのことの 落とし前 が早くも迫っている。ケインズ経済学における(ヒックス・モデルの)「財(ざい)の市場」(=実物経済)における クラウティング・アウト(締め出し)ではなくて、金融市場 (=「貨幣の市場」)におけるクラウディング・アウトを起こしている、のである。まさしく 天才ジョン・メイナード・ケインズ(本当は、キーンズと発声する)卿 が怖れた事態だ。

 それでも その国の権力者は何でもやって生き延びる。それこそ、戦争でも、経済統制(コントロールド・エコノミー)でも、ファイナンシャル・サプレッション( financial supression、=金融統制)でも、反抗者たちの一斉検挙でも、国民の身体検査でも、預金封鎖(よきんふうさ)でも何でもやるさ。自分たちが握りしめてる権力(パウア)を手放さないためであれば、自分自身が満身創痍になって悪(あく)の所業をやり尽くす。

 今では漫才のような、黒田がどこに行っても吐く、有名になった決まり文句である、「 いざとなったら、追加緩和 だろうが何だろうが、躊躇(ちゅうしょ)なく果断に実行する」 の 「だろうが何だろうが」 の この ぶっきらぼうな、居直った感じが、なかなかいい。 

 だから、私は、黒田のことを、この人は生来善人で、いいやつなのだが、最後は、前線視察と称して出て、自死を覚悟してブーゲンビル島の上空で米機に撃墜された 山本五十六(やまもといそろく)元帥( このあと盛大に国葬。この人だけは やってもらった。あとは、自分だけ臆病にズルく 生き延びた 恥知らずの高級軍人ども )と同じような行動をとるだろう、と 書いた。

 日本の権力者たちは、アメリカに密かに逆らって (公然と逆らったら、叩き潰されるから)、日本を冷凍状態にして、日銀の出口戦略( でぐちせんりゃく。exit strategy エグジット・ストラテジー)も、テイパーリング( ろうそくの火がすーっと消えてゆくこと。日本国債の市場での償還、財政赤字の減少)も出来ない、し、やるくはない。アメリカにバレないように、密かに、団結して、自分たちのことを、密かな反米(はんべい)民族主義者、愛国者たちだと、黒田たちは思っている。それに付き合っている、安倍晋三たちも、本性(ほんしょう) ごろつき、チンコロ右翼のくせに、頭の芯からそのように 自分のことを信じ込んでいる。

 もう、学習偏差値42の 生来の低能の 安倍首相が、日銀・黒田を呼びつけて、「さっさと追加緩和(ついかかんわ)をやりなさい」 と、脅しをかけることも出来ない。 安倍たち自身も、 「デウス・エクス・マキーナ」のギリシア悲劇に出てくる 天の怒りである 天罰 (やってはいけないことを、やり続けた。アメリカに クルクルパーにされて) の怖さを自覚しつつあるから。

 私は、さっきまで朝のテレビを見ていた。 日本の蔵王(ざおう)スキー場で、ジャンプのワールド・カップをやっている。 あんな、空に向かって飛び出すような危険なことを、よくもやり続けるものだ、きっと、選手が突然の横風(よこかぜ)に煽られて、事故で死ぬのを みんなは固唾(かたず)を呑んで待ち構えているのだろう、と書いたら、叱られるのかなあ。 

 カー・レーサーの伝説の英雄アイルトン・セナがレースのさなかにガードに激突して事故死したことで「天に昇った」ように。 

 人間というバカ者は、スポーツと称して危険すれすれのことを何でもやって、お祭りにしてしまう。 私は、昔、蔵王 (仙台と山形の間)やら、新潟やら長野のスキー場に行って、国体(こくたい)コースというのを目の前で見た。恐ろしかった。

 どどーと向こう側までずっと広い幅があって、ただ単にずっと下まで続く広大な急、斜面で傾斜角度は40ぐらいあった。 あんな国体コースを、ザザーとまっすぐに滑り降りてゆくのは、とんでもないことで、真っ逆さまに落ちてゆく感じだろう。スキーの上段者は、実際にここをパラレルで滑り下りてゆく。

 コブのところ、をまるでカモシカみたいに、ぴょんぴょんと飛んで滑り下りてゆく、上手な者たちもいた。 

 私は、45歳で、もう駄目だ、とスキーをやめた。最後まで、ボーゲンでずりずり下りてゆくだけで、パラレル(両足が平行に合っているきれいな滑り方)になることはなかった。インストラクターから習って、言うことを素直に聞いて上達する、ということが出来ない人間だから。

 今の、若者は、スキーにゆく金銭的な余裕がないようだ。 私たちの頃は、夜汽車や夜行のスキーバスやらが乗客満載で、しかもどこのスキー場のゲレンデも リフトと ロープウエイが朝の通勤電車のような混雑で並んで込んでいた。

 最近起きた夜行バスの事故(軽井沢の碓氷峠の下りのグネグネの蛇行のところ。あの碓井のバイパスは、設計、工事上の欠陥もある。あの激しい蛇行続きでは必ず事故が起きる)に対して、びっくりポンがあった。

 ネット(ツウイター)で、ネトウヨもネトサヨも、どちらもが、死んだ女子大生で、大企業の社長のお嬢様で、留学経験があって、大企業への就職が決まっていて、に対して、いい気味だ、ざまあみろ(ザマー)、という悪罵が飛び交ったそうだ。 なんという「時代閉塞(へいそく)の現状」(石川啄木の言論 ) だろう。今の若者たちの 怨嗟(えんさ)は、スキーの夜行バス(格安)でスキーに行ける学生たちで事故で死んだ者たちにまで、向けられる。 

私たち 高度成長経済と、バブル時代を生きた世代もビンボーだったが、それでも何とかスキーぐらいは行けた。 今は行けないのだ。そのためのたった3万円のカネがない。若者たちをここまで、追い詰めたのは 政治 (=国家体制、国家権力者たち)の責任だ。

 私は、マイナス金利 (本当は、ネガティブ・インタレスト という)などという、地面がひっくり返るようなことを、同じ先進国仲間のヨーロッパに追随して「ええじゃなか、ええじゃないか」でやろう、としている日本の権力者たちの おかしさ、奇妙さを、今、分析し尽くそうとして本を書き始めた。

 黒田が、29日(金)にマイナス金利をやる(すなわち、日銀の当座預金に、溜めまくっているメガ銀行、地銀たちの 資金 に 今は、付利(ふり)という金利をあげる飴玉が付いている。これを取り上げる) と、
発表した。このせいで、一斉に、日本株だけでなく、日本国債の売り崩し(金利の上昇)を狙っていた、アメリカのガラの悪い投機筋(とうきすじ)のヘッジファンドども(ソロスや、ジョン・ポールソンも入っている)たちが、もんどりうって、建玉(ポジション)の解消に動いた。 

 日本国債は下落しない。だから金利が上がるどころか、このまま景気を冷やし続けて、焦土作戦(しょうどさくせん)を続けて、日銀は、長期金利の支配権を握り続ける。そのためにゼロ金利を通り越す マイナス金利で、ヘッジファンドどもに、氷の塊を、29日に 浴びせた。 ついでに、株式市場で、株価下落のショート(空売り)を仕掛けていた者たちや VIX(恐怖指数)を買っていた者たちが、投げ捨てに動いた。 これで600円前後の乱高下が続いた。

 分かり易く書くと、 マイナス金利という、低体温症(ていたいおんしょう)の、体温34度の女性を抱きしめて、一緒にベッドの中で凍(こご)えたまま、日本国債と 抱き着き心中をします、ということだ。 黒田が、自分の敵であるヘッジファンドたちに激しい逆襲を浴びせた。これは瞬間的には、相当な効き目があった。その代り、日本国内は、低体温症のままの 凍り付くような寒さの 不景気のままだ。 アベノミクス(日本経済)は、限りないデフレ経済(大不況)のまま静かに死につつある。 

 それでも黒田は、財務省出身だから、1000兆円を超えている国債のその利払いが、マイナス金利で、がた減りして、財務省が利払い(国家の資金繰り)で苦しまなくていいように、という考えで、マイナス金利の方に動いた。
黒田の本心は、日本経済が 「期待インフレ率 2% 達成」で、インフレ(景気回復)になってくれるのは、死ぬほどこわいことなのだ。 だから、口で言っていることと、本心は全く別だ。 日本は、凍り付くようなデフレ不況の地獄の中に、再びはまり込んだのだ。 国民生活も凍(こご)えつくように冷凍状態だ。

 低体温症の女(マイナス金利)を抱きしめて、ベッドの中で一緒に凍(こご)えている、か。我ながら、いい比喩(ひゆ)だ。そうだ、雪女(ゆきおんな)だ、ひえー。冷えー、冷えー、さむ(寒)ーだ。
 
 ところが、私は今は、『 日本が中国の属国にさせられる日』という本を書いている。 この本のサブタイトルは、「共産主義の 何が悪(あく)であり、どこがどう間違いだったのか」である。 この本が終わったら、すぐに 金融本を書く。

 ただし、私は、自分が昨年11月に出した『再発する 世界連鎖暴落』(祥伝社=しょうでんしゃ=刊) の決着をつけなければいけない。 私が、あの本で書いたことが正しかったのか、間違っていたのか、今こそ判定を下さなければいけない。 私のことを、「副島、またハズレー。お前はオカシイヨ」と、私に向かって書いた者たちの、顔の中を私はジーッと覗き込む。 

 自分が背負ってしまっている株式投資での損、大損 を取り戻したい一心で、藁(わら)にもすがりたい気持ちで、おのれの夢、願望で、「安倍ちゃん、株を釣り上げてくれよー」と 必死の願いが、それで、「どうせ、もうすぐ 暴落が世界中で連鎖して起きる」と書いた 私、副島隆彦への悪罵、憎悪となって表(あらわ)れたのだったら、許してあげよう。自分の夢、願望にすがるしか知能がない人たちなのだから。 

私は、「黒田マイナス金利の導入」の日の29日の早朝に、編集長に次のようなメールを書いている。

(転載貼り付け始め)

From: 副島隆彦
Sent: Friday, January 29, 2016 6:43 AM

Subject: 「「マイナス金利が望ましい」 元日銀副総裁・岩田一政氏」

**書店
****編集長へ

**君へも

副島隆彦から

昨日は、遅くまでありがとうございました。 
(略)

私が、昨日**** 君の発言で、一番強烈に感じたのは、 「地銀たちが、日銀に、国債を売る( 財務省から入札で買ったばかりの国債だ)時に、「日銀さま、現金で払ってください」という時がもうすぐ来る。「怖いですねー」でした。

以下の岩田一政(いわたかずまさ) の朝日新聞の1月28日の、インタヴュー記事が優れています。岩田は、「2017年に来るだろう (日銀による)国債買取りの限界。その到来の時期がどんどん早まっている」(「日銀トレード」の終わり)という言葉で表している。

 別称(べっしょう)では、「国債デフォールト」( 「日銀ポートフォリオ・インシュランスの死守」の決壊 ) です。「 現金で 払ってくれ 」( 裏に、「あんたとの信頼関係はもうこれで終わりだ」の意味あり)という コトバ以上の強烈なコトバは、人間関係が破局に陥るときの最後のコトバです。 

  これからは、この国債デフォールト(「国債買い入れの限界」)の シナリオ が、今の日本人のセミプロ級から上の金融投資 人間たち に 一番、受け入れられるでしょう。 (略)

以下の朝日新聞の 岩田一政(いわたかずまさ) の28日(昨日)の インタビュー記事が、他のものよりも光っている。****編集長が、言うとおり、「朝日は、すでに今の異常事態の次に起きること に 気づいている」のとおりでしょう。

 以下の中の、岩田一政 のここの発言が重要だ。
 「 ・・・・それ は私たちが17年夏と見ている国債購入の限界が、どんどん前 倒しになるということだ 」

岩田は、自分が日銀総裁になるはずだったのに(当然の、日銀生え抜き人事なら)、黒田に椅子を取られた、ということがあるから、腹に一物、で本当なら、権力側(コントローラー)としては、言ってはいけない、ばらしてはいけないことを、ズケズケと言っている。「権力から外された人間の (ざまあみろの )意趣返し」 だ。 これは、FRB議長になれなかったラリー・サマーズの放言とそっくりです。

これがコントローラーたちも自身も自覚している「国債デフォールト への道(シナリオ)」ですね。 「地銀たちが、国債を引き取ってくれ。現金でくれ」 が、来年(2017年)に向けて、着々と進行していると、私もはっきりと思いました。 しかも、それが、「どんどん早まる」と、岩田が言い出している。

  黒田が、刀を抜いて、次の緩和をやる、と言ったら。その副作用(サイドエフェクト、中毒症状)は、「 もうそれ以上 は、麻薬(=鎮痛剤)の投与の効き目がなくなる 」  先進国 の ” 薬飲まされ過ぎ老人たち” の悲劇と同じだ。 「痛いよー、痛いよー」で、死んでゆくしかない。  

 それなのに、「人命尊重で、長生きを強制させられる」 本当の地獄が国家にも来ている。

 岩田は、以下で、 「(追加緩和が簡単に出来ないなら ) ヨーロッパ諸国と同じような、マイナス金利 政策 をやるべきだ」 と言っている。 おそらく、権力者、支配者の論理で言えば、他に倣(なら)ってやる、そういうことをということをやるだろう。 黒田にしてみれば、日銀内にまだいる 自分の嫌いな、岩田一政一派の提案を受けいれる、という判断を近々するだろう。もうほかには手はないだろう。 

 為政者(いせいしゃ)の政策というものは、意表(いひょう)を突く (黒田の あの 2013年4月4日の、130兆円→270兆円の時の異次元緩和 ようなトリック芸 ) などやってはならない。 その反動が必ず来る。 為政者の政策は、優れた人間たちであれば、つねに 穏やかな、苦し紛れの何の芸もないものでなければならない。 大向こうの受けなど狙ってはいけない。 常に苦渋に満ちた選択でなければならない。 それが人類の知恵だ。 

(略)

副島隆彦拝

Sent: Thursday, January 28, 2016 11:24 PM
To: 副島隆彦
Subject: 「「マイナス金利が望ましい」 元日銀副総裁・岩田一政氏」

●「「マイナス金利が望ましい」 元日銀副総裁・岩田一政氏」

2016年1月28日 朝日新聞

http://www.asahi.com/articles/ASJ1V02HYJ1TULFA03D.html?iref=comtop_6_03

■金融政策 私の視点

 日本銀行は28、29日に金融政策決定会合を開く。年明けからの金融市場の
混乱を受け、市場関係者の間では追加緩和への期待が高まっている。会 合を前
に、岩田一政・元日銀副総裁に展望をきいた。

――年明けから円高と株安が進みました。昨今の金融市場の状況をどう見ていま
すか。

「昨年8月の市場の混乱から、『ギリシャ悲劇』の第3幕が始まったと思って
いる。年明けからそれが深くなった。『悲劇』の1幕目は2008年の リーマ
ン・ショック、2幕目は10年のユーロ危機、3幕目は現在進行形の新興国の減
速と債務問題、資源価格暴落の組み合わせだ」

――現在の状況は、リーマン・ショックやギリシャを発端とするユーロ危機と同
じくらい重大な事態なのでしょうか。

「1、2幕目に続く大きなショックだ。ある人の計算によると、今年に入って
世界の株式時価総額は8兆ドルくらい減った。リーマン・ショックが起 こった
08年9月でも5兆ドルくらいだった。当時以上の株価下落が発生している。
『パーフェクト・ストーム』と言う人もいれば、『メイヘム(大混 乱)』と言
う人もいる」

「金融市場には投機的な動きがつきものだ。だが、21日に欧州中央銀行
(ECB)のドラギ総裁が、将来の追加緩和を示唆したら、翌日の日経平均 株
価は900円超も上がった。戻り方が極端で、極度に不安定な状況が続いている」

――各国の中央銀行は、こうした市場を落ち着かせるためにどのような行動がと
れるでしょうか。

「米連邦準備制度理事会(FRB)は、連邦公開市場委員会(FOMC)で、
年内の金利引き上げペースを落とすといったサインを出すことができ る。ほか
にも、日本銀行が市場に渦巻く追加緩和期待が満たされるような声明を出すと
か、そういうことがあれば短期的には値を戻すだろう」

――それでも、市場が不安定になっている原因の解決にはつながりません。

「危機が本格的な底入れを迎えるには、中国の減速や新興国の債務問題、とり
わけ民間企業の債務問題の解決にめどがつく必要がある。また、原油価 格は極
めて低水準だが、まだ下がるかも知れない。これも底入れには時間がかかると思
える要因だ」

――金融市場の参加者の間では、28、29日の金融政策決定会合で日銀が追加
緩和に踏み切ることを期待する声があります。

「市場参加者は、中央銀行の政策をいろいろと比較するものだ。一つの視線は
『横』だ。ユーロ圏と日本が置かれた状況を比べると、物価上昇率は似 たよう
なものだ。景気はユーロ圏の方がしっかりしている。パリでテロがあった割に持
ちこたえている。

 日本の昨年第4四半期はゼロ成長に近くなる可 能性も多分かなりある。そんな
なか、ユーロ圏の中銀であるECBは、3月に追加緩和をすると示唆した。だから
、市場は日銀にECBと同様の政策を 期待してしまっている」

「もう一つは『縦』の視線だ。14年10月に追加緩和をした時と比べて、い
まの環境はあまり変わりない。株価も追加緩和前後の水準に戻った。為 替レー
トも円高の方向に反転し始めている。

 日銀が最も重視しているのはインフレ期待だ。一昨年、原油価格が下がってイン
フレ期待が大幅に低下する のを恐れて追加緩和をした、と説明した。だが、その
原油価格が再び下がってきている」

――ならば、月末に追加緩和に踏み切るのが適切と考えられると。

 「材料を『横』で見ても、『縦』で見ても、今追加緩和があってもおかしくな
い客観的情勢にはあるというふうに思う。もちろん実際にどうするかは 日銀の
政策委員の判断によるが」

「ただ、日銀はすでに量的緩和をやり尽くしている。国債購入の限界が見えて
きているなかで、追加緩和をどう考えるかという点がもう一つの要素と してあ
る。ECBにはそういう緩和の限界の問題はないが、日銀にはある。この点は二
つの中銀の政策を比べる時に複雑な要素になる」

――仮に日銀が踏み切らないとすると、市場では失望売りが懸念されます。

「それは大いにありうる。ECBのドラギ総裁が緩和を示唆しただけであれだ
け反応したのは、日銀も対応をするはずだという期待が込められてい た。市場
はわざとそういうストーリーをつくるところがある。どんどん株を買わせて、そ
の間に売っておいて、ダブルでもうけるものだ」

――岩田さんは日銀による大量の国債購入は2017年夏には限界を迎えるとの
立場です。さらなる追加緩和は、限界が来るのを早めるでしょうか。

「追加の金融緩和をする場合、現行の年80兆円の長期国債の購入額に、さら
に10兆円か20兆円を上積みすると市場関係者は期待している。それ は私た
ちが17年夏と見ている国債購入の限界が、どんどん前倒しになるということだ」

――日銀は国債購入の限界懸念を払拭(ふっしょく)しようと、昨年12月に金
融緩和の補完措置を導入しました。岩田さんはそれ以前も17年夏に 限界が来
ると言っていました。つまり、補完措置に効果はないとみているのですか。

「私は最初、補完措置は日銀の大規模緩和の延命を狙ったものだと思った。
18年3月までの黒田東彦総裁の任期いっぱいはいまの緩和の枠組みを残 すこ
とを狙ったのだろうと直感した。だが、丁寧に調べると、補完措置はほとんど延
命効果がないことが分かってきた」

――日銀は国債を買いやすくしようと、金融機関がお金を借りる場合の担保につ
いて、住宅ローン債権や外貨建て証書貸し付けを受け入れました。こ の措置に
効果はないのでしょうか。

「それらを担保として受け入れるとしても、補完措置で日銀が買える国債は
14兆円にしかならない。国債に代わって担保になりそうな額は、外貨建 て証
書貸し付けは7兆円にとどまる。住宅ローン債権は残高が130兆円あるから多
く見えるが、担保にするには信託受益権にしなければならない。こ の市場は小
さく、頑張っても7兆円だろう」

――それでは、現行の枠組みが行き詰まった場合の処方箋(せん)は何でしょうか。

「私は『マイナス金利』政策をとることが望ましいと思う。出口における赤字
発生を考慮すると、ここまで量的に日銀のバランスシートを拡大してし まった
ら、金利目標に戻るしかない。伝統的な金融政策の枠内で金利がゼロまで下がっ
てしまい、それ以上下げられなかったから、量的緩和に踏み切っ た。だが、金
利はマイナスにするという手が残っている」

――どういった効果があるのでしょうか。

「一番明確なのは為替レートへの影響だ。金利をマイナスにまで下げれば、為
替レートを円安にすることができる。また、金融機関の貸出金利に対し ては多
様な経験がある。マイナス金利のデンマークでは住宅ローンの金利がマイナスに
なり、借りれば借りるほどお金がもうかってお得だ。国債もマイ ナス金利で発
行できれば、発行すればするほど利払い費を削減できることになる」

「ただ、日銀はいま、マネタリーベースを操作目標にしてしまっている。日銀
の当座預金につく金利をマイナスにすると、当座預金が増えにくくな り、マネ
タリーベースの積み上げに悪影響が出てしまう。また、民間の銀行の収益を圧迫
するとの懸念もある。まずは日銀が現行の政策の枠組みを変え ることが必要だ」

いわた・かずまさ 1946年生まれ。東大教養卒。経済企画庁(現内閣府)
に入り、東大教授、内閣府政策統括官、日銀副総裁を経て、2010年 から日
本経済研究センター理事長。(聞き手・福田直之)

(転載貼り付け終わり)

副島隆彦拝