[1529]安倍首相靖国参拝問題についての体験的感想

薄桜鬼 投稿日:2014/02/08 05:23

はじめまして、
私は、中国在住の「学問道場」会員です。
私は、副島先生の「日本を何とかしなければ」というお考えに共鳴し、副島先生の著作と学問道場での学びを通じ、「我々は、日本人として、今、何を、どのようになすべきか」について考察を試みている者です。

この度、重たい掲示板と会員ページに掲載された安倍首相靖国参拝問題関連の一連の壮大な評論文は、中国現地での当時の実体験を通し私が抱いた感情と疑問に、論理的な根拠と解答を与えてくれました。
評論文を御拝読し、眼から鱗が落ちるとは正にこの事だと感じましたので、そのことについて書かせていただきたく筆を執った次第です。

昨年末の安倍首相の靖国神社参拝の当日の夜、夕食の休憩時間に、私は部下の若い日本人スタッフと一緒に、中国の工場の近くの小さな食堂で、食事をしていました。
当然、周りには現地ワーカーがたくさんいて、食事をしています。
工場では、現地の管理者や幹部とは常に業務で接していますが、現場の生産ラインの一般ワーカーと、我々日本人幹部は、あまり直接接触することはありません。
したがって、管理者クラス以上になると、我々日本人のことを理解していますが、一般ワーカーの人たちは、日本人についてはほとんど何も知りません。
ただ、日本顧客の製品を製造しており、工場にも日本人がいることは知っていますので、食堂で、日本語を話していると、「聞いたことない言葉を話しているな」「へえ~これが日本人だ」というような好奇の眼で見られます。ワーカーは20歳前後の若い人たちが多く、その視線は単純に好奇の眼であり、無邪気なものです。
その日も、私は部下の現地採用の若い日本人と日本語で話しながらラーメンを食べていたのですが、突然、後方のテレビから、当然中国語で「安倍首相靖国神社参拝問題」というアナウンサーの声が聞こえてきました。ドキッとして、後ろを見ると、テレビの画面に安倍首相と靖国神社の写真がクローズアップされており、安倍首相が靖国神社を参拝したことについての特集番組が始まっていました。(もちろん批判的な論調です。)
その瞬間に、周りのワーカーもいっせいにテレビに集中し、次の瞬間に、皆の視線が、我々に向けられました。その視線は、正確に表現するのは難しいのですが、いつもの好奇のものではなく、未知のものを見るような驚きを湛えたものに変わっていました。
その時、私が感じた正直な想いは「一国の総理ともあろう人が、また軽率なことをやってくれた」という苦々しいものであると同時に、自分でもうまく説明できない、本当に情けなく悔しく辛い感情が込み上げてきました。

こう言うと、反感を抱かれる方もいらっしゃるとは思いますが、現地では本当に切実な問題となります。
普段は、特に労務上で大きな問題はないのですが、いったんこういう政治的な問題が起こると、それをきっかけにして、わざと労働争議等の問題を起こすような者が出てくる心配が生まれます。めったなことでは、そこまでの問題は起こりませんが、以前の反日デモの際には、近隣の工場でもデモ隊に投石されたり、デモ隊と工場内のワーカーが連携を取って全面ストライキに発展してしまったような工場も出ました。
我々が一番怖いのは、ストライキが発生して生産が止まることです。生産が止まるとお客様への納期が守れず、お客様に多大な損害を与えてしまうからです。
したがって、以前の反日デモの時の記憶があるので、今回の参拝問題では、非常に神経を尖らせました。なにしろ一万人近いワーカーがいると、万が一何か問題があった時に、制御しきれるかどうか不安を感じるものです。
そのため、現地の中国人管理者や中国人幹部が一生懸命に現場管理、現場指導を強化し、仕事に集中させ、余計なことをする者が出ないようにいつもよりも数倍の気を配って対応してくれました。
現場では、生産を完遂するという共通の目的のために、中国人と日本人が一致団結して協力し業務にあたっているのです。
憂さ晴らしや悪戯だと思いますが、「小日本」(日本の蔑称)などの落書きは数件ありましたが、結果としては特に問題は起こりませんでした。

話を食堂に戻します。
テレビを見て、私はすぐに上述したような問題の発生の懸念と対処方法について考えていましたので、少し沈鬱な表情になり、食事も余り取らず食堂を出ました。
部下の若い日本人は、私の表情を見て勘違いをし、「いやあ、また中国がうるさく言ってますね」と話しかけてきました。中国で仕事をしていると正直、嫌なこともありますし、自分にスキルが無いと部下に相手にされないこともあります。彼は、経験もまだ浅いので、そういったストレスから、やや反中的な感情が芽生えていたのだと思います。そして、私もそういった感情を共有していると勘違いしたようでした。
そこで、私は彼に言ったのですが、「何か勘違いしていないか?私が問題視しているのは首相の行動であって、中国の反応ではない。首相がこのような行動を取れば、このような反応が起こるのは目に見えているのだから、もし、首相が我々現地企業のことを真剣に気遣ってくれているのなら、そのような行動は取らない。それに対して、中国の反応が過剰だと言うのは見当違いだ。日本が過去に戦争、占領したことは事実だし、その過程で、いくら否定しようとも、戦争なのだから多少なりとは許されない行為があったはずだ。そうであれば、社会における個人と同じで、一度何か過ちを犯した人は、それから逃げることは出来ないし、未来永劫その過去を背負って生きなければならない。批判されても、過去の事実は変えられないので、じっと耐えるしかない。それでも、更生したことを人に認められたいのであれば、自分はただひたすら、周囲からあの人は変わったなと思われるような態度と行為を取り続けるしかない。それでも批判され続けることのほうが多いかもしれないけれど、立派な行いを地道に続けていれば、いつかは誰かが理解してくれる日が来るかもしれない。現実とは、そういう厳しいものであって、それが、戦争をし、しかも負けた国となれば、その後の歩みが非常に厳しい道のりになることは当然のことだ。何世代にもわたって批判され続けるだろう。それでも、日本が立派な国であるためには、ただひたすらに過去を払拭するための努力を続け、ひたすらに立派な行いを続けるしかない。君は、中国に来て、中国のおかげで仕事が出来て、中国のおかけで給料がもらえているのに、さっきのような感想しか感じることが出来ないのなら、さっさと日本に帰ったほうが良い。中国語が少し話せると言うだけで、中国に来て、のほほんと過ごすだけならば、日本にいたって出来ることだから、わざわざ中国に来る必要はない。我々は海外に出た以上、場所がどこであれ、現地の人から見れば、日本人を代表しているのであり、日本人として、もっと真剣に現地とお互い歩み寄り、お互いの良いところを引き出すような思考をする努力と訓練が必要であり、日本人として恥じない思考と行動の努力と訓練が必要だ。それが出来ないのなら、日本の恥になるだけだから日本へ帰れ。」
というような事を言いました。
厳しい内容だったので、彼はショックを受けたようで黙って下を向いていました。
彼については、再度後述します。

以上の体験談に加えて、補足しますと、中国側が特に問題視しているのは、靖国神社に戦犯が祀られている点です。
私の中国の知人や友人も、「靖国神社には、なぜ戦犯が祀ってあるの?戦犯が祀られていなければ、別に問題も起きないのに、なんで?」という素朴な疑問を持っています。

以上の体験で私が抱いた、自分でもうまく説明出来ない、本当に情けなく悔しく辛い感情について、また、知人や友人の素朴な疑問について、副島先生は、今回の一連の評論文で明確に解明してくださったと感じました。

特に象徴的・総括的な内容の部分を以下に転載させていただきますと、

(転載始め)
[1514]安倍の靖国参拝問題が大きな火種に。日本は世界中を敵に回してはいけない。

 ここで、端的(たんてき)に言うと、United Nations (ユナイテッド・ネイションズ=連合諸国、連合国側) の総意に、日本は従わなければいけないのだ、ということだ。世界を敵に回してはいけない。この 連合諸国=が第二次世界大戦の間にできて、それが、そのまま、戦後も、そして今も 世界体制( The U.N. ×「国際連合」は愚かな、意図的な訳語だ。正しくは United 連合 Nations 諸国 、連合諸国だ  )なのだ。現在のこの世界体制を敵に回して、安倍晋三たちは、勇ましい、頓馬(トンマ)な闘いをやっている。 世界とはどういうところか、が分かっていない。 世界の厳しさも分かっていない。 甘やかされた坊や みたいな連中だ。

「ヤルタ=ポツダム体制の打破」、「東京裁判史観の克服」、「戦後レジームの打破」を掛け声にしている、愚か者の集団だ。 その甘えきった態度が、どれぐらい自分たちの愚かさを、今、世界中に、満天下に晒(さら)しているかを、分かっていない。 安倍晋三たちは、いいかと思って世界の舞台で裸踊りをしているのだ。

それでアメリカに楯突いてみせれば、それで、自分たちが英雄気取りだ。アメリカ(オバマ政権)が怒っているのは、今の日本の極右政権が、世界の戦後秩序=世界体制 を 、半ば無自覚に破壊しようとしている、甘ったれた連中だということを、日本側が分からないことだ。 安倍たちは、アメリカを敵に回しているのではない。世界を敵に回しているんだ。 世界を敵に回すと、本当に、恐ろしいことになるのだ (世界は、いったん決めたら、本当に国際的強制執行をする)。

 東条英機(とうじょうひでき)首相(大将)たち、7人戦争指導者を、死刑にして首を吊ったのは、アメリカの軍事法廷(ミリタリー・トリビューナル)というだけでなく、世界体制なのだ。その東条たちを、合祀(ごうし)して祀(まつ)っている(1978年から)靖国神社は、世界基準での The Tomb of Unknown Soldiers ザ・ツーム・オブ・アンノウン・ソルジャーズ 無名戦士の墓 ではない。東条たちは、戦争指導者たちであって無名戦士ではない。

 自分たち、世界体制が東条たちの首を吊ったのに、そこに、どうやって、外国の元首たちが、花輪を持って、哀悼の参詣をすることができるだろうか。世界中の国々の無名戦士の墓に、外国の元首(大統領、首相、国王)は、お参りするのだ。 このことを、日本人は、分かっていないのだ。誰も説明する者がいない。皆、愚かな日本国内の境域と、テレビ新聞の洗脳で、国民は、世界基準の知識、世界で通用している当たり前の思考、思想を、を全く教えられず、めくら(=盲目)にされたままだからだ。
(転載終わり)

まさに、総括し、論理的に説明していただくと、そういうことなのです。

一国の総理ともあろう御方が、世界とはどういうところか、が分かっておらず、世界の厳しさも分かっていない、甘やかされた坊やみたいな連中であり、その甘えきった態度が、どれぐらい自分たちの愚かさを、今、世界中に、満天下に晒(さら)しているかを分からずに、世界の舞台で裸踊りをしているのだという事実なのです。
我々庶民が現地でこつこつと積み上げた現地の人との信頼関係を、軽率な行為が、一瞬でぶち壊しにするのです。
日本人として、もっと祖国に誇りを持っていたいのに、一国の最高責任者が裸踊りも同然の状態なのです。
本当に情けなく悔しく辛い感情が湧きあがって来て当然だということを、自分で納得できたので、おかげさまで、気持が久しぶりに本当に晴れ晴れしました。(ただし、状況は変わっていないので、問題はそのままですが。)

また、知人や友人の素朴な疑問は、国際政治学的観点から解説いただくと、まさにそういうことだと思います。
世界体制が戦犯の首を吊ったのに、そこに、なぜ、元首が、花輪を持って、哀悼の参詣をすることができるだろうか。元首(大統領、首相、国王)がお参りするのは、世界中の国々の無名戦士の墓であるはずだ。
これが海外での通常の思考であり、どんな経緯や言い分があろうとも、結果的に海外から不信感を持たれるという結果になっているのは、まぎれもない事実です。

そして、大きな問題は、最近になればなるほど、明らかに日本の実際の国力すら、どんどん弱くなっているということです。
首相が踊ってはしゃいでいるだけなら、まだ良いのですが、そのうち、踊ることも出来ないくらいに国が弱体化するのではないかと本当に心配になります。
といいますのは、中国にいると本当に実感するのですが、日本のモノづくり産業、特に電機産業の凋落ぶりは著しく、多くの工場で閑古鳥が鳴いており、閉鎖もあいついでいます。
1980年代、1990年代には、SONYや松下などの電機関連企業は、その最先端の技術と高品質とデザインで中国でも大変尊敬を集めていました。
中国に技術指導に来る日本社員の仕事に対する情熱や誠実さ、モノづくりに対する姿勢や思想は、大変多くの中国の管理者や技術者を育成することに貢献したし、現地社員からも尊敬を集めていました。
さらには、優れた企業家であるSONYや松下の創業者は鄧小平から直々に招待され会談し、中国の産業政策に助言したことは、中年以上の中国人であれば多くの人が知っている事実です。
かつては、それほど、日本の電機産業は中国現地から尊敬を受けていました。
今でも、私が、日本のモノづくり企業の歴史やモノづくり思想について、話をすると、中国人スタッフは、本当に真剣な眼差しで聞いています。
しかし、世界の産業構造の大きな変化と生産分業化の急速な進行に対応しきれず、日本の電機産業をはじめとする多くのモノづくり産業が業績の悪化にあえいでいます。
日本の政府として、産業構造の再構築を促すような政策も行わず、生産を支援する政策も行わず、国力の根源である産業が弱体化するに任せている様には、非常に大きな不安を感じます。
このように、過去には確かに、日本も中国から尊敬される面も持っていたのです。
非常に立派な企業と企業家の貢献により、日本も中国から尊敬を受けていたのです。
やはり自分の行いを正し、自分の行いが本当に立派であれば、相手も分かってくれるということだと思います。
しかし、そのように貴重な日本の国力の根源である産業をも、現在、どんどん自ら破壊しているような気がしてなりません。
日本国内では、アベノミクスで景気が良くなったと浮かれているとのことですが、これは目先の数年だけ浮かれさせられて、その後は地獄が待っていることは、副島先生が看破されています。

そして、副島先生著作の「安部晋三の奇怪な変節と「ザ・カルト・オブ・ヤスクニ」から引用させてください:

(転載始め)
「安部晋三の奇怪な変節と「ザ・カルト・オブ・ヤスクニ」

このように、小泉がはじめた数年前からの靖国参拝の政争化の狂騒は、日本の対外的・外交的関係としても、絶対にやるべきではなかった。私たちは、アジア諸国の怒りと不安を本当に掻き立てたのだ、と知らなければ済まない。

首相の靖国参拝問題(小泉の狂騒)はまさしく、子供の火遊びであり、児戯であった。それがどれくらい今の日本を結果的に追い詰めたかを、率先して音頭を取った人々は深く反省しなければならない。

ただひたすら、アメリカに対して、忍従の構えで、這い蹲り、土下座して、ただただ政府資金と国内大企業群(への株式乗っ取り支配)と、国民の資金を差し出すだけであった。
このような私たち日本側からのアメリカへの世界一忠実な属国としての屈辱的な対応が、中国や韓国やアジア諸国から見たら、あまりもの屈辱に見えた。だから、「日本は、あんなにもアメリカの言いなりの国なのか。あれでは奴隷国家だ」と、中国の指導者たちは思った。それで、「今の日本なんか、相手にもならない。戦前の強大だった日本とはどうもちがうようだぞ」ということになった。それで、日本は、今の中国の指導者たちから、低く扱われ、すっかり舐められるようになったのだ。そして、東アジアにおけるメインプレーヤー(交渉大国)の地位を、この「2006年のヤスクニ火遊び」を契機として、ものの見事にあっさりと失ったのである。
(転載終わり)

昨年末の安倍首相靖国参拝時の中国現地での実体験で、私の中に湧きあがった情けなさ、苦々しさ、悔しさ、悲しさ、不安、という感情の根源は、まさにこれらの記述が総括してくださったことであると思います。
絶対にやるべきではないことを、やっているということを本当に分かってほしいし、如何に日本を追い詰めているかを、本当に自覚し、本当に反省してほしいと痛切に思います。
そして、かつては尊敬されていた面も多々あったのに、それをどんどん自ら破壊し、自らをどんどん弱体化させ、自らどんどん馬鹿にされる方向に突っ走っています。本当に情けない気持ちでいっぱいになるし、本当に悔しく、悲しく、不安を感じさせる状況です。

最後に、例の彼の数日後の話をします。
彼は、個人的にキツイ目に会ったので、少し反中的な感情が芽生えただけで、もともと明るい性格で、公正なものの見方を出来る人間です。
そして、サッカー観戦が大好きなのですが、数日後に非常に嬉しそうな顔をして私のところに来ました。彼が言うには、「もともと中国のサポーターは自国のチーム以外を良く言ったりはしないのですが、最近、中国では、日本チームが、そのフェアでストイックな姿勢と高い技術で尊敬を集めるようになっています。」とても嬉しそうでした。
私から言われたことを数日間、彼なりに、考えて咀嚼した結果だと思ったので、
「やはり自分の行いを正し、自分の行いが本当に立派であれば、相手も分かってくれるということ。我々も日本の武士の代表として頑張ろうな。」と言うと、
「はい!自分も、これからもっと頑張ります!」と晴れやかな表情で言ってくれました。

今回の副島先生の安倍首相靖国参拝問題関連評論文が、私の体験的感情に対して、明晰な論理的思考の道筋をつけてくださったということ、
一国の総理の靖国参拝を契機として、国際的最前線の現場で起こったささやかな人間模様とドラマを参考までに皆さまにお伝えしたかったことから、
以上、長々と書き連ねさせていただきました。
もし、副島先生の著作や論文の引用について、私の曲解がございましたら、ご指摘・ご指導を賜りますよう宜しくお願い申し上げます。

ありがとうございます。

薄桜鬼 拝