[1441]整形外科医療にもパラダイムシフトが起きつつあります。

福田克彦 投稿日:2013/11/07 23:44

学問道場会員の福田克彦と申します。
先日(10月28日)副島隆彦先生に御送付致しましたメールに再度加筆修正を加、私の実臨床での経験と見解を送らせていただきます。

本日、日本腰痛学会理事である元会長の慈慶医科大学院大学の米延策雄(よねのぶかずお)教授に「腰痛診療ガイドライン」についてご講演いただいた後、「腰痛の最大の原因である『筋肉性の腰痛』
をガイドラインのトップに載せていただきたい。」と、進言させていただきました。

先日、ザ・フナイの11月号に掲載された、副島先生の論文を拝読いたしました。
副島先生が長年、腰痛や首・肩の凝りを持病だと勘違いされ、痛みは腰部脊柱管狭窄症や椎間板ヘルニアによるものと整形外科医に診断され手術を勧められていたとのこと。

トリガーポイント注射(神経ブロックではない)を受けられて初めて、腰痛などは骨関節異常ではなく筋肉異常であること気づかれ、ご自身の実体験をもとに整形外科学会の伏魔殿のような悪しき体質を鋭く指摘され、かつその考察の鋭さにも敬意を表します。

誠に僭越ではありますが、腰痛をはじめとする私の臨床上の治療経験を基に、整形外科医療の問題点について内科・リハビリ医の立場から述べさせていただきます。

私も30年前の医学生時代、腰痛と下肢の痺れで歩行困難となり、母校の大学病院を含めた別々の病院の3人の整形外科医から腰椎椎間板ヘルニアの診断で手術を勧められましたがそれを拒否し、カイロティック治療院にて2.3回施術を受け、数週間後にはスポーツもできるまでほぼ完治した経験があります。

しかし、現在はカイロや整体と言った骨関節を主体に動かすアプローチだけでは根本的に心身全体を矯正したり痛みを取ることはできず、翌日の揉み返しや施術前よりも痛みが悪化し動けなくことにもなりかねません。

私はもともと内科医ですが、クリニックを開業した7年前から腰痛や肩こり、膝や首の疼痛や筋肉の拘縮などでの関節可動域制限を訴える患者を外来で多く診るようになりました。

その頃、日本気導術学会の鈴木真之会長と出会い、これらの脊椎をはじめとする骨関節のトラブルのほとんどが、実は筋肉異常が原因の主体であることを教えていただき、以後疼痛や関節可動域制限の運動器のリハビリに気導術を応用して施術したところ、鍼灸やトリガーポイント注射よりも格段に即効性と持続効果があり、中には数回の治療で回復して手術を回避したり、歩行時の杖が不要になるなど驚きを臨床現場で体感している毎日です。

まず「筋肉の硬結や痛みを捉え、エネルギーを与えて適度に柔らかく調整することが、やがては骨格全体を矯正したりストレスの緩和にもつながる」ことに気付きました。

当院には毎日20人前後の方が、慢性的な首、肩、腰、膝などの痛みを訴え来院されますが、そのほとんどは整形外科受診をされた既往があり、術後の後遺症の悩みや見当違いの関節手術を勧められたり、鎮痛剤やヒアルロン酸などの無効な関節注射を漫然と繰り返されるも、症状が改善されないと訴えられて来院されます。

ザ・フナイで副島先生もご指摘されておられるような、ストレスを受けると脳の即坐核の機能低下が起こるといった仮説は、単に腰痛に対して大脳が2次的に反応しているのに過ぎず、腰痛の原因の首座が大脳にあるわけでもなく、こんな仮説が50年ぶりの大発見と申される諸先生方には呆れてしまいます。

認知症でもうつ病でも統合失調症でも、ADHDなどの発達障害においても、神経内科や精神科医などは、生体では測れもしない脳の生化学伝達物質の異常とMRIなどの画像・病理の異常を強引に結びつけ、脳の異常こそが神経・精神病の根本原因であると勘違いの診断基準をでっち上げ、それに基づいた対症療法をしているだけです。

また、整形外科医は椎間板や半月板など、レントゲン上での局所の関節破壊・軟骨の磨耗や神経圧迫などの異常所見だけが、腰痛や膝痛などの原因であると勘違いして、過剰な手術や鎮痛剤の多投を行う傾向があります。
(中には徒手的な整復だけでは治せず、手術が必要な症例も確かにありますが、それは腰痛全体の数%で、椎間板ヘルニアが全て手術適応になるわけではありません。)

整形外科医は、日常生活での歩行や姿勢の異常による体の歪や骨格異常が腰痛の原因であることをほとんど気づいていませんので、レントゲンの異常箇所の手術をされることばかりに興味をもたれて、術前・術後に十分なリハビリテーションがほとんど行われていないのが現状です。

(この場合の骨格異常とは、副島先生が指摘されている疼痛のある部位だけの局所の骨関節病変の意味ではなく、疼痛部位とは離れたカラダ全体の骨格の捻れやバランス異常のことを指しています。)

副島隆彦が受けられたトリガーポイントブロックはかなりいい治療ではありますが、局所注射だけではやはり何度も注射を打つケースが多く、根本治療のレベルに到達していないと思います。

現在当院では、脳卒中後の四肢の痙縮などに対して、ボトックス注射(A型ボツリヌス毒素製剤)を筋肉注射しておりますが、これらの治療も筋肉を弛緩させる様なリハビリを行わなければ持続的な効果が無いのと同じです。

さらに疼痛部位だけの筋肉硬結や疼痛緩和だけでなく、関連する遠隔部位の凝りの緩和や、姿勢や歩行や咀嚼などの日常生活から来る身体全体の歪を補整する必要があります。(たとえば腰痛の部位を直接ブロックをする前に、首や肩・下肢の原因部位への施術のみで、腰には一切触れずに腰痛が無くなるケースもあります。)

NHKのクローズアップ現代やためしてガッテンなどでも指摘されたように、「腰痛の85%は原因不明。その内の多くは、心理的・社会的ストレスで、大脳の側坐核に原因がある非特異的な腰痛であるからして、精神科的な薬物治療に委ねましょう・・・」などという恐ろしい特集をマスコミは今だに一斉報道しており、愚直な国民だけでなく整形外科医までもがこの説を盲信しております。

以前腰痛の研究会で私がこの「腰痛原因不明仮説」の元凶である福島県立医大の菊池臣一学長に、整形外科医は筋肉異常を診ていないことを公開質問したところ、
彼はそのエビデンスとして自らの臨床データを殆ど提示されず、退役軍人のPTSDなどを心理的・社会的要因と称し欧米の論文を提示するばかりでした。

菊池氏のみならずほとんどの整形外科医は、我々が臨床で施術しているマニュプレーションなどの徒手的なリハビリ治療の現状についてはほとんどご存知ない様子で、腰痛の原因としてレントゲンには映らない筋肉などの軟部組織障害や心身のバランス異常を無視していることが判明しました。

さらに菊池氏は「脊椎の手術後に尚も痛みや痺れを訴えて来る患者はクレーマーであり、これらは精神科医療の範疇の腰痛である」と言われたのには、呆れて二の句が継げませんでした。こんな横柄な人間が整形外科学会の腰痛の権威で「腰痛原因不明仮説」の提唱者なのです。

整形外科医は画像診断→腰椎手術or鎮痛剤だけでは到底治癒しえない多くの要因を究明することよりも、ストレス説や脳原発説などで国民や他科の医師を煙に巻いてまで「腰痛ガイドライン」を作成し、唯一メスをふるえる「整形外科学会」の主導的権威を死守したいのだと思います。

以上の趣旨を本日、米延教授の公演後お尋ねしたところ、「福島県立医大一派の「85%原因不明説」はマスコミで独り歩きしまっていて、日本腰痛学会としては非常にまずい事態である。」と公開の場で申されました。

当院での外来診療において、「腰痛症」は最も多い保険病名のですが、1年前から当県の国保連合会の審査では「整形外科でもない内科医院に腰痛症が多いわけはない」「腰痛は整形外科医が診るベキ疾患である」などと、筋の通った理由も根拠もなく一方的に鎮痛剤やリハビリテーションの診療報酬が毎月査定されるようになりました。よって今日の診療では、30分前後の時間を要するエネルギー治療による疼痛緩和や徒手整復によるリハビリだけでは採算が取れない赤字経営の状態です。

我が国の医療制度では、腰痛治療において2次的な誘因でしかない脊椎や脳神経の検査や手術、鎮痛剤や抗精神病薬など対症療法ばかりが優遇されており、米国やドイツではNSAIDの次に4割の患者に理学療法がおこなわれているのに対して、日本では逆に保険診療でリハビリが査定される傾向が年々強まっています。

すなわち統一基準でのビジュアル化が困難なリハビリ治療や、代替医療と称される鍼灸・柔術整体・カイロプラクティック、エネルギー治療は、個別的には根治的な即効性のある治療や施術であっても、マススケールでのペインクリニックにおいてはエビデンスがないと軽視されているのが現状です。

以下は腰痛の診断と治療ー新しい診療ガイドライン:白土 修(福島県立医科大整形外科教授)から抜粋したものです。

(引用始め)
非特異的腰痛の手術適応の決定は慎重に行う必要がある。腰痛の治療において、手術療法とリハビリテーションとのいずれが有効であるかの結論は、非特異的腰痛の病態が不明であるため得られていない。

腰痛に代替療法は有効か
徒手療法は急性および慢性腰痛に対して他の保存的治療法よりも効果があるとはいえない。(Grade B)
マッサージは亜急性や慢性腰痛に対して他の保存的治療法よりも効果があるとはいえない。(Grade I)
鍼治療は慢性腰痛に対して他の保存的治療法よりも効果があるとはいえない。(Grade B)
 日本にはカイロプラクターや整体師のための公的な資格制度が設置されていないため、上記の推奨は海外の文献によるものである。日本における代替療法は保険診療上、柔道整復師、あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師が医師の同意を得た場合以外では、非外傷性腰痛や慢性腰痛には実施してはならないことになっている。
(引用終わり)

慢性腰痛は一般に以下の3つに原因別分類されることがあります。
1)構築性腰痛、2)内臓起因性腰痛、3)心因性腰痛

構築性腰痛は、筋肉や靱帯、腰椎の損傷によるもので、筋筋膜性腰痛や肉離れ、腰椎捻挫、椎間関節症、椎間板ヘルニア、腰椎分離症など腰の構造上に問題があるものです。

また腰痛の診療ガイドラインでは、腰痛を生物学的な損傷、解剖学的異常として捉えるのではなく“生物・社会・心理的疼痛症候群”と位置づけ、多面的なアプローチが必要な病態と捉え、(1)Red flag sign、(2)Green light、(3)Yellow flag sign
の3つの診断的トリアージと病因分類カテゴリーに分類されています。

Green lightは非特異的腰痛ともいわれ、神経学的異常や器質的異常のない予後良好な腰痛、
Yellow flag signは、慢性腰痛、休職、長期の活動性低下へ移行する可能性がある腰痛(psychosocial risk factor;心理社会的因子)に分類されます。
非特異的急性腰痛症では、4~6週間のマニプレーションが推奨されており、プラスチックコルセット治療は有害との報告ですが、急性腰痛においても固定のみおこなわれているのが現状です。 

痛みは一般に、
① 炎症や刺激による痛み(侵害受容性疼痛)
② 神経が障害されることで起こる痛み(神経障害性疼痛)
③ 心理・社会的な要因による痛み
などに分類されることがあります。

侵害受容性疼痛とは外傷や打撲、筋筋膜炎、腱・腱鞘炎、腰椎圧迫骨折、関節リウマチなど、炎症などによって発痛物質が受容器を刺激することで起こる痛みといわれています。

神経障害性疼痛とは、帯状疱疹後神経痛、坐骨神経痛、頚椎症など、神経の損傷や機能異常によって起こる痛みで知覚異常を伴うことがあります。

その他の痛みとして、不安や社会生活で受けるストレスなど、心理・社会的な要因で起こる痛みという分類がされていますが、終末医療など代表されるスピリチュアルペインが根底の、これらメンタルペインはすべての痛みに関わってくると思われます。

よって筋肉の痛みを把持して捉えることができない臨床医が、疼痛を神経障害性・侵害受容性疼痛・メンタル・スピリチュアルなどと明確に区分したり、消炎鎮痛剤の適応を保険病名だけで分類することは到底不可能だと思います。

また最近、線維筋痛症とか複合性局所疼痛症候群(CRPS)といったような、わけの分からない病名診断を下すだけで、疼痛や可動域制限を治せなくても恥ずかしいと思わず平然と鎮痛処置ばかり繰り返す医者が多いように思います。

レントゲン所見に異常がない場合や、術後になおも疼痛や機能障害を訴える患者や、内科医を煙に巻いて誤診や治らないことを誤魔化せる、整形外科医らに便利なこれらの病名を言われた場合は要注意で、疼痛の原因や部位の特定追求を怠っているケースが多いと思われます。

整形外科医は関節手術数などの手術実績があるほど名医として評価され、手術件数が病院のランクを決めますが、実は股関節手術などではケアやリハビリを怠るほど同じ患者の再手術も多くなり、手術件数としてカウントされ病院の評価が上がるカラクリがあります。

多くの整形外科医は筋力や反射テスト、可動域を確認する以外はほとんど患者の体に触れて筋肉病変を捉えてはおらず、手術をしなくなった整形外科開業医の仕事といえば、骨関節のレントゲン異常に沿った鎮痛剤処方、骨折・捻挫の整復固定、交通外傷などでの損保と結託した意味不明の牽引療法やホットパック、電気・超音波・磁気治療ぐらいです。

リハビリテーションにおいても同様に、家庭でも行えるような歩行や動作訓練や局所のみを増強するアンバランスな筋肉トレーニングが主で、理学療法では医師自らが筋肉を直接触り硬結などの異常を捉えて緩和させたり、全体的な骨格の歪を矯正して自力歩行ができるなど自律的な運動機能を高めて、すこしでも生活の自立や社会復帰を促そうとはあまり考えていない様です。

近年では骨粗鬆症において定期的に骨密度を測定し、ビスフォスフォネート製剤を永久に投与することが流行っているようですが、副作用問題は別として、同剤の圧迫骨折予防に対する骨形成効果は未だ不確定で、圧迫骨折後の根本的な緩和治療とは無関係で、効果が明確でない薬物療法であると思われます。

先進医療の進んだ欧米諸国でさえ、慢性疼痛を対症的な鎮痛処置でコントロールするより、メンタル・スピリチュアルカウンセリングや鍼灸・マッサージやカイロなどの整体、エネルギー・量子医療が、理学療法的アプローチと共に疼痛治療の主役になりつつあるのに、日本ではいまだに整形外科学会を中心とした強固な診療科の縄張りや特権意識の闇が蔓延り、これらの代替医療は怪しいからという理由で締め出されています。

私のような内科系の医師は市内の医師会においても腰痛診療に口出しができない雰囲気で、同じ整形外科医同志お互いの治療効果を干渉しない、ぬるま湯のような体制が出来上がっております。

このような整形外科医療の闇は、癌医療や精神医療に匹敵するぐらい壮絶なものでありますが、私も開業するまで実地臨床で腰痛治療を依頼されて本格的に携わった経験がなかったため、これまで整形外科医療の闇の内部に立ち入ることはありませんでした。

しかし今後は副島先生のご指導を仰ぎながら、学問道場の医師や治療家の同志の諸先生方や患者として実体験のある会員の皆様とも連携させていただき、それぞれの治療家がライヴの臨床現場で自分自身のエビデンスの研鑽を積み重ねられる様、お互いが切磋琢磨し、既存の整形外科医療が覆るパラダイムシフトを次々と実証で解き明かしていきたいと思います。