[1105]五欲について

茂木 投稿日:2012/10/06 10:36

会員番号1149番の茂木です。
http://celadon.ivory.ne.jp

“陰謀論とは何か”副島隆彦著(幻冬舎新書)を楽しく読みました。「一般人の興味を逆手にとって、真実(本当のこと)をやさしく語りかける」という洒脱な方法で書かれた本ですが、本物の思想家・副島氏のこういった芸を理解できるのは、ここの会員といえども多くはないかもしれません。

中でも第3章と第4章は、ヨーロッパの合理思想の生い立ちを知る上で重要だと思います。初めての人も、ここまでたどり着けば、やがて真実に眼を開くチャンスがあるのではないでしょうか。ここの会員ならば既知の内容かもしれませんが、復習の意味も兼ねて、改めて読んでみてはいかがでしょうか。

第3章の中に、次の文章があります。

(引用開始)

 私はラッショナル・マインドによる思考と組み立てを、一所懸命、英語の辞書を引きながら何十年もずっと勉強してきた。それがユダヤ人的な思考にもなっていった。このラチオ、ラッショナルがどんどん極端になっていくと、greed(強欲)になってしまう。これがいけない。とにかくどんな卑劣な手段を使ってでも目的を達成するみたいになってゆく。

(引用終了)
<同書 148~149ページ>

理性的で健全なはずのratioの思想が、どうしてgreed(強欲)に至るのか。それは端的に言えば、人に備わる五欲(食・睡・排・名声・財)のうち、前の三つ(食・睡・排)が「脳幹・大脳旧皮質主体の思考」による身体的欲望であるのに対して、後の二つ(名声・財)は「大脳新皮質主体の思考」によるものだからだと思われます。

このことは、会員の崎(崎は立つの崎)谷博征氏のご本“グズな大脳思考 デキる内臓思考”(アスカ)にもありますから、みなさん周知のことでしょうが、復習を兼ねて書いてみます。

そもそも後者(名声・財)は、前者(食・睡・排)の身体的欲望を、人の脳が肥大化させたものです。人は、大脳新皮質を進化させて、道具を作り、計画を練り、通貨を発明し、前者(食・睡・排)の欲望をより効果的に満たす方法をいろいろと編み出してきました。その過程で生まれたのが後者(名声・財)です。

大脳新皮質主体の思考は、本来「公的(Public)」なものの筈です。そもそもこの機能は、集団の(欲望充足の)利便性を上げるために発達してきたのですから。しかし、社会の発展に連れて、これを私的(Private)な欲望充足に用いる悪賢い輩がでてきます。

脳幹・大脳旧皮質主体の思考は、身体的欲望が収まってしまえばそれで一旦終わりますが、大脳新皮質主体の思考は、身体的束縛を受けにくいところがあります。ratioという単語が「比率」をも意味するように、この思考過程は、身体を離れてどんどん飛躍・増殖します。自動操縦ロケットのように止まることを知りません。

ヒトとは本来、「理性を持ち、感情を抑え、他人を敬い、優しさを持った、責任感のある、決断力に富んだ、思考能力を持つ哺乳類」のはずですが、大脳新皮質主体の思考を私的(Private)な欲望充足のみに用いていると、名声欲と財欲とが果てし無く増殖し、ヒトは「他人を蹴落とそうとする、悪知恵に長けた、責任感の無い哺乳類」となってしまうわけです。