[1132]主流になりつつある金本位制の議論

佐藤研一朗 投稿日:2012/11/30 02:32

アメリカはロチェスターの佐藤研一朗です。

今日は2012年11日29日です。

日本では選挙が間近に迫り、政党が分かれた、くっ付いたと、話題に事欠きません。今日は表面的な政治的な動きではなく、もっと奥の方の根本的な話題を紹介したいと思います。少し古いWSJの記事を翻訳してみました。共和党の中で金本位制が見直されつつあるという内容です。アメリカでは、金融危機を受けて、その根本的な原因には役場が発行している「紙切れ通貨」にあるのではないかという理解がじわじわと保守派から浸透して来ています。思想と言うのは個人が信じるか、信じないかだけの話なので、外からはなかなか見えませんが、大きな変化は静かに起きるものです。

大統領選挙は今年の三月のボヤキの報告で私が「ロン・ポールでなければオバマで決まり」予想した通りの結果になりました。共和党は今回のロムニーの敗退で大きなダメージを受け、大きな方向転換を迫られている。今後、将来性があるロン・ポールを支持するリバータリアンの若者層を取り込む事ができるかが再生のポイントになるでしょう。そうすると自然と金本位制の話題もこれから取り上げられるようになるでしょう。

では翻訳をお楽しみください。

ウォール・ストリート・ジャーナル 2012年8月29日

<主流になりつつある金本位制の議論>

議論が沸騰する共和党の中で、連銀が発行する紙切れ通貨が経済危機の要因であるという認識が高まっている。

今週の共和党大会でミット・ロムニーが選出され、大統領選挙が中盤にさしかかっている。そんな中で共和党のプラットフォーム(綱領<こうりょう>)のなかにゴールド委員会の設立が新しく付け加えられた事はあまり報道されていない。アメリカの連銀が発行する紙切れ通貨が経済危機を引き起こしているという考えが浸透し始めている。このような考え方は今まで異端とされてきたが、今では普通に議論される政治問題となった。

これは前回1981年にゴールド委員会が設立された時とは対照的ですらある。当時はニクソンショックによりブレトンウッズ体制(金本位制まがいの米ドルに各国の通貨が固定相場でつながっていた)が崩潰し、金本位制が正式に終了しドル紙切れ通貨体制が始まった頃だった。1981年のゴールド委員会では通貨に金を関連させる事に反対した報告書が作成された。だがロン・ポール下院議員と実業家のルイス・リーマンの二人の委員は異議を唱え、金の必要性についての報告書を別個でまとめた。

共和党の新しい綱領の中では「金」という言葉は使われていない。だが1981年のゴールド委員会の報告書と同じように「金属を基盤に持つ」ドルという言葉が使われているが、これは金の事である。この綱領では「一定の価値に固定された」ドルを研究・検討すると書かれている。

1981年のゴールド委員会を私は駆け出しの新聞記者として取材をしていた。当時の金本位制の樹立の機運は、サプライサイド経済学の成功のために消えてしまった。レーガン大統領が減税を押し進め、連銀総裁のポール・ボルカーがドルの引き締めを続けた。その結果インフレは解消された。カーター政権時には一時期、金の1オンスの800分の1まで下がっていたドルの価値は、上昇し始めた。

1981年の委員会では、当初から金に裏打ちされたドルの邪見にされていた。当時、流行していた経済哲学は、ミルトン・フリードマンが提唱していたマネタリズムであった。マネタリズムは、お金の量を中央銀行が調整することで物の値段を安定して保つべきだという考え方である。委員会の執行長はフリードマンの代表作「アメリカの金融政策の歴史」の共同執筆者のアナ・シュワズであった。下院を占めていた民主党はマネタリズムの教義を支持していた。

今では大きく時代が変わった。フリードマンとシュワズは他界し、自由と資本主義のヒーロとなった。だが、マネタリズムが以前ほど幅を利かせる事はなくなった。晩年はフリードマン自身ですら、お金の量を使って物価を調整すること(インフレ・ターゲット)に疑問を持ち始めていたようだ。シュワズは、通貨制度の混乱が今後、金本位制の復活の好機会となるだろうと予言した。

議論が沸き立つ共和党の中で、金本位制はほぼ中道の立場になりつつある。党内の左派は(バーナンキ連銀総裁のような)優秀な官僚が自由裁量で金利の高さを決める現行の制度を支持している。そこから少し右に寄るとテーラールール支持になる。これは金利を各種の条件に関連させたり、連銀に金を基準として義務づけドルの価値が金に対して下がりすぎないようにするものである。

一方中道派は、古典的な金本位制を支持している。これは政府がドルの価値を一定の金の重さに固定するものだ。中道派はルイス・リーマン、ジイムス・グラント(グラント・インタレス・レート・オブザーバー)、スティーブ・フォーブス(雑誌フォーブスの発行人)、ジュディー・シェルトン(経済学者)、ショーン・フィエラー(アメリカン・プリンシパルズ・プロジェクト)に代表される。

中道からさらに右は、ロン・ポールに代表されるオーストリア学派になる。ポールは政府による金本位制ではなく、ノーベル経済学賞を受賞されたフリードリッヒ・ハイエクが提唱した「競争する」通貨を支持している。これは政府によるお金の独占をやめ、民間の硬貨や通貨の自由参入を許し政府の発行する通貨と競争させるという考えである。ここからさらに右は、過激な憲法主義者のエドウィン・ヴィエリアのように単純に金や銀の重さを値段の尺度にするべきだと主張している。

各陣営はお互いに重複しているが、各連邦議員たちの活動も同じように幅を持っている。テキサス州選出のケヴィン・ブラディー下院議員は議会の経済委員会の副委員長で、堅牢な通貨法案を通過させようとしている。これは連銀から失業率を低く保つという義務を取り除き、物価の安定だけに集中させるという法案である。ロン・ポールは法定通貨を終わらせ、ハイエクのアイディアを実現する「通貨の自由競争法案」を推進している。

上院ではジム・デミント、マイク・リー、ランド・ポールが「堅牢な通貨促進法案」を推している。これは連邦政府の法律上は正式な法定通貨となっている金や銀の取引にかかる税金を廃止しようというものである。ユタ州では既に金と銀が正式な法定通貨として認められている。

さらに共和党のミット・ロムニー大統領候補は、堅牢な通貨の意味を理解しているポール・ライアンを自分の副大統領候補として選んだ。2010年6月にライアン議員は、下院の予算委員会で連銀総裁のバーナンキに、何が歴史的な金価格の上昇を招いていると思うかと質問している。(当時ドルの価値は、金1オンスにたいして1200分の1から下落しており、その後さらに1600分の1まで急落した。)

「金の値段の動きについて完全には理解していません。」「一部の人間は、他の多くの投資家は高いリスク取っている考えており、それにヘッジをかけている。現時点では、金の値段を予想するのは難しい」とバーナンキは自身の考えを述べている。連銀を完全に監査する法案が、下院の大多数の賛成で可決されたのも全く不思議なことではない。

ロムニーは先週、バーナンキを再任を考えるべきだという自身のアドバイザーグレン・ハバードの意見をはっきりと退けている。ロムニーはバーナンキにかわる連銀総裁を捜していることを明確にした。これは大統領候補からの重要な合図である。(ロムニーは以前、通貨政策は議員から取り上げておくべきだと発言する失敗を犯している。)実際には貨幣の鋳造とその価値を定める権限は、憲法の第一条八項によって議員に与えられているのである。

自分が編集に関わっているニューヨーク・サン紙では、ゴールド委員会は堅牢の通貨の墓場になりかねないとなるかもしれないと警告している。もし誰かが堅牢な通貨という主義を葬り去りたいなら、委員会という名をつかうのはもってこいなのだ。よく考えられた、いい人材を集めたゴールド委員会が議論をさらに進展させる可能性は十分にある。

ロムニー共和党の綱領に、ゴールド委員会と連銀の監査が入ったことは小さなことではない。最後に共和党の大統領候補が綱領にドルの「完全な金兌換」を含めて戦ったのは、 ドワイト・アイゼンハワーであった。彼は大統領になりこの約束を反故<ほご>にした。これは11月に勝たねばならぬロムニーにとって、避けたい戦略的な失敗である。

シェス・リプスキー(ニューヨーク・サン紙 編集者、「憲法的ドル」の筆者)

オリジナルのウォール・ストリート・ジャーナル記事
http://online.wsj.com/article/SB10000872396390444914904577619383218788846.html