[1234]続・桜井君のメール

森田裕之 投稿日:2013/03/27 07:49

ドイツ在住の桜井君のメールを貼り付けます。

貼り付けー

森田君、

キプロス不安で、ユーロ圏は大きく動揺しています。こんなちっぽけな親指で潰せる蚤のような地中海の島国で、お金持ちの人を除くと、一般には今までは観光以外には興味がほとんどなかったのに、異常なまでにバルブ化した(資金洗浄と租税回避地として)金融部門を抱えた国が2004年にユーロ圏に加入したのは、一体どうしてなのか、当時の政治家(ドイツでは社民党の政権時代)にこんな事が分からなかったのかと不思議です。租税対策で、資金の逃げ場をスイスやルクセンブルクへ探すことは、以前は当たり前(?)の脱税手段でしたが、ロシアやウクライナの闇金がキプロス島へ逃亡していたことは、一般にはあまり知られていなかったのです。そんな国が2012年にはユーロ圏の議長国を勤めたのですから、開いた口がふさがりません。

それでも週末に合意したユーロ圏債権国との救済策は、そもそもの問題の根本原因である銀行部門の縮小、再建を骨組みとした内容で、小口銀行預金者の犠牲が回避できた(その代わりにロシア系大口資産家は、大損を強いられた)点では、満足のゆく解決案であったと評価されています。金融市場もその安心感で、懸念されていた大きな動揺は回避されたと思ったのに、ユーロ圏財務相会合の議長を務める(新米の)オランダ財務相ディセルブルムが ”公的資金(納税者の負担で)の投入やメンバー国の救済網の発動前に危機の原因である銀行経営者(資本家)とその投資家(株主、債権保有者、預金者)が、その責任を取らされたことは将来(名指しで、ルクセンブルクやアイルランドやスロバキア等金融市場国にとって)金融危機救済のお手本になろう”等と妄言した事で、金融市場(株取引所)に動揺を引き起こし、あっという間に欧州の株式市場が軒並み反落へ転じたのをみると、いかに投資機関が神経質であるかがよく分かるのです。

キプロス危機で分かった教訓(?)は、10万ユーロ以下の小規模預金者は責任負担の義務から免れたものの、最初のキプロス救済提案(キプロス議会で否決された案)では、ユーロ圏メンバー国財務相は、これら小口預金者の預金課税をも意図していたわけで、スペイン、ポルトガルやギリシャ等重債務国の銀行顧客は、いざとなれば資産の没収もありうると警戒心を高めるでしょう(世論調査では、政治家の言葉は信用できないという意見が激増、ドイツでも ”預金は大丈夫”と公言したメルケルさんの言葉等いざとなれば信用できないとの声も)。さらに今回の予防措置として取られる資本流通規制(ユーロ圏内での資本流通自由化に反した規制)は、そもそもユーロ導入の精神に反する事で、今までに前例はありません。(反ユーロ派には、将来ユーロには二種類あり、キプロスや将来の債務危機国で規制される、銀行窓口で自由に引き出したり、他の口座に振り込んだり出来ないユーロと北グループでの規制されない自由なユーロの二種類になると冗談を言う人もいます。)

また今回はっきりしたことは、ユーロ圏メンバー国内での(醜い)ドイツの覇権的な地位でした。過去においてもドイツの支配的な役割には慣れていましたが、今回のキプロス救済では、ショイウブル独財務相と IMF がほとんど二人だけで事を運び、他国の財務相はただ見物人の役を演じていたとも批判する声が聞こえます。つまり、ユーロ圏内での(南欧)重債務国と(北欧)債権国との溝が深まったことが露骨されたのです。

キプロスは100億ユーロの救済金で、国家債務の健全化(このお金は金融機関の救済には使ってはいけない)が可能となるわけですが、 これで国家の負う借金はGDP の140%となり、ユーロ圏ではギリシャについで二番目の重債務国となり、将来ビジネスモデルであった金融業務の撲滅で観光事業のみでの経済力となると、深刻な不況は不可避であり、はたして債務の償却が出来るのか不安です。こうなると、再度ユーロ圏の救済網の支援を必要とするのは、時間の問題でしょう。ユーロ圏財務相との合意には、今後資本税課税や法人税の増税が条件となっており、そのような事態では、ロシヤやウクライナや英国の富裕層にとって、キプロス島の魅力はなくなり、将来経済成長はどこに期待できるのかまったく不明です。(キプロス領域でのガス田や石油田事業への期待は、メディアで報道されている程のものではないらしい。)

今回のキプロス危機とその救済をめぐる茶番劇は、人と物の交流の自由を目的とした欧州統一貨幣ユーロは、いかに未熟なプロジェクトであり、欧州統合どころかユーロ圏内での差別の拡大が表面化し、統合とはまったく逆の方向(南と北の二分化)へ動いていることをはっきり示しています。悲しいユーロ(欧州)の将来といえます。

以上動揺するユーロの将来像。 桜井美之