[1084]日本原子力学会が事故調査委員会を設置
会員の大川です。日本原子力学会の「東京電力福島第一原子力発電所事故に関する調査委員会」について、考えたことを述べます。
今年(2012年)8月17日、日本原子力学会は「東京電力福島第一原子力発電所事故に関する調査委員会」(以下「学会事故調)の発足を発表した。2013年末を目途に調査結果を公表するという。
http://www.aesj.or.jp/info/pressrelease/PR20120817R.pdf
福島第一原子力発電所の事故については、これまでに政府、国会、東電、民間が調査報告書を公表している。事故の現象面と教訓については政府の最終報告書に書かれているが、未だ事故の核心に迫っていないもどかしさを感じた。
たしかに報告書では、東電と政府の対応や住民避難に関する問題と教訓などはわかりやすく書かれている。しかしながら技術的な観点、たとえば原子炉の設計そのものに欠陥はなかったのか、40年前の古いタイプであることと関係があったのか、沸騰水型と加圧水型で事故発生の可能性は違ったのか、などの疑問には答えていない。つまり、今回の事故は、技術面において福島第一原発ならではの特殊な事故だったのか、それとも原発全般に適用し得る問題があったのか、という点が解明されるべきなのだ。
なぜなら、これらの技術的な疑問が解明されなければ、現在日本に存在している他の原発も同様の事故を起こし得るのか、異なるタイプであれば起こり得ない事故だったのかなど、「他の原発の安全性をどのように考えるか」という議論に発展させることができないからである。さらに、原発はすべて廃止すべきなのか、あるタイプの原発のみ廃止すべきなのか、安全性を高めた最新型の原発に全て置き換えるべきなのか、というような議論にもつながらない。
原子力発電所は様々な技術の集合体で、多様な分野の専門家が協力して設計・稼働するものであるから、今回の事故の検証においてもこれらの専門家の英知を結集し、協力して解明しなければならない。技術面の解明は、たとえ理工系でも専門が違えば不可能である。だから、原子力の専門家が集まる場である日本原子力学会による事故調査・検証は、絶対に必要なのだ。
とはいえ、学会の構成員はそれぞれが独立した科学者・技術者である。事故に対する意見は当然異なるだろう。しかし、意見が異なる時に、学会の政治力学や外部からの介入や「偉い先生」の意見で決まるようなことがあってはならない。今まで散々批判されてきた「原子力ムラ」から脱却するために、個々の科学者・技術者の良心のみに基づいて事故の調査・検証に取り組むことを、強く希望する。また、報告書は一般の者にもわかりやすい言葉で書いてほしい。そして、一般の者ももっと原子力の勉強をして、専門的な報告書でも必死に読んで理解すべきだ。勉強もしないで、どうして原子力のことを語れるだろうか。
以下、8月17日のプレスリリースから抜粋する。
(転載始め)
学会事故調は、原子力の専門家で構成される学術的な組織の責務として、今回の原子力事故とそれに伴う原子力災害の実態を科学的・専門的視点から分析・把握し課題を抽出するとともに、背景と根本原因を明らかにして、原子力災害につながる事故を二度と起こさないことはもちろん、原子力の安全の継続的な向上を図るよう改善策の提示、提案を行うことを目的としています。また、自らの組織的・社会的な問題点とも向き合い、事故を防げなかった要因を明らかにして、必要な改革を行うことも重要な目的です。学会事故調の検討結果は、今後の学会の組織や原子力安全研究を始めとする学会の活動などに確実に反映させていきます。
委員長は、田中知 東京大学教授(平成23年度会長)が務め、委員は、専門分野毎に設置されている部会等を代表する委員を中心に構成されています。(別添リストのとおり)
(転載終わり)