[109]中国の内蒙古から(フフホト通信)

石井裕之 投稿日:2010/10/28 06:14

非常に重たい内容が続いている中、軽い話題で恐縮です。中国の内蒙古からフフホト通信をお伝えします。
今回は、私が10月19日から25日まで日本に一時帰国した際に感じた「違和感」のようなものをレポートさせて頂きたいと思います。

さて、まずは「尖閣諸島」問題における中国国内での反日運動が、中国全国各地で連日行われているという報道を日本国内で見聞きしました。
私は、半月ほど前に中国の大連にある日本食レストランで、大変美味しく和食を頂きましたが、そのレストランが反日活動家に襲撃にあったような印象はどこにも伺えませんでした。また、今回の日本出張の帰りに上海に2泊しましたが、その上海の日系企業もレストランも元気に営業されておりました。むしろ、5年前の反日運動の方が酷かったように思います。当然、内蒙古では未だかつて「反日運動」そのものに出くわしたことがありません。何を隠そう、今回の日本出張に同行した中国人(中国建機メーカーの社長)は、日中の政治的な衝突についてもあまりピンときていないようでした。ちょっと笑えたのは、道すがらのパチンコ店の宣伝用のノボリの中に「激突必至!○○」みたいなものが垣間見えた時、「あれは今の日中の状態を表すものか」と尋ねられたことでした。そのノボリの意味を説明すると苦笑されておりました。

また、その中国人社長に日本の素晴らしさを知ってもらおうと、日本人の技術者が颯爽と用意してくれたのが「新幹線のグリーン車」というのも腰が抜けそうになってしまいました。曰く「どうですか、日本の新幹線は。走行中でもコップの水がこぼれないでしょう」と自慢げに言うので通訳に困ってしまいます。どうも彼は、中国の高速鉄道の実態を知らないのですね。時速350kmでビックリする程快適な旅を提供してくれる乗り物が中国にあることをご存知ないのです。あれに比べてしまうと、今の新幹線の乗り心地は過去の遺物です。
更に、いざ商談の席でも一番大事なお金の話はさておいて、「後は全て俺に任せておけ、俺が居れば大丈夫、貴方を中国でナンバーワンにしてやる」とやる始末です。現物主義の中国人に精神論から入っていこうとする戦略にも首を傾げざるを得ませんし、無論効果がある筈もありません。何より、相手(今回の中国人社長)がどれだけ忙しい最中にあって、どれほどの覚悟を持って日本に来ているのか(本当は現物を買って帰りたい)、そんなことはお構いなしのジャパニーズスタイル商法の押し付けに終始しているような状況です。
今回、彼(中国人社長)がポロっと漏らしました。「今、中国では三菱重工からだけはモノを買わない。彼等の技術が素晴らしいのは認めるが、売る気も誠意も全く感じられないからだ。」

トヨタのカンバン方式が世界の製造業を席巻し、レクサス商法が一斉を風靡した中で、日本人の中にはまだまだ「ジャパン・アズ・ナンバーワン」の精神が息づいているようです。勿論、自らの国に自信を持つのは良いことですが、相手を知らずした「過信」になってしまっていては如何かと思うのです。経済の状態にしても技術レベルの評価にしてもそれは「相対的」なものの中で良し悪しが生まれてきます。経済大国2位という座に長年座り続けてきた日本は、そのことを忘れてしまっているのではないでしょうか。

中国と日本を繋ぐことを目的の今回のビジネスマッチングで、双方の意識のズレを大きく再認識させられたような思いです。果たしてこの溝をどこまで埋めていくことが出来るのか、肝心要の私自身は既に諦めモード全開です。「何?日本の技術が欲しい?そりゃ売ってやらないこともないけどよぉ、ただ、カネじゃないんだよな。カネじゃ日本人は動かない。ハートなんだよ、ハート!」
売買の対価を気持ちで表せ、という日本人からモノを購入する方法が、この日本人の私にも判りません。最早、私も中国人になってしまったのでしょうか。坂本竜馬の才能を羨ましく思った今日この頃でした。