[1233]キプロス預金封鎖とロシア
キプロス預金封鎖について(ロシアとの関連) 田中進二郎
重たい掲示板(1229)副島先生の『ついにユーロ加盟国キプロスで預金封鎖が始まった』という記事と、↓の森田裕之さんの『ヨーロッパ在住の友人(桜井氏)からの手紙』を読んで、ロシアとキプロスの関係について気になったことを書きます。
産経ニュース(3/23付)
sankei.jp.msn.com/economy/…/fnc13032321340006-n1.htm
キプロス、預金課税導入へ再調整。高額預金限定で
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預金課税にロシア反発
などなど、ロシア政府とキプロス政府の間の交渉はまだ進んでいない。
キプロスの銀行の預金総額が684億ユーロ(1ユーロは123円)のうち、3分の1強にあたる270億ユーロがロシア人の資産であるという。(Moody’sの調べ)
また課税徴収される総額のうち40パーセントをロシア人が支払うことになるという。ヨーロッパ中央銀行(ECB)がキプロス政府に要求している課税額は58億ユーロであるから、、ざっと概算でロシア人の損失額は22、23億ユーロ(2800億円以上)になるだろう。
さらに2011年償還期限4.5年のクレジット(借款)25億ドルをロシア政府がキプロス政府に提供している。これをキプロス政府は期限を5年先送りするよう求めている。
またキプロス国民の3分の2はロシア・マネーによる救済を望んでおり、ECB(ヨーロッパ中央銀行)やメルケル首相やキプロス政府を三つの敵だと抗議しているようです。
以下副島先生の重たい掲示板(1229)より引用します。
(引用開始)
キプロス政府は、主にロシアの ”オリガリヒ(新興財閥、経営者たち)”を狙い撃ちにして、彼らがロシアから持ち出してキプロスの銀行に、タックスヘイブン(租税回避地)の低課税国の誘因に引かれて預けてある資金への強制課税を目論んだ。ロシアの”アルミ王”のロマン・アブラモビッチ、とオレグ・デリパスカの資金の凍結が隠された目的である。これらの人物像は、私たちが書いて出版した『新興大国 権力者図鑑』(日本文芸社、2011年9月刊)に余(あま)すことなく出ています。勉強になりますから今からでも買って読んでください。
(引用終わり)
ロマン・アブラモヴィッチについてはサッカーチームのチェルシーのオーナーであることから「預金封鎖」の被害者として、報道も多くされている。サッカーファンならよく知っているだろう。上のところに「アルミ王」と先生が書かれているのは、オレグ・テリパスカ(ロシアのアルミ最大手、ルースキーアルミ会長)を指していると思われます。
(以下 北野幸伯(きたの よしのり)著『プーチン最後の聖戦』集英社インターナショナルを参考にします。P31~60)
ロマン・アブラモヴィッチはボリス・ベレゾフスキーの弟子とされる。(二人ともユダヤ系ロシア人である。)ベレゾフスキーは
シベリアの油田の開発会社「シブネフチ」(国有)を買収し、1997年に民営化した。1995年1月、国営放送局「ソ連中央テレビ1チャンネル」を基盤に、「ロシア公共テレビ(ORT オーエルテー)」が作られる。彼はORT株49パーセントを保有した。そしてエリチィン大統領の時代には、『クレムリンのゴッドファーザー』として君臨した。ベレゾフスキーがプリマコフ首相(KGBあがり、プーチンの先輩にあたる)に攻められ窮地に陥ったときに、プーチンは彼に接近したという。(1999年2月)その後、プリマコフはエリチィンによって解任され、プーチンが首相に就く。(同年8月)第二次チェチェン戦争によって、プーチン首相の支持率は上がり、ベレゾフスキーは「プーチンを支える」政党「統一」を立ち上げる。翌2000年三月の大統領選挙でプーチンは共産党のジュガーノフを破って当選した。
ところでなぜこんなことを書いているかという、種明かしをすると、ベレゾフスキーが亡命先のロシア郊外の自宅浴室で死亡しているのが発見されたのである。(きのう3月23日)
たったの一週間のうちに、ロマン・アブラモヴィッチは資産をキプロス政府に没収され、ベレゾフスキーは不可解な死を遂げる。おかしくないか?フレドリック・フォーサイスのスパイ小説のようなことが起こっている。
話を続けます。ベレゾフスキーらロシア新興財閥(オルガリヒ)はその後、プーチンに屈服させられていく。その中でも最大の注目を集めたのは、2003年のユコス事件だろう。
「ロシアの石油王」ホドルコフスキーが自社のユコス(石油最王手)を、ぺレゾフスキーとアブラモビッチの石油会社シブネフチと合併させて、アメリカの米国務省の仲介でアメリカの石油メジャーのシェブロンテキサコとエクソンモービルに売却してしまおうという計画が発覚したのである。
これに対して、KGBと司法権力率いるプーチン大統領は攻勢にでて、ホドルコフスキーを逮捕(2003年10月)するとともに、ユコスを買収して、国営石油大手のロスネフチと合併した。
またシブネフチは国営天然ガス最大手ガスプロムと合併させられる。(ガスプロムネフチと改称される。)イラク戦争の年にこういうことが起こっていた。
(『プーチン 最後の聖戦』p124~p138より)
ベレゾフスキーは保有していたORT株を1億7500万ドルでロマン・アブラノビッチに売却した。アブラノビッチはすでにプーチンの軍門に下っていたのだ。
おそらく彼は政治の世界に首を突っ込まないことを条件に、プーチンに許されたのだろう。そう考えると、彼がサッカーチームのチェルシーのオーナーとしてスタジアムで咆えているわけもわかる。
『クレムリンのゴッドファーザー』と呼ばれたベレゾフスキーはまず、プーチンに裏切られ、秘蔵っ子のアブラノビッチに裏切られ、最後に亡命先のロンドンでは20年下の美人の奥さんに離婚されて、風呂場で死んだ(暗殺でしょう)、という実に哀れな末路であった。
しかし、財産のほとんどを失っていたといわれるベレゾフスキーがこのタイミングで殺されなければならない理由はなにか、と考えてみる。
そしてこれはKGBの報復の予告ではないか、と私には思えるのだ。
そしてそのことに触れているのが、金のベテラン・ディーラーのジム・シンクレア氏(72歳)である。キプロス政府はKGBの資産まで没収するというへまをやってしまったようだ。
austrianeconomics.blog.fc2.com/blog-entry-25.html
(↑より引用開始)
ジム: これ(キプロスの預金封鎖)に関係している人たちはみんな怖がるべきです。記事は目覚ましの合図として役に立ったと思います。キプロスに関しては大きな計算ミスがあったんです。状況は素早く大惨事になっていっています。彼らはキプロスにお金を置いているロシアの会社の後ろにいる存在を本質的に見抜けていなかったんです。そしてロシアの元KGBのお金を没収するということがどんな事態に繋がるのか。
IMFで最前線に立ってこの惨事を生み出した人たちは、この”キプロス解決法”が彼らの目前でこのように爆発するとは、全く思っていなかった。
これはすぐにPRの悪夢となってしまったんです。なぜならそれは”税金”ではなく、”没収”ですから。銀行の債務をカバーするために、彼らはKGBのお金を盗んだんです。この時点まで銀行預金者たちはこのとても重大な西洋の、ということはイコール国際的な経済崩壊のシステムの一部でした。
今日まで、心理的には銀行にお金を入れておけばあまり心配しなくて済んだわけです。しかし、店頭市場のデリバティブの崩壊がこんなにもダメージをもたらしてしまった後では、今日まであった、経済的世界を一つに繋ぎ止めるのに必要不可欠とする方策が完全に変化することを意味します。
EK: この大失敗の余波と、チェスの駒の動きはどうなると思いますか?
ジム: ロシア人のお金を取り上げるのはとてもバカなことです。自分が相手にしている人たちの文化を理解しなくてはいけません。キプロスの政府のリーダー達は、プーチン自身を含む元ロシアKGB諜報員たちの報復から身を守るのに十分な能力はありません。
キプロス政府のリーダー達は、自分たちの命を守るため、急いでペダルを後ろに漕ごうとしています。もう一度言います。彼らは自分たちの命を守ろうとしてるんです。「報復は冷めてから出されるのが一番いい」と言いますよね?これは悪事が行われてすぐには報復はされないことを意味します。しかし時間を置いて報復はやって来ます。
ロシア経済のリーダー的存在たちからお金を取り上げるということは、元KGBメンバーからお金を取り上げるということです。元KGBからお金を取り上げるということは非常に危険なことです。キプロスのリーダー達は、世界一危険なお金を没収することをサポートしたということです。このリーダー達は自分たちの銀行預金の心配より、自分たちの命の心配をしているでしょう。
つけ加えると、これはIMFとECBの歴史の中で、一番大きな失敗だと思います。ロシアの会社とビジネスをすると、毎回キプロスの銀行とビジネスをします。お金は出て行く、入ってくる、しかし全てのお金がキプロスを通るんです。
(以下略 引用終わり)
田中進二郎です。ジム・シンクレア氏の3月21日の掲載文によると、フランス当局によるIMFのラガルド専務理事宅が家宅捜索されたのも、この動きと関係があるだろうと読んでいました。パンドラの箱を開けてしまったのではないでしょうか。