[1350]田中宇( たなか・さかい)氏の 以下の「金塊を取り戻すドイツ」文はたいへん優れています。
副島隆彦です。 評論家の田中宇(たなかさかい)氏の ネット上で弛(たゆ)まず精力的に発表され続けている 評論文は、大変すばらしいものです。
どうぞ皆さんも、彼のサイトに行ってお読みください。
とりわけ 以下の 「金塊を取り戻すドイツ」は、昨年の11月に書かれたものですが、今、読み返してもズシリと来ます。 私、副島隆彦は、田中宇氏 ( 宇宙の 宇 「う」から、「うーたん」とネット上では若い人たちから呼ばれています)とは、10年前に、写真週刊誌(まだ有るのか) 「週間 スパ」の対談で一度だけお会いしたことがある。
当時は、どんな人か分からなかった。私よりも若い人だ。 彼も本を出版するようになり、それも一段落して、今はネット上の 自分のサイト
・「田中宇の国際ニュース解説」
http://tanakanews.com/index.html
で、実に精力的に書き続けている。その精悍さと、内容の正確さは眼を見張るものが有る。 私は、田中氏と全く同じ政治分析や金融分析をやってきたので、内容が重なる部分が多くて、競争相手のようになったまま今日まで来た。
私は、10年かけて、時々、田中氏の文章を読む機会があった。内容はきわめて正確である。 真実が書いてある。欧米の一流紙の メディア言論を、しっかりと渉猟(しょうりょう)して、その正しい理解の上に、彼自身の判断を行い、自分の言論の立場として、常に明確に思想表明もしている。 私、副島隆彦が築き上げてきた言論から、田中氏が学んだこともあるだろう。
私は、今後は、田中宇氏と連帯して、日本の言論界を引っ張ってゆくことを考えなければいけない。今のように 腐れ果てたメディアばっかりで、アメリカの手先になりきって、自分の脳が溶けている ロボット評論家か、明らかに低能の新聞記者しかいなくなってしまった。
アメリカの日本支配と闘う、とまで言わなくていいから、せめて、日本国内の権力者や、支配勢力と闘って、真実を国民に伝えるという、若い言論人やジャーナリストが育って欲しい。 反権力、反体制であることこそは、知識、言論、思想の持つ 一番大切な命(いのち)だ。
この 反権力の魂(たましい)が無い人間に私は用はない。
愚劣なる権力側に媚(こ)び諂(へつら)って、彼らの犬(いぬ)となって、「現実は、厳しいですからねー。上(うえ)に逆らってばかりいたら生きて行けませんよー」と、へらへらと周囲に言って回っているようなマスコミ人間たちだけになってしまっている。
それに加えて、ネット上に、謀略言論にもならない、下劣きわまりない、ネット撹乱(かくらん)、言論妨害人間たちが、自民党や、政治警察や、右翼経営者組織によって、安価で雇われてはびこっている。インターネットの世界を穢(きたな)らしい、軽度の精神障害者たちの群れが書き込む、下品極まりない、世界に変えてしまっている。彼らの狙いのとおりなのだろう。
だから、私は、今後は、田中宇氏と連絡をとって、彼と話して、これからの日本におけるネット言論の 隆盛と 生き残りのための真剣な話し合いをしたいと思う。 精神の曲がっていない、しっかりした優れた若い言論人、知識人たちを
育てて行かなければいけない。 この深い決意において私は人後(じんご)に落ちない。
田中宇さん、近くお会いしましょう。
副島隆彦拝
(転載貼り付け始め)
「 金塊を取り返すドイツ 」
2012年11月6日 田中 宇
ドイツ政府は、米国政府に次いで世界で2番目に多くの金地金を保有している。独政府は3400トンの金を持ち、金融資産の72%が金だ。(米政府は約8100トンの金地金を持ち、政府資産の75%を占める。日本政府は765トンの金地金を持ち、世界第9位だが、政府資産に占める金の比率は3%しかない。欧州の主要国の多くは、金地金の比率が7割以上だ) (World Official Gold Holdings as of August2012)
ドイツは膨大な金を保有するが、その大半は外国に置かれている。第二次大戦の敗北以来、戦勝国の米英仏の中央銀行が、ドイツ政府の金地金で預かっている。この預託は冷戦期に「ソ連軍がドイツに侵攻して金塊を奪うかもしれないので、米英などが預かっている」という名目で続けられた。独政府(中央銀行である独連銀)が所有する金地金のうち、66%を米連銀(FRB)、21%をイングランド銀行、8%をフランス銀行が預かってきた。独本国には5%しかないことになる。 (Bundesbank slashed London Gold holdings in mystery move)
(別の記事では米に45%、英に13%、仏に11%、独本国に31%となっている) (Bundesbank’s Official Statment On Where It’s Gold Is (And Isn’t))
米当局は、ニューヨーク連銀の地下金庫と、ケンタッキー州フォートノックスにある財務省管理の金地金保管所で、ドイツだけでなく世界各国の金塊を預かっている。だが米当局は、金相場を操作する目的で、預かっている金塊を民間銀行に貸し出して売却しているという見方が、以前から根強く流布している。 (操作される金相場) (James Turk – The Entire German Gold Hoard Is Gone)
ニューヨークやフォートノックスには、本物の金地金の代わりに、金と比重がほとんど同じであるため穴を開けないと真贋を判定できないタングステンを真ん中に詰めた地金が置かれているという推測もある。 (Fake Gold Bars in Fort Knox!)
米連銀は毎年、独連銀に対し、預かっている金地金が本当に存在していることを示す報告書を送っている。だが戦後65年間、独政府の関係者で米NY連銀の地下金庫にあるドイツの金塊を実際に見せてもらった人はいない。毎年、米国から「証書」は送られてくるものの、金塊が実際に存在することを物理的に確かめた人は独側にいない。ドイツの議員が独連銀に対し、訪米してNY連銀にドイツの金塊を見せろと要請するので支持してくれと頼んだが、断られた。 (Germany Parliament denied access to Germany’s gold to confirm it is there)
米当局はドイツだけでなく、あらゆる国からの物理的な金の存在確認の要請を断り続けている。米議会ですら、共和党のロン・ポール議員らがずっと前から「NY連銀やフォートノックスに本当に金地金が存在するかどうか確かめる必要がある」と米当局に要請して断られ続け、昨年ようやく議会で米連銀を査察する法律が通り、連銀査察委員会が作られて作業を開始している。 (What’s in your vault? Uncle Sam audits its stash of gold at the New York Fed) (ロン・ポールが連銀をつぶす日)
金融界の「専門家」たちはこぞって「金地金が本当に当局の金庫内にあるかどうかは全く重要でない。金地金が財務諸表に計上されていれば、それで十分だ」と「権威ある」主張を展開し続けている。金融界は「紙切れ」に価値がある、資産は金地金でなく債券や株で持った方が良いと人々に信じ込ませて儲け続ける業界だから、金融界の人々が「金地金の物理的存在より、紙面上の存在の方がずっと重要だ」と言うのは当然だ(日本でも戦後の高度成長を体験した年寄りほど、株や債券を崇拝し、金地金を蔑視する)。 (Actual Existence of Gold Reserves is Irrelevant, It’s the Bookkeeping That Matters!)
米当局の金庫は金塊が棚の番号で管理され、どの棚にある金塊が誰の所有であるかは、ごく一部の当局者しか知らない。米当局は、ドイツの代表が来たら棚を見せて「これがドイツの金塊です」と言い、イタリアの代表が来ても同じ棚を見せて「これがイタリアの金塊です」と言うことができる。ドイツ側が金塊について真の安心を得るには、金塊を米国から引き揚げて自国に戻すしかない。 (The Germans Are Coming for Their Gold)
根強い憶測の流布を受け、ドイツの議会では昨年から、米国に預けている金塊を取り戻すべきだとか、在米の金塊がタングステン入りでなく本物であるかどうか調べるべきだという主張が強まっている。議会の声を受けて昨年、ドイツの会計検査院(Bundesrechnungshof)が、独連銀に対し、米国に預けてある金塊の存在や真贋性を定期的に確認するよう求めた。だが独連銀は「世界の中央銀行の業界では、そのような慣行が存在しない」という理由で拒否した。 (Checking the Vaults Germans Fret about Their Foreign Gold Reserves)
ユーロ危機でドイツは資産保全の必要性が高まっている。今秋には、連銀がドル増刷による債券買い支え政策(QE3)を事実上無期限で続けることを決めた。ドルが「紙切れ」になる危険が増し、米当局が紙切れを防衛するために金地金の価値を意図的に引き下げ続ける疑いも増している。米国でさえ、共和党が金本位制への復活を検討する委員会を作った。ドイツが金塊を米国に預けたまま確認もしない現状に対する懸念が、ドイツの政界や言論界で強まっている。 (◆金地金の復権) (West in a `Colossal Mess’ in Five to 10 Years: Marc Faber)
このような情勢下、独会計検査院は10月下旬、独連銀に対し、米国に預けた金塊を定期的に検査するよう求める報告書を再び出した。こんどは、今後3年間に150トンの金塊を米当局から返してもらい、それがタングステン入りでなく本物であることを確かめる作業をすることも独連銀に求めている。報告書では、独連銀が2000~01年に、英国の中央銀行に預けてあった金塊のうち3分の2にあたる940トンを独本国に返還させていたことも暴露され、独連銀自身が金塊の国内保有を好んでいることが明らかにされた。 (Why Did The Bundesbank Secretly Withdraw Two-Thirds Of Its London Gold?)
独連銀は、会計検査院と見解が違うと表明し、要求を断る姿勢を改めて示した。独連銀は在米金塊を査察しないかもしれないが、少なくともドイツが米国に金塊を預けたままだと危険だということが、広く知られることとなった。 (Bundesbank Disagrees With Audit Court’s View on Gold Reserves)
ドルの基軸通貨性が崩れていることを受け、世界各地の政府が、外国に預けてある金塊を取り戻す動きをしている。ベネズエラは英国中銀から金塊を回収したし、ルーマニアは戦後の共産化とともにソ連に預けさせられた金塊をロシア政府から取り戻そうとしている。スイスやオランダでも、米国などに預けた金塊を回収すべきだという政治家が出てきている。 (The Emperor Has No Gold)
こうした流れは、いずれ世界的な「金の取り付け騒ぎ」を引き起こすかもしれない。民間の投資家も、独政府と同様、金地金を買って保有したつもりでも、実際に現物の金地金を手にすることはなく、証書だけ受け取る場合が多い。ETFなどの債券だけでなく、金の現物を商社から買った人も、ほとんどが商社の金庫に預けたままだ。米当局が、地金相場を引き下げるために預かった金地金を空売りしてきたのなら、全世界の政府や人々が保有している金地金の総量よりも、実際に世界に存在する金地金の総量がはるかに少ないかもしれない。あとから現物を引き出す人々は現物を受け取れず、紙切れの世界から離脱できなくなる。 (操作される金相場(2)) (Celente – It’s Not Just Germany’s Gold That’s Missing)
ドイツで金塊の回収が取り沙汰されているのと対照的に、同じ敗戦国の日本では、日銀などが保有する自国の金塊の保全について全く話題にならない。日本政府の金地金保有はドイツの5分の1の765トンしかないが、その全量が日銀の金庫にあるとは限らない。そもそも日本政府の金融資産のうち金地金は3%にすぎず、今後もしドルや米国債が大幅減価した場合の資産保全ができていない。
今のところ米国債は、米連銀のQE3によって高止まりしているが、これは裏でドルを増刷しているからであり、危険なバブルの拡大である。官僚機構に蚕食された日本の民主党政権は、米連銀の自滅的なドル増刷に合わせて、日銀に圧力をかけて円増刷の量的緩和を加速させている。次の首相を狙う自民党の安部晋三は、日銀の量的緩和を加速させると宣言しており、これまた官僚機構にしっぽを振る対米従属派だ。 (BoJ independence called into question)
中国政府は米国債を買い控えているが、その分を埋めるように、日本政府は米国債を買い増している。日銀の量的緩和で円安を維持できれば日本企業が助かるから良いと言われてきたが、恩恵を受けるはずの日本企業はどんどん業績が悪化し、消えていきかねない。シャープが5年以内に倒産する確率が95%だ(CDSの値なので恣意的な部分があるが)。 (Japan closes on China in US bond holdings)
つるべ落としの日本と対照的に、中国経済は不況を脱しつつあると米英紙が報じている。中国は今年、米国を抜き、世界から最も多額の投資を集める国になっている。中国政府は2015年までに、国際的なブランド商品を百種類、国内的なブランドを千種類にするとの目標を掲げている。これが達成できるとは限らないが、日本の製造業が魅力的な新製品を出せなくなるのと対照的に、中国の製造業が急速に力をつけているのは確かだ。 (China Edges Out U.S. as Top Foreign-Investment Draw Amid World Decline) (’Brand US’ key to pivot in Asia)
中国が嫌いな日本人ほど「中国なんか大したことない」と豪語するが、そうした態度は間抜けだ。米英日のマスコミには、中国が政治経済社会のいずれかの面で崩壊するとの予測がしばしば載るが、これは「ユーロはもうおしまいだ」という論調と同様に、米英の危機を意図的に見ず、米英に対抗しそうな中国やEU(独仏)のマイナス面を誇張して報じている米英覇権の維持策であり、鵜呑みにすべきでない。中国が嫌いな日本人ほど、経済や国際政治の面で中国が力をつけていることを直視し、それに負けない日本を作るにはどうしたらいいかを考えねばならない。 (China’s manufacturers return to growth)
中国は、人民元による貿易決済を拡大し、元をドルに代わる東アジアの基軸通貨にしようとしている。最近まで中国はこの戦略について沈黙し「元がドルに取って代わる」という見方はもっぱら欧米の分析者の発信だった。だが最近では中国政府系のマスコミが「ドルを放棄して代わりに人民元を使う動きがアジアで広がり、元圏ができている」と報じている。中国政府は、経済面で国際的な影響力を拡大する官庁(Department of International Economic Affairs)を新設することも決めた。中国が東アジアの地域覇権を顕在化するとともに、日本の力が急落している。最近の日本では、国連安保理の常任理事国になろうという意志もすっかり薄れている。 (Asian economies turn to yuan) (China’s economic power mightier than the sword)
(中国政府の金保有は1054トンで日本より上の世界第6位だが、政府の金融資産に占める金地金の比率は日本よりさらに低い1・6%だ。中国政府は金地金を買いあさっているが、保有はなかなか増えない。中国が金本位型の国際通貨を発行する構想があると報じられたが、それが現実である可能性は低い。ただし中国は、民間の金保有量が多い) (China Is Quietly Becoming Gold Superpower) (China Launching Gold Backed Global Currency)
中国の経済台頭と対照的に、日本だけでなく米国の経済的な衰退も激しくなっている。米国では、この10年間に約100万人の雇用が増えたが、その大半は財政赤字を増やして公的機関が雇用したもので、民間の雇用は43万人しかない。しかもその多くは、飲食業の給仕や福祉要員など、比較的付加価値の低い業種だ。付加価値が高い建築家と技術者は、合計で10年間に5万人弱しか増えていない。給仕が120万人、福祉要員が309万人増えたのと対照的だ。このままだと米国は20年後に発展途上国になる。(職業に貴賎はなく、先進国と途上国の間にも貴賎はないというリベラルな価値観に立てば、これで良いのかもしれないが) (America R.I.P.)
米国では貧困層の人口が増え、国民の3分の1が生活保護(フードスタンプ)など何らかの公的補助に頼っている。4年前は、この比率が5分の1だった。米国は今年末に「財政の断崖」を控え、米国債の格下げが「あるかどうか」でなく「いつ起きるか」という話になっているとも指摘されている。そもそも、米英の経済覇権維持機能の一つだった3大格付け機関の間で仲間割れがひどくなっている。半面、米英覇権構造から外されている米国のイーガンジョーンズ、中国の大公、ロシアのルスレーティングという米中露の格付け機関が連携を強めることにしたとの報道もある。 (Barack Obama and America’s decline) (War of words erupts among rating agencies) (New Sino-Russian agency to challenge Moody’s, Fitch, and S&P)
このように米英の経済覇権が揺らぐ中で、ドイツが米英から金地金を引き出す試みが展開されている。同時に、日本は対米従属に固執しているがゆえに、政治経済の両面で行き詰まっている。
(転載貼り付け終わり)
副島隆彦拝