[151]中国の内蒙古から(フフホト通信)
中国の内蒙古の石井裕之でございます。年末を迎えるに当たって、日本では忙しない雰囲気ではないか、と先日友人に電話で聞いたところ、数年前ほども「ジングル・ベル」の音色が街角で聴かれることはなくなった、と言ってすっかり寂しくなった年末商戦の状況を教えてもらったところです。
御承知の通り、中国では旧暦(太陰暦)の正月を盛大に祝う風習が今でも続いています。この度は、2月2日が旧暦の正月に当たるようです。と、いうことで、西洋歴の年末はそれほど盛り上がらないのかと思っていたら、サニ非ず。クリスマスとか、何かにカコつけて宴会を催すことが頻繁になってきます。社会的な地位を持っている人など、その宴会の掛け持ちで大変です。こちらの宴会は、通常11時半から14時半まで(真昼間です)催されて、その時間の間を、人気者達は「ハシゴ」するハメに陥る訳です。
私は、ここで別に社会的な地位を持っている訳でもありませんが、「日本人」ということでそのような宴会に御呼ばれになる機会が多々あり(権力を持った人が、その友人ラインナップの中に外国人も居る、ということが一種のステイタスになるようです)、毎日アルコール度数50度前後もあるような「白酒(バイジュウと発音/焼酎のようなもの)」の一気飲み大会(こちらでは一般的な飲み方)で、ようやく健康になり掛けた肝臓が根を上げているような状態です。
北京や上海といった大都会ではどうなのか、と聞いてみたところ、一般庶民の生活レベルにおいて、上記のような習慣は流石に現在では観られなくなったと言っていましたが、それでも役人の中でも権力の集中するような人達はこの時期やはり同様の生活を強いられているようです。
それほど、こちらの社会の中で「人脈」というものが尊ばれている訳でして、この時期に皆セッセと人脈作りに精を出す、という訳です。
14時半までの宴会が終わった後は、概ね麻雀大会へと突入するというのが世の習わしになっているようです。当然、お金が掛っています(違法です)。しかも、高いレートになると、ハンチャンで日本円にして数十万円という金額が飛び交っていますので、とても参加するような気になりません。その麻雀大会も、好きもの同士集まってしまうと、延々夜中まで繰り返される、ということも珍しくありません(徹夜麻雀は聞きません)。私にはこの時間は拷問に近いものですが、政府の役人と「関係」を作りたい人たちにとってみると、その麻雀大会に参加したくてウズウズしているようなのです。随分と閉鎖的な「社交場」と言えるのかもしれません。要するに、各「社交場」には、当然ボス的な存在が居て、そのボスの力(或いはそこに集まってくる人達の力)を目当てにヒトが集まってきているようなのです。麻雀大会が催される度に呼び出しが掛ってくるようになったら、正式にその「社交場」のメンバーとして認められた、ということになるのです。これには別にどんなルールがある訳でもありません。ボスが呼べ、と言えば呼ばれるに過ぎないのです。
その力がどの程度絶大か、実は身を持って体験したことがあります(沢山ありますが、一例をあげます)。
私は胆嚢結石を持っていました。内蒙古大学病院にて摘出手術してもらったのですが、実は病人にとって診察をしてもらうだけでも戦争に行くようなものなのです。
朝8時半に病院の窓口が開きますが、早い人になると、夜中の2時頃から順番取りをしにきているのです。なんとか診察券を手に入れても、そこからまた熾烈な順番争いが待ち受けています。血圧、身体測定、心拍、血液検査、レントゲン等々が全く別々に運営されており、ほとんど横の連携が取れていません。ですから、どんなに頑張っても全ての検査を終えるのに1週間は掛ると言われています。
最後にようやく総合的な診断結果を聞くことが出来るのですが、恐らくここに至るまでに病状もかなり悪化しているような気がしてなりません。しかも、どんなに重い病気であっても、病院のベッドに空きが無いと、絶対に入院させてもらえないのです。
私の場合には、電話一本で事が解決しておりました。電話の翌日10時頃にノコノコ病院に出掛けていって、その日の内に全ての検査を終え、夕方から入院。一日開けて3日目の10時には私の胆嚢は摘出されておりました。しかも執刀医3人態勢という異例に厳重な手術団が組まれたそうです。
一つには、電話して下さった人の力がそうさせたのだと思います。そしてもう一つは、そこで胆嚢摘出手術を受けた「日本人」として記念すべき1号だった、ということもありそうです。
手術が終わった後、麻酔が掛って朦朧とした意識の中で部屋に帰ってくると、隣のベッドの老人(黄疸がすでに出ていたようです)が、私の妻に向かって「そのお方(私のこと)は、どんな偉い人なのか」と聞いてきたようです。彼は諸手続きを終え、ようやくの思いで病院に入院してみたものの、手術の順番待ちの為にかれこれ2週間も病院のベッドの上で過ごしているのですから。
関係の恩恵に被れる者とそうでない者との違いが判ろうかというものです。
今は、このことの是非は問いません。副島先生の言われる「真の民主国家体制」に移行しない限り、このような問題は解決されることがないのだと思います。また、不謹慎にも私などはこのような悪習が蔓延っている現在の中国だからこそ、ここにまだビジネスチャンスが眠っているのだと信じて止みません。日本のように様々なシステムが確立してしまって、方々に規制ばかり林立しているような世の中は、便利なようでいて一片息苦しさも持ち合わせているような気がします。私の気のせいでしょうか。