[1205]クラウゼヴィッツとイルミナティ

長井大輔 投稿日:2013/02/03 01:06

 長井大輔(ながいだいすけ)です。

 ピーター・パレット『クラウゼヴィッツ 『戦争論』の誕生』(以下『伝記』)という本に、イルミナーティ(イリュミナート、光明会)のことについて、書かれていたので紹介します。カール・フォン・クラウゼヴィッツ(1780-1831)はプロイセン軍の将校であり、彼の著書『戦争論』で展開された戦争理論は、後世に多大な影響を与えたとされる。

 『伝記』によれば、フランス革命戦争中の1795年、15歳の青年クラウゼヴィッツはオスナブリュック(ドイツ西部の都市)滞在中にイルミナーティの影響を受けたという。彼は、イルミナーティに触れたことにより、「一介の兵士としていい気になっていた私は目を開かれ、突如として思索的になり、高邁な大志を抱くようになりました(P63)」と書くほど、強烈な印象を受けた。1780年代ころ、イルミナーティはオスナブリュックに拠点を持っており、読書サークルや巡回図書館によって、自分たちの考えを広めていた。

 『伝記』は、イルミナーティについて、次のように説明している。

(引用開始)

 十八世紀後半に形成された「フリーメースン」や「イリュミナート」などの秘密結社は、ドイツの新しい啓蒙思潮の担い手を自認する人たちを結集させる役目を果した。こうした結社はまた、当時のドイツ諸侯国内の日常生活にまだ色濃く残っていた宗教改革ならびにこれによって誘発された対抗改革のイデオロギーに反対する人たちに、教会に代る何らかの同志グループに属しているような感じを与えた。信仰と知性の新しいよりどころを求めて孤立していた人たちは、この集まりに加わることで心をほぐした。(P64)

(引用終了)

 「イルミナーティ」結社の創立者アダム・ヴァイスハウプトについては、次のように書かれています。

(引用開始)

 彼(引用者註:ヴァイスハウプト)もまた、筋金入りの理想主義者たちのこの秘密組織が、知識人にも社会にも役立つ大きな力になってほしいと願わずにはいられなかった。より優れた者はより高き位置に序せられるという峻厳な自然の法則に従い、人間の知性を自由に羽ばたかせよと要求するエリートの味方になることによって、「イリュミナート」は同志らの人格を、学問を国中に広め、すべての人間をより高き頂きに導くことが出来るのではないかと彼らは考えた。(中略)人間の存在が自然の法則に完全に一致するとき、これまで人々を隷属させてきた古い宗教や政治制度は崩壊するはずだ。(P65)

(引用終了)

 クラウゼヴィッツは秘密結社としてのイルミナーティには好感を持たなかったようですが、思想としてのイルミナーティは彼の人格形成に大きな影響を与えたようです。彼は、「人間は自分を知る方法を学ぶことによって、自己改革ひいては社会改革も出来るという彼らの発想」に深い感銘を受け、「人間は自分自身の思い込みを捨て、自己を解放することが出来る。これを勇気と決断力をもって実行すれば、他者に導かれなくても、自分の知的能力を自分で自由に羽ばたかせることができること」を学んだそうです(P66)。

長井大輔 拝