[162]実物経済への布石と日本の農業

六城雅敦 投稿日:2011/01/18 21:07

六城雅敦です。どうやら勘違いしておりました。

米国がTPP加盟を踏み台に農産物の市場開放を狙っているものだと思っていました。
ドル覇権の崩壊で示されているとおり、世界はコモディティーバスケットに向かいつつあり、すでに米ドル中心の世界金融から脱却をはかっているようです。そこで貨幣の代わりとなる通貨の裏付けとして、コモディティーバスケット(=商品先物を流動化した制度)が考えられていることは農林水産省の資料でもうかがい知れます。副島先生唱えられているようにジャブジャブに薄まったドルに変わる通貨がマーカンタイル(CME)主導で本当に動き出しているようです。

■ 日本の関税撤廃と市場自由化で困る国は?
もういちどおさらいしてみると、関税自由化は工業国の輸出産業にはメリットが多いのです。逆に海外から安い農産物が入ることで、国内農水産業にはダメージがあると試算されています。(経産省と農水省のGDPの試算による)
日本経済へのメリット/デメリットが相反してあるために、誰も賛否の判断ができないのですが、ここで改めて、米国の立場を考えてみます。
米国はドル覇権からコモディティーバスケット通貨への移行を画策しているとします。米国産の農産物が「通貨」となるわけですから、米国産農産物を大量に輸入する国が一国でも多くなければならないのです。世界への供給量こそが、信用の裏付けです。
アジア経済圏など、世界がブロック経済化することで困る国は、まさにアメリカでしょう。

■ アジア経済圏にくさびを打つ米国
ASEAN、ASEAN 3、ASEAN 6、広域FTAといった具合に関税撤廃を主とした経済圏が東アジアに築かれつつあります。こういった経済連携に強い危機感を抱いているのは、のけ者となっている米国だけでしょう。農産物の域内自由化により、米国産農産物が排除されることになることは決して許せないことです。
少なくともアメリカ抜きで農産物の自由化は許されるものではありません。(これは現役の農水官僚が体験しているようです)
一方EU諸国は金融危機に揺れながらも域内で独自に商品先物の流通市場を形成するものと見られています。米国にとってEU経済圏(ユーラシア大陸全体)との覇権争いのためにも、アジアは常に米国の市場でなくてはならないのです。

■ 米国発金融危機の重要なキープレーヤーとなった日本!?
日本国内の農産物の市場の行方が、金融危機にまで繋がっていることには少々飛躍しているかもしれませんが、背後ではでは、すでにその後の世界へと動いているようです。
そのひとつに農協(JA)が総合商社の丸紅と業務提携したというニュースが挙げられます。

(貼り付け始め)
JA全農が丸紅と米穀事業で提携
 JA全農は1月17日、米事業で商社の丸紅と戦略提携意向書を締結したと発表した。
 両者は米の集荷・販売・加工事業について一体的な事業運営を行うことで合意した。
 今後のJAグループの米の生産・販売戦略では、これまでの玄米販売中心から精米流通を基本としたビジネスモデルへの転換をめざすことなどを盛り込んでいる。
 一方、丸紅はダイエー、マルエツ、東武ストアなど小売事業に出資しているほか、中食・外食など首都圏を中心に多様な販売チャネルを持つ。こうした事業基盤をふまえ、JA全農は産地で精米した商品を直接消費地に届ける精米流通など、消費者や顧客ニーズに応えるための事業展開で丸紅と協力関係を構築していく。
 消費者からは安全・安心への関心の高まりに加えて、経済性・環境への配慮なども求められていることから、設備面での増強や流通各段階での品質管理体制の高度化、商品開発などを追求していくとしている。
◎JA全農の米穀事業取扱高:387万6000t、7294億円(平成21年度)
◎丸紅(株)の米穀事業取扱高:22万5000t、385億円(22年度見込み)。
(貼り付け終わり)

関係者から聞いた話では、JA自体は農産物の市場開放の圧力には手詰まり状態だそうです。総合商社との提携の建前は日本産のお米を海外に輸出するためということですが、農産物での市場開放を睨んだ外米の国内流通も取り仕切るという戦略へ転換したのかもしれません。(了)